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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第八章 その大切なはじまりを
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"暫しの休息"を

 

 あれから暫しの休憩をしていった。

 ドミニク達の腹がこなれるのを待っているのと、なるべく夜間で森を移動する事は避けるべきと判断したからだ。


 その間、様々な話を彼らとするイリス達。


 このチームはドミニクをリーダーとしたパーティーなのだそうだ。

 彼らは今年で結成十五年目となる熟練冒険者達だった。


 元々はアルリオンで経験を積んでいたのだと彼らは語った。ドミニク、アウレリオ、ルジェク、ノーラと、もう一人ユーリヤという女性でチームを結成したそうだ。

 当時はまだイザベラは加入しておらず、アウレリオがリーダーだった。


 二年ほどアルリオンで冒険者を続けていたが、ユーリヤが引退し、チームリーダーとして頭角を現したドミニクにリーダーを譲り再結成したのだと、アウレリオは楽しそうに話した。


「元々俺は教える事は出来ても、リーダーってのは向いてなかったんだよ。育ったドミニクにリーダー譲って、今じゃ気楽ないち冒険者になったって訳だな」


 正直な所、結成当時、カッパーランクから上がったばかりのアイアンランク冒険者だった彼らには、様々な経験をさせる為に、アウレリオは訓練教官のような事をしていたそうだ。

 年齢もレナードより年上に見えたイリスは、その経験の深さを理解していた。

 チームには必ずそういった存在は必要なんだよと、アウレリオはイリス達に話した。


 冒険者を辞めたユーリヤの安否を気遣うイリス達だったが、どうやら大きな怪我はしていないようで、拠点をエルマに移した今でも連絡は取り合っているそうだ。


「最近三人目を生んだらしい。女の子だそうだ。幸せ一杯の手紙がエルマへ届くたびに、俺等は美味い酒を飲んでるよ」


 そうアウレリオは楽しそうに笑いながら話した。


 経験を積み、アルリオンからエルマに拠点を移す為にこの街を訪れた新生ドミニクチームは、そこでひとりの新人冒険者と出会う。後にドミニクの妻になるイザベラだ。

 彼女はエルマ出身の冒険者で、経験を積む為にアルリオンを目指したいと依頼をしたのが切欠だったそうだ。


 会ってすぐに馬が合った彼らは、そのまま彼女を正式なパーティーとして歓迎する。

 アルリオンへと戻り、そこでイザベラの訓練をしながら、ドミニク達も地力を上げていった。

 そして二年ほど経った頃、いよいよ拠点をエルマに移したドミニク達は、エルマという街に魅了され、今現在もこの場所で冒険者として活躍しているのだとか。


「この街に拠点を移して直ぐ、イザベラはディルクを授かってな。あの時の嬉しさは今でも覚えてるよ。まるで自分の子みたいに嬉しくて、酒が美味いこと美味いこと」

「ドミニクとイザベラが付き合っているのは知っていたけど、子供まで授かるなんて幸せ過ぎよね」

「そのせいで暫くはイザベラと俺がパーティーを一時的に抜ける事になって、皆に迷惑をかけてしまったが……」

「何言ってるのよドミニク。こんなに幸せな事なんて、そうそうないわよ」

「そうだよ。僕達だってどれだけ嬉しかったか、今でも覚えてるんだ。迷惑なんて一切かかってないよ」


 ルジェクとノーラはそう言葉にしてドミニクを感動させるも、イザベラはノーラを見ながら苦笑いしていた。


「「あんなに美味しかった酒は、ユーリヤの時以来だよね」」

「……そうだよな。お前等そういう奴だよな。……まぁ、そんな訳で、俺達はこんなチームなんだよ」


 半目になりながら答えるドミニクに、思わず苦笑いをしてしまうイリス達だった。

 だが今回は本当に危なかったと、ドミニク達は話を続けた。


「覚悟を決めていたつもりでも、いざそうなってみると厄介な気持ちになると思い知ったよ」

「そうだな。俺も今回ばかりは本気で覚悟をしたよ」

「せめてドミニクとイザベラだけでもと思いましたが、僕達二人で街まで辿り着けるとも思えませんでしたからね」

「ごめんね。私が怪我さえしなければ、状況は悪くなっていなかったのに」

「いや、イリスさん達の話じゃ、そのお蔭で助かっていた可能性が高い。ノーラが怪我をして動きに制限がされていなければ、助からなかったと思うよ」


 本当にぎりぎりだったとアウレリオは話した。

 食料も水もなくなってしまった現状で、選べる選択肢は二つしかない。

 この場で救助を待つか、可能性を信じて街を目指すかだ。


 だが問題は、ここがエルマ東の大森林だという事だ。

 正確にはその入り口ではあるが、随分と街から離れてしまっているこの場所で救助を待つ事は、長期戦を覚悟しなければならなかった。


 イリス達が夜のうちに捜索する為に街を出ていなければ、彼らはエルマを目指す途中でウォルフと遭遇していた可能性が非常に高いだろう。

 たった三人でウォルフを撃退することは難しい。

 三匹程度であれば何とかなるが、問題は相手がウォルフだという事にある。


戦闘斥候(レコン)、ですわね」

「そうだ。もしそれを引いてしまったら、確実に消されるだろう」


 シルヴィアの言葉にアウレリオが真剣に話した。

 もし戦闘斥候(レコン)などと遭遇してしまえば、その瞬間にその命は尽き、彼らだけではなくイザベラとノーラも恐らくは助からなかっただろう。


「私を置いてけって言ったら、イザベラに引っぱたかれちゃったわ」

「すみません、つい……」

「いいのよ。あの時の私は完全に諦めてた。まだ可能性は残されているのに、それを棄てようとしたの。だから叩かれて当然よ」

「俺とイザベルのどちらかでも失えばディルク(あいつ)は悲しむ。

 でもな、それはノーラも同じなんだよ。アウレリオさんもルジェクも、そしてノーラも。誰かひとりでも欠ければあいつは悲しむ。そういう奴なんだよ」

「ほんと、イザベルそっくりの優しい子よね、ディルクは」


 覚悟を決めた時に頭を過ぎったのは、肉親の顔ではなく、ディルクだったとアウレリオ達は口々に語る。

 あの子を悲しませてしまう事が、一番の心残りになっていたようだ。

 何としても街に戻るつもりではあったが、現実的に厳しい状況であった事に違いはない。イリス達が助けに来てくれなければ、生きて街へと戻れなかっただろう。

 彼女達のお蔭で生き長らえる事が出来る。ドミニク達はそう思っているが、イリス達女性陣は違う事を考えていた。


 ほんの少しでも選択を間違えてしまえば、取り返しの付かない事になる場合がある。

 分かっているつもりではあったが、彼らの話を聞き、改めて考えさせられた。


 これは世界を旅している者であれば、どんな者にも訪れる可能性がある事なのだろう。それをどう選ぶかで、生死を分けてしまう事になりかねない。


 その選択の重さを身に染みるように感じるイリス達と、そんな彼女達を優しく見つめるヴァンとロットだった。



 *  *   



 徐々に星空が見えなくなり、辺りが白み始めてきた頃、洞窟を出る準備をしていった。

 そんな中、立ち上がったイリスは、言葉にしていく。


「外の様子を調べて来ます。ヴァンさんもお願いしますね」

「うむ」


 そう言って立ち上がるヴァン。

 外の魔物除け薬は既に効果を失っているので、問題なく彼でも外に出られるだろう。


 二人は洞窟入り口まで戻って来ると、イリスは魔法での索敵を行い魔物の所在を確認した後、今後の予定を話し合っていく。


「ここから真っ直ぐ街道を目指すと、一時方向、五百八十メートラ付近にいる三匹のウォルフと遭遇すると思われます。そこから先の進行方向に魔物の姿は無いようです。他の経路では入り乱れてしまう可能性も高く、危険だと思います。

 索敵魔法を見られるのも、なるべくなら控えた方がいいでしょうから、真の言の葉ワーズ・オブ・トゥルースは極力抑えながら進み、ドミニクさん達の前方に私達とシルヴィアさん、後方にネヴィアさん、最後尾にロットさんの隊列を組み、ウォルフを撃退して街道に出る、というのはどうでしょうか?」

「ふむ。それが最良だと思うが、戦闘斥候(レコン)の可能性は分かるか?」

「そうですね。距離的に離れている個別のウォルフなので、左右からの挟撃で襲ってくるとは思いますが、断定は出来ません。集団戦になってしまった場合は、ドミニクさん達のご協力もお願いしつつ撃退しましょう」


 なるべくなら充填法(チャージ)も見られない方がいいが、ドミニク達のパーティーに魔術師(キャスター)はいない。見ただけで判断し、その力に至る者はいないと思われた。


「そうだな。それで行こう。ウォルフを倒して街道を目指すが、今回はウォルフを五十メートラまで引き付けて対処しよう。その際は俺が合図を出すから、イリスはそれを確認した後、指示を出して貰えるか?」

「はい。わかりました」


 即答するイリスにヴァンは説明していく。


 本来冒険者とは、草木の揺らぎや声や足音などを聞くまで、魔物の接近に気が付かない者が殆どになる。そこに獣人である者や、索敵に特化した斥候(スカウト)がいれば話が変わってくる。聴覚や感覚、地面の振動などで、距離や数を判断していくのが一般的な索敵方法となっていた。


 今現在の言の葉(ワード)では使えない、魔法による索敵を使用してしまったり、人種(ひとしゅ)であるイリスが斥候(スカウト)以上の受け答えをしてしまうと、あまり良くないと言えるだろう。最悪の場合、悪目立ちする事も考えられる為、可能な限り隠すべきだと思える。


「緊急時には知らせてくれて構わない。それはイリスの判断に任せる」

「はいっ」


 念の為、私達だけでもと警報(アラーム)を発動させて洞穴に戻ったイリス達は、これからの予定を述べていく。


 年長者でもあり、経験も豊富な熟練冒険者であるドミニク達も、イリスの言葉に異議は一切唱えなかった。あえて尋ねる事はしなかったが、そもそも彼女達はウォルフを二十匹も倒している。それもほぼ同時期にそれを成したと思われた。

 そんな強者である彼女達に異論を唱える事など出来ない。ましてや彼女達はここまで助けに来てくれた冒険者達だ。口など出せるはずもない。

 寧ろ余計な口答えは、却って彼女達の邪魔になるだろうと彼らは思っていた。


「それでは、ウォルフの襲撃に備えつつ左右と後方に注意をして、街道を目指しましょう」


 このイリスの言葉で、シルヴィア達は大凡の考えを理解する事が出来た。

 彼女の発したもの、それは真の言の葉ワーズ・オブ・トゥルースを使わずに進むから注意をして下さいという意味だ。

 意を()んだ彼女達は気合を入れ直し、ドミニク達を連れて洞穴を出て行った。



 街道を目指し、明るくなりつつある浅い森を進むイリス達。

 次第に彼女が告げたウォルフの場所にまで到達すると、ヴァンとイリスが言葉にしていった。


「来たぞ!」

「左右と後方に集中して警戒を!」


 鋭く草木を切り裂くような音が徐々に大きくなる。

 木々の隙間から灰色の影を視認する一同。左二、右一のようだ。

 先程と同じようにヴァンとイリスが左を、シルヴィアが右のウォルフを冷静に仕留めていく。


 安定どころか、たったの一撃でウォルフを倒してしまった事に驚愕するドミニク達。これだけの強さがあれば、本当に二十匹でも倒せたのだと理解出来るほどの凄みが彼女達にはあった。まだ冒険者になって日が浅いとも思えるイリスであっても、それ程の強さを見せていた。


 世の中にはそういった年齢と強さが合わない者も確かに存在はするらしいが、噂で聞いていたものを遥かに凌ぐ強さを見せているように思えてならないドミニク達だった。


 イリスは現状確認をして態勢を立て直していく。

 それでは行きましょう。そう言いかけた時、ヴァンとイリスが大きな声で言葉にしていった。


「――!? 何だこれは!?」

「――! これは!? 全員警戒を!」


 すぐさま魔法を発動していくイリス。


「"索敵(サーチ)"! 二時方向から急速接近中! 距離二百五十メートラ! 一体のみです! 隊列を組み直します! 前衛ヴァンさん! 私! 中衛ロットさん! シルヴィアさん! 後衛ネヴィアさん! ドミニクさん達は後方で防御に専念して下さい!」


 一気に緊張が走り、方向に合わせて武器を構え、態勢を整えていくイリス達。

 ドミニク達はイリスの発言に戸惑い、かなり遅れながら反応してしまった。


「……イリス、まさかこれは……」

「……考えたくはありませんが、可能性は高いです」


 凄まじい速度で接近してくる大型種を視認したイリスは、大きな声でその名を呼んだ。


「――!! ギルアムです!!」




 祝二百話達成になります! 

 これもひとえに皆様のお蔭と勝手に思わせて頂いております。

 今後とも、それなりに頑張って書かせて頂きますので、温かい目で見守って下さるととても嬉しく思います。

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