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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第八章 その大切なはじまりを
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"鮮明に見える"森の中を

 

 二十ミィルほど歩いたイリスは再び魔法を使ってみるも、その反応は無かった。

 随分とエルマから歩いて来ている。とはいえ馬車ではないので、そこまで離れてはいないと思われるが、冒険者達の痕跡は一切見付からず、不安は増すばかりだ。

 魔法を一度、二度と使いながら探していくが、彼らの反応も、その痕跡でさえも見付ける事は出来なかった。


 本当にもう居ないのかもしれない。

 焦りと不安が入り混じる心境の中、六度目の広範囲索敵サーチ・ア・ワイドエリアを使ったイリスは、目を大きく見開きながら声をあげた。


「――!! 反応ありです!! 十時方向、距離千八百メートラに、五人の反応があります!!」

「ふむ。ギルアムが倒されたとはいえ、今現在、森へと向かう冒険者は極端に少ないと思える。可能性は高いな」

「ですわね! 希望が出てきましたわ!」


 とても明るい表情を浮かべながら言葉にするシルヴィアだったが、あくまでも可能性に過ぎない。まだ反応があっただけで、ディルクの両親がいるパーティーかどうかも分からないのだから。索敵(サーチ)を使いつつ、魔物に警戒しながらその場所を目指すイリス達。


 暫く進むと、洞窟のような場所を発見する。


 遠くから確認をするように洞窟を眺めるイリス達。浅い森から続くこの洞窟を取り囲むように、大きな木々がその場所にだけ広がっていた。


 イリスは周囲を魔法で確認するも、魔物の気配はない。


「あれは、洞窟、いや洞穴か。ふむ。形状からすると天然のものだな」

「この先ですか? イリスちゃん」

「ええ、そうみたいですね。少し下りますが、ここから八十メートラほど先に反応があります。動きにも変化がないようですね」

「……ダンジョンの入り口の可能性もあるね」


 ダンジョンとは一般的に、天然の洞窟が地下へと続くように伸びている場所の事を指す。勿論、人工物である遺跡のような場所でもそう呼ばれる事もあるが、その殆どは自然が作り出したものとなる。

 暗く深い、まるで地の底まで続いているかのような場所も世界にはあり、中には魔物が溢れ返っている危険なものも多数発見されている。


 総じてそういった場所に生息している魔物の多くは、地上にいるそれとは全くと言っていいほど違う性質を持っているらしい。形状や大きさなどもそうだが、取り分けて目立つのは、領域(テリトリー)と呼ばれる絶対領域が存在しない事だろう。これはどんな魔物にも持つものとされているが、それは地上の魔物に限ってという意味になる。

 集団戦で仕掛けて獲物を仕留めるウォルフでさえも、とても狭いながら領域(テリトリー)は持っている。超が付くほど接近しなければならないので、ほぼないと言ってもいいのだろうが、それでもウォルフ同士で命を奪う事も極々稀にあるらしい。


 だが、ダンジョンと呼ばれている地下に生息している魔物は違う。例え魔物同士がぴったりとくっついても、互いが襲い合う事例は一切報告されていない。


 そして洞窟の魔物の強さは、異常と言えるほどに強いものばかりとなっている。

 攻撃力も、耐久性も、そして敏捷性も全て、地上にいる魔物の比ではないほど、その能力が跳ね上がっているらしい。

 何よりも、有り得ないほど凶暴になっているそうだ。それはもはや、別の世界に紛れ込んでしまったかのように感じてしまうほど、危険な場所となっている。

 地上から離れるほど強さと凶暴性が増すと言われており、今現在で発見されている最大級のダンジョンは、とても人が降りる事の出来ない魔物の巣窟となっているそうで、穴を塞ぐように土石で埋めているそうだ。


 今、彼女達が目にしている場所は、ヴァンやロットでさえも知らない場所だと言う。

 彼らとて世界中を知り尽くしている訳ではないが、エルマ周囲にこういった場所があるとは聞いた事がなかった。

『地元の者でなければ知らない場所なんだろうか』そうロットが口に出してしまうのも仕方がないだろう。


 ここはノルン、エルマ間の街道からも、随分と外れてしまっている。

 すぐ近くには深い森となっていると思えるほど、木々が鬱蒼と生い茂る見通しの悪い場所が見えた。


 徐々に目的の場所の入り口らしきものが見えて来たそんな時、辺りに漂う物凄い臭気に手で鼻を覆ってしまうイリス達。


「な、なんですの!? この凄い匂いは!?」


 鼻が曲がりそうになるほどの強烈な匂いに、思わず顔を顰めるシルヴィア。

 イリスもネヴィアも、とても辛そうな表情を見せる。


「これは魔物除けの薬を使った匂いだね」


 冷静に言葉にするロットではあったが、その表情は硬く、眉には皺が寄っていたが、最もその被害に遭っている者を心配し、イリスが言葉にした。


「ヴァンさん、大丈夫ですか?」


 獣人である彼にとってこの匂いは、かなりの影響を受けるのに十分過ぎたようで、足取りは重く、上半身をふらふらとした様子で歩いていた。

 その表情もとても辛そうではあったが、問題ないと短く返していった。


 洞穴と思われる場所の入り口まで来ると、その匂いは更に強烈になっていく。


 耐え切れなくなったヴァンは、戦斧の石突を地面に付いて身体を支えてしまった。

 既に彼は立っているのがやっとで、意識も失いかけているように見えたイリスは、急いで魔法を発動していく。


「"保護結界プロテクション・カバー"!」


 仲間達を優しく包み込む黄蘗色の魔力。

 その効果が現れたようで、ヴァンは立ち直り、イリスにお礼を言葉にしていった。


「ありがとう、イリス。助かった」

「いいえ、もっと早くから使っておけば良かったです」


 ごめんなさいと返すイリスに、ヴァンは優しく微笑みながら気にするなと言葉にする。続けて仲間達もイリスにお礼を言った。それほどの匂いだったとも言えるだろう。


 魔物除けの薬は洞窟の入り口付近、左右に置かれていた。

 洞窟内にウォルフを入れない為だと思われる。


 洞穴を外から覗き見るようにしていたシルヴィアは、イリスに尋ねていった。


「どうやら若干下へと続いているようですが、魔物はいるのかしら」


 再度索敵(サーチ)を発動させるイリスだったが、どうやら魔物はいないようだ。

 それを伝えたイリスだったが、この洞穴がどういったものか分からないため、進む前にもうひとつ魔法を使いますねと仲間達に伝え、言葉を紡いでいく。


「"構造解析ストラクチュアル・アナライズ"!」

「これは……」

「ふむ。これも凄い魔法だな」

「ですわね。段々と驚きに慣れてきてしまいましたが」

「なるほど。こういった構造なのですね」

「この魔法であればダンジョン内部の様子が分かるようになります。

 索敵(サーチ)とは違い、任意で仲間達にも伝える事が出来る魔法ではありますが、索敵(サーチ)の効果による魔物の位置までは伝える事が出来ないので、通常のダンジョンであれば注意が必要になります。今回は魔物の姿は見えないようですが、それでも警戒しながら進んで行きましょう」


 イリスの言葉に答えながら、一同は洞穴を進んでいった。


 この洞穴は若干下へと続いている構造となってはいるが、とても狭く、入り口から直ぐにとても狭い道となっている。道というよりも、大地の亀裂のようにも思えてしまうほど、入り辛い場所となっているため、魔物も入れないのだと思えたイリス達だった。

 だが少し進んでいけば少々広い場所に出るらしく、そこに人が居ると思われた。


 広い場所に出る手前の通り道となっている亀裂に、毛布がかけられていた。

 恐らく魔物除けの香りが入らないようにする為の工夫だと思われる。


 体格の大きなヴァンがぎりぎり通れるような小さい亀裂を抜けると、月明かりが降り注ぐ、とても幻想的な場所に出た。

 そこに居たのは五人の冒険者と思われる者達。男性三人、女性二人のチームのようだった。全員が横になりながら、星を見るように仰向けになっていた。


 そのうちの一人が驚きながら言葉にする。


「あ、あんたらどうやって!? 外にはギルアムが居るはずだぞ!?」


 その男の言葉で、飛び起きるように上半身を起こす冒険者達。


「この中に、ディルク君のご両親はいらっしゃいますか?」


 どうか居て欲しいと願いを込めて発したそのイリスの言葉に、目を丸くしながら一人の男性が名乗り出た。


「お、俺がディルクの父だ。妻も居るが、まさか捜索隊なのか!?」


 イリス達は自己紹介とこれまでの事情、そしてギルアムの件について話をしていった。あくまでも討伐されているという体で話をしていくイリスに、驚愕しながらも直ぐに喜びへと変わる冒険者達。

 そんな中、起き上がる事がない一人の女性を見ながら、イリスは女性に尋ねていく。


「お怪我されたんですか? 大丈夫ですか?」

「はい。足を怪我しまして、動けなくなってしまったんです」


 すぐさまネヴィアがポーションを女性に手渡し、冒険者達にも渡していく。

 各々お礼を言いながらライフポーションとスタミナポーションを飲み干す冒険者達は、直ぐに元気を取り戻し、改めてお礼を言った。


「ありがとう。本当に助かったよ」

「携帯食料とお水もありますので、まずはお食事にして下さい」


 笑顔で話すネヴィアの言葉に、大いに喜ぶ冒険者達。


 外にはギルアムの形跡があった為に、街には戻れずこの洞穴で待機しようと判断した彼らだったが、ここに来る途中ウォルフに奇襲され仲間が足を負傷して、ますます動けなくなってしまった。

 その女性はディルクの母ではないが、仲間を置いて街を目指すのは最終手段とし、ギルアムが討伐されて調査隊が救助に来るまで何とか持ちこたえようとしていたそうだ。


 一度男性達三人で食料調達をする為に洞穴を出たが、ウォルフと遭遇する可能性が高いので、この周囲くらいしか行けなかったそうだ。なんとかかき集めた木の実や野草などで飢えを凌いでいたが、集めた食料だけではなく水まで使い果たしまい、決断を迫られていた。朝には街道を目指し、進むつもりだったと彼らは話す。


「その際は妻を残し、俺達三人で救助を求めるつもりだったんだが、そんな時、皆さんが来てくれたんだ」


 そうディルクの父、ドミニクは話した。

 細かな経緯を聞いていたイリス達だったが、徐々にその表情は曇っていった。

 何かあったのかとドミニクは尋ね、イリスが答えていくが、その説明にドミニク達は血の気が引いていった。


「皆さんが洞穴の外で採取をしていた時期を考えると、私達が丁度エルマを目指していた頃だと思われます。恐らくここから真っ直ぐ街道に出た辺りで、二十匹ものウォルフと遭遇しています。それらと遭遇しなくて、本当に良かったと思いますよ」


 顔面蒼白になりながら、言葉を返すドミニク。


「……そんな数が襲って来たら、とてもではないが助からなかった……」

「今現在はギルアム討伐の一報を受け、あなた方の調査に来た、と言う訳ですわ」


 シルヴィアの言葉にホッとするように気持ちを落ち着かせるドミニク達。

 そんな中、ディルクの母イザベルがイリス達に尋ねていった。


「それであの、ディルクから依頼をされたとは、どういった事でしょうか?」

「依頼ではありませんよ。私達はディルク君にお願いをされて、皆さんを捜索に来たんです。ディルク君は現在、一時的に孤児院で預かっていますので、街に戻ったら逢いに行ってあげて下さいね」


 笑顔で答えるイリスの言葉に、涙しながらお礼を述べるイザベル。

 今まで何度も危険な目に遭って来てはいたが、今回は本当に危ない状況だった。

 何かがほんの少しでもずれていたら、今こうしていられなかったのは確実だろう。



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