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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第八章 その大切なはじまりを
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小さな街の"子供達"

 

 飲食街まで戻って来たイリス達は、そのままお店の建物を素通りし、孤児院へと向かっていく。


 子供達との約束もある。少々時間はかかってしまったが、きっと待っているだろうし、約束を破る訳にはいかない。確認もしなければならないし、夕方までは子供達と遊ぶつもりでイリス達は孤児院へ歩いていった。


 開けた場所に出ると、数人の子供が孤児院の前で遊んでいるようで、直ぐに気付いて貰えた。


「あ! おねえちゃんたちだ!」


 その言葉を皮切りに、続々と孤児院の裏手から飛んでくる子供達。とても心待ちにしていた様子で、どうやらいつでも駆けつけられる場所で遊んでいたようだ。

そんな子供達に嬉しく思いながら、頬を緩めるイリス達だった。


「今日は私達と遊んで貰えるかな?」


 そうイリスが言葉にすると子供達は、これでもかというほどの笑顔を見せ、心の底から喜んで貰えた。ほんとにいいのと尋ねる女の子に、イリスはお約束したでしょうと聞き返すと、その子はとても嬉しそうに微笑んだ。


 夕方まではまだまだ時間がある。最初はみんなで遊んでいたイリス達だったが、どうやらそれぞれ気に入ってくれた者と遊び出したようだ。


 イリスは女の子たちとおままごとを、シルヴィアは男の子達と追いかけっこを、ネヴィアは座ってお話を、ロットはかくれんぼを、ヴァンは座ったまま子供達の遊び場になっていた。

 体格の大きなヴァンは、あまり動くことはせず、子供達にされるがままだった。

 どうやら本人もまんざらではないらしく、楽しんでいる様子で尻尾を揺らしている。子供に怖がられない事は、思っていた以上に嬉しかったようだ。


 日が傾いてきた頃になると、子供達はお腹が空いたようだったが、タニヤはまだ来る事は無かった。子供達に聞くと、遅くなってしまう事もあると話した。

 流石にお腹を空かせた子達を放っておく訳にもいかないので、食事を作ることにするイリス達。だがイリスが作ってしまうとタニヤの料理を超えてしまう可能性がある為、シルヴィアとネヴィアに調理を任せていく。二人が料理を作っている間は、イリス達が子供達の面倒を見ながら遊んでいった。


 太陽が落ちかけた頃、大きな子達が徐々に帰って来たようだ。

 孤児院にいる沢山のお客様に驚いた表情を見せる彼らにイリス達は挨拶をしていくと、彼らもそれに言葉を返すように名前を教えてくれた。


 全員集まったのかを確認したイリスは、お食事にしましょうねと言葉にすると、小さな子達は大きな声で喜んでくれる。大きな子達は少々戸惑いを隠せないといった表情を見せた。

 テーブルと席や食器が足りるか心配だったが、どうやら何とか足りたようで、イリス達も一緒に食事を取っていく。今日はいつもと違い、大勢のお客様がいるので、食卓はとても賑やかになっている事にも驚いてしまう大きな子供達だった。


 子供達は全員で十八人。

 九歳以下の年少組は十二人。男の子五人、女の子七人。

 それ以上の年長組は六人。男の子二人、女の子四人だ。


 年齢順に女の子は、エミリー五歳、ハンネ六歳、ジゼル六歳、コレット六歳、ネリー七歳、アニタ七歳、ジュリー八歳、そして年長組であるフラヴィ十歳、ロラ十一歳、カティ十一歳、テア十二歳となっている。

 男の子の方は、ロジェ六歳、トマ六歳、イーヴ七歳、コーディ七歳、セルジュ八歳、ディルク十歳、パトリス十一歳だ。

 最年少は五歳のエミリー、最年長は十二歳のテアとなっていた。


 流石にこれだけの子供達が居ると、名前を覚えるのが大変だと思っていたシルヴィア達だったが、イリスだけは例外のようだった。人の顔と名前を覚えるのは割と得意なんですと彼女はシルヴィアに答え、大いに驚かれた。


 食後の後片付けも終わり、本題に入っていくイリス達。

 あまり大勢で尋ねるのは良くないだろうと判断し、聞くのはイリスだけにして年少組の面倒を見ていくシルヴィア達。


 フラヴィ、ロラ、カティ、テア、ディルク、パトリスの六人とお話をするイリス。

 食事中の様子からディルク以外の子達は、そこまで暗くはないという印象を受けた彼女は、少しずつ丁寧に話を聞いていった。

 年長組はもう十分に大人の考えを持っているようにイリスには思えた。受け答えもしっかりしているようだ。中でも最年長のテアは、もう大人だと言えるほどのしっかりとした受け答えをしていた。


 年長組の話を聞いて直ぐに、タニヤから聞いた事とは違う印象を受ける。

 話をするにつれ、大凡の事が分かってきたイリスは考えを纏めていく。


 年長組の子供達は自分に出来る事を探し、街を歩き周っているのだとイリスに話した。だが現状は厳しく、どこのお店も雇うのは難しいのだと謝られてしまっているらしい。小さな街では、中々仕事に付くことが難しいというのが現状のようだ。


 気持ちはあるが現実は違うといったやるせない想いをしながらも、子供達は現状を打破しようともがき苦しんでいる。それが良く分かったイリスだった。


 一言で言うのなら、雇用問題だ。

 こればかりは本気でエルマを改革しなければならなくなるだろう。


 だが裏を返せば、彼らでも出来る事はある。それをイリスは説明していく。あくまでも、『もし』の話ではある事だとしっかりと伝えるも、子供達は目を輝かせてイリスの言葉を聞いていた。


「――という事なの。もしこれをする事が出来れば――」

「それができれば、タニヤさんへのお手伝いになる?」


 テアが真剣な表情で言葉を返す。

 その言葉にイリスは嬉しく優しい気持ちになれた。

 そして他の子達もだ。彼女と同じ目をしていた。

 ああ、この子達は本当に優しい子なのだと、イリスは思わずにはいられなかった。


「ええ。私はそう思ってるよ。そうする事でこのお家の為にもなるって信じてるの。今はまだまだやる事が多いから絶対とは言えないけれど、皆が頑張ってくれたらきっと大丈夫だって思ってるよ」


 笑顔で答えるイリスに子供達は言葉にしていく。


「僕やるよ。ううん、やりたい」

「あたしもする」

「わたしも」

「わたしも頑張りたい」

「そうだよね。頑張りたいよね」


 まるで光が戻って来たように目を輝かせて言葉にする子供達に、イリスは思わず涙を流しそうになってしまう。


 この子達は両親の事を想い、悲しんでいる事に違いは無い。

 だが、タニヤが思っているような子達ではなかった。

 この子達はとても強い。悲しみの中を生きながら、それでもタニヤと孤児院の為に、そして妹と弟の為にと頑張ろうとしている、お姉さんとお兄さんだった。


 ありがとうと言葉にするイリスにテアは、それはこっちの言葉だよお姉ちゃんと、笑顔で言われてしまった。


 そんな中、ディルクだけは表情を変えないまま、俯くように一点を見つめていた。

 彼の心情を理解している年長組は、彼を咎めるような事はしなかった。彼女たちも同じ想いをしているし、何よりもディルクはまだそうなるかも分からない、とても微妙な立場にいる。


 彼だけはまだ分からない。

 言葉にしようか散々悩んだイリスだったが、意を決して言葉にしていく。

 ディルクに目線を合わせ、優しい表情と声色で話しかけていった。


「ディルク君。私達ね、明日、ディルク君のお父さんとお母さん達を探しに行こうと思うの」


 その言葉にディルクは勢いよく顔を上げ、イリスに向き直りながら言葉にした。


「……ほんとに?」

「ええ。でもね、もしかしたらディルク君に辛い想いをさせてしまうかもしれないの。無事で居てくれると信じて探すけれど、もしかしたら悲しい想いをディルク君にさせてしまうかもしれないの。それでも――」

「――それでも探してくれるんだよね?」


 イリスの言葉を遮りながら返すディルクの表情は、とても真剣なものだった。


「何となくだけど分かってるんだ。エルマはとても危険な土地だって、父さんも母さんも冒険に出るたびに言ってた。だから覚悟はしてるつもりだったんだ。

 でも、今どうなっているのか全く分かんなくて。帰ってくるのか来ないのか、それも分からないんだ。もやもやして、どうしていいのか分かんなくて。

 それでも俺、父さんたちが帰って来るのを待ってるんだけど、帰って来なくて」


 だからと言葉にするディルクは、しっかりとイリスを見据えながら話していった。


「どんな事になっていても、俺、知りたいんだ。今のままじゃ、どうしていいのか分からないから。だからお姉ちゃん、お願い。父さん達を見つけて」


 真っ直ぐ見つめる彼の瞳は、濁る事のない美しさをした綺麗なものだった。

 彼もまた、タニヤの思っていたような子ではなかった。彼も他の子達と同じく、とても強い子だ。エルマという場所がそうさせるのだろうか。ここに生きている子供達は、イリスやタニヤが思っている以上に優しく、賢く、何よりも強い子達だった。


 思わずイリスはディルクを優しく抱き寄せ、頭を撫でながら言葉にしていく。


「分かったよ。きっとお父さんとお母さん達を見付けるから。もう少しだけ待っててね?」

「……うん。……お姉ちゃん、ありがとう」


 とても強い少年の優しい言葉が、小さく響いていった。



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