"調査"
ギルドを出たイリスは、仲間達と話しながら孤児院を目指し歩いて行く。
「それで、何か良い着想はありますの? イリスさん」
「そうですね。大凡は掴みかけている、といった所でしょうか」
その言葉に驚く仲間達だった。
現状を知ってから考えに至るまでの時間が短過ぎると思っていたようだが、イリスは男の子を見た時から考えていた事だったと言葉にする。
「あの子が孤児なのは予想していましたので、あの子の悲しみを取り除く方法とかを考えていたのですよ。これに関しては全く思い付きませんでしたが」
少々俯きながら答えるイリスは言葉を続ける。
大凡掴みかけているとは言っても、あくまでも自分の考えであって、最終的にはチームで決めたいと仲間達に伝えていくイリス。
「私はアルリオンを目指さなければならないので、エルマに長期滞在は出来ません。
それにエルマの問題は、エルマで解決すべきだとも思います」
「それではイリスちゃんは、どうすればいいと思っているのですか?」
ネヴィアの問いに答えて行くイリス。
まだまだ考え中ではありますがと伝えた上で、イリスは皆に話していった。
この件も仲間達皆で考えれば、きっといい案が生まれるのではと思っているようだ。
「理想的なのは、ノルンの孤児達のように、街の人達に大切にされ、共に暮らす事が出来る街を目指したいと思えたんです」
「ふむ。それは中々に難しいのではないだろうか。住民の意識改革が必要になるぞ」
「俺もそう思うよ。そういった事となると、時間がかなりかかるんじゃないかな?」
「本格的に動くとなると、それこそ数年単位になってしまうのではないかしら」
「人の意識を変えるのは本当に大変だと聞いています。それは流石に私達には難しいのではないでしょうか」
少々難しいのではと答える仲間達に、イリスは自身の考えを仲間達に伝えていく。
まだまだ考え中ではあるが、その心はとても落ち着いているようだ。今のイリスには真剣に考えてくれる頼もしい仲間が四人もいるのだから、きっといい考えも生まれるはずだ。
ならば考えが纏っていない段階でも仲間達に話し、共に解決法を探ればいい。
ある程度考えていた事をイリスは説明すると、仲間達が各々言葉にしていった。
「短期間によくそれだけの事が思い付いたな……」
「そ、そうですね。流石に俺も驚きました」
「イリスさん、そっちの道でも活躍出来るのではないかしら……」
「ロドルフ様が欲しがっていた人材ですよね、姉様……」
「わ、私は冒険者ですからっ」
思わず言葉を返すように答えるイリス。
流石に専門的な事までは分からない。ただ思い付いた事をつらつらと並べたに過ぎないし、それを現実的な事にするには色々と足りないものがある。
そんなイリスはぴたりとその場に立ち止まり、何かを考え始めていった。
その様子を見た仲間達は、こういった時は話しかけない方がいいだろうと判断する。
尤も、この状態のイリスは話しかけたとしても、きっと気付かないと思われたが。
暫く考え続けていたイリスは、何かに気が付いたような表情を浮かべ、仲間達に思い付いた事を話していった。その言葉を聞いた彼らは、それぞれ言葉にしていく。
「……ふむ。いや、それならば、もしかしたら」
「俺はいい考えだと思いますよ」
「そうですわね。私もそう思いますわ。何よりもイリスさんらしいです」
「でもそれには色々と確かめなくてはいけませんね」
「そうなんです。なので一旦調査をする事と、彼らと会って意思を確認しなければなりません。今日はその確認をして宿に戻り、今後の事を話し合いませんか?」
イリスの提案に賛成する一同。反対する者などいる筈も無かった。このまま黙って見過ごしながらアルリオンを目指すなど、ここにいる誰もが出来ない。
まだ解決法は見付からないが、イリスの言ったように大まかではあるが見えて来た。
正直な所、まだ手を伸ばしても届かない、遥か遠くに見えているような曖昧なものではあるが、雲を掴むような話ではなくなっている。
「店は中央区にあるはずだよ。まずは行ってみようか」
ロットの言葉に頷く一同は、来た道を戻り、中央区へと戻って来た。
この一角にそのお店があるのだそうだ。経験者である二人に連れられて、イリス達はとある建物に入っていった。
中央区のとある一角にある建物。中には雑貨や道具、武器防具など、ありとあらゆるものが置かれる建物となっていた、所謂商店だ。
エルマでは売り物や食事処、加工場など、同じ場所に統一された施設が存在するのが一般的で、彼女達が入った商店もそのひとつとなっている。
ここで買えない物は食材と木材くらいだろう。食材は飲食街の中に、木材は職人区で交渉をするらしい。
イリス達がここに来たのは、あるものの調査をする為だ。
商店の中はそれぞれ種別にカウンターが設けられており、イリス達が調べようとしていたものも、その片隅に置かれているようだ。
商品棚を見つめるイリス達に、いらっしゃいませと声をかける若い男性店員。
ある程度商品を確認した後、イリスは店員さんに尋ねていった。
「魔法薬が充実しているんですね」
「はい。エルマでは周囲に危険なウォルフが溢れていますので、外で作業をする者には必需品となっているんです」
「危険な場所ですから貴重なお薬ですよね。でも失礼ながら、お値段が少々お高いように感じるのですが、素材に関してはハーブ園をお持ちではないのでしょうか?」
エルマの魔法薬は、"森の泉"で売っている値段の三割以上増した金額だった。中でも魔法薬・大は四割も値段が高かった。流石に一本七千リルは高いと思えてしまう。
これだけの高価な薬となると、恐らくハーブ園ではなく、エルマの外から採取したものが主となるのだろう。どうやらイリスの予想通り、店員は冒険者に依頼をして採って来て貰っている為に、高価になってしまうのだと話してくれた。
魔法薬の原材料となる魔法の薬草の栽培は非常に簡単だ。群生している魔法の薬草を農園に植えるだけでいい。あとは周りに繁殖力の強い草を植えるだけで勝手に増えていく。ある程度の距離を離せば、三種のハーブが一つの農園で作ることが出来る、とても効率の良いハーブだ。
そしてもうひとつの原材料であるリラル草もだ。これもまた繁殖力が強く、世界の至るところに群生しているありふれたハーブだと言えるだろう。
このリラル草の栽培もとても簡単だ。強いて言うのならば、薬に適した大きさまで成長させなければならない為、魔法の薬草のように放っておけばいいというものではないが、基本的にぐんぐんと育つ為、種や苗を畑に植えるだけでいい。
これをしないのには理由があるのだろう。いや、出来ないのだろう。
恐らくと言葉は付くが、大体の予想は付いたイリスだった。
これに関してはタニヤに尋ねればいい事だと思われたので、別の質問を店員にしていくイリス。仲間達はイリスに口を出さず、事の成り行きを見守っていた。
「……そういえば、自然回復薬は置かれていないのですか?」
「はい。エルマでは魔法薬に重きを置いています。あれば便利な薬ではあるのですが、生産に手間が掛かるのと、やはり魔法薬による回復速度が好まれるといった点で、自然回復薬はあまり作られることは無いんです」
「生産される薬師さんは、エルマにはあまりいらっしゃらないのでしょうか?」
「そうなんです。現在は三人の薬師がコミュニティーに在籍していますが、必要としている方達へ行き届くにはぎりぎりとなっているんです。
ご存じかもしれませんが、魔法薬・大の製作は難しく、確実に作れるだけの技術を持った薬師がいない為、自ずと魔法薬・大は高価になってしまうのが現状なのですよ」
なるほどと頷くイリス。
確かに魔法薬・大は難しい。火加減を間違えると、効果が大きい薬は作ることが出来ない。イリスも何度か失敗している。尤もその殆どは、何か考え事をしていた場合ではあるが。
大凡察することが出来たイリスは、『ありがとうございました。また来ますね』と店員へと言葉にすると、笑顔で挨拶をしてくれた。冷やかしになってしまったが、ゆくゆくはエルマの為になるかもしれないという事で許して下さいねと、心の中で謝るイリスだった。
中央区から飲食街方面へと向かう道をゆっくりと歩きながら、イリス達は言葉にしていった。
「大体は予想通りでしたね。自然回復薬が売っていなかったのは想定外でしたが、いい傾向だと思えます」
「そうですわね。お薬のお値段が高い理由は、薬師不足から来るものなのかしら?」
「ふむ。魔物が強いこのエルマでは冒険者を雇うのも一苦労、といったところかもしれないな」
「確かにウォルフがいる森の中でハーブを採取するのは大変ですからね」
「命に関わるものですから、妥協はしたくないでしょうね。それでも一本七千リルはかなりお高いと思われるのですが」
「そうですね。森の泉の四割り増しのお値段でした」
その値段の高さに驚く姫様達。流石にヴァンとロットは、魔法薬の値段くらいは知っている。勿論、街によって様々ではあるが、平均的な価格は理解している二人だった。
レスティの魔法薬店"森の泉"では、適正価格よりも多少は高く設定されていた。
鑑定魔法を持っている彼女の作り出す薬は、信頼性のとても高い薬だ。王国一の薬師とも名高い彼女が作る魔法薬は飛ぶように売れ、余程の事でも無い限りは、沢山の客が訪れる人気の高い店になっている。
それらの理由に加え、フィルベルグにいる他の薬師が育たない為、あえて少々割高となってはいるが、命に関わるものを妥協する冒険者は少ない。
それはエルマでも同じだろう。
この街にいる冒険者も、多少高くても魔法薬を買っていくと思われた。
今回のお話で、驚くべき第二百部分目の投稿となるようです!
びっくりですねー。二百部ですよ、二百部! ヾ(*´∀`*)ノ わーい!
お話はまだまだ続きますが、今後ともよろしくお願いいたします。




