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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第八章 その大切なはじまりを
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"実在していた"

 

 ネヴィアの言葉に一同が黙ってしまう中、イリスは呟くように話し始める。


「……以前お話した、マナに関する事にも通ずると思うんです。魔物の発生は今現在でも確認がされていないもので、まるで突然現れたかのように世界に存在しています。

 魔物学者さんの中には、行き成り地中から湧き出てくるなどと、怖い事を仰る方もいらっしゃるそうですが、私はあながち間違いだと断言出来ないのではと思っています」

「『全ての事象には必ず、人が解明する事の出来る原因がある』そう言っていた者がいたな」


 ヴァンの言葉にロットも頷くが、誰の言葉だったか二人は覚えていないらしい。

 有名な方でしょうかとネヴィアが聞くも、それも定かではないそうだ。

 そんな中、思い起こすようにイリスが答えていった。


「確か、図書館の本でそんな言葉を見た気がしますよ。……あぁ、思い出しました。『フィルベルグ魔物図鑑』の著者が、最後のページに残した言葉ですね」

「そうか。そんな場所に載っていたか」

「著者はどなたですの?」

「サンドロ・リッツィさんという男性で、エメリーヌさん曰く、現在も現役で魔物の調査をされながら、新しい情報が入ると直ぐにギルドへ報告されているのだとか。

 かなりご高齢の方だそうですよ。お元気そうで何よりです」

「お元気過ぎではないかしら……」

「何か使命感みたいなものに突き動かされているんじゃないかな」

「でもその方のお言葉は、とても立派ですね」

「うむ。著者を考えると、中々に重みのある言葉だな」


 そんな事を話しているイリス達。

 確認のため索敵(サーチ)を使ってみるも、どうやら残りの一匹に動きは無いようだ。

 イリス達は、この不気味とも思える存在と、今後の行動について話をしていく。


「全く動いていませんね。どうしましょうか」

「眠っているのかしら?」

「ならば起こす事無く進みたいですね」

「だが他のウォルフと同じ場所にいたのだろう? そいつだけ眠っているとはとても思えないが」

「俺もそう思います。何故その一匹だけ動かないのかは分かりませんけど」

「私も同意見ではありますが、ネヴィアさんの言ったように、なるべく刺激する事無く通るのが最良ではないでしょうか」

「ふむ。ならばこのまま警戒を厳に進みつつ、状況に合わせての行動、となるのだろうか」

「なるほど。では、集団での襲撃に備えて進んで行くのかしら?」

「そうだね。ウォルフの襲撃は厄介だから」


 今後の行動は決まったが、問題はまだひとつ残っている。

 それについてシルヴィアが、少々呆れたような顔をしながらぽつりと言葉にしていくが、正直な所、彼女達には出来る事など限られていた。


「……このウォルフはどうしますの? 凄い数で捌いても持って行けないですわね」

「うむ。俺もこういった事は初めてだが、この場合は最寄の冒険者ギルドに、討伐した魔物と数を報告して回収して貰う方がいいだろう。代金のいくらかは取られるが、素材代としてもこちらに入る。だがこのままでは流石に旅人の邪魔になるので、道の横に持っていこう」


 そう言ってヴァンはブーストも使わずにウォルフを軽々と片手で持ち上げながら、馬車が通れる道を確保していった。

 その豪快な腕力に目を輝かせる女性陣。彼女達も持つことは出来るが、それはブーストをしっかり使わないと不可能だ。

 正直な所、腕力だけでは三人がかりでやっと動かせる、といったところだろう。


 流石に人種(ひとしゅ)のロットではウォルフを片腕では持ち上げることは難しい。両手を使ってやっとといった様子で魔物を片していく。やはり獣人とは、基本的な身体能力の高さがとても目立つ種族だと、改めて知る事が出来た三人だった。

 その間イリスは警戒を怠ることは無く、魔法による監視を続けていたが、どうにも動く気配が無いように感じられた。

 周囲にはそれ以外の反応は見当たらなかったが、どうにも不気味としか思えないその存在がいる為に、安心することは全く出来なかったイリスだった。

 何かしらの理由があるのだろうかと難しい顔をしていたイリスへ、シルヴィアが言葉にしていく。


「もしかして、既に力尽きている、という事は無いのかしら」


 そのシルヴィアの考えにイリスは、それは無いと思いますと答え、彼女達に索敵(サーチ)の説明をしていった。

 この魔法はそもそも、生きている存在を探し当てるものだ。それは例え重傷を負っている今にも果てそうな存在であったとしても、しっかりと反応出来るような魔法だ。

 もし息絶えていた場合はこの魔法に反応する事がないので、確実にその場にいると断言出来るそうだ。


 「では重傷を負っている為に、動く事が出来ない可能性がありますね」


 ネヴィアが言うように、その場合であれば魔法に反応はするものの、動く事が出来ない状態だという可能性は高い。であれば、安全に街道を通り抜けられるだろう。


 エステルがいる以上、闇雲に調査へと向かう訳にもいかない。

 危険な事は可能な限り避けるべきだし、わざわざ戦いに行く必要などない。


 そんな事を話しながら、街道の馬車が通れるように道を開けたヴァンとロットはエステルの所へ戻り、待たせたなと伝えていく。女性陣からはお疲れ様ですとの労いの言葉をかけられるも、どこか照れたように目を瞑るヴァンだった。


 そんなヴァンは、思い出したようにイリスに尋ねていく。


「どうだ、最後の奴は」

「やはり変わらず、その場から全く動いていないようですね」


 エステルにそれぞれ先程の事を褒めていく仲間達。イリスはエステルに優しく触れながらいい子だったねと伝えると、イリスの頬に顔を摺り寄せてきた。

 何とも絵になる光景を見ながら、ヴァンとロットはエステルの気性を考えていた。


 あれほど大量のウォルフを間近にしても、エステルは微動だにしなかった。

 まるで仲間達を信じきっているかのようにも思え、嬉しく思う反面、やはり馬としては相当に優秀と思える子だと感じていた。普通の馬であれば暴れ出し、誰かが(なだ)めなければいけなくなるが、どうやらエステルはそういった馬ではないようだ。

 恐らくはエリーザベトが気を利かせ、とても優秀な子を預けてくれたのだと思えるが、それにしてはとても不思議な子だと思える二人だった。

 正直な所、これほどまでに気性の穏やかな子は見た事がない。話に聞いた事くらいはあったが、話半分に聞いていたほどだ。とてもそんな馬が実在するとは思えなかった。


「……本当に実在していたんだな」

「そのようですね……」


 なんですのと顔を御者台に出すシルヴィアに、その事を話していく二人。


「確かにエステルは不思議な子ですわね」

「そうですね。何だかイリスちゃんみたい」

「ふむ。それは考えてもみなかったが」

「確かに不思議と似ている気がしますね」

「わぁ、エステル。私達似てるんだって」


 愛おしそうに抱きしめ、顔を寄せる満面の笑顔のイリスを、エステルは優しい眼差しで見つめていた。


 しばらく抱きしめながら撫でていた様子を、ほんわかとした気持ちで見つめていた仲間達だったが、はっと気が付いたようにイリスが自分だけ外にいることに気が付き、それじゃあ街までもう少しだからよろしくねと言葉にして馬車へと戻っていった。

 御者台に顔を出した彼女は、お待たせしましたと二人に告げるも、構わないと二人から笑顔で答えて貰えた。


「では行くか」


 エステルを歩かせていく一同。


 例のウォルフと思われる存在は動く気配を見せる様子は無く、三時方向に確認していた場所から五時方向へと馬車を移動しても尚、発見された場所から微動だにしないようだった。


 エルマまであと一アワール程で辿り着けるこの場所は、地形が起伏する丘の様になっていて視界が少々悪い。そんな中、イリスの魔法に改めて凄まじさを感じる仲間達。

 この警報(アラーム)索敵(サーチ)の前には、幾ら潜伏しようが、例え洞穴の奥だろうが、索敵範囲内であれば丸分かりになる魔法らしい。

 索敵範囲が円状に展開されるため、地面に潜伏する者もいない今の時代では、下方向に張り巡らせた範囲が無駄になってしまうが、それでも三百メートラを軽く超える索敵範囲を見せる魔法に驚いてしまう。

 本当にレティシアの時代は、魔法が突出して使われていたと思えるその力の片鱗に、驚きと脅威を感じる一同だった。


 こんな凄まじい魔法を平気で人に向けて使い、攻撃する存在がいること自体、震えが来るほどの恐怖を感じるイリス達だった。



 そろそろエルマが見えて来るだろうかといった頃、周囲に警報(アラーム)が響き渡っていく。


 実際に音が鳴った訳ではなく、振動した訳でもない。

 この魔法は、使用者と仲間達に感覚で警告を発するものだ。

 対象となる存在が近付いたことを知らせる魔法ではあるが、そのあまりの異常事態に馬車を止め、シルヴィアが叫びながら飛び出すように荷台から降り、次々と彼女に続き、後方へ向かって態勢を整えていくイリス達。


「な、何なんですの、これは!? 移動速度が速過ぎますわよ!?」


 急いでイリスは本気で魔力を込めた保護(プロテクション)をエステルにかけていく。

 これは明らかにウォルフの速度ではない。それを遥かに凌ぐ速度で近付く存在に反応し、警報から警告へと変わっていく。


 武器を構える一同は、その襲撃者を集中して待ち構える。


 緊張感が高まる中、見通しのいい場所に現れるように、物凄い速度で走ってくるその姿を目視で捉えたイリス、ヴァン、ロットが驚愕をしながら一斉に叫んだ。


「「「ギルアムです()!!」」」




 エメリーヌさんは、フィルベルグ図書館の司書長兼館長代理の方です。目力が少々強いおねいさんです。美人さんです。

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