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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第七章 彼女の居場所
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"鉱山の街"

 

 鉱山街(こうざんまち)ノルン。


 フィルベルグから馬車で半日ほどの場所に存在するエルグス鉱山に隣接されるように造られた、人口凡そ五百人程度の集落とも言える小さな街。

 鉱山で採掘された鉱石は近接された加工場で精錬され、金属に変えられた上でフィルベルグへと運ばれていく。その加工場として造られたのが、この街の始まりらしい。

 周囲を頑丈な石材で組み上げて作られた壁に囲われ、まるで城門と思えるほど大きな鉄造りの扉で魔物の侵入を拒むように守られている、鉱山で栄えた街だ。


 採掘した鉱石を精錬しているという事は、当然この場所でも武具の鋳造も出来なくはないのだが、あくまでも付近の魔物を退く事を主としたものの為、武具屋と呼ばれるようなものは存在しない。

 この街の住民の多くは炭鉱夫とその家族達になる。他には冒険者が五十人ほどいるらしく、小さいながら冒険者ギルドも置かれているとロットが説明していった。

 依頼内容は基本的に街の防衛任務や、エルグス鉱山に存在する魔物を倒す事が主となるが、中には必要な物資となる薬草採取なども頻繁に募集されており、フィルベルグから近いこの場所で長い時間を過ごす冒険者もいなくはないそうだ。

 フィルベルグは王都である為、その喧騒を煩う者達が訪れていたりもするらしいと、続けてロットが話してくれた。


 その他は基本的に停留する為に設けられた宿屋や飲食店が主となり、アルリオンを目指す者達の休憩所にもなっている街で、ノルン入り口にはそういった施設がそれなりに建てられているようだった。

 街並みは石で建てられた建造物や石畳で統一するように造られていて、その重厚感のあるどっしりとした佇まいなのに、どことなく暖かさを感じるような、とても不思議な建造物が多かった。


 街を歩く人の数はフィルベルグと比べてしまうと相当少ないが、街には活気が溢れ、誰もが元気な笑顔を見せていた。この街は冒険者だけが訪れる訳ではなく、フィルベルグからアルリオンへと向かう旅人や商人達が多く立ち寄る街だった。

 その為、街の入り口には厩舎がしっかりと作られており、大切な馬や荷車を管理して生計を立てている者も多い。この厩舎にもフィルベルグからの援助金が送られているので、とてもお手頃な価格で大切に預かって貰える施設となっていた。


 ここまでの疲れを労って、エステルのブラッシングをしたかった女性陣だったが、本職の方がいるのでそれを含めてお願いをするも、どこか寂しそうに彼女を見つめるイリス達は、抱き付きながらエステルを撫でているようにもロット達には見えた。

 それじゃあまた明日ねと彼女に告げて、イリス達は宿へと向かっていった。


 宿泊場所となる宿屋の前に立つイリスは、思わず今晩泊まる予定の宿を見上げてしまっていた。もっとこじんまりとした可愛らしい宿を想像していたらしく、思っていた以上に立派な作りで驚いてしまっているようだ。

 ロット曰く、このノルンはフィルベルグからアルリオンまで行く為に殆どの人が滞在するらしく、宿場町としての役割も強いのだそうだ。


 イリスの目の前に建つこの宿屋もその内のひとつ、という事らしい。

 外観は石造りの頑丈そうな建物である事は、ノルンの一般的な建造物と言えるものだが、民家と思われる建物よりもずっと大きく造られていた。

 雨よけの屋根に可愛らしく下がっている看板に目を向けると、"輝くルビー亭"と言う名前が書かれているようだ。何とも鉱山街らしいその名前に微笑んでしまうイリスは、仲間達と共に宿に入っていった。


 カウンターで二人部屋と三人部屋を用意して貰い、一旦別れて着替えの入ったバッグを部屋に置いて、昼食を取りに行く事にした一行は、ロットとヴァンがお勧めする店に向かっていった。


 そんな中、ヴァンが武器を変えていた事に気が付くイリス。いつも所持していた戦斧ではなく、大きめの剣を腰に携えていた。彼に理由を尋ねると、街中であの大きな戦斧を持ち歩くのは都合が悪いと言葉にしていく。


「これから食事をするのに、あの戦斧は邪魔になるからな」


 そう苦笑いをしながらイリスに答えるヴァンだった。

 あれだけ大きい獲物となると食事中も邪魔になるし、戦斧先端の形状がダガーのように尖っている為、立てかけるのも危ないからなと彼は話を続けた。

 そう言いながらもヴァンが持っている剣は、イリスではブーストでも使わないと持てなさそうな大きなものだった。だがそれでも、あれだけ大きな武器を振り回しているヴァンにとっては、とても軽く扱いやすい剣なのだと告げていく。

 獣人の、それも男性となると、その腕力はイリスではとても叶わないほど力強く屈強なのだと、改めて知る事が出来たイリスだった。



 そしてこのノルンは宿屋も飲食店もそれなりの数があるらしく、例え集団でこの街を訪れたとしても宿泊や食事が出来る様に造られているそうだ。家族で宿屋を経営し夫は鉱山で採掘を、という一家もいるらしいとヴァンはイリス達に話していった。

 何とも不思議な街だと思えるノルンだったが、イリスの思っていた印象とは少々違っていたようだ。


「鉱山街というと、どうしても"職人さん達の街"というイメージが強いのですが、ノルンはちょっと違うんですね」


 きょろきょろと歩きながら街並みを楽しむイリスに、シルヴィアとネヴィアが続いていく。


「そうですわね。思っていたよりも可愛らしい街ですわね。私も職人の街を想像していたので、気難しい方が多くいる街だと思っていましたわ」

「のんびりとした、とてもいい街ですね。王都が近いからでしょうか?」

「それもあるかもしれないね。エルグス鉱山は資源が豊富だから炭鉱夫も潤っているし、宿場町としても存在しているから、宿屋や飲食店も安くて美味しいものを提供してくれるお店が多いんだよ。尤もこの辺りは宿泊施設や飲食店、市場が並ぶ場所だから、もう少し奥に行くと一気に景色が変わって、職人の街って感じになっていくんだ。

 完全に職場になっているから、見学するのはちょっと難しそうだけどね」


 そういった施設がバランス良く調和しているように造られているから、穏やかに見えるんじゃないかなと、ロットは答えていった。


 この辺りは木材よりも石材の方が安く済むそうだ。

 思えば鉱山がすぐ近くにあるのだから、石が安いのも頷けてしまうのだが、石を積むだけで果たして建物が維持出来るのだろうかと呟いてしまうイリスだった。

 その問いにもロットは笑顔で答えてくれた。


「石と石をくっつける為の素材があるんだよ。そっちの方は詳しくはないけど、何でも焼成した粘土や陶器の欠片を粉砕して石灰を加えたもので作れる、とか聞いた事があるよ」


 そんな事出来るのかと感心してしまう三人と、十分詳しいと思うぞと言葉にするヴァンは、ロットの知識の広さに驚いていた。


 暫く歩いていると、二人のお勧めのお店に着いたようだ。

 泊まる宿屋からそれほど離れていない場所に建つこの小さな飲食店は、安いのにとても美味しい料理を出してくれるお店なのだと紹介された。


 その店名に思わず言葉にするネヴィア。


「"銀の憩い亭"。ここでも鉱山に関係していそうなお名前なんですね」

「ノルンならではのお名前なのかしら」

「割とそういった名前が多いみたいだよ。酒場も"黄金の杯"って名前だったし」

「うむ。実に酒が美味くなりそうな名前だな」


 顎に手を当て、微笑みながら言葉にするヴァン。

 お酒を飲んだ事がないイリスには分からないが、とても美味しい物としてヴァンは思っている様だった。機会があればいつかは飲んでみたいとも思えたイリスだったが、今日行き成りとなると中々飲みたいという気持ちにはならなかった。


 そんな事を思いながら、イリスは"銀の憩い亭"へと足を進めていった。


 その店内は質素でありながら、とても落ち着いた雰囲気を出したお店のようで、昼前にも拘らず、店内の席は半分以上が埋まっている賑やかなお店だった。

 客層は冒険者や商人といった方達ではない、ノルンに暮らしている人たちのようにもイリスには見えた。地元に愛される素敵なお店なのだろうかとイリスは考えながら席へと座っていくと、お店の中年女性と思われる方が注文を取りに来たようだ。


 慣れた様子で注文を伺い、こちらも慣れた様子でロットが応えていく。


「いらっしゃい! 何にするかい?」

「お勧めはありますか?」

「今日のお勧めはディアのトマトスープだね。付け合せは春野菜をたっぷり使ったポテトサラダがお勧めだよ!」

「それじゃあ俺は、その二つにパンを付けて下さい。皆は?」


 折角のお勧めなのでお願いしていく一同はそれを伝えると、嬉しそうに女性は答えていった。


「はいよ! お嬢さん達綺麗だから、おまけしちゃおうかね!」

「わぁ! ありがとうございます!」


 明るく笑顔で答えるイリスに、それじゃちょっと待っててねと言いながら、女性は店の奥へと向かっていった。

 どうやらシルヴィアとネヴィアの事が知らない女性のようで、少々新鮮な気持ちになる姫様達だった。




 鉱山街(こうざんまち)と書かれていますが、正しくは鉱山町(こうざんちょう)です。

 これもこの世界独自の言葉として使わせて頂いております。

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