"図書館"へ向かおう
朝の鐘の音で目が覚める。すごく心地よい目覚めだったのだが、ベッドの横にある小さな机に置いてある本を見て、ため息が出てしまう。
髪を整えて着替えて、洗面台で顔を洗い歯を磨きに行こう。さっぱりしたところでダイニングルームに行くと、おばあちゃんは朝ごはんの用意をしていた。
「おはよう、おばあちゃん」
「あらおはよう、イリス。昨日はよく眠れた?」
「うんっ。おかげさまでぐっすり眠れたよ」
おばあちゃんはうふふと笑い、私は朝食のお手伝いをする。
食事になり食べ始めた頃、おばあちゃんに昨日の本はどうだった?と聞かれて、私はぴたっと固まってしまい、その様子を見たおばあちゃんは察してくれた。
「うふふ、やっぱりそうよねぇ。あれじゃわかんないわよねー」
「私にはちょっと難しすぎたよ」
「もし魔法を勉強するなら、やっぱり図書館で本を探すのがいいかもね」
「図書館かぁ」
「今日のお昼ご飯が終わったら行ってみたらどう?ここから噴水広場に出て、そのまままっすぐ進んでいくと図書館があるわよ。そのまま更に進んでいくと立派な教会に出るわよ」
「ううん、お仕事があるから今度でいいよ」
「あらだいじょうぶよ。お昼から3アワールはほとんどお客さんが来ないから、図書館で魔法を調べてみるといいわ。練習法とかわかれば修練も出来るようになるわよ?」
「練習法と修練?」
「魔法はね、使い続けると強くなれるのよ。それぞれの属性によって修練法も違うみたいだし、私の知っている練習法は土属性のための方法だからしない方がいいと思うの。
それにそういった事は早めに知っておくといいんじゃないかしら。お仕事ばっかりしてると息が詰まっちゃうし、少し外の空気を吸いに行くついでに調べてみてもいいんじゃない?」
「ありがとう、おばあちゃん。それじゃあ忙しくなりそうになる前に戻るね」
「えぇ。こっちは心配しなくていいわ。調合の目処も立ったし」
「え?もう目処が立ったの?」
「えぇ。調合もイリスにお手伝いしてもらおうかなって思ってるわ。私の考えてる通りなら、すぐに魔法薬も作れると思うから」
「えぇ!?わ、私まだ自然回復薬しか作れないよ!?」
「うふふ、大丈夫大丈夫。きっとすぐ覚えられるわ。イリスは物覚えがとてもいいから」
期待しすぎだよ、と戸惑う私におばあちゃんは、うふふ、問題ないわよと笑ってた。
「あ、そうだ。図書館へはギルドカードを持っていかないと、利用できないようになってるから持って行ってね。詳しくは図書館で聞いてね」
「うんっ」
朝食が終わり食器を片付けて、さぁ、朝のお仕事だねっ。鍵を開けてレジで待つ。すぐにカランカランと音がしてお客様が入ってくる。
「いらっしゃいませっ」
「やぁ、おはよう、イリス」
「ミレイさん!おはようございます!」
「自然回復薬中を3つくれるかな?あとイリスを1ぎゅっと」
「は、はい!自然回復薬・中を3つですね。1500リムになります。あと私1ぎゅっとは1もふもふ、・・でいいのかな?」
「はい。1500リム。あと1もふもふでいいよ、というか、もふもふなんかでいいの?」
「はい!ミレイさんのお耳は素敵すぎるので嬉しいですよっ」
「あはは、そう言ってもらえると嬉しいよ」
「こちらが自然回復薬・中3つになります」
「うん。ありがとー。」
レジから出てくるイリスに、すぐさまミレイはひしっと抱きついてすりすりしてきた。
「はぁー、すべすべさらさらだぁ。かわいいなぁ」
「あ、ありがとうございます」
ミレイさんに抱かれてるとすごく嬉しくなる。そこへカランカランと扉が開く。
「うおっ、何してるんだ、ミレイ」
濃い青い髪に青い瞳のお兄さんでした。がっちりした重そうな鎧を身にまとっていて、腰には剣を携えている。
「んー?かわいいから抱きついてるだけだよ?」
「えっと、ごめんな、君。そいつ可愛い子を見ると、抱きつく癖があるんだよ」
「い、いえ、私もこうしてもらえると嬉しいので」
「そ、そうなのか。まぁ嫌じゃなければいいんだけどね。そうそう、俺はミレイとパーティーを組んでるオーランドっていうんだ。オーランド・ヘンドリック。ゴールドランク冒険者で剣士だよ、よろしくね」
「私はこちらで働かせていただいてます、イリスと言います。よろしくお願いします」
そうお辞儀すると、あ、これはご丁寧に、とお辞儀で返してくれる。
「というかミレイ、そろそろ離してやれよ」
気がつくとミレイは後ろから抱き付いていた。
「あはは、可愛いは正義なんだよ」
「なんだよそれ、初めて聞いたよ」
オーランドは若干引いている。
「それじゃあそろそろお耳をどうぞー」
そういって耳を差し出すミレイ。ぱぁっと明るくなってイリスはさわさわしだす。
「今日も素敵にふわふわすべすべもふもふですね、ミレイさん」
うっとりしたイリスにオーランドは、なるほど似たもの同士か、と思う。
しばらくもふってると、はっと気づくイリス。
「すみません、オーランドさん。ご用がありますよね、お伺いします」
そう言われてオーランドもそうだった、と思い出す。
「ポーションが欲しかったんだった。すっかり忘れてたよ」
「どんなポーションをご希望ですか?」
「ライフポーション中を5つとスタミナポーション中を3つ、自然回復薬・中3つお願いします」
メモを取りながら同時に計算をするイリス。
「ライフポーション・中を5つ、スタミナポーション・中を3つ、自然回復薬・中を3つですね?・・21500リムになります」
「はい、お金」
「ありがとうございます、22000リムをお預かりいたします。・・こちらがお釣りの500リムになります。ありがとうございました」
「イリスちゃん丁寧だね」
ありがとうございます、と笑顔になるイリス。その笑顔にオーランドは見惚れてしまっていた。それを横目に見たミレイは、あはは、イリスはあたしの大切な"妹"だからね、だめだよ?とオーランドに牽制をする。ミレイに大切な妹と言われたイリスはとても嬉しそうに微笑んでいる。
「ななななんのことだよミレイわけわかんないこと言うなよそうだ俺用事あるんだったこれで失礼するねイリスちゃん!」
図星をつかれたオーランドは取り乱しながら店を出て行った。
「え?あ、はい。またのご利用お待ちしておりますっ」
「あはは、逃げちゃった。悪いことしたかな」
「?」
「あー、いいのいいの。イリスは笑顔でいてくれるだけでいいんだよ?」
「よくわからないけど、わかりました」
「それじゃ、あたしもそろそろ行くねー」
「はい!またいらしてくださいね、ミレイさん」
笑顔で返すイリスに可愛いなぁと思いつつミレイは答える。
「もちろんだよー。必ず来るよ」
「ありがとうございますっ」
その後、すぐにお店に多くのお客さんが来てくださいました。ほんとに朝は忙しいんだね、と横にいるおばあちゃんに言うと、一人じゃ大変なのよ、イリスも慣れるまで無理しない程度に頑張ってね、と言ってくれた。
* *
正午の鐘が鳴り、お客さんの対応を終えると、そのまま一旦お店を閉めてお昼になる。食後おばあちゃんが、いい天気だしついでにお散歩もしてくるといいわって言ってくれたけど、さすがにそこまではできないなぁと思いながら、おばあちゃんに行ってきますと言いお店を出た。
さて、まずは噴水広場に出てそのまま真っ直ぐだったね、と、思いながら歩いてギルドの前で立ち止まる。
「そうだ、シーナさんにお礼言おうかな」
おばあちゃんに巡り会わせてもらったし、お礼の一言くらい言いたかったけど、ふと、忙しいかな、迷惑かな、とか思ってしまった。よし、受付に人がいなかったらお礼を言いに行こう、そうしよう!と、イリスはギルドの扉を開いた。
ギルドの中は昨日と同じようにとても賑やかで、冒険者さん達がご飯を食べたりお酒を飲んだりしてた。ここはいっつも活気があるみたいだね、と笑顔になってしまう。受付は、今は一人もいないみたいだね。よかった、シーナさんもいるみたい。じゃあお礼に行こうね。
「シーナさん、こんにちは」
イリスは受付まで歩いて行きシーナに挨拶をする。
「こんにちは、イリスさん。お仕事の方はどうですか?」
「はい。とても楽しんで働かせていただいてます。それで今日はシーナさんと横にいらっしゃるお姉さんにお礼を、と思いまして」
「お礼、ですか?」
何かしたかしら、とシーナは少し考えるが思い当たらない。横の女性もすこしきょとんとしてるようだ。
「はい。おばあちゃん、いえ、レスティさんをご紹介していただいて、ありがとうございました」
ふかぶかとお辞儀をするイリスにシーナは、笑いながらそういうことですか、と言っていた。すぐにシーナもこちらこそお礼を言っていただけて嬉しいです。ご紹介して正解でしたね、と笑顔で答えてくれた。横の女性はまた可愛いと呟きながらイリスを見つめてくれていた。
「また何かあればギルドのいらしてくださいね。レスティさんのところであれば、採取することも少ないとは思いますが、もし外に出る場合の護衛冒険者を紹介することは出来ますので」
と、シーナは言ってくれた。そっか、護衛してくれる冒険者さんの紹介もしてくれるんだね、すごいなぁギルド、と思いながらイリスはありがとうございますと笑顔で答えた。
「それでは今日は図書館の方へ行ってみようと思ってますので、これで失礼しますね」
イリスがそう言うとシーナは、はい、いってらっしゃい。もし迷ったらまたここに来てくださいね、と言ってくれた。親切だなぁシーナさん。
イリスがギルドを出た後、冒険者の来ない受付ではきゃっきゃ言いながらかわいい子だねー、あの子お店での対応もすっごい親切だったよー、というイリスの話でしばらくもちきりだったという。
イリスはギルドを出て図書館へ向かおうと噴水広場を真っ直ぐ進む。こっちはまだ来たことない道だ。こっちにもお店が並んでいて、可愛いお洋服屋さんだったり、雑貨屋さんだったりするらしい。きょろきょろ見ながら王都ってすごいなぁと思いつつ、目的の図書館に着いた。
とても大きな茶色で落ち着いた感じの佇まいで、この辺りではすごく目立っていた。あとでおばあちゃんに聞いた話によると、国が運営してる王国図書館なのだそうだ。
正直いきなりぼんっと大きな建物があるとびっくりするなぁと思いつつ、中へ入っていく。