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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第六章 託された知識
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"旅に出る前に"

 

 エリーザベト達と別れ、馬車をゆっくりと歩かせていくイリス達。

 旅の中でエステルの扱いを学んでいこうと言ってくれたロットに、三人は明るい顔を見せた。皆で色んな事を学んで行きましょうねとイリスはシルヴィアとネヴィアに伝えていくと、二人は笑顔で賛同していった。


 折角の旅なのだから、楽しみながら様々なことを学びたい。

 それに、世界中を旅する事になるのかもしれないのだから、楽しまないと勿体無い。

 そんな風にイリスは考えていた。


 フィルベルグ城にある下の庭を馬車で進んでいる頃、イリスは仲間達にもう一冊の白紙の本の事を話していく。以前少しだけ話した件ではあるが、フィルベルグを旅立つ前にそれを調べておきたいと伝えていくと、そうですわねとシルヴィアが言葉を続けていく。


「内容が重要なものであれば、またお城に戻って報告になるのかしら」

「そうですね。元々白紙の本は、真の言の葉ワーズ・オブ・トゥルースによる細工がされたものですから、重要なものである可能性は高いと思います。もし歴史的な何かであったりすれば、報告するべきですね」

「あれだけ見送りをして貰って戻るのも、中々恥ずかしいものがありますわね」


 シルヴィアは呟くように言葉にする気持ちも分かる一同だった。

 仕方のない事ではあるが、なるべくならそのまま旅に出たいですわねとシルヴィアは続けていった。


 街まで降りて来た一行は、そのまま馬車を街中に止める訳にも行かないので、城門近くにある厩舎に一旦止めて、ブリジットの店に向かうことにしたようだ。

 エステルにちょっと待っててねと撫でながら、イリス達はブリジットの元へ向かっていった。


 魔法道具屋前に訪れたイリスは、思わず懐かしいなぁと感慨にふけながらも店に入っていく。店内の何とも言えない雰囲気に飲まれるシルヴィアに、ネヴィアとヴァン。


「なん、ですの、このお店は……」

「……不思議なものが一杯ですね、姉様……」

「む、むぅ……。形容しがたい物で溢れているな……」


 苦笑いをしながらロットは、俺もそう思いますと小さめに答えていった。

 イリスとしては、楽しいものばかりが置いてある素敵なお店という認識なのだが、どうも仲間達にはあまり良く分からないようだった。


 店の奥からブリジットがやって来て、イリス達に挨拶を始めてく。


「やぁ、イリスちゃんいらっしゃい。仲間達の皆もいらっしゃーい」


 おやっと言葉にしながらブリジットは、姫様達に視線を向けて言葉にしていった。


「これは姫様達じゃありませんか。お久しぶりですね」

「お久しぶりです、ブリジット様」

「お久しぶりですわね。お店を持っているとは伺っていましたが、まさかこのお店だったとは……」


 どうやら二人はお城で何度か会った事があるらしい。

 その時は魔石の話を真面目にしていたブリジットだったので、あまりもに違う彼女の反応に、少々戸惑いを隠せないようだった。


 ブリジットはもう一人のお客様へと挨拶を始めてった。


「おや、君ははじめましての方だね。はじめまして。

 私はこの"すばらしき館"の店主、ブリジットです。よろしくねー」

「う、うむ。ヴァンだ。よろしく頼む……」


 完全に雰囲気に飲まれてしまっているヴァンだったが、ブリジットの勢いは止まる事無くイリスへと向かっていく。


「イリスちゃんありがとねー。こんなに大勢が来店したのは初めてだよ! あぁ! これぞお店よねー!」


 広いとは言えない店内で両手を広げ、片足を上げてくるくると回り出すブリジット。今度は眩しく光っては見えなかったようで、目を細めることは無かった。


 ブリジットが落ち着きを取り戻した頃、イリスは先日した話を始めていった。


「それでブリジットさん、白紙の本についてなんですが」

「うん。しっかりと用意してあるよー」


 そう言ってカウンターまで戻っていくブリジットは、近くに置いてあった本を取り出し、カウンターの上に本を置いていく。

 一同は本に近付きそれを眺めると、あの翻訳本に似ているようにも見えた。


 同じように本を見つめながら、ヴァンは冷静に分析していき、その言葉にイリスとロットが続いていった。


「ふむ。もしかしたら、あの翻訳本と同じ時代の物かもしれないな。レティシア様が作られたものだろうか?」

「どうでしょうね。レティシア様は真の言の葉ワーズ・オブ・トゥルースの練習をする為に翻訳本へかけた、とだけ仰っていましたし、別の方が作られたものかもしれませんよ」

「だとすると、同じ力を持つ者が作った、という事になるね」

「もしそうであるのなら、レティシア様の力を受け継いだ者が作り上げたもの、となりますわね」

「この本も解除出来そうですか? イリスちゃん」


 ネヴィアの言葉に本を眺めていたイリスは、問題なさそうですよと答えていく。

 どうやらこの本にも翻訳本と同じような細工がされているらしい。早速解除してみますねとのイリスの言葉に、ブリジットがわくわくした様子で言葉にしていった。


「とうとう"ハズカシ詩集(ポエム)"の全貌が明らかにっ!」

「……そういえば、そう仰っていたとイリスさんから聞いていましたが、本当にそう思っていらっしゃるのですか?」


 呆れたように半目になりながらブリジットを見つめたシルヴィアは聞いてみるも、勿論だよと勢い良く彼女に答えられてしまい、何も言えなくなってしまった。

 微妙な空気が流れる中、イリスは『それじゃあ解錠してみますね』と告げて意識を集中し、真の言の葉ワーズ・オブ・トゥルースを発動していった。


「"解錠(アンロック)"」


 あの時と同じように、黄蘗(きはだ)色の光に覆われていく白紙の本。

 次第に光が収まっていくと、おぉーという感嘆の声がブリジットからこぼれた。


「それが真の言の葉ワーズ・オブ・トゥルースなんだね。なるほど、言の葉(ワード)とは明らかに違う。

 それに優しい光だね。まるでイリスちゃんの心が溢れているみたいだよ」


 とても優しい表情でイリスを見つめるブリジットに、一同は目を丸くしてしまった。こんな表情も出来るのだと初めて知った彼らには、驚きが顔に出てしまうほどの事だったようだ。


 だがすぐに態度を戻したブリジットは、とても優しく彼女を見つめていたイリスに話しかけていく。


「それでそれで!? 何が書いてあるのかな!?」


 まるで新しい玩具を貰える子供のような瞳で、イリスに向かって言葉にするブリジットに、思わず落胆するようなため息が漏れてしまう仲間達だった。

 先程の表情はとても美しかったのに、どうにもこの人はそれを前面に出すことはしないらしい。そんな事を一同は思っていると、イリスが本の表紙を開けていった。


「これは……」


 ぱらぱらと静かに捲っていくイリスに、本の中身を覗いてみるシルヴィアたちは、書いてあるものを見つめて言葉にしていった。


「……これはまさか、古代語ですの?」

「ふむ。どうやらその通りのようだな」

「という事は、エデルベルグのもので間違いなさそうだね」

「で、ですが、この本はエルグス鉱山で見付かったものでは?」

「うん。そうだよ、ネヴィア様。この本はエルグス鉱山の奥地にある地面から掘り出したものだよ。確かにこの本は土をかぶって眠っていたもので、ほんのちょこっとだけ角を出していたから見付けられたんだ。まぁ見付けられたのも本当に偶然だったけどね」


 本だけにね、あははと笑い出すブリジットを、冷めた様子で見つめるシルヴィア。ロットとネヴィアは同じような顔で苦笑いをしていた。ヴァンに関してはあまり気にしない事にしたらしく、イリスに尋ねていった。


「この本の解読は可能なのか?」

「はい、可能です。読めるのは私だけになってしまうで心苦しいのですが、読むだけなら可能になります。翻訳となると、少々お時間が必要になりますが」

「イリスが読めるだけで十分だ。頼めるだろうか?」


 ヴァンの言葉に分かりましたと告げていくイリスは意識を集中し、真の言の葉ワーズ・オブ・トゥルースを使っていく。


「"解析(アナライズ)"」


 同じ様に本が光が収束した頃、イリスは書かれている内容を言葉にしていった。


「『どれほど君を想っているか、心の内を君に直接語る事は出来そうにないので、本に想いを記そうと思う。愛している。たったそれだけの言葉でさえも、今の私には言葉にする事が難しい。本当に情けなく思う。それでも言う事が出来なかった。あの出立の日でさえも。』」

「――ハズカシ詩集(ポエム)だ!」


 ぱぁっと物凄く目をきらきらと輝かせて、満面の笑みを露にしながら言葉にするブリジットに、もはや誰も突っ込めなくなってしまった。

 まさか本当にそんな内容だったとは思わなかった一同だったが、イリスだけは表情を変えずに本を見つめていた。


「……これ、は――」


 そう言いかけた時、本から黄蘗色の魔力が溢れ、イリスを覆い包んでいく。

 驚きのあまり叫び出すようにイリスへと言葉にする一同だったが、イリスの意識は本に吸い込まれるような感覚を受けながら、次第に仲間達の声が遠くなっていった。



   *  *   



 イリスが気が付くように意識を取り戻すと、そこは光溢れた空間にいるようだった。

 それはまるで、レティシアが作り出した世界に似ていたが、どこか違うと心のどこかでイリスには感じられるような場所だった。


 イリスは身体に変化がある事に気が付き、自身の両手を胸の高さにまで上げて調べるように見つめていく。身体が半透明に見える不思議な状態のようだ。触ろうとしても触る事が出来なかった。なのに身体が動かせるという不思議な感覚をイリスが感じていると、その世界に声が静かに響いてきた。


「君は、確か――」



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