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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第六章 託された知識
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"功績"


「"解錠(アンロック)"」


 イリスの言葉と共に、白紙の本が黄蘗(きはだ)色の光に溢れていき、少しずつ光が収まっていった。これで読めるようになった筈です。そう伝えたイリスの言葉を聞いたエリーザベトは白紙の本を広げてみると、そこには古代語と常用語で書かれた文字が、びっしりと書かれているようだった。

 思わず感嘆のため息を付くシルヴィアとネヴィア。

 他の者は瞳を見開きながら本を見つめていた。


 冷静に読み進めるエリーザベト。

 この本は最初にまず文字の読み方から入り、続けてある程度の単語と文法が記され、それ以降は辞書のように文字を翻訳していったものが続いていた。

 軽くぱらぱらとページを捲るエリーザベトだったが、そこに書かれている内容であれば、大凡の事が分かると言った言葉通りの様だと判断し、言葉にしていった。


「この翻訳本だけで大凡読めるようになると、レティシア様が仰っていた通りのようですね。これだけの内容があれば、かなりの解読が期待出来そうです。早速この後、この本を複製させて解読に移りたいと思います」

「所謂"封印"がされていたものですよね? 複製魔法にも制限がかけられてしまうのでは?」


 ネヴィアの言葉に頷いてしまうロットとヴァンだったが、イリスが見た所では、そういったものではないと伝えていく。


「この本にかけられたものは、あくまで白紙の状態にして読めなくする為のもののようですから、複製は自由に出来ると思いますよ。もし複製出来なければ、真の言の葉ワーズ・オブ・トゥルースを使いますので仰って下さい」


 この力は、大凡言の葉(ワード)として使っていたもの全てに応用が可能となる技術だ。魔力属性の違いはそれぞれにあるが、それ以外であれば大抵の事なら出来るようになるとイリスは説明していた。それもマナの消費を極端に抑えた上に、今現在で使われている言の葉(ワード)よりも遥かに向上させた魔法として発現させる事が出来る技術だ。

 これほどの力であれば、レティシアがイリスへと託して貰った時に言っていた言葉も頷けてしまう一同だった。


『何でも出来る』は流石に言い過ぎではあるが、それに近い事が言えてしまう技術となっている。これを悪用すれば大変な事になる為に、この力を手にしたイリスであっても、別の者へと知識を渡すことは出来ない。例えこの力を渡す事に制限が無かったとしても、まずはイリスのように"想いの力"を扱えるものでなければならないのだが。

 そして所謂"魔法国家の知識"もなければ、イリスと同じ言葉で詠唱したとしても発現する事は絶対にない。二重三重に張り巡らせた制限により、悪用される事は無くなっている。


 イリスの説明に驚きながら言葉にするシルヴィアと、それに続くネヴィアとエリーザベトだった。


「本当に凄い力ですわね」

「そうですね。レティシア様に認められた者しか、この能力を手にする事が出来ないと言われるのも理解出来ます」

「レティシア様は文字通り、イリスに知識を託して下さったのでしょう」


 そんなレティシアの気持ちをエリーザベトは理解出来た。

 イリスであれば間違いはないと思えるほどだ。寧ろこれ以上ないと言い切れるほどと、レティシアも思っていたのかもしれない。

 本当に不思議な魅力を持った子だと想いながら、エリーザベトはイリスを見つめていた。


 そんな事を思っているとイリスはエリーザベトへ、もうひとつ大切なことを話していった。真面目な話だったので、つい呼び名を正式なものへと変えてしまったが、とても残念そうにエリーザベトから言葉を返されてしまった。


「エリーザベト様」

「あら、お母さんとは呼んで下さらないのですか」


 そのとても寂しそうなエリーザベトの様子に申し訳なくなるも、そう仰って下さった事に嬉しさを感じるような不思議な気持ちになったイリスは、嬉しそうな表情を浮かべながらエリーザベトへ言い方を直し、改めて話しかけていった。


「お母さん。レティシア様から大切なお言葉を、お母さん宛てにお預かりしています」


 その言葉がもう既に驚くべき事だった。

 どんなに願ったとしても、会う事など決して出来ない過去の偉人から自分に宛てた言葉など、普通に生きていれば体験するなど思いすらしない事だ。

 ましてやそれが、自身が憧れ、崇拝と言えるほどに尊敬していた存在からだという事に、驚かぬ者などいないだろう。


 心臓が高まるエリーザベトは、気持ちを静めるように落ち着けていきながらイリスへと向き直り、その言葉をしっかりと聞いていく。


「『(わたし)の意志を受け継ぎ、守り通している貴女を、私は何よりも誇りに思います。

 そして今も尚、私の遺して来た言葉を守り続け、"所有者"の為に行動を示して下さった貴女と歴代のフィルベルグ王家に、心からの感謝を捧げます』」


 何と嬉しい言葉なのだろうか。

 あまりの嬉しさに涙が頬を伝うエリーザベト。

 それはまるで、心に染み入るような清水(きよみず)のような言葉だった。


「……あぁ……レティシア様……」


 思わず言葉を小さく口にするエリーザベト。

 その表情はとても優しく、何よりも美しかった。



 *  *   



 エリーザベトが落ち着きを取り戻した頃、イリス達の今後の予定を話し合っていった。


「私達の次の目的地はアルリオンですわよね? 乗合馬車で向かうのかしら?」


 シルヴィアの言葉にロットとヴァンが答えていく。


「そうだね。アルリオン行きの乗合馬車を探して乗った方が良いと思うよ」

「うむ。だが、アルリオン行きとなると遠出になる。準備も必要だし、馬車の方も週に一度しか出ていないぞ」


 ヴァンの言葉を返すようにエリーザベトが言葉にしていく。


「それについてはこちらで馬車を用意させて頂きます。準備も既に済ませてありますので、皆さんの出発に合わせてお渡し出来ると思います」


 その言葉に驚く三姉妹。

 尤もイリスだけは違う意味で驚いているようで、エリーザベトに言葉を返していった。


「ば、馬車って、流石にお高過ぎるんじゃ……」


 確かに馬車は一般人では手が出せないほど高い。

 だがイリスにはそれが当てはまらない。

 それは以前イリスに伝えていた事でもあった。

 それについての説明をエリーザベトはしていった。


「以前、白紙の本を提出して頂いた時にお話したように、この本に書かれている内容次第で褒賞金が変わります。そして調査隊でも発見出来なかったどころか、約八百年も手付かずだった歴史的文化遺産を見つけた功績の分もあります。

 ましてや白紙の本は、暗号化されたエデルベルグ王国の書籍を読むのに重要なもの。その価値と功績は計り知れぬほど大きく、今後詳細をロドルフとも話し合いの上、褒賞を与える事となります。これには流石に二、三日程度で決められる事ではありませんので、追ってギルドのイリス名義となっている口座に送る事になるでしょう。

 後は皆さんで話し合って、その使い道を決めて下さい」


 だが問題はそこではないとエリーザベトは続けていく。

 そもそもイリスの齎した功績はこんなものではない。

 どうにもこういった事には疎いと思われたイリスに、エリーザベトはしっかりと説明していった。その内容はイリスにとっては驚くべきものという表情を浮かべるが、仲間達は頷きながらエリーザベトの話を聞いていく。


「イリスが齎したエデルベルグの事を含む、レティシア様からのお話全てに価値があります。それも金銭などという無粋なものではとても言い表せないほどの功績となります。正直な所、これほどまでに重要な事を知りえるのは、今現在では不可能だと言い切れるでしょう。

 問題はその功績に見合った褒賞が、まるで思い付かないほど大きいものだという事です。あくまでこれは、レティシア様からお伺いした内容ではありますが、その裏付けと言えるものも、イリスが解除した白紙の本から読み解いていける事となるでしょう」


 これまでのイリスからの話と、彼女達が以前手に入れたものは、見当が付かないほどの偉業となってしまっている。未だ隠し部屋に仕舞われた本の内容は分からないので、それ次第で更に報奨金が上がっていくと思われるが、あの部屋は王族の、それも隠し部屋に仕舞われた書籍となる。そこに仕舞われているものが普通のものとはとても思えない。

 一体どれ程のことを成しているのかも、未だ見当が付かないと言わざるを得ないのが現状のようで、この話を執政官であるロドルフの耳に入れば、頭を抱えるほどの偉業となる事はまず間違いないだろう。


 今ひとつ理解していないと思われるイリスに、ルイーゼが分かり易く伝えていった。


「……要するに、イリスさんが齎した功績は、とんでもない偉業となってしまっている、という事ですよ」


 まぁ、馬車一台で済む様なお話でもありませんねと、ルイーゼは続けた。


 今回の件でイリスは、歴史的文化遺産のみならず、失われた王国を解き明かした者として後世に名を残す事になりそうだと、イリス以外の者は思っていた。

 稀代の薬師、愛の聖女、そして今回の件を含めると、完全に世界中へとその名が広まる事は確定してしまっているようだが、これについてイリスに伝えるとどんな影響が出るか分からないので、一同は黙っておく事にした。

 それこそイリスが卒倒してしまうかもしれないのだから。



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