"お薬"を作ってみよう
さて、ハーブの説明からしましょうかね。ハーブとは一口に言っても、それは千差万別よ。ラベンダー、セボリー、ローリエ、フェネルなんかでもハーブと呼ぶし、実際、効能が優れているものも多いわ。当然今あげたものは、お料理なんかで上手に使うことで良い効果を生み出すけれど、物によっては使い方を誤れば毒になる場合もあるわ。
つまり、やたらめったら材料を入れて新しいお薬を作っちゃだめよってことね。もし新しいお薬の調合をしようと思ったら、かならず効能を調べた上で少しずつ組み合わせて検証していくといいわ。
イリスは問題ないと思うけど、これを先に言わないと好き勝手しちゃう子がいるから一応知っておいてね。
そう言っておばあちゃんは苦笑いしてました。
「さて、前置きはこのくらいにして早速作ってみましょうか。作るものは自然回復薬・小よ。使う素材はこの『リラル草』と『水』。リラル草ひと株にお水1リットラが基本。ひと瓶50ミルリットラだから、これだけで大体20本の自然回復薬が作れるわ。
お水は1リットラだけど、薬草の方から薬効成分が含まれる水分が多く出る事と、火加減を上手に調節できれば少しあまる程度のお薬が出来るのよ。
このリラル草は魔法回復薬にも使われていて、ライフ、マナ、スタミナポーションの材料にもなっているわ。ここに特殊な薬草を混ぜることで魔法回復薬を作ることが出来るの。このリラル草自体にも回復効果があって、普通に食べるだけでも微量の回復効果が得られるわ。
それじゃあ調合してみるわね。まずはこれを―――」
そして説明した後、レスティは実践してみせる。それをしっかり見ながらイリスはメモを取りつつ学んでいく。
「―――と、いうわけよ。このやり方が伝わって数百年らしいけど、これが一番効率が良いお薬を作ることが出来る方法らしいわ。そして出来た液体の中にある薬草を綺麗な布で取り除きつつ、こっちの大きなガラス瓶に移して、水を入れたボウルの中に瓶を入れてそのまま冷ますの。そうすると―――」
少々時間を挟み液体が変化してきた。
「ほら、鮮やかな青色になったでしょ?これで薬は完成よ。後はこれをこの空瓶に移し替えて・・・栓をして、はい完成!」
「これが自然回復薬・小」
「そうよ、そしてこれが基本。まずはここから学んで新しい薬に挑戦していきましょうね。
それじゃあこれを作ってみましょうか。最初は失敗するかもしれないけど、お勉強なんだから失敗を恐れず作ってみて。わからないことがあれば途中で聞いていいからね?」
「はい!」
私はメモを見ながら、おばあちゃんのしていた工程を思い返す。うん、まずは確認してみよう。最初は材料の確認からだね。使う薬草はリラル草ひと株にお水1リットラ。お薬は1本50ミルリットラだから、一株でだいたい20本のお薬を作れるらしい。
火のかけ方でできる薬の量が足りなくなったりするらしいから、火加減は細心の注意が必要みたい。お水が蒸発しすぎて足りなくなると、有効成分の微妙な均衡が崩れて回復力が落ちてしまい、お店で売ることが出来ない粗悪品になってしまうそうです。
さて、それじゃあ作ってみましょうね。
材料は『リラル草』だ。少しツリフネソウに似てる。お薬に使うには最低でも20センルから40センルの大きさのものがいいらしく、30センルのリラル草が最適とされているそうです。それ以上でもそれ以下でも薬効成分が落ちるらしく、この草を使って作ることが出来るお薬全てに言える事なので覚えておいてね、とおばあちゃんは言ってました。
まずは下準備をしましょう。花・茎・葉・根の部分に分けて小皿に入れる。
まずは下処理。根の部分についている泥をよく水で洗い、水気をしっかりと切る。根を細かく刻み小皿へ戻す。包丁に付いた液体もしっかり小皿へ。そして綺麗な布で包丁に付いた液体をしっかり拭いて次の工程へ。
今度は茎だ。これも同じように刻み別の小皿へ入れた後、包丁も綺麗にして、と。次は葉っぱだね。これはすり鉢ですりつぶす。葉の部分に回復する成分が多く含まれるからで、これをすることで回復力が増すらしい。すりつぶした後小皿に入れる。
後は花だね。花の部分は回復効果を維持するのに必要な成分が含まれていて、入れるのは必須なのだけど、刻んだりすりつぶしたりするといけないらしい。そうしてしまうと花の中に含まれている成分が、回復効果の維持をできなくさせてしまうみたい。そうなってしまうと、お薬としては使えなくなってしまうそう。入れるのは最後の最後になるらしい。
逆に入れないと回復効果が短期間で消滅してしまうお薬が出来るそうです。すぐに飲むのであればそれでもいいらしいけれど、保存できないお薬はあまり良くないので、この方法は間違った方法とされています。
このまま自然回復薬を作っていくんだけど、魔法薬の工程とほぼ同じなので、本当に基礎なんだね。
準備完了なのでお薬を作ってみよう。材料を確認して間違えないようにメモを見直し集中。注意すべきは火加減、丁寧に、丁寧に。・・・よし!
火にかける前の鍋に根を投入。ひと煮立ちしたら一旦火からお鍋を離し、ひと呼吸置いてから茎を入れてそのまましばらく様子見。色が出てきたらそのまま葉っぱを入れておたまで静かにまぜまぜ。混ざりきったら今度は火にかけてぐつぐつさせる前に火から離し、少し間を空けた後お花を入れて、色が出てきたら完成、っと。
さて、しばらく時間が経つと色が・・出て来たね。そうしたら綺麗な布で草を取り除いて大き目の瓶に入れ、ボウルに入れた水で冷ませば・・・できた!鮮やかな青色!あれ?おばあちゃんのより明るい青、なのかな?まぁいいや、あとはこれを空瓶に移し替えて・・栓をすれば、できた!
見た目ばっちり!・・なのかな?うーん、やっぱりおばあちゃんのより明るい色になってる。まぁ、はじめて作ったにしてはいいんじゃないかなぁ、と思いながらおばあちゃんの方を見てみると目を丸くしてた。え・・何か失敗しちゃった?
「えっと・・でき・・・ました?・・・」
段々と声が小さくなった話し方でおばあちゃんに報告するも、おばあちゃんはまだ目を丸くしてる。しばらくそれが続き、はっとしたように我に返る。続いてテーブルに置いてある出来あがった瓶を手に持ち目を細めた。
「あれ?失敗しちゃった?」
そう聞くと、おばあちゃんはとんでもないわ、と言って言葉を続ける。
「誰でも最初に作る薬は大抵は失敗するもので、上手に作れたとしてもお店には出せない品質の悪いものが出来るの。それが普通なのだけれど、イリスが作ったものは完璧なものだったわ。下準備も手順も火加減も完璧ね。
なによりとても丁寧に作られているから、普段の性能よりも効果が高いものが出来ているわ。まさか一度見聞きしただけで高品質のお薬を作るなんて、今まで何人も教えてきたけどこんなことはじめてよ。びっくりしたわぁ」
イリスはお薬を作る才能があるのかもしれないわねと、優しい笑顔で頭を撫でてくれた。おばあちゃんに褒められるとすごく嬉しくなる。これからもがんばろう、と目を閉じ、微笑みながらイリスは思った。
「それじゃあ自然回復薬・中と大も教えちゃいましょうかね。基本は同じで水と他に入れるものがひとつ増えるだけだからきっとすぐ作れるようになるわ。使うのはこのレルの花の花の部分よ。自然回復薬・中ならひとつ、大なら3つのお花を、すりつぶしたリラル草の葉と一緒に入れるだけよ。そうすると回復効果が上昇したお薬が出来るの」
そう言って材料を持ってきて、さっきと同じように教えてくれる。レルの花はシロツメクサみたいな可愛らしい小さなお花だった。お花に力をちょっとだけ入れると、ぽろっと取れた不思議なお花だった。
私はメモに書き込みながら工程をしっかり見て覚え、同じように作る。自然回復薬・大は普通の品質が出来たけれど、これはこのままでもお店に並べられるくらいの完成度だそうです。普通の品質が出来た理由としては、お花の大きさがちょっと足りなかったみたい。この辺りは難しいところだね。自然回復薬・中はさっきほどの物じゃないけど、なかなかいいものが出来たみたいで、おばあちゃんはとても喜んでくれた。すごい子が来てくれたってきゃあきゃあ喜んでたなぁ。
私はそれを見てくすぐったく感じながらも、おばあちゃんが喜んでくれたことが何よりも嬉しくてたまらなかった。
* *
「それじゃあそろそろお夕食の準備をしましょうか」
「はいっ」
また一緒に食事の用意をして、一緒に食べる。一緒にお話して、一緒に食後のお茶を飲む。なんだかいいなぁ、こういうの。すごくあったかい。食後のお茶を飲みながらふと気になったことをおばあちゃんに聞いてみたくなった。
「そういえばおばあちゃん」
「ん?なぁに?」
「私が作ったお薬を見ただけで、どうやって品質までわかったの?」
「あぁ、それはね、『鑑定』っていう魔法を使ったのよ」
「鑑定、魔法?」
「そうよ。それを使うとその物がどんな効果を持っていて、どんな品質かがわかるようになる魔法なのよ。もっとも私の魔法ではお薬や薬草くらいしか鑑定は上手にできないのだけれどね」
そう言っておばあちゃんはうふふと笑ってた。
「魔法かぁ。私にも使えるようになるのかな?」
「属性次第ねぇ。イリスは自分の属性が何か知ってるかしら?」
「あ、ギルドで調べてもらったよ。私は風属性なんだって」
「風属性なのね。私はね、土属性なの。鑑定は土属性の魔法だから風属性のイリスには使えないわね」
そっかぁ、と落ち込む私におばあちゃんは、風属性には風属性のいい所があるから、図書館で魔法について調べてみるといいわと言ってくれた。図書館かぁ、そういえばギルドのシーナさんにも紹介されたっけ。魔法も使えるようになってみたいなぁ。
のんびりと二人でお茶を飲んでいたところ、そういえば!とおばあちゃんが立ち上がり2階へ上って行った。しばらくして戻ってきたその手には1冊の小さな本があった。
「こういうのがあったのをすっかり忘れてたわぁ」
そう言って本の説明をするレスティ。
「これはね、初心者向け魔法教則本よ。と、いうよりも、入門編?に当たるのかしら?」
「おぉー。それがあれば私でも魔法使えちゃったりできるかな?」
「・・・」
無言になるレスティ。どうしたのおばあちゃん?完全に固まってる。
「・・・んー。どうかしらね。先入観を与えないために、何も言わないでおくわ」
「?よくわからないけどわかったよ、おばあちゃん」
「あとでお部屋で読んでみてね」
「うんっ」
笑顔で返事はしたものの、その本のタイトルがちらっと見えてしまい、かなり不安になった。
『 おさる でも わかる よいこ の まほう 6さい~ 』
だいじょうぶだろうか、この本。・・・不安だ・・・。
夜の鐘が鳴り、そろそろお風呂にしましょうか、とレスティが言う。
「お風呂もらってもいいの?」
「もちろんよ。女の子なんですもの、毎日好きなだけ入ってね。使い方も教えるわね」
「うんっありがとうっ」
そのままダイニングから階段のほうに進み、上にあがらず真っ直ぐ進んだ先には、洗面台がある部屋だった。
「ここで服を脱いで、こっちがお風呂になってるわ」
扉を開けると結構広いお風呂場の中に白いバスタブがあった。壁にかかってるのは何だろう。
「お風呂場の扉の横にあるのが明かりの魔石になってるから、まずこれをつけて入ってね。そうそう、イリスはこれを見たことがあるかしら?」
そう言っておばあちゃんは壁にかかってる管みたいな物を手に取って私に見せた。
「なぁに、これ?」
「これはね、シャワーって言うのよ。下にある魔石を押すとここからちょうどいい温度のお湯が出てくるのよ」
そう言って使って見せてくれる。すごーい!ときゃっきゃしてしまった。実はこれ、すごい技術で貴族が持っているようなものらしいです。とても高価らしく、普通の人では手に入らないくらい高いそうです。おばあちゃんすごいっ。
「ここで身体と頭を洗って、シャワーで流すのよ」
こんなすごいの使ってもいいの?と聞いたら、家族が遠慮しちゃだめよ、と笑顔で言われた。すごくうれしいな。ありがとうおばあちゃん。
そのまま私はおばあちゃんに言われるまま先にお風呂をいただいた。すごく気持ちよかったよ、ありがとうおばあちゃん、と伝えるとまた笑顔で、湯冷めしないようにねと言ってくれた。新しい歯ブラシを貰い、歯を磨き、おばあちゃんにおやすみなさいを言って部屋に戻る・・・例の本を持って。
部屋に戻りベッドに座りながら本を読んでみる。子供向けの絵本で、魔法がどんなもので、どれくらい楽しいかを一文か二文ごとに絵を載せて書いている・・・らしい。
『 まほう を つかって みよう
きみ の からだ の なか に ある
もやもや してるの を ぐぐぐっ と してごらん
それ が まほう の こども だよ
ぐぐぐっ と した こども を ゆび に ぐーっ と あつめて ごらん
それ が まほう だよ――― 』
イリスは気がつくとベッドにうつ伏せになり、頭から煙が出てた。
「・・・意味がわからない・・・」
だめだこの本は、難易度が高すぎるっ
はぁっとため息をつくおさる以下の少女は、疲れた様子で眠りに就いた。