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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第六章 託された知識
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王国の"片隅"で

 

 遅めの昼食も終わり、夜用の果物の確保を済ませたイリス達は、王城にある下の庭の浅い森付近で、野営について学んでいった。


 エデルベルグ城から離れたこの下の庭は、魔物の存在が感じられるほどの近さであり、壁に守られた比較的安全な場所と言えるだろう。上空からスパロホゥクが襲って来ないかと心配するネヴィアだったが、スパロホゥクの索敵範囲では壁が死角となり、襲ってくる事はないとイリスは伝えた。


 ロットとヴァンにとってはとても安全な場所と認識しているが、初心者である三人には中々刺激的に思っているようだ。何とも初々しいと思ってしまう彼らだったが、まずはキャンプを張る事を優先していく。


 とはいえ、テントや馬車も無いため、雨が降って来た場合は技術だけ学んだら王城に非難する事になるのだが。強いて言えば、暖を取る為の焚き火を(おこ)した事くらいだろうか。後は口頭による説明や注意点をイリスは学んでいった。

 シルヴィアとネヴィアはエリーザベトとルイーゼに仕込まれたらしく、既に大凡の知識は持ち合わせているようだ。

 後は状況に合わせた使い方など、臨機応変をしなければならない事については、ロットとヴァンの二人に任せたそうだ。


 野営について学び終えた頃、辺りには夜の帳が降りていた。

 暖かな火を囲みながら、イリスはあの石碑で起こった事を話していった。


 石碑の世界の事、イリスの持っている力である"想いの力"、石碑の世界で出逢ったレティシアの事、この国が嘗て魔法国家と呼ばれた世界でも強大な国であった事、アルリオンの建国にレティシアも立ち会っていた事、殆どの魔法書を彼女が書いた事、Alice(アリス)の本や、その筆者にまつわる事。

 始めた会った時に彼女が名乗った名前と大切な人の事、フィルベルグ王家が使っているミドルネームの由来、そして魔法の事も。

 魔法とはどういうもので、言の葉(ワード)とはどういったものなのかを。


 そして魔法書に秘められた本当の存在理由と、何故そうなっていったのかという事。眷族と呼ばれるものの存在が、今とはまるで意味が違っていること。レティシアの世界に現れた眷族と、魔獣について。強大な魔力で攻撃され、世界屈指の魔法国家の街が一瞬で消されてしまった事実。眷族の攻撃による高濃度のマナにより大地が汚染されてしまったという事。

 レティシアの時代に存在していた本当の言の葉(ワード)と、真の言の葉ワーズ・オブ・トゥルースの事も。そして以前エデルベルグ城に訪れた際、王の寝室にあった隠し扉の先で見つけた白紙の本と、その内容についても。


 イリスは何ひとつ隠す事無く、仲間達に打ち明けていった。

 そして彼らもイリスの話に口を挟む事なく聞き入っていた。

 あまりの衝撃的な事に、思わず言葉を失っていたと言った方が正しいだろうか。


 この場所に来る前のイリスの言葉やその様子から、何かしらの事はあると思ってはいたが、まさかこれ程まで多くの情報が手に入るとは思っていなかった。それもまさか――。


「――まさか、建国の祖であられる、レティシア様がこの場所にいらしただなんて……」


 思わず呟くシルヴィアに、仲間達は言葉を続けていく。


「……そうですね。流石に母様もびっくりしますね……」

「エデルベルグ王国……。魔法国家……。建国の母が王妃になる筈だった国……」

「……ふむ。眷属についての情報が今とは違った、という所に驚きを隠せない」


 眷族と直接戦った二人には、確かに驚くべき事であった。

 だがそれは、レティシアの時代と今でその存在の呼び名が違っていたという事についてではない。一瞬で街を消滅させたという眷属の事でもなかった。


 二人はあの日、あの場所でそれを目撃してしまっている。

 戦友の身体を乗っ取たように思えたあの存在。形容しがたい何か(・・)のことだ。

 たった一度腕を振っただけで、凄まじい破壊力を見せ付けられた。

 それはまるで魂に刻み込まれたように、今でもその恐ろしさは鮮明に思い起こせるほどの衝撃的な事だった。


 あの件を知っているのは極々少数のみとなる。あの時作戦に参加していた討伐組と、両陛下、ルイーゼと冒険者ギルドマスターであるロナルドだけが知り得る情報だと思われた。それ以外の者には一切知らされていないはずだ。原因も分からず情報が広まれば、闇雲に恐怖を与えるだけとなるのだから。


 あれ程の力ですら、まだ彼女の時代に現れた眷族に遠く及ばないと断言出来る。

 現在は浅い森となっている場所一帯がその街並みがあった場所だと思われるが、その付近一帯を一瞬で、しかもたったの一撃で消し去ってしまったのが真実だとすれば、肌で感じたあの凄まじさですら霞むほど強大なものと思えた。

 それこそ人の手でどうこう出来るものではないと言い切れてしまうだろう。


 あの時の戦友は充填法(チャージ)を使えたが、完璧には使いこなせていなかったと、その力を手に入れた今の二人ならば言える事だった。それでもあれ程の威力を出してしまったと言う事実。不完全な力で、それこそ国ですら潰せるだけの力を出していた。


 仮にあの状態が彼らが戦っていた眷属と同じような存在で、更に強大な魔力を持ってしまったとしたら、それは考えるのも恐ろしい事態だと言い切れてしまう。

 だからこそレティシアは魔法書による制限をかけ、魔法と言われるもの自体を限りなく抑える事にしていった。彼女が生きていた時代の魔法は栄えていた。いや、栄え過ぎていたと言えるかもしれない。


 充填法(チャージ)など当たり前のように普及していた魔法世界。そこに現れた眷族。たった一撃で街すらをも滅ぼし、二十五万人もの犠牲者を出して終結した最悪の事件。

 イリスの話では、レティシア達の使った真の言の葉ワーズ・オブ・トゥルースと呼ばれる強大な力で、一応の収束を向かえる事が出来たようだ。


 そして眷属に続いてイリスが伝えた『眷族の攻撃による高濃度のマナ汚染』というものにも、二人には心当たりがあった。

 あの"薙ぎ払われた場所"は、一年半という月日が経っても、草すら生えていない事を二人は目視で確認している。その場の土を調べたが、乾燥したとても細かい砂のようなものに変わっていたという。作物が育つかという点についての詳細は分からないが、一年半も雑草どころか芽ですら生えないという事はそういう事なのだろう。


 ロットとヴァンは、あの日何が起こったかをイリス達に伝えていない。

 あまりの事でもあるし、何よりもイリスは子供だった。前向きに進み出した矢先に、そんな事を教える訳にもいかなかった。シルヴィアとネヴィアには話すべきと思ってはいたが、イリスと同じように前へと進み出してしまい、伝える事が出来なくなってしまっていた。


 ちらりとロットを見るヴァンだったが、どうやらロットも同じような事を考えていたようだ。これについてイリスに説明すべきか相当に悩んだ二人だったが、イリスが知った事実を聞いて、彼女は知るべき事だと判断したようだ。


 深く息をした後、ヴァンはあの日の事を話を切り出していった。


「イリス。話がある」

「ヴァンさん、俺から話させて下さい」


 ロットの言葉で止まったヴァンは彼を見ると、強い覚悟の表情をしていた。


「そうだったな。ロットは"兄"だったな」


 呟くようにロットへ言葉にするヴァンはロットに任せ、瞳を閉じて事の成り行きを見守っていく。

 ヴァンに感謝を述べたロットはイリスに向き直り、話し始めていった。


「イリス。俺たちがあの時、何を見たのか。眷属戦で起きた出来事を話そうと思うんだ」


 真剣な表情で言葉にしていくロット。あの時起こった事実を話していった。ありのまま正確に。その内容は、イリス達には思いもしない驚愕の出来事だった。

 説明し終えたロットは、あの時のイリスには伝える事が出来なかったんだと話した後、謝罪をしていった。


「とんでもないです。ありがとうございます。もしあの時、私が聞いていたら、卒倒していたかもしれません。それに、今だからこそ理解出来た気がします。眷族と呼ばれるものについて」


 その言葉に一同も何か感じるものがあった。

 レティシアの情報と合わせると、大凡の事ではあるが見えて来た。

 だがまだ情報が足りない。確かなものを得るには、他の石碑を巡って欲しいとレティシアに言われている事もイリスは伝えていった。


「……なるほど。では目的地も決まりましたわね」


 シルヴィアはどことなく楽しそうに言葉にしていった。

 それはまるで、とても大きくて大切な使命感のようなものを感じているようだ。



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