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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第六章 託された知識
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"報酬"

 

 提出した彼女達の書類を確認したシーナは、冒険者の説明をしていった。

 それはイリスがこの世界に始めて降り立ったあの日に説明されたものと同じ内容となるが、今度は正式な冒険者になるという事なので、制限されている仕事内容はあまりない。強いて言うのなら、護衛依頼などは経験と信頼を必要とする仕事となる為、新人であるイリス達がこういった仕事を受ける事が出来ない、というくらいだろう。

 後は討伐クエストでも受けることが出来るようになっている。既にホーンラビットを自身で仕留めているイリスであったが、実際に討伐依頼を受けての仕事は初めてとなる為、思わず身の引き締まる思いを感じていたようだ。


 シーナが一通り説明をし終えると、ロナルドがイリスに話していった。

 それは以前彼女がギルドに報告書と共に提出した薬の件となる。


「これはイリスさんが提出した報告書の報酬となる」


 そう言ったロナルドの後ろからシーナが持っていたものは、横幅三十センルほどの銀製のトレイに乗る、とても小さな袋だった。だがイリスにとっては既に立派な報酬を頂いているので、流石にこれ以上は受け取れないと、戸惑いながらもロナルドに言葉を返していった。


 その様子を見たロナルドは豪快に笑いながら、イリスへ説明を始めていく。


「そいつは王国側からの報酬だ。そしてこっちが冒険者ギルドの報酬になる。とは言っても、お前さんが報告して来た件の全てが検証出来た訳ではない。だが、ヘレル病治療薬が今現在も高品質で保たれている以上、他の薬にもその可能性は高まるだろう。まずはその検証を進めつつ、確認が取れ次第報酬を渡す形になる。

 よってこの報酬(こいつ)はそこまで大した額にはなっていないが、一般的な冒険者からすれば相当な額になるだろう」


 そういって渡された金額を、この場でイリスに確認させるロナルド。


 おずおずとその袋の中身を手のひらに乗せるイリス。

 どうやら硬貨が三枚枚だけ入っていたようで、ホッと安心する彼女は直ぐにその美しい加工が施された五センルほどの大きい硬貨を見つめていた。その硬貨を見たロットとヴァンは驚愕してしまっていた。イリスの後ろにいた彼らの様子に彼女が気付く事も無くロナルドへと言葉を口にするも、この硬貨が持つ価値を理解していない様子で目を丸くしてしまう王女達とルイーゼだった。


「わぁ。とても綺麗なものですね。何かの記念硬貨でしょうか?」


 硬貨の素材は白金プラチナだろうか。五センルもある大きな硬貨なだけに、持つとずしりと感じる重さがあった。硬貨の周りを上品な金で縁取り、白金プラチナを守るような加工がされたそれは、まるでイリスが着ている(ドレス)のような美しさを感じられた。細やかな細工もされたその硬貨の裏にはフィルベルグ王国の紋章が刻まれていて、これだけで十分に価値がある物に思える。

 恐らくこれには金銭的な使い道はなく、贈呈されるような硬貨なのだろうとイリスは思っていた。硬貨が三枚もある事には首を傾げてしまうが、何かしらの意味があるのかもしれない。


 そんな別の考えをし続けているイリスの様子に、思わずロットとネヴィア、シルヴィアとルイーゼは彼女の名前を裏返った声で聞き返してしまった。ヴァンは唖然とした表情でイリスを見つめ、シーナは『そうですよね、普通は知りませんよね』と言葉にし、ロナルドはにやにやと笑い、エリーザベトは表情こそ普段と変わらないものの、その面白い光景を目に焼き付けていった。


 思わずルイーゼが言葉にするが、やはり彼女を()ってしても何度か見たことがある程度の硬貨の様だった。それに続く様にロットとヴァンが言葉を続けていった。


「い、イリスさん……。こちらはですね、俗に"白金貨しろきんか"と呼ばれる物なのです。その価値はとても高く、一般的にはまず目にする事すらない特別な硬貨なのですよ」

「……この硬貨は貴族や大商人と呼ばれる人達しか扱わないと言われている物だよ。俺も使った事なんて無いよ」

「……俺も使った事が無い物だな。こんな所で白金貨を見るとは思わなかった……。それもまさか三枚も同時に見る事になるとは……」


 きょとんとするイリスだったが、その白金貨なるものをどこかで聞いたことがあった。そう、あれはエリー様に頂いた知識のひとつ、この世界の流通通貨の知識の中に含まれていたものだった。その価値は確か、鉄貨、 銅貨、 銀貨、大銀貨、小金貨と続き、以降は店番でも見た事が無い大金貨の更に上のお金……?小金貨が十万リルだから、百万……。


「…………いっせんまんリル?」

「そうなるな。ただ、白金貨三枚だから三千万リルになるが」


 にやにやしっぱなしのロナルドが告げた言葉に、イリスは取り乱す事がなかった。周囲が不思議に思いながら彼女を見ると、完全に無表情で凍り付いていた。イリスの名を呼びながら、かくかくと肩を揺するシルヴィアのお蔭で正気を取り戻したイリスは、ロナルドに言葉を返していく。


「こ、すご、たいき、うけ、にはい、ませんっ」


『こんなにも凄い大金を受け取る訳にはいきません』と言いたかったのだろう。

 完全に言葉になっていないイリスの言葉を大凡察したロナルドは、茶化すような事はやめて真面目な表情に戻りながらイリスに話していった。


「いや。お前さんの成した事はそれだけ凄い事なんだ。一般的にヘレル病はあまり知られていない病気ではあるが、とても恐ろしい症状が出る。お前さんならもう知っているだろう? この病気の治療薬は半年程度しか保存が利かない。重い症状が出るまでに個人差があり、専門的な知識が無ければ見分ける事も難しい。発症までに時間がある病気とされているが、放置すれば大変な事になる。

 それをお前さんは新薬を作り出すという光明を人々に(もたら)したんだ。当然これは一例に過ぎない。お前さんが提出した報告書にあったように、もしこれが聖域で作る事が出来る全てに関係する事であれば、文字通り世界を光で照らす事が出来るんだ。それは数々の病に対する特効薬となる。

 もしそうなれば、金銭などという無粋なものではなく、未来永劫にその名が刻まれる事になるだろう。お前さんの姉と同じく、そして違う形で世界を救う事になるんだ。それだけの事を自分が成したと自覚して、胸を張ってこの報酬を受け取って欲しい」


 ロナルドの言葉に、イリスはもう何も言えなかった。


 世界から病気を無くす事など、きっと誰にも出来ない。人は神ではないのだから。

 それでも治療薬を作る事は出来た。問題は薬の品質を維持する事が難しく、薬師であっても態々(わざわざ)作る事が無くなってしまっているというのが現状だ。保存が出来ない薬を作り続け、薬を常に保管し続けるのには限界がある。ましてや聖域までの道程(みちのり)には魔物が存在している。並みの薬師であれば戦う事など出来ず、冒険者に採取依頼をしなければならない。それをし続ける資金など並みの薬師には無い。

 だからこそ、この世界には怖い病気にかかって、そのまま亡くなってしまう人が沢山いる。それはとても悲しい事で、それはとても辛い事だ。大切な姉を亡くした今のイリスならそれが痛いほど良くわかる。あんな想いを世界にいる人たちは今も尚しているという事実。


 あの時はただアンジェリカのような子を作らない為に、という気持ちだけでイリスは試してみた事だが、それがまさかこんな事になるだなんて、聖域で治療薬を作った時には思いも寄らない事だった。


 そんなイリスが齎した可能性は、世界から病気を無くす事は出来ないが、それでも多くの人が笑顔に、そして幸せになれるだろう。それを成したイリスは自覚を持つべきだとロナルドは言う。それは以前、祖母レスティがイリスに教えた言葉に似ていた。


 ロナルドは尚も真面目な表情でイリスに話を続けていく。それを聞くイリスには、この報酬を受け取らない理由は思い当たらなくなっていた。


「金はあって困るものではない。必要になった時に使えばいい」

「……はい。分かりました。ありがとうございます」


 笑顔で受け取るイリスにロナルドは、白い歯を見せながら微笑んだ。




 白金貨とは日本円にすると約一千万円の価値があるコインとなります。


 白金貨しろきんかの初期設定では、素材は白金プラチナで出来ており、様々な細工が施され、硬貨の裏にはその国が発行した証拠となる王国の紋章などの刻印がされているものになります。

 当然使用すれば一千万リルの価値がある買い物が出来ますが、一般的にこれを使うことは出来ません。今回ロナルドさんがこれを渡したのは、悪戯目的としての意味合いがとても強いです。

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