たくさんの人に"愛されて"
びっくりしたぁ。今までこれほどびっくりした事ないくらいびっくりした。
まさか、いや、未だにそんな筈はって、ちょっと思ってる。あまり深く考えない方がいいのかもしれない。私もあんなにきれいなおばあちゃんになれるかな・・・。
「それじゃあご飯にしましょうか」
「そうですね、お腹ぺこぺこです」
「うふふ。昨日作ったスープもあるから暖めてくるわね。その間に手を・・・って、そうだったわね。イリスは魔石を知ってるかしら?」
「ませき、ですか?たしか魔力の籠められた石、でしたっけ。知識だけはあります」
「じゃあお台所に行きましょうか」
「はいっ」
うふふ元気ね、と笑うレスティに付いていくイリス。
「さて、ここにある蛇口に石がついてるのがわかるかしら?」
よく見ると蛇口の上に水色の結晶がついていた。これが魔石ですか?とレスティに聞くと、そうよと答えてくれた。
「ここに手を当てて水が出る想像をしてみて?」
言われるままに試してみると、水がじゃーっと勢いよく出てきた。これはすごい!
「止める時も同じようにさわって止まることを想像するのよ」
あ、ほんとだ。止まった。これが魔石かぁ。
「すごいですね、これ」
「うふふ、これは水の魔石を使ってるの。同じように火の魔石を使うことで火を熾すことが出来るから、それを使って料理をするのよ。後で案内するけどお風呂やお部屋の明かりにも魔石を使ってるの。便利でしょ?」
イリスはすごーい!と目を輝かせていて、そのあまりの可愛さにレスティはとても嬉しそうに微笑んでいる。こうやって火をかけて料理をするのよとイリスに見せると、その度に目をきらきらさせている。ついでに昨日作ったシチューも温める。
「それじゃあ手を洗ってテーブルで待っててくれる?スープを温めて何かを作ったら持っていくから」
そう言うとイリスは、お手伝いさせてくださいと言った。家事なら母に仕込まれているので、多少なりとも役に立つはずだ。
「そう?それじゃあそこにおいてあるお野菜を使ってサラダを作ってもらえるかしら?」
「わかりましたっ」
そういってイリスは手ごろな野菜を数種取り出し、水で洗う。魔石便利だなぁと思いつつ、ボウルに水を張り野菜を水につける。しばらく放置しその間にドレッシングを作ろう。
「オルレルネとリオネ・・じゃなかった、オリーブオイルとレモンはありますか?あと調味料もあるといいのですが」
「はいはい。これと、これね、あと調味料はこっちから塩・砂糖・胡椒になってるわ。こっちの瓶はお酢とワインになるわ。」
「ありがとうございます」と言いながら、オイルを受け取りレモンを絞る。小皿にオイルとレモン、塩胡椒を少々入れてまぜまぜ。できた。
あとは浸けておいたお野菜のボウルの中にある水を捨て、適度な大きさにちぎって、ボウルに戻す。
サラダとドレッシングの完成だ。このままテーブルへ持っていく。
「お皿とか出してもいいですか?」
「いいわよ、こっちにあるわ。あと下にスプーンとフォークがあるわ。」
「はーい」
ちょっと深いお皿を2枚とフォーク2つ、スプーン2つに小さめのスプーンをひとつ持ってテーブルへ行きフォークを並べ、ドレッシングのお皿にスプーンを入れる。
ちょうど並べ終えたところでレスティさんがスープの入ったお鍋を持ってきた。それを真ん中に置き一旦戻りパンの入ったバスケットを持ってくる。私もパンとスープ用のお皿ともう2枚のお皿を取りに戻り並べる。
「あら?お皿多くない?」
「良かったらこれもご一緒に食べませんか?」
と、サンドイッチを持ってきた。
「でもそれは女神様に頂いた大切なものだから、イリスが大切に食べた方がいいと思うわ」
「大切なものだからこそ、大切な人と半分こして食べたいんです」
笑顔で答えるイリスに涙が出そうになるレスティ。なんて嬉しいことを言ってくれるのかしら、この子は。
それじゃあ、といい台所に戻るレスティ。戻ってくると手には小さなお皿1枚と小さなフォーク2つ、もう片方の手には可愛らしいケーキを持っていた。フルーツがふんだんに乗っているケーキだ。とてもおいしそう。
「これはフィルベルグでいちばん有名なケーキ屋さんのフルーツケーキなの。すぐに売り切れちゃうくらいおいしいものだから、これも半分こして食べましょう」
「わぁ、おいしそう!きらきらフルーツが光ってて宝石みたい!」
うふふ、食後にね、と言いながら取り分けてフルーツのたくさん乗ってる方を私にくれた。ありがとうレスティさん。
スープとパンとサラダ、それにサンドイッチとケーキを半分こ。とっても豪勢なお昼ご飯になった。エリー様に頂いたサンドイッチはとっても美味しくってすぐ食べてしまった。ありがとうございます。
それにしても、とレスティは食後のケーキをお茶請けにお茶をイリスと飲みながら話しかけた。
「お料理上手なのね、お野菜はしゃきしゃきだったし、ドレッシングもおいしかったわ。お母様の教えかしら?」
「はい。まだお母さんにはとても敵わないですけど、ある程度は教わりました」
「すごいのねぇその年で。13だったわよね。私が13の時はひたすらハーブ植えてたわ」
そう言いながらうふふと笑ってた。どうやら調薬修練の為にハーブを植えては育て、引っこ抜いて調合して、を繰り返していた時期らしい。
「お母さんに家事全般は教わりましたので、お手伝いできると思います」
そう言ってとても可愛らしい笑顔を見せながらイリスは答えた。
食後休憩にと色んなおしゃべりをして、その中でレスティさんの事を少し知ることが出来ました。
レスティさんの娘さんが結婚をし、旦那さん似の銀色の髪のお孫さんが生まれたそうです。幸せいっぱいの暮らしで、お仕事も順調で、お孫さんはすくすくと育って。
だけど、お孫さんは亡くなってしまったそうです。ご両親と一緒にフィルベルグを目指す途中の乗合馬車で、凶悪な魔物に襲わてしまって。護衛の冒険者も乗っていたそうですが、残念ながら倒すことができず、王国からその魔物が討伐指定され、多くの犠牲を払いなんとか討伐できたそうです。
「娘達が亡くなったのは仕方ないと思ってるわ。もう大人だったし、世界は何が起こるかわからないから。でもね、孫はまだ12だったの。それがとても遣る瀬無くてね。もしかしたら何か出来たんじゃないかって、今でもそう思ってるの。
でも、人は無力だから、抗うこともできず、もやもやしたまま今をただただ生きていたのよ。まるで何も考えないように、ひたすらにお薬を作っていたの。
そんな時にイリスが来てくれたのよ。年齢も髪の色も似ていたから、まるであの子が帰って来たように思えてね。そんなはずないのに・・・。
でもね、あなたに孫が出来たみたいって喜んだのは、あなたが孫に似てたからじゃないのよ。話してみていい子だってわかったし、言いにくい秘密まで言ってくれた信頼感がとても嬉しかったの。
同時にこのまま放っておけないとも思ったし、ここに一緒に住めば、離れているご両親も安心すると思ったのよ」
「私は、たくさんのひとに愛されているんですね」
そういって両親のメッセージを伝えた。また涙が出てしまったけど、とても温かい涙だった。気が付くとレスティに抱きしめられていた。温かくて安心できて、とても幸せな気持ちになれた。
本当に素敵なご両親ね。だからイリスも、とってもまっすぐに育ったのね。そう言われて、もっと温かい気持ちになれた。
* *
「さて、それじゃあそろそろお店も開けましょうか」
「はい!おばあちゃん!」
イリスのその言葉にレスティは、とても嬉しそうに優しい笑顔で返してくれた。