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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第五章 天を衝く咆哮
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"未来の自分"を目指して

 

 後日、ルイーゼは"森の泉"へとやって来た。

 例のお願い(・・・)を説明されると、あらあらと頬に手を当てながら仕方なく報酬を受け取る事にしたレスティだった。ほっと安心したようにするルイーゼは、続けてイリスに数枚の紙を手渡し説明していった。


「イリスさん。この訓練メニューはイリスさんの為だけに用意したものですが、これを闇雲に訓練し続けることは止めた方がいいと思います。まずはなりたいものを決める必要があります」

「なりたいもの、ですか? 冒険者、という意味ではないのですよね?」


 思わずルイーゼに聞き返してしまったイリス。

 だがそれは、姉に言われた言葉と同じ事のように思えたイリスだった。


 ルイーゼはその言葉の意味をしっかりと説明していく。


「はい。なりたい職業が冒険者である事とは違います。それはどういった自分になりたいのかという意味です。冒険者に当て()めると、彼らにもそれぞれの役割があります。

 剣士(フェンサー)盾戦士(フェンダー)重戦士(ウォリア)重盾士(ガーダー)斥候(スカウト)魔術師(キャスター)、そして狩人(ハンター)

 他にも様々あると聞きますが、大きく分けるとこの役割に分類される事が多いようですね。この中から選ぶのもひとつの決め方だと思います。

 例えば剣士(フェンサー)であるのなら、剣を重視しての戦い方を学ぶ必要が出てきます。剣を振るだけで剣士(フェンサー)は務まりません。剣士(フェンサー)には剣士(フェンサー)の鍛え方があります。今渡した訓練メニューは基本的な身体能力を上げる為のものであり、それをしていけば剣が鍛えられるというものではありません。

 ですので、まずはどんな自分になりたいのかを決める必要が出てきます。十五歳に正式な冒険者登録をするという事ですので、正直なところ、なるべく早いうちにそれを決めて、訓練メニューとは別に鍛えていく必要があります。イリスさんはそれが決まったら、改めて私を訪ねて下さい。更に専門的な訓練メニューを考えます」


 後日で構いませんと言いかけたルイーゼに、イリスは即答で()って返していった。


「それならもう決めてあります」

「そうなのですか?」

「はい。私は――」


 そう言って自分のなりたいものをルイーゼに話していくイリス。


 それを聞いたルイーゼは思わず苦笑いをしてしまった。そんなことなど誰もしないことをイリスは望んでしまっていた。いや、誰もが一度は考え、思い焦がれ、挫折し現実を見つめ直して別の道へと進む。それほどのことだった。


 ルイーゼはイリスに聞き返してしまう。本当にその道でいいのかと。

 その問いにイリスは答えていった。


「私はもう我侭に生きる事に決めています。だから欲張りにもなろうと思いました。出来る出来ないではなく、そうありたいと願い、私はそれに真っ直ぐ進んで行きたいんです」


 イリスが願うそれは現実的には不可能なことだった。

 それでもイリスの意思はとても固いように思えたルイーゼは、その考えを否定する事無く、そうであればと話を続けていった。


「わかりました。その方針で訓練メニューを作ります。基本的にはその紙に書いてあるメニューをこなして下さい。それで身体的な能力は徐々に鍛え上げられるでしょう。

 ですが、以前も言いましたが、無理は絶対に禁物です。身体を鍛える事と身体をいじめることは別物ですから。

 寒くなって来たら、その紙に書いてあるように注意すべき点が増えていきますので、慎重に訓練をしていって下さい」

「はい! ありがとうございます!」

「身体作りも鍛えるのに重要な要素となります。食生活も気をつけて過ごすといいと思います。特にイリスさんはとても華奢ですから、いつも以上にしっかりと食べて、徐々に身体を作っていって下さい。食事量を含む詳細もそちらに書いてありますので、参考になさって下さい。

 恐らく今のイリスさんにとっては、物凄い量を食べなければならないと思われるでしょうが、身体を動かしていけば自然とその量を身体が欲するようになります。食べ過ぎは良くないですが、それでも今のイリスさんにとっては相当の量を食さねばならないと思われます。

 無理せずじっくり、ゆっくりと身体を作っていきましょう。何か質問などあれば、直ぐに王城の方まで訪ねて来て下さい」

「はい! 焦らず頑張っていきます!」


 そう言って笑顔で答えるイリスに微笑み返すルイーゼ。

 レスティはルイーゼの説明に心配となるも、イリスを応援して行こうと心に決めていた。


「それでは、イリスさんの目指すべき姿の為に育成メニューも考え、完成したら再びお持ちしますのでもう少々お待ち下さい」

「ありがとうございます! お手数をおかけしますが、よろしくお願いします」

「こちらも楽しみながら考えさせて頂いてますので、どうぞお気遣い無く」


 笑顔でそう言いながら、ルイーゼは"森の泉"を去っていった。



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