優しく輝く"月"の下で
その日の夜。
教会の裏手にひとつの影が現れた。
とある墓碑の前に辿り着いたその大柄な人物は、聊か乱暴に墓碑の前に座り、持っていた小さな袋から瓶と器を取り出していった。
ことんと置かれた二つの器に瓶の中身を注いでいき、手前にある器を手に取り、墓碑に置いたもうひとつの器にこつんと当てながら飲み干していく。
月明かりに照らされたその場所は不思議と不快なものでは一切なく、とても幻想的に辺りを映し出していた。
一気に飲み干した大柄な女性は、墓碑に向かって語りかけていく。
その声はとても静かで、優しく穏やかな声色だった。
「美味いだろ? アタシが一番だと思う物を持って来てやったんだ。大事に飲めよ?」
そう言いながら酒を注ぎ、今度はちびちびと飲んでいく。
この酒はとても透き通った味わいをしていて、まるで水のような清涼感を含みながら、それでいて後から来る辛味がその酒を更に引き立てていた。材料も水もこだわり抜いて作り上げられた、西方で作られる独自の酒だ。
器に波打つ酒が月明かりに照らされて、きらきらと宝石のように輝いていた。
大柄な女性は墓碑にぼやくように呟いていく。
「勝負しないで逝っちまいやがって、馬鹿野郎が。罰としてお前はそっちで独りでやってろ。当分アタシは逝かねぇから、ひたすらそっちで何十年も待ってろ」
乱暴な言葉とは裏腹に、彼女の声はとても優しく、そしてとても悲しそうだった。
その女性はゆっくりと星空を見上げ、小さく舌打ちをしながら言葉にしていった。
「……また雨が降って来ちまったじゃねぇか。雨女かよ」
どこまでも透き通るかのような秋の星空に、美しく輝く月が彩を添えていた。




