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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第二章 想いを新たに、世界へ
14/543

素敵な"出会い"と"お薬"と

 ギルドを出るとまた声をかけられた。


 「やぁ、また会ったねー」


 兎人(うさぎひと)のきれいなお姉さんだ。


 「あ。先ほどはありがとうございました」


 「無事辿り着けたみたいでよかったよ」


 「はい、まさかあんなに近かったとは思っても見ませんでした」


 「あはは、もうちょっとだったのにねー」


 「でもお姉さんに出会えたので良かったですよ」


 「そう言ってもらえると嬉しいよ。それじゃあまた何かあったら頼ってねー」


 「はい!ありがとうございますっ」


 そういってお姉さんはギルドに入っていった。やっぱり素敵なお姉さんだなぁ、お耳もまっさらもふもふで素敵だし。


 さて、それじゃあレスティさんのお店に行ってみましょう。右に進んで左側っと、ここかな?


 お店の右側に扉がついていて、それ以外はガラス張りで中が見えるようになってるお店だ。外に見えるようにお薬やハーブ、お花が飾ってある。って、お薬屋さんっぽくないなぁ。なんだか可愛いパン屋さんみたい。お店の看板は"森の泉"って書いてある。ここで間違いは無いんだけど、なんだろう、ほんとにお薬屋さんなんだろうか・・・。


 外から見た感じでは、店主さんは見えないみたい。ここにいても仕方ないので、お店に入ってみよう。ちょうどお客さんもいないみたいだし。


 扉を開けるとカランカランと可愛い音が鳴った。店内を見渡すとそこには誰もいなかった。レスティさんはどちらかな、レジの方にはいらっしゃらないので奥にいるのかなと思い声をかけてみる。


 「こんにちはー、どなたかいらっしゃいますか?」


 すると奥の方から美しく聞き取りやすい静かな声が聞こえてきた。20代くらいのお姉さんの声だ。


 「はーい。少々お待ちくださいな」


 しばらくすると奥から大荷物を抱えて女性がやってきた。顔が見えない、というより前も見えてないですよね、それだけ持っていると。


 「だ、大丈夫ですか?お手伝いしましょうか?」


 「いえいえ、大丈夫ですよ、お気になさらず」


 そう言って女性はレジの下に荷物を置いた。ふぅっと一呼吸置いてる。重そうでしたもんね、私には持てないほどの量でしたし。


 「すみません、お待たせしま―――」


 会話の途中で止まってしまった。あれ?私を見て驚いてる?子供っぽいからかな。それにしても綺麗な人だなぁ。白に近い金髪に薄い金の瞳の20代後半の女性で、背中の真ん中まであるふわふわのロングを、耳の後ろの辺りから銀のバレッタで留めている。



 「あの、大丈夫ですか?」


 あまりに固まる女性に根負けして話しかけるイリス。


 「っ!すみません、こんにちは。何か御用かしら?」


 はっと気づいたかのように女性は話を返してくれた。よかった、身体の不調とかじゃなくて。


 「はい。私は冒険者ギルドでお仕事の依頼を受けました、イリスと申します」


 そういって私はギルドで貰った依頼書を女性に見せる。


 「あらあらあら、お仕事依頼は出したけれど、まさかこんなに可愛らしい子が着ていただけるなんて。はじめまして、私がここの店主のレスティです」


 「イリスです。よろしくお願いいたします」


 頭を下げるイリスにレスティは笑いながら話しかける。


 「うふふ、そんな畏まらなくていいのよ。普段どおり接してもらえると嬉しいわ」


 「はいっ」


 「それじゃあ早速で悪いんだけど、お仕事についてお話しましょうか。イリスさんは文字の読み書きとか数字の計算はできるかしら?」


 「えと、どちらも大丈夫だと思います。・・・たぶん」


 「あらあら即戦力ね。それじゃあお薬の値段とか、メモの取り方とかそういったことをお勉強しましょうか。持っている荷物はとりあえずこの辺りに置いてくださいな」


 「はい!」


 「うふふ、元気ね、頼もしいわぁ」



 この世界のお金は様々な硬貨で取引されます。

 鉄貨、 銅貨、 銀貨、大銀貨、小金貨、大金貨、白金貨(しろきんか)です。


 通貨単位はリル。


 上記の通貨単位をリルに合わせると、

 鉄貨10リル、 銅貨100リル、 銀貨1000リル、大銀貨1万リル、

 小金貨10万リル、大金貨100万リル、白金貨1000万リル、となります。


 価値からわかるように、小金貨以上である大金貨から上の硬貨は、あまり見かけないそうです。お店側からしても大金貨なんて出されても、お釣りが足りないこともあるからあまり頻繁には使われないみたい。

 高額で取引される商品、例えば物凄い武具とか、豪華な装飾品とか、そういったものに大金貨は使われるそうです。


 その更に上に赤金貨(あかきんか)と呼ばれる赤い金貨があるらしいが、大商人や貴族が使うものなので一般的には出回っていないようです。なんでも一枚一枚に鋳造番号が記載されているらしいのだけれど、私が手に入れることはないだろうね。


 1520リルの支払いの時は銀貨1枚銅貨5枚、鉄貨2枚を支払う。

 もしくは、銀貨2枚にお釣りが銅貨4枚と鉄貨8枚お返し、ということです。


 ちなみに食べ物屋さんで定食を一食お願いすると、だいたい500~800リルくらいみたいです。



 レスティさんのお店で売っているポーションは以下の通り。 大きさは回復量だそうです。瓶の大きさ10センルくらいで、小も大も大きさは変わらないみたい。透明な瓶でそれぞれ綺麗な色をしている。後ろの数字はお値段だ。



 自然回復薬・小...200

 自然回復薬・中...500

 自然回復薬・大..1000


 ライフポーション・小.....1500

 ライフポーション・中.....2500

 ライフポーション・大.....5000


 マナポーション・小.......1500

 マナポーション・中.......2500

 マナポーション・大.......5000


 スタミナポーション・小...1500

 スタミナポーション・中...2500

 スタミナポーション・大...5000


 解毒剤...800

 ヤケドナオール.....800

 マヒナオール.......800

 ネムクナクナール...800

 キヲタモテール.....800

 チートマール.......800

 アタマヨクナール...800


 エイド...500



 さて、突っ込むところがあるんですけど、どうしようかな。突っ込むべきか、突っ込まざるべきか。うーむ。そう悩んでるとレスティさんが心配してくれたようだ。


 「くすくす、難しい顔してるわね、イリスさん。覚えるの大変そう?」


 「あ、いえ。えっとですね、ここにあるお薬の名前を決めたのってどなたなんでしょうか?」


 「うん?んー、いちばん最初に作った薬師らしいわよ。さすがにもう名前も伝えられてないくらい昔の事らしいけど」


 「そ、そうですか。(よかった、決めたのがレスティさんじゃなくて)」


 「ここにあるお薬はあまり売れないわね。よく売れるのがスタミナポーションね。これは用途が幅広くて人気商品なの。続けてライフポーション、マナポーションね。自然回復も結構売れるわね。効果は薄めだけど重宝されてるわ」


 その後、レスティさんがお薬の説明をしてくれた。


 ライフポーションは体力(ライフ)を回復させるお薬です。

 体力といっても活力や疲労みたいなものじゃなくて、傷や怪我に効くものらしいです。魔法でも回復できるらしいけど、扱える方が少ないという理由で、一般的な回復方法はこれになるらしいです。一番売れそうな印象のお薬なのに。

 文字通りの体力が回復するわけではないから、瀕死の人には効果がないみたいです。怪我は治るけど、そのまま帰らない人もいらっしゃるそうで、怪我の万能薬というものでもないみたい。


 マナポーションは魔力を回復するお薬です。正確には魔力ではなく、体内にある秘められた力である"マナ"を回復させるそうなのだが、私には正直よくわからないです。魔法の勉強もしてみたいね。


 スタミナポーションは疲労を回復させるお薬です。これを買っていく人は冒険者だけではなく、国内でお仕事をしてる人や、商人さんなども交易中に使っているお薬らしく、王国中の人がこのお薬を必要としてるみたいです。よく考えたら疲労をすぐに回復させるってすごいことだよね。とは言っても、精神的な疲労までは回復できないらしいから、お薬を飲みながらずっと作業し続けたりっていうのは無理みたいです。


 この3種が俗に"魔法薬"と呼ばれるお薬で、即時効果が出るすごいものらしいです。基本的に使用期限がなく、瓶から液体をお皿に取り出して長期間放置、なんてことをしなければずっと使えるそうです。


 自然回復薬も説明してくれた。どちらかと言えば冒険者よりも国内にいる人にかなり人気らしい。体力と疲労を回復してくれる複合薬なのだそうですが、でも回復はゆっくりなんですよね、とレスティさんに聞いたら、使い方次第なのよと教えてくれた。


 「たとえば明日忙しい人が前日の寝る前に飲むと、朝には元気になってるのよ。私も結構重宝してるわ」


 「なるほど。使い方しだいでお薬は変わっていくんですね」



 だけど、問題はこの先の、いえ、問題ではないのでしょうけれど・・・。



 解毒薬。これはそのままの通り毒を治療するものらしいのですけど、毒全般に効くわけでもないらしいです。これは主に、魔物の毒に多少効果があるみたいです。


 「毒カエルとか毒スライムとか、そういう特殊な魔物限定ね。しかも毒性の弱いものにしか効果がないから、正直こんなの使う人はあんまりいないのよねぇ。」


 などとレスティさんは頬に手を当てて言ってたけど、毒の魔物がいるだけで怖いんですけど・・・。


 「毒はとても奥が深いの。患者の症状を良く見た上で適切に処理しないと、効果がないどころか(かえ)って逆効果なのよ。だから"解毒薬"なんてものは毎回その人に合ったものを、その人の為にだけ処方しないといけないのよ」


 「レスティさんはそういったことにも詳しいんですか?」


 「・・・そうね。むかしは何にでも効く万能の解毒薬を作ろうとしたことがあったわ。でも・・・。」


 ほんの少し間が開いた後、レスティは話を続ける。


 「でも出来なくて諦めちゃったのよ。私には作れなかったから」


 と、とても寂しそうな顔をしてた。胸がずきんとして苦しくなってしまった。話を変えるように別の話を振る。


 「それで、えと、ここに置いてあるのは?」


 さて、本当の問題はここからだね。


 「こっちにあるのは身体の異常を治すナオール君ね」


 問題が増えました。


 「な、なおーるくん?ですか?」


 若干声が引きつってしまった。


 「うんうん。私はそう呼んでるのよ。みんなまとめてナオール君シリーズ」


 「このお薬は・・・」


 「そうね、火傷が治ったり、麻痺が治ったり。眠気が飛んだり、出血が止まったり、ね。でも売れないのよねぇ」


 そうレスティは頬に手を当てて残念そうに話した。


 これらの効果は中途半端らしい。大火傷になると完全に治るわけでもなく、麻痺はある程度自然治癒するまで痺れは残り、眠気も眠さが取れるほど効果が強くなく、出血は止まるけど傷は治らない、それならライフポーションがあるし、とのことだ。・・・なんだろう、これ。


 それならお値段もちょっと安くすれば売れるんじゃないですかと聞いたら、材料代が割りと高いのよねぇと苦笑いされた。レスティさんのお言葉をお借りして言うならば、ようするに微妙なお薬、なのだそうだ。世の中うまくいかないね。


 「このキヲタモテールってなんですか?」


 「これは要するに気付け薬ね。意識が飛びかけた時にぐびっと飲むと気を保てるお薬なの」


 ぐびってレスティさん・・・。


 「でも意識が飛びかけてるのにどうやって瓶を取り出して飲むのかしらねって所から、使いどころが難しい薬としても有名よ。仲間がいるならその人たちに起こしてもらえるから・・・って、これほんとになんなのかしら」


 なんですかそのお薬・・・。


 「このアタマヨクナールって言うのは?」


 だんだん頭いたくなってきたんですけど・・・。


 「あー、これはね。物忘れに効くとされているお薬ね。お年寄り向けなのかしら?別に飲んでも頭が良くなるわけではないのよ。というよりも、頭が悪い子は何を飲んだって治んないわよね。なんとかにつける薬なんてないもの」


 そう言ってレスティは口を手で隠しつつ、くすくすと笑い出す。


 「な、なるほど(笑いながら強烈なこと言ってる気がする)」


 どちらかと言えば、アタマヨクナールじゃなくてアタマサエールよね、とか言いながら笑ってた。


 後は最後のこれだね。


 「このエイドっていうのはなんですか?」


 「これはいわゆる消毒薬ね。傷をそれ以上悪くしないためにつけるものなんだけど、実際ライフポーションや回復魔法で代用できちゃうから、冒険者向きではないわね。冒険者以外がちょっとした傷や怪我に使うお薬ね。」


 このナオール君シリーズの中では、解毒薬がいちばん売れるらしい。効果は微妙だけど毒を浴びてしまうと、命には関わらないが体調が悪くなるので、そういう毒魔物がいる場所に行く冒険者が買っていくらしいです。



 これで一通りのお薬の説明は出来たかしらねとレスティが言ったところで、遠くからとても綺麗な鐘の音が聞こえてきた。


 カァーン・・・ カァーン・・・ カァーン・・・ 


 「鐘・・・ですか?」


 「あら?イリスさんは初めて聴いたのかしら?あれは正午の鐘よ。街の外れにある教会の鐘なの」


 フィルベルグでは早朝の鐘、朝の鐘、正午の鐘、昼の鐘、夕方の鐘、夜の鐘が鳴るらしい。目覚めの鐘とも呼ばれる早朝の鐘と共に起き、眠りの鐘とも呼ばれる夜の鐘を聴いて眠るらしい。

 時計と呼ばれる正確な時間を示すものもあるらしいのだが、王城や教会、大貴族、大商人と呼ばれる人たちくらいしか持ってないものらしい。なんでもものすごく高価なものなんだとか。



 「それじゃあきりもいい所だからお昼にしましょうか」


 「そういえばお腹ぺこぺこです」


 「うふふ、ちょっと待っててね、お店一旦閉めちゃうから」


 フィルベルグのお昼は食べ物屋さん以外はほとんど閉まっちゃうのが一般的みたいです。



 「さあさあ、お昼にしましょ。イリスさんは何かお昼は持ってるかしら?」


 「はい。保存食がひとつ」


 「あらあら、それじゃ寂しいわね。用意するからご一緒しましょ?」


 「わぁ、いいんですか?」


 「もちろんよ。ふたりで食べた方がご飯も美味しいでしょ?」


 「それじゃあ遠慮なく、と言いたいのですが・・・この戴いた保存食も食べたいんです」


 そういって頂いたサンドイッチを取り出すが、それを見たレスティは首をかしげた。


 「保存食?じゃ、ないわよね、それ」


 「え、そうなんですか?戴いたときにそう伺ったのですが」


 ふむ。とレスティは考え込み言葉を放つ。


 「イリスさんはラーネ村から来たのかしら?教会の鐘も聴いた事ないみたいだし」


 「ラーネ村?ですか?」


 ちがうみたいね、とレスティは思う。だとするとおかしい。王都で保存に適さない食事をそう言われて渡されるとも思えない。普通は村から来た、というのが自然なのだけれど、こんな立派なサンドイッチがあるとも思えない。特にラーネ村は質素だし、こんなふんだんに野菜を入れることもお肉を入れることもない。豪華すぎる。


 ラーネ村なら1日でここまで来る事ができるけど、それより遠い村はここから3日はかかる。だとすると新鮮な状態で持ち込むことは出来ないはずなのだけど。


 「イリスさんは何処のご出身なのかしら?」


 と興味本位でレスティは聞いたのだが、イリスはちょっと困ってしまう。どう説明したらよいのやら。


 「興味本位だから無理に言わなくていいわよ」


 と微笑むレスティに罪悪感を感じてしまうイリス。まるで嘘をついてる時のように胸がずきんとした。やっぱり嘘自体つくのが辛いし、レスティさんに話してもきっと悪いようにはならない気がする。会ったばかりだけど、これだけ話せばいい人なのもわかるし、何よりレスティさんに嘘をつきたくない。


 「えっと、信じてもらえるか、わからないんですけど」


 私は今までの経緯を話す。別の世界から来たこと、なぜ別の世界からここに来たのか、女神様達との話。そしてフィルベルグ近くの草原に降り、この街へ向かったこと、ギルドに登録した時にレスティに辿り着いた経緯まで。

 そして最後に『嘘をつきたくなかったので』と静かに締めた。


 レスティはまっすぐ私を見ながら、口を挟まず聞いてくれた。ずいぶん長い間沈黙が続いたように思える。痺れを切らしたように私は話し出す。


 「・・・やっぱり信じられませんよね、あはは」


 と苦笑いしていると、レスティはそうねぇと言って、しばらく間が開いたあとイリスに言った。



 「まさかこの世界を創ったのが女神アルウェナではなく、別の女神だったなんてねぇ」


 「え!?そこですかっ!?」


 「だって衝撃的だったんだもの。女神エリエスフィーナという名前も聞いた事がないし、この年になってもまだまだ知らないことが多いのねぇ」


 と、ちょっと間の抜けた答えが返ってきた。


 「えと、もうちょっと不思議なことがあったと思うんですけど、別の世界とか・・・」


 若干引いてるイリスは確認するようにレスティに聞くが、当のレスティは『まぁ女神様のすることだからねぇ、私にわからない事なんていっぱいあると思うわぁ』などと言っていた。うーむ、よくわからないけど、信じてもらえたって事なのかな?


 「それにイリスさんが嘘を言ってるようには思えないし、何より嘘をつきたくないからお話してくれたんでしょう?」


 「はい・・・」


 「なら私としては、そこまで信頼してくれたイリスさんを疑ったりしないわよ」


 と、くすくす笑って言った。すごく嬉しい。


 だがレスティは、でも、と挟み、あまり人には言わないほうが良いわね、と言ってくれた。


 「まぁ説明するのも大変だから、というのも入ってるわよね」と、またくすくす笑ってた。


 「はい。ありがとうございます」



 「この世界に着たばかりという事は、もしかして泊まる場所とかも見つけてないのかしら?」


 「はい。そうなります。街に宿屋さんを2軒ほど見つけたのでどっちかに泊まろうと思ってます」


 と笑顔で語るイリスに苦笑いしながらレスティは言う。


 「宿屋って結構高いわよ?ここは王都だし、安くても1泊3千リルくらいするわよ?城門近くの宿屋なら8千リル、王城近くだと1万リル以上はすると思うわ」


 えっ、と青ざめるイリスにレスティは、ぱぁっと明るい顔をした。


 「ならうちにいらっしゃいな。そうよ!それがいいわ!幸いお部屋も空いてるし、お仕事したお金のほとんどを宿屋に使うなんてもったいないわ」


 「え!?でも、ご迷惑じゃ・・・。」


 流石にそこまでお世話になれないですとレスティに告げるが、レスティの中ではもう決めているらしい。


 「いいのいいの。どうせ独りで寂しかったんだし、イリスさんがいてくれた方がずっと楽しくて嬉しいわ。それにここでお仕事してくれるのでしょう?ならここで寝起きした方がずっと効率的よ」


 「い、いいのかな・・・そ、それじゃあ、お言葉に甘えまして」


 「もー、そんなこと言わなくていいの。これは私のためでもあるのよ?これでご飯も寂しくないわぁ」


 そう言ってレスティは喜んでた。心から喜んでるように見えて、それを見たイリスはとても嬉しくなった。



 「一緒のおうちに住んで、一緒にお仕事して、一緒にご飯食べるって事は、もう家族も同然よね。やったわぁ、孫が出来たみたい!私のことはおばあちゃんって呼んでね?私は呼び捨てで読んでもいいかしら?」


 ・・・ん?何かすごいことを聞いた気がする?・・・今なんて?


 「呼び捨てはぜんぜん構わないんですけど、いえ、むしろ嬉しいですけど」


 「そう!それじゃあこれからイリスって呼ぶわね。よろしくねイリス」


 「はい!よろしくお願いします!・・・えと、気になったことがあるんですけど良いですか?」


 「はいはい、何かしらイリス?」


 「えっと、レスティさんの呼び名なんですけど」


 「ん?おばあちゃん?呼ぶの嫌?」


 寂しそうに言うレスティ。


 「いえ!そうではなくて!レスティさんお若いじゃないですか!どう見ても20代のお姉さんをおばあちゃんとか呼べませんよ」


 それを聞いてきょとんとするレスティ。しばしその状態が続き、今度はあらあらうふふと笑い出した。


 「私は今年62歳になるおばあちゃんよ?20代のお姉さんに見えるとか、嬉しいこと言ってくれるわねぇイリスは」


 「・・・・・・え?いま、なんて言ったんですか?」


 「ん?20代のお姉さんに見えて嬉しい?」


 「い、いえ、その前の」


 「今年62歳になるおばあちゃん?」


 「・・・・・・」


 「?」


 固まるイリスに、頬に手を当てて首をかしげるレスティ。しばらくすると石化が解けたようにイリスは言葉を発した。



 「ええええええ!?」


 そして今、気がついた事がもう一つありました。私ってこんなに大きい声が出るんだね。


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