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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第五章 天を衝く咆哮
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"確固たる意志"


 ローレン司祭と別れたイリスは、そのまま王城へと向かって行った。


 お城にある下の庭の入り口にいる兵士達に挨拶をして、通る許可を確認するイリスだったが、シルヴィアとネヴィアの友人であり、女王国王両陛下と顔見知りであり、更には愛の聖女であり、この世界を救ったと言われているお方の妹君であるといった事から、もはや王城でイリスを知らぬ者はいなくなっているそうだ。

 王国内であってもほぼ全ての人が、その名を聞いたことがあるのではと兵士に言われ、イリスは思わず苦笑いをしてしまった。

 本人のあずかり知らぬ所で一人歩きどころか、勝手に走り出してしまっているイリスの名声に笑顔が引き()ってしまった。


 どうやらイリスは、所謂顔パスというやつらしい。滅多な事がない限りは制限される事無く、王城へと行けるようになっているのだとか。イリスとしては、用事も無いのにお城に行ったりはしないと思うのだがと思いつつも、以前と同じ様に丁寧にお辞儀をして歩いて王城へと向かっていった。

 イリスは気が付いていない様子でそのまま庭へと進んで行ったが、残された兵士達には少々の変化が見られ、そのことについて二人で話し始めてしまっていた。


 相変わらずお城の庭はとても手入れが行き渡っていて、本当に美しい庭がどこまでも広がっていた。


 エントランスの扉まで来ると、そこにいた二人の兵士達が挨拶をしてくれた。


「これはイリスさん。ようこそおいで下さいました」

「今日も姫様達にお会いですね?」

「こんにちは。今日はシルヴィアさんとネヴィアさんではなく、騎士団長のルイーゼさんにお会いしたいのですが、お会いすることは出来ますか?」

「ルイーゼ様ですか? ルイーゼ様は現在、訓練場にて騎士達の訓練中と思われます。訓練場は城内ではなく一度戻って頂きまして、上の庭と下の庭の間にある中央をこちら側から見て左側にあります"騎士の宿舎"の裏手にあります。ただいま馬車をお呼び致しますので、少々お待ち頂けますか?」


 流石に馬車まで呼んで頂くと、申し訳が無いと思ってしまうイリス。

 やんわりとお断りをして、自身の足で向かう事にした。


「ありがとうございます。ですが、今回は私の個人的な用件でお会いさせて頂きたいので、私の足で向かわせて頂きます。ご配慮感謝致します」


 笑顔で答えるイリスに、思わずどきっとしてしまった兵士達。

 お辞儀を深々としてその場を後にするイリス。

 以前会った時の彼女とは全くの別人と思えるほどとても美しい女性に見えてしまい、思わず呆けてしまう兵士達。その後彼らは仲間内でイリスの話で持ちきりになったという。


 上の庭の入り口まで戻って来たイリスは、言われた通りに騎士の宿舎方面へと向かって行った。遠くから見ても大きいと思っていたが、目の前まで来ると更に凄く大きく(そび)え立っている建物に、思わず感嘆のため息をついてしまった。

 建物には入れないので、そのまま宿舎の裏手に回っていくと、とても開けた場所に出たようだ。そこはかなりの広さが あるその場所で、騎士達が素振りをしたり、走り込んだりといった訓練をしていた。


 ちょうど訓練場中央にルイーゼと思われる人物を発見するイリス。

 傍らには女王エリーザベトもいるようで、少々驚いてしまった。

 二人に向かって少しだけ歩みを進めると、すぐにエリーザベトに気付いて貰え、その場でイリスは深々とお辞儀をして二人の元へと歩いていった。


 近くまでイリスが来ると、ルイーゼが言葉をかけてくれた。


「こんにちは、イリスさん。こんな所で会えるなんて意外ですね」

「こんにちはルイーゼさん、エリーザベトさま」

「御機嫌よう、イリスさん」


 エリーザベトは微笑みながらイリスへと言葉を返していった。

 その表情には全く出ていないが、はっきりとイリスの変化に気が付いたようだ。

 ルイーゼにもそれは気が付いていたが、口に出す事は無く話を切り出していく。


「それで今日はどうされたのですか?」

「はい。実は少々お話があるのですが」


 そう言いかけて思わずエリーザベト様を見てしまった。

 女王陛下の手前、失礼に当たるのではないかと思ってしまったイリス。

 そして相も変わらず顔に出やすいらしく、容易にそれを感じ取ったエリザはイリスに言葉にしていった。


「私の事は構いませんよ。どうぞお気にならさずお話をして下さい」


 その言葉に申し訳なく思うもありがとうございますと伝え、イリスはルイーゼに真っ直ぐ向き直り、真面目な表情で目的である本題をルイーゼに話していった。


「唐突で申し訳ございませんが、もし宜しければ私を鍛えて頂きたいと思い、お願いに上がりました」

「ふふっ。そんなに畏まらなくていいのですよ? どうぞ普通になさって下さい」


 思わず苦笑いしてしまうルイーゼは、少々時間を空けて彼女に尋ね返していく。


「それで、何のために鍛えたいと思ったのですか?」

「強くなるためです」


 即答したイリスの表情は笑顔のままでありつつも、その瞳には確固たる決意を感じる、とても強い色をしていた。つい先日までのイリスを知っている二人は、思わず見蕩れてしまっていた。


 その辛さ、痛みから乗り越えたのは理解出来る。

 それはこの場にいるのだから疑いようも無いことだ。

 そうでなければ今も尚、伏していたであろうことは容易に想像がつく。

 それでもイリスは二人がとても驚くほどの成長振りを見せていた。


 並々ならぬ覚悟を感じたルイーゼはイリスの願いを聞き入れ、答えていった。


「分かりました。それならばまずは体力をつけるために走り込むことから始めていきましょう。走る前には必ず準備運動もしなければ怪我に繋がります。それを今お教えしますので、まずはそれを覚えて下さい」

「はい! よろしくお願いします!」


 しっかりと言葉を返したイリスにルイーゼは頼もしく思いながらも、身体を運動に慣らすための準備運動をイリスへと教えていった。まずはこれを教えなければ走り込む事も危ないと思われた。身体を鍛えるつもりが怪我をしては元も子もないのだから。


 イリスは一度教えただけで直ぐにそれを覚えてしまい、ルイーゼを驚かせた。

 もちろんこれは身体を鍛えるための準備運動であり、これをしたところで身体は強くなどならない。それでも簡単にとも思えるような速度で覚えられるとは、流石のルイーゼも思っていなかったようだ。

 呆けながら思考が止まってしまっていたルイーゼにエリーザベトが口を挟むと、はっと気が付いたように動き出し、言葉を続けていった。


「暫くは朝にこの準備運動をした後、一アワールほど走り込んで体力をつけて下さい。多少苦しくても続けること。でも、かなり苦しくなったら必ずやめて身体を休め、落ち着いてきたらまた走ることを繰り返してみて下さい。そして走り込みを終える時もこの運動をして筋肉をほぐして下さい」


 ですがと言葉を続けるルイーゼは、この先を必ず 伝えねばならない。

 そうしなければ、大きな怪我をする危険性が出てきてしまうのだから。


「無理は絶対にしてはいけません。身体をいじめることは鍛えることではありません。体力をつけることを優先に、でも怪我をしないことを最優先に考えて下さい。行き成り無理をしてはいけません。一朝一夕に手に入る力ではありませんから、焦らずじっくりと、長期的に鍛えて行く必要があります」


 丁寧に、そして親身に教えて下さったルイーゼに、感謝の言葉を述べていくイリス。いいのですよと返したルイーゼは、そんなイリスがどれほどの強さに辿り着けるのかがとても楽しみに思えてしまっていた。


 イリスは今まで見てきた騎士達とは全く違っていた。

 その姿もそうだが、 見た目ではなく、その中身に驚きを隠せなかった。

 以前"森の泉"で会った時には確実に持っていなかったものをルイーゼは感じていた。


 それは誰もが持っているようで、実は持っていないものだ。言葉にするのなら"確固たる意思"といったところだろうか。誰もが持っているように思えるが、それは『やる気』と言われるものだろう。そこに意思はあるが、彼女ほどの強い気持ちはそこにはない。

 自身が持つ目標の為に、前へと向かう揺るがぬ決意や明確な覚悟。そして曲げずに進みたいと強く願う意志。それはまるで光り輝いて見えてきそうなほど美しく気高いものであると、エリーザベトとルイーゼは思っていた。そして二人はまだ訓練すらしていないイリスに、思いを馳せずにはいられなかった。


 イリスはどれ程までの高みに行けるのだろうかと。


 やる気だけで、人はそれほど強くなることは出来ない。

 そこに才能と呼ばれるものがあったとしても、まだ足りない。

 明確に揺らぐ事無く、己の目標に突き進む事が出来る強い意志。

 これを持つ者と持たざる者とで、はっきりとした差として表れてしまう。

 それを彼女は確実に持っていると感じられた。

 いや、あの日以降に手に入れることが出来たのだろう。


 だからこそ二人は気付いてしまう。

 ミレイとはそれほどまでに大切な存在であったという事実に。


 イリスの成長を見守るのではなく、自身で鍛えて強くしてあげたいと思う一方で、それほどまでに大切な(かぞく)を失わせてしまった事に、どうしようもなく申し訳なさを感じながら、己の情けなさを恥じてしまう二人だった。


 首を傾げてしまうイリスに気が付き、ルイーゼは話を続けていった。


「近いうちにレスティさんに会いに"森の泉"に伺いますので、その時までにイリスさんに合った練習法を考えておきます」

「おばあちゃんにご用事ですか?」


 イリスの問いにルイーゼは返していくが、彼女はとても困ったような顔をしており、その表情を見たイリスはきょとんとしてしまっていた。


「今作戦の際に大量発注をさせて頂いたお薬の件なのですが、少々困った事になっておりまして……」


 そう言いながら言葉に詰まってしまったルイーゼ。

 言葉が出ない彼女に代わり、エリーザベトが続けて答えてくれた。


「此度の件でレスティさんは、王国からの報酬を一切受け取って下さらないのですよ。しかも薬代すら受け取って貰えていないという少々困った状況でして。

 レスティさんは『たまたま薬の在庫があっただけだから気にしないで欲しい』と仰ったそうなのですが、王国側としてはこれほど貢献して下さった方に褒賞を出せないとなると、少々問題になるのですよ」

「問題、ですか?」


 その言葉に考えが至らないイリスにはいまいち見当が付かない様子だ。

 それを察したようにイリスの疑問に答えたのはルイーゼの方だった。


「レスティさん程の貢献者に報酬を渡せないと、国の為に戦って下さった冒険者の皆さんや騎士、サポートとして加わって下さった方々や兵士達に、褒章を渡せないという事に繋がってしまうのですよ。

 正確には、それだけの貢献者が報酬を貰っていないのだから、自分達も貰う訳にはいかない、と思う者達が出て来てしまうのです。

 ですので、報酬を貰って下さるようにお願いをする為に伺おうと思っているんです」


 その答えに思わず苦笑いをしてしまうイリスだった。

 思いっきりアンジェリカとカーティアの時の自分のことを思い出してしまった。

 まさかこんな所で自分に跳ね返ってくるとは露ほどにも思わず、苦笑いしか出ないイリスに察したような二人は同じことを思っているようだ。


 珍しく言葉が漏れてしまったエリーザベトの声が、今も訓練に勤しんでいる騎士達がいる訓練場へと小さく響いていった。


「祖母も祖母なら孫も孫、といったところでしょうか」


 イリスは尚も苦笑いしか出なかった。




 今回、修正作業をしていて気が付いたのですが、何故かメモとして取って置いてあったお話の文章の中に、半角スペースが入り込んでいるようです。スペースを入れるのは一部ですし、ましてや半角にして使う事など滅多にないので本来であればありえないのですが、文章の全く使わない場所に置かれているという怪事件が発生しております。

 正直めっちゃ怖いです。ちみっちゃいゴブリンが明け方ぱそこんをつけてかたかたしてるというのでしょうかっ!? わたし、気になります! 悪い意味で!!

 なるべく見つけるようにして修正していきますが、何せ校正さんではありませんので修正しきれない場合もあると思います。申し訳ありませんが、見つけても見なかったことにしておいて下さい。

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