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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第五章 天を衝く咆哮
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"確信"が持てました

 

 ロットですら驚愕を隠せないその表情に、ミレイは彼のそういった一面を見ることが出来て少々面白く思えたのだが、あえてそれに触れず話を返していった。


「どういう事って、魔法だよ。リーサさん曰く、ブーストみたいなものらしいね」

「そうです。これは身体能力強化魔法(フィジカルブースト)の応用魔法です。いえ、これこそが本来の魔法の使い方であると確信が持てました。ミレイさんの持つ身体能力と合わせると、凄まじい効果を発揮する事が出来るようになるようです。

 (もっと)も、この能力がミレイさんにとても相性の良いものである事が、これだけの力を出している要因だと思われますが」


 淡々と述べるリーサに、思わず言葉を挿みたくなるロットであったが、そんな事はお構いなしに話を続けていくリーサ。どうやら普段の彼女よりもずっと気持ちが昂ぶっている様子だった。


「ミレイさんの本来持っている目にも留まらないほどの動きが出来る身体能力を、魔法による強化を行うことで、まさしく目にも映らない(・・・・)速度を出す事が出来たようです。速過ぎて扱いきれないかもと危惧していましたが、攻撃が出来るだけでも重畳なのでしょうね」


 しかしミレイは初級魔法すら扱えなかったというのに、行き成り強力な魔法が使えるとも思えなかったロットは、リーサに聞き返してしまった。


「ですが、ミレイは言の葉(ワード)一つの魔法ですら、しっかりとした威力が出ないと言っていました。それが行き成りこんな凄い魔法を使えるようになるのでしょうか」

「行き成りではありませんよ」


 即答してしまったリーサに目が点になるロット。

 これまた見た事ない貴重な瞬間と言わんばかりに、ミレイは記憶していった。


「……いいお土産が出来た」

「え?」


 思わず口に出てしまったミレイにロットが聞き返すが、何でもないと半目になりながら目を逸らし、ダガーの持っていない左手で口を隠してしまった。


 リーサは先程の言葉の続きを話していき、ミレイもそれに続けていった。


「行き成り強力な魔法が扱えるようになった訳ではありませんよ。ミレイさんは既にクロスボウでそれを証明して下さっていました。あれだけの技術を使いこなす事が出来るのなら、あとはその応用になります」

「最初はダガーに魔力を纏わせてみたんだよ。これは直ぐ出来たんだ。矢に纏わせる方法と同じだからね。でもこれだけじゃちょっと不安でね」


 そう言いながらミレイは説明していった。

 もちろん感覚的な話だから、正解かどうかは分からないけどと付け加えながら。


 ダガーに魔力を纏わせるのは簡単に出来るようになったが、マナの消費量がかなり増えたという問題が出たそうだ。鋼鉄の矢(ボルト)と違い、質量が多い物を纏わせるだけでも多くのマナが消費されるというのに、更にはその状態を維持するだけで、常にマナを消費し続けなければならなくなってしまった。流石にその状態では直ぐにマナが枯渇してしまうため、消費量の点で多用は出来ないという欠点があるらしい。

 但し、その威力は鋼鉄の矢(ボルト)の比じゃないほどに、強力になっている可能性が高いという。何故鋼鉄の矢(ボルト)と同じように扱えないのかはまだ理解出来ないのだが、それでもこの魔力を纏わせた短剣が、この戦いの切り札になるとリーサは断言した。


 地面で呻きを上げながら、今も尚起き上がる事が出来ない眷族を一瞥して、リーサは話を続けていった。


鋼鉄の矢(ボルト)は効率のいい使い方とは言えないかもしれません。一点に集中して貫いてしまう矢なのですから、あの眷属に対する効果はあまりないと言えるでしょう」


 それはあれだけ重傷と言えるだけの怪我を負いながらも尚立ち続ける姿が、まるでそれを証明しているかのように思えた。通常の生物であるならば、あれだけ傷を負わせれば確実に倒せていたはずだ。それこそ鋼鉄の矢(ボルト)の一発ですら耐えられるはずがない。


 なのにあれは、規格外だなどとすら呼べないほどの化け物だ。斬っても、刺しても、叩いても、貫いても、その効果はあまり得られていないように見える。何か必ず理由があると思っていたリーサだったが、その答えに辿り着いたのだという。


 彼女が放つ、恐ろしく、全身が戦慄する様な言葉に、一同は絶句してしまった。


「眷属が使っているのは身体能力強化魔法(フィジカルブースト)などではありません。

 ミレイさんが使って見せた、強化型(・・・)の魔法を使っています」


 眷属と相対した頃にそんな話を聞いていたら、恐らくここにいる誰もが信じられない事だったであろうが、今ならばそれを全て信じた上で納得させられてしまった。リーサの言葉が示し出してしまったものこそが、全ての辻褄を合わせている。

 眷属の持つ不死身とも言える強靭な肉体も、全く尽きる事がないような底なしの体力も、そして理不尽なまでの凄まじい突進力も。全てはその身に魔法を纏っていたからに他ならない。

 そう思える説得力を、限りなく答えとも思えてしまうような確証を、リーサが言い放った言葉がその全てを肯定させてしまった。そしてそれは、この場にいる者達の口を(つぐ)ませるのには十分過ぎる効果を(もたら)したようだ。


 更には尋常じゃないと思われるマナの総量から繰り出される強化魔法。

 これこそが不死身と思えるほどの眷族が持つ能力だと彼女は言った。


 言葉を発せられず、リーサの口説(くぜつ)をただ聞くことしか出来なかったヴィオラは、たどたどしくではあるがリーサに向けて質問していく。その彼女の表情は既に答えに辿り着いたように見え、ヴィオラの発した言葉には、そうであって欲しくないという希望が込められているように、この場にいる者達には聞こえてしまった。


 その問いにリーサは、はっきりとした口調でヴィオラに答えていく。ここで言葉を濁らす事など出来ない。それではただ不信感を与えるだけになってしまうのだから。


「……じゃ、じゃあ、なんだ……。アイツは、普通の攻撃じゃ、ダメージが通り難いって、そういう事に、なるのか……?」

「恐らくはそうだと推察します。眷属は強化型身体能力強化魔法(フィジカルブースト)を使っている為、その身体能力を超が付くほどの底上げ強化をしています。攻撃力、防御力、瞬発力、そして自然回復力の超強化がされていると推測します。そしてこれは、同質の魔法で強化をして攻撃をしなければ効果が薄いと思われます」


 これに関して一同は質問を出来ずにいた。既にロットがそれを証明してしまっている。ミレイの鋼鉄の矢(ボルト)は貫いてしまったため、また意味合いが変わってくる可能性があるが、ロットの攻撃は違う。あれは盾を強化しただけの攻撃に過ぎないだろう。それを受けた眷族は吹き飛び、のた打ち回っていた。

 つまりリーサの推察は大凡(おおよそ)当たっていると言えてしまう。魔法を纏わなければ攻撃してもあまり効果が見られないというのは、恐らく正しいことなのだろう。


 だが、それでもヴァンは聞き返してしまう。あれだけの攻撃を浴びせ、しっかりとダメージが通っていたようにも思えたからだ。現に瀕死と思われる状態にまで、眷族を追い詰めていたように見えた。その事をリーサへと尋ねていった。

 これがもし、効果があまり見られないというのならば、自分達がして来たものが水泡に帰してしまうような気がしてしまう。


 その事を聞かれたリーサは答えていった。


「ダメージが無い訳ではないでしょう。

 ですが、その傷は直ぐに回復されていた可能性が高いと思われます」


 その言葉にまた言葉を失う一同。

 思い当たる節がありすぎてしまっていた。

 あれだけの攻撃を浴びせても平然と立つ理由。

 足の腱を切っても、瀕死にまで追い込んでも立ち上がった理由。


 導き出される答えはひとつだろう。

 身体能力強化魔法(フィジカルブースト)による自然治癒力で傷を回復していたということだ。

 そして奴が扱っていたのは、更なる強化を施された魔法なのだという。

 だとすればその回復力は見当も付かないほど高められていた可能性が出てきた。


「眷属は相当の深手を負っているように見えていますが、その内部では急速に回復していた可能性が高いと言えるでしょう。恐らく今まで付けて来た傷の殆どは直ぐに回復していた為、不死身とも思えるほどに立ち上がって来たのでしょうね。

 表面上の傷を回復しないのか、それとも回復することが出来ないのかは分かりませんが、知能がある以上それも怪しくなってきます」


 リーサが放つその言葉の意味を理解出来ない者は、もうここにはいなかった。

 それは魔法を纏わなければ攻撃をしても効果が得られないと言う意味であり、そして今いる彼らのするべき事が無くなってしまうという意味にも繋がる事だった。

 更にはもう一つ、考えたくもない、考えれば腹立たしく思えてしまう可能性も出てきた。眷属がまるでダメージを受けていたように見せていた(・・・・・)可能性が。


 この考えに誰もが行き着くが、それを言葉にすることはなかった。

 言葉にしてしまえば、今にも飛び掛ってしまいそうな衝動に駆られてしまう。

 それは愚策としか言えない。彼女達は冷静に気持ちを押し殺していった。


 その自分も辿り着いた気持ちを察して、リーサはそれに触れずに話をしていく。

 彼女自身もそれを思うと、今すぐ意識がなくなるまであの眷属に向けて魔法を撃ち尽くしたくなるほどの怒りにも似た何かの感情に支配されてしまいそうになる。

 そんな気持ちを落ち着かせていきながら、リーサは冷静に言葉を続けていった。


「そしてロット君の盾のように魔力を纏った攻撃をすると、ダメージがしっかりと通るという事でしょう。纏った魔力同士が中和されるのか、それともその強化魔法を貫いてダメージを与えられているのか。

 恐らくは後者だと思われます。もし前者であるのなら、先に見せたミレイさんの鋼鉄の矢(ボルト)が弾かれる理由にはならないと思いますので」


 そしてリーサはミレイの鋼鉄の矢(ボルト)が意味する力も説明していった。

 あれは貫通力を特化した能力だと思われると。矢自体が小さく鋭い物であり、魔力を纏うことで更に硬さや鋭さを増していく。

 だがそれだけだ。その鋼鉄の矢(ボルト)は眷族の纏っていた強化型ブーストですら軽々と貫いたように見えたが、致命傷になる首を狙った時に弾かれてしまっている。


 強化型ブーストには通じないと既に証明されてしまった以上、あれは貫通力を特化した能力だと言わざるを得ない。

 これはつまり、先程リーサがいった仮説の後者に当たる事になる。

 同質の、より強い力で弾かれたという事だ。


 であれば話は早い。

 それについてリーサが説明をしていく。


「確実に眷族を仕留めるには、奴が持つ強化型ブーストを貫ける一撃を当てればいいのです。そこでミレイさんのダガーがその切り札となります。これに魔力を纏えば、その威力は鋼鉄の矢(ボルト)のそれを遥かに凌駕する一撃となるでしょう。常時マナを消費してしまう為に多用は出来ませんが、これを使うことで眷属の鉄壁と呼べるほどの強化型ブーストを、その装甲ごと貫くことが出来ます」



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