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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第五章 天を衝く咆哮
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"たった一発の攻撃"で

 

 ヴィオラ達が眷属を引き付けている間に、リーサは急いでミレイの安否確認へと向かっていく。

 ぴくりとも動かないミレイを見て、リーサは一気に血の気が引いてしまう。


「ミレイさん!」


 大きく声をかけるリーサだったが、ミレイの反応は全くなかった。

 状態を確認していくと、とても小さく呼吸をしているが、かなり弱々しい。

 今にも消えてしまいそうな、儚い炎のようにも見えてしまう。

 もう一度強めに呼びかけるが、同じく反応を示す事はなかった。


 リーサは急いでライフポーションを取り出して薬を口に含み、強引にミレイへと流し込んでいく。二度それを繰り返すとミレイに反応があった。


「ごほっ、ごほっ」

「ミレイさん! 薬飲めますか!?」


 ゆっくりと瞼を開けていくミレイはリーサに小さく頷き、ポーションの瓶を持とうと手を伸ばしていくが、震える手がそれを邪魔してしまっていた。

 リーサは薬の瓶をミレイの口元まで持っていき、少しずつ飲ませていった。


 何とかライフポーションを飲み切る事が出来たミレイに安堵して、リーサはもう一つの瓶を取り出していく。その様子にミレイは否定的な言い方をしてしまった。


「だ……めだ、それ……は、貴重な、物だから」

「だめです。飲んでください」


 ダメージが酷く、(まぶた)すらしっかりと開かないミレイは、リーサの強気の姿勢にほんの少しだけ苦笑いをしてしまう。

 その勢いに諦めたように、言われるままポーションを飲んでいくミレイ。


 薬を飲み切り、薬が効いて来た頃合を見計らってリーサがミレイに尋ねていく。

 その言葉は、いつもの優しさと落ち着きを取り戻しているようだ。


「どうですか? 動けますか?」

「ん。何か身体が言う事を聞いてくれない感じだね。ちょっと休まないとダメなのかな」


 この感覚を体験した事がないミレイにとっては少々不安に思ってしまうが、あれだけの衝撃を受けた事もないため、そんな事もあるのだろうと判断したようだ。


 正直なところ、あれほどの強烈な一撃を直撃したのに、もしもの事がなくて本気で安心したリーサであった。実際自分が受けていたら、まず助からなかっただろう事は想像に難くない。恐らく人種(ひとしゅ)よりも丈夫な獣人であった事が、命を繋ぎとめた一番の理由なのかもしれない。普通に会話することが出来るまで回復出来たミレイに、とても嬉しく思うリーサだった。

 それはリーサたちから少々離れながら防御に専念しているロットも同じであった。背中越しに安心しているのが不思議と手に取るようにわかったミレイは、ロットに心配かけてごめんねと伝えていく。


「いいんだ、無事ならそれで。本当に良かった」


 背中越しに語るロットにミレイは嬉しく思う。


 だが直ぐにミレイの異変に気が付く二人。

 ロットは眷属から目を話せないが、リーサはそれにはっきりと気づき、ミレイへと話しかけていく。


「ミレイさん、身体大丈夫ですか?」


 ライフポーション・大を二つ飲んでも回復しきれていない様子に驚くリーサ。

 普通であれば一本でも十分に回復する事が出来るはずだ。それを二本飲んでもまだ回復しきれない様子のミレイに、受けたダメージがどれだけ凄まじかったのか鳥肌が立ってしまう。


 本当に危ない状態だったようだ。

 しかし薬で強引に回復させたと言っても、この薬で体力までは回復しない。怪我が治るだけでもすごい事ではあるが、流石にミレイがこれ以上戦う事は難しそうに思える二人だった。


 このままリーサはミレイを置いて戦線に復帰する訳にはいかない。

 アルフレートの姿はもう見えない。既にあの少女を抱えて戦線を離脱して、安全圏まで少女を送り届けるはずだ。方角から察するとラーネ村とは逆になる。

 恐らくはここから近い聖域へと向かい、馬を使ってラーネ村へと向かうのだろう。運が良ければ少女を捜索している斥候(スカウト)達と合流出来るかもしれない。そうなれば遠回りをしてでも村まで少女を送り届けてくれるだろう。


「ロット君、私達はこのままここで待機します。ロット君は戦線に戻り、皆さんを助けて下さい」

「ですが……。いえ、俺に出来る事をします。ミレイをお願いします」

「はい。必ずお守りします」



 *  *   



「うおらああ!!」


 マリウスの大斧が眷属の背中を捕らえる。


「よくもミレイにそんなもんブチ当ててくれたな!!」


 吼えるラウルは怒りに任せて大槌を振り下ろしていく。

 その隙を狙ってブレンドンが右目を鋭く長槍で狙うも、弾き返されてしまった。


「ち! 忌々しい! いい加減当たれ!!」


 珍しく大声を上げるブレンドン。

 彼も仲間のあんな姿を見せられて黙っていられる程、冷静ではいられない様だ。

 時間差で左足を後ろから狙っていたヴァンは思い切り戦斧を振り被り、強烈な一撃を当てていった。深々と突き刺さる戦斧に思わず笑みが零れながらも、彼は静かに口を開いていった。


「これで、もう動けまい」


 眷族は大声を上げながら倒れ込むように地面につくが、すぐさま身体を一回転させながら起き上がってしまった。まるで何事も無かったかのように平然と立ち上がる眷族に、驚きを隠せず驚愕の顔を(あらわ)にしてしまうヴァンは、取り乱すように言葉にした。


「馬鹿な!? 確実に腱を切ったぞ!? なのに何故立てる!?」


 これは最早頑丈などと言うものを遥かに超えてしまっている。

 常識の範疇ですら大きく逸脱してしまうその姿に、本当に生物なのかとヴァンは呟いてしまった。その言葉を否定出来る者などもういないだろう。何故こんなものが存在するのか理解すら出来ない。


 だが、やるべきことは変わらない。

 驚きのあまり動けずにいた彼らの中で真っ先に反応したのはブレンドンだった。


 その鋭い一撃を例えるのなら、(いぶか)る気持ちすらをも貫く光のような線だった。軽々と眷属を貫く様子を見て、ブレンドンは一同へと向けて言葉にしていった。


「ダメージは通り易くなっている! 迷うな! 確実に勝てる!」


 その言葉に迷いを吹っ切る彼らは一斉に攻撃を繰り出していく。

 敵は既に深手だ。徐々に、だが確実にそのダメージは蓄積されていっている。

 ならばどこに躊躇う必要などあるというのだろうか。


 ラウルの大槌が眷属を腰を捉え、後ろ足を強引に地面へと付けていった。

 力の限りの攻撃を食らわせたため、地面に大きく亀裂が一気に広がる。

 眷属の正面にいたヴィオラが、がら空きの頭に目掛けて渾身の攻撃をしようと大剣を振り被っていく。


 その違和感に気づいたラウル叫んでいった。


「よせ!! 何か仕掛けてくるぞ!!」


 その言葉に警戒するヴィオラだったがその前にロットが颯爽と復帰していった。

 状況を把握するよりも、まずは目の前の動作に対処しなければならないと判断する。急ぎ盾を構え、眷族の攻撃に備えて待ち構えた。


 それは渾身の一撃と言える様な凄まじいものだった。


 ロットは防御するも、明らかに今までとは違う威力に一瞬で顔が歪んでしまう。

 防御しきれず後方に飛ばされ、ヴィオラごと転がっていった。

 ヴィオラはすかさずロットの状態を確認する。


「ロット!!」

「だ、大丈夫です。起きます」


 直ぐに起き上がる二人。

 だがその様子に言葉が出ない一同。

 ロットの左腕が下がり、盾が持ち上がらない様子だった。


「飲め!」


 栓を開けたポーションをロットへと手渡すヴィオラ。

 薬を受け取り飲み干すロットは、未だに戸惑いを隠せない表情をし続けている。

 ロットが防御に失敗したとも思えないが、あの攻撃は今までで一番鋭いものだった。地面に力を溜めるようにして踏ん張り、一気に力を解放するかのような大牙の一撃。


 ロットはそれに答えていった。


「魔法を纏った盾でなければ、腕が使えなくなっていたと思います」

纏った(・・・)盾で防御してその威力かよ。どんだけ攻撃力高いんだ、あの化け物は」


 冷たい汗が頬を伝うヴィオラ。

 だが冷静にそれを目の前で見ていたブレンドンが答えていく。


「奴は地面に後ろ足を静めるように踏ん張っていた。それが強烈な攻撃の合図だろう。今まで使えなかったのか、今まで使わなかったのかは分からんが、一度見せた以上そうそうは当たらない」


 確かにその通りだ。あんな攻撃など、普通に出しても二度と食らわないだろう。

 それだけ大きな予備動作があった。巨体である以上、更に見分け易くなる。


 だが、ヴィオラは全く違う事を考えていた。

 もし当たったのがロットでなければ、確実に瀕死にされていた事実に。

 もしも自分が当たっていたら、最悪死んでいた。それ程の威力だった。


「これだけダメージを重ねても、たった一発の攻撃でチャラかよ。理不尽過ぎんだろ」


 静かに語るヴィオラは言葉とは裏腹に、その事実に恐怖する事は無く、逆に心の奥底から怒りが込み上げていくのを感じていた。

 額に青筋がくっきりと現れ、その瞳には明確な殺意が灯っていく。


 その様子にロットが静かな声で話しかけていった。


「ヴィオラさん。落ち着いて下さい」


 ロットの言葉に、まるで意識を取り戻したかのように気が付くヴィオラは、次第に冷静さを取り戻していった。


「すまん、ロット。助かった」


 あのまま切り込んでいたら、冷静な判断など出来ずに手痛い目に遭っていた可能性が高い。そうやって冷静さを失った冒険者が切り込んで逆に魔物に狩られてしまう。そういう話を幾度となく聞いてきた彼女は、ロットのお蔭でかろうじて冷静さを取り戻す事が出来たが、あの状態のままだったら本当に危ない所だっただろう。

 どうもこの戦いは冷静さを失わずにはいられなく感じてしまうヴィオラだった。


 今までの冒険者人生で、ヴィオラはこういった感情にならなかった訳ではない。

 それでも腑に落ちない事だった。これ程の怒りを感じる事は今までなかった。

 口では荒い言葉を発してはいても、心の中では常に冷静に対処が出来ていた、はずだった。あまりの化け物を相手に、少々気が動転していて冷静に判断出来かねているのかもしれない。


 だが、何かが引っかかる。違和感のようなものを。

 まるで淀みのような異物が思考の中にあるのを感じる。


 だがそんな考えも、あれ(・・)はさせてくれないようだった。

 禍々しい瞳が彼らを睨みつけ、明確な殺意で以って飛びかかろうとしていた。



 *  *   



「……魔法って、何なんだろうね」

「え?」


 休息を取っているミレイはリーサへ呟くように尋ねてしまった。



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