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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第五章 天を衝く咆哮
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"異変"


 あれだけの力を発現させるのには、相当の鍛錬が必要だと誰もが察する事が出来る。リーサはその技術を、恐らくはミレイが戦闘に復帰してから学び出したと考えると、その修練時間が如何に短いかは想像に難くない。どれだけ必死だったのかなど、聞かなくても理解出来る事だ。そしてそれを彼女は為してしまった。


 それをしっかりと把握できたヴィオラは、リーサに言葉を続けていく。


「短時間でそれを会得してるアンタが(すげ)えよ」

「あの突進を耐え得るだけの防御魔法は持ち合わせていません。この技術が成功していなければ、私はここに出てくる資格すら無かったでしょう。それもまだ完璧に使いこなす事は出来ませんが、それでも戦力になるはずです」


 その頼もしい言葉に、思わずヴィオラの頬が緩んでしまった。


防御魔術師(ガードキャスター)リーサは今日で引退して、攻撃魔術師(アタックキャスター)リーサの誕生だな」

「また妙な呼び名を付けられてしまいましたね」


 苦笑いをするリーサだったが、その表情はどこか嬉しそうだった。


 彼女が限界を感じた理由の一つが、防御魔法しか使えないという事だった。

 意欲がなくなった理由もそこにある。こればかりはどうしようもない事と半ば諦めたが、彼女のお蔭で立ち上がる事が出来ただけでなく、更なる力を手に入れるまでに至れた。

 技術を手に入れたのはリーサ自身、だが、そこにヴィオラの言葉が無ければ辿り着く事は出来なかっただろう。


 本当にヴィオラには、感謝してもし尽くせない気持ちで一杯になってしまう。

 そんなリーサの想いを察してか、ヴィオラは話を変えるように彼らへも言葉を投げかけていった。


「お前等にも感謝するよ。ありがとな」


 滅多に口に出す事がないヴィオラの言葉に少々戸惑いを隠せなく、はにかみながらもそれに答えていった。


「僕もこのままではいられませんからね」

「このまま帰ったら最愛の妻(あいつ)に合わせる顔が無いからな」


 ドォンと凄い音を立てながら一気に距離を詰めてくる眷属。

 すぐさまロットが最前で身構え、突進に備えていく。

 眷属に新しい動きは見られない。つまりはそういう事だ。

 もうあれ(・・)にはロットを止めるだけの技がないのだろう。

 だからこそ、彼の盾を何度受けても彼の受け流しを回避出来ない。

 恐らく何が起きているのかも理解出来ていないのかもしれない。

 理解したとしても、それを返すには相当の技術が必要な事は見て取れる。

 幾ら知能があるとは言っても、それを理解し対処することなど出来ないだろう。


 盛大に転がされる眷属へ集中攻撃を仕掛けていく冒険者達。

 徐々に起き上がる速度も遅くなりつつある。動きも鈍ってきていた。

 底なしと思われた体力にも、流石に限界が見えてきたようだ。


 それを見逃す者などこの場にはいない。一気に次の手へと移っていく。

 間接、首、頭に攻撃を集中し、致命傷を与えられるかそれ(・・)の確認をしていった。

 全ての攻撃が通るようになり、攻撃をしながらも思わず口角を極端に上げてしまうヴィオラは言葉にしていった。


「ブースト切ったな! 猪!」


 その言葉を皮切りに勢い良く飛び出すヴァンとマリウス。眷属の背中に最大の攻撃を仕掛けていった。思いっきり踏ん張りながら戦斧を繰り出すヴァン。その力は凄まじく、踏みしめた地面をへこませるほどの腕力を込めた一撃を全力で振り下ろしていく。同時にマリウスが身体を回転させて遠心力を目一杯にかけ、全力で大斧を振り下ろしていった。


 凄まじい連撃に、眷属は悲鳴を上げながら顔を上げていく。その隙を見逃すはずも無い。力を溜めていたラウルが、全力で眷族の頭を粉砕するかのような凄まじい一撃を繰り出し、眷族の頭を地面へと叩きつけていった。逆側からブレンドンが全体重を乗せた強烈な突きを、ロットがそれに続いて攻撃をしていく。


 正面で待ち構えていたミレイが合図を送り、一斉に彼らは離れていった。

 最後と思われる鋼鉄の矢(ボルト)を確実な致命傷になる眷属の頭へと撃ち込んでいく。

 その衝撃に耐え切れず、爆発するように弾け飛ぶクロスボウ。

 だが矢は一直線に眷属を捕らえる角度で襲い掛かっていった。


 鋼鉄の矢(ボルト)は眷属の左牙を砕き、身体へと突き刺さっていく。


「こいつ!! 牙で強引に矢を逸らしやがった!!」


 眷属は鋼鉄の矢(ボルト)が当たる直前に顔の向きを変え、矢を牙に当てて逸らしてしまった。それを意図的にしたのか、それとも本能的に察知しての事なのかは分からないが、一つ言える事は左牙と身体に突き抜けると言う程度で済まされたという事だ。


 だがこの機会を逃すわけにはいかない。一斉に眷属へと攻撃を仕掛けていくも、攻撃を受けた瞬間に強靭な脚力で突進を繰り出し、それを回避していった。


「こっちの攻撃お構いなしで、突進を緊急回避に使ったのかよ!?」


 思わずラウルが叫んでしまう。

 これは知能と言うよりも本能なのだろう。

 全くもって忌々しい。致命傷になるはずだった矢を回避しただけでなく、こちらの攻撃も逃げられてしまった。


 だが、眷族の様子がおかしい。直立したまま止まっている。

 その様子は今まで見たことが無い仕草だった。


「なんだ? どこ向いて――!!」


 ヴィオラがそれに気が付いて絶句してしまった。

 一気に血の気が引いていきながらも、大声を上げてしまう。


「やばい!!」


 眷属が凝視していた先、三十メートラ程進んだ場所に横たえている一人の少女。

 いち早くミレイが駆け出すが、眷属も足に力を溜めていく。

 爆発音と共に少女へと凄まじい速度で襲い掛かる眷属。

 全力で駆けるミレイに冒険者の誰もが追いつく事は出来ない。


 ぎりぎりの所で少女の元へ辿り着いたミレイは少女を片腕で拾い、眷属の突進を避けようと動くが、既にそれは目の前へと到達していた。

 その姿を見たミレイは、咄嗟に少女を横へと放り投げた。


 突進を避けられないミレイは真後ろにある木へ叩きつけられ、木をへし折って吹き飛ばされていく。大きく何度も回転しながらもその勢いは止まらず、七メートラ先にあるミレイよりも大きい木に背中を激しく打ち当てる事で止まった。

 そのあまりの衝撃に、当たった木ですら傾かせるほどの威力があった。


 ぴくりとも動かないミレイ。

 緊急事態にヴィオラは叫んでいく。


「リーサ頼む!! ロット護衛を!! アルフはガキを!!」

「わかりました!!」

「はい!!」

「了解です!!」


 全員が一気に眷属へと迫り、ヴィオラ、ヴァン、ラウル、マリウスが鋭く攻撃を繰り出した。その隙にアルフレートが子供を担ぎ、安全と思われる場所まで退避していく。


 リーサはミレイの元まで全力で走り、ライフポーションを飲ませようとミレイの安否を確認していった。



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