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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第五章 天を衝く咆哮
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"教えた訳じゃねぇよ"

 

 強引に立ち上がろうとする眷族を真正面に捉えながら、ヴィオラは戻ってきた仲間へと向かって話をしていった。


「まぁ色々と挨拶もあるが、今はいい。仕切り直しと行こうぜ!」


 一同が高らかに答えていく。

 これで最初に戻る事が出来た。

 ここが、ここからが始まりになる。


 チームを再編成していく。

 前衛ヴィオラ、中衛アルフレート、中衛ミレイ。

 前衛ヴァン、中衛マリウス、中衛ブレンドン。

 前衛ロット、中衛ラウル、後衛リーサだ。


 アルフレート、マリウス、リーサの持っていたポーションを分け、戦っていた者達の疲労を回復する事が出来た。

 そして三人が戦線復帰してくれたお蔭で随分と士気も高まっていった。

 まだまだ戦える。いや、これならいける。勝てる要素がかなり増えて来た。


 準備を手短に済ませていった彼ら。

 さて、誰から先陣を切るかという中、一人の女性が高らかに宣言していった。

 今までの彼女からは想像も付かない好戦的な姿に一同は少々躊躇うも、しっかりと反応していく。どうやら彼女自身もかなり苛立たしい思いをしていたようだ。

 眷属へではなく自分自身にというところが、如何にも彼女らしさを出していた。


「シュート!! 水刃よ、出なさい!」


 一斉に直線上から離れる仲間達。眷属へと向けた鉄製の杖の先から鋭い水の刃が飛び出し、眷族の身体へと突き刺さっていく。その威力に目を丸くする一同だったが、すぐさま態勢を立て直して攻撃へと移っていった。

 美しく無駄の無い動きで大剣を操り、眷族の背中へ深々と切りつけ、時間差で長剣を突き刺し、短剣で追撃をする。戦斧を豪快に振り下ろし、その横へ身体を回転しながら大斧を強烈に斬り込み、合間を縫うように長槍で鋭く突き刺す。

 眷族の態勢が崩れ、横に倒れこんだ所で、現れた腹を剣で体重を乗せて斬り込み、その傷を広げるように大槌で打ち込んでいった。

 時間にすれば僅か五セカルドほどの事だった。


 起き上がった眷属は目前にいるヴァンへと突進をするが、軽く避けられ、その先にある木をへし折っていった。


 ここへ来て、彼らには一つ分かった事がある。

 それは眷属が放つ殺気に対しての耐性とも言える事だ。


 心が折れようと、挫けようと、その恐怖に怯えようと。

 一度それを乗り越えてしまいさえすれば、その殺気に耐える事が出来るようだ。

 それをミレイ、アルフレート、マリウス、リーサが証明していた。

 少々気合が乗り過ぎているとも思えるほど、士気が上がっている様にも見える。

 恐らくだが、一度でも眷属の放つその凄まじい殺気から解放されると、ラウルの時の様に苛立ちを覚えてしまうのかもしれない。


 推察するヴィオラにも心当たりがあった。一度眷属による攻撃を直に受けた彼女自身も、まるで怒りのような感情を抑えられなくなる気持ちになっていた。


 少々苛立っているリーサの気持ちを冷静に保たせようと、先程の魔法について彼女へと話しかけていくヴィオラ。


「それにしても、この土壇場でそれを使いこなすなんてな」

「使いこなしている訳ではないのですよ。恐らくこの方法では、言の葉(ワード)は一つまでしか扱えないでしょうし。今はこの杖に付いている魔石の力で威力も増幅されていますが、それもどこまで持つのか見当も付きません」


 リーサの所持している杖はミスリル製ではなく鉄製になっている。ミレイのクロスボウのように使用制限があるのかもしれないが、魔法に限ってはそうとも言えないのかもしれないとヴィオラは思っていた。

 武器に纏わせる技術と違い、魔法自体は杖が無くても使えるものだ。

 恐らくそれは纏わせた(・・・・)魔法でも同じことなのだろう。


 彼女自身も護身術程度の対応が出来るように、棒術や混術から派生した杖術(じょうじゅつ)と呼ばれるものを会得している。その為の鉄製の杖でもある。

 杖術は魔物を倒すための技術ではない。寧ろこの程度で魔物など倒しようがない。この技術は仲間が護りに来るまでの時間を稼ぐために使われる技術だ。


 物理で戦う魔術師(キャスター)などいない。だがそれは、魔物を物理で倒す魔術師(キャスター)などいないという意味であり、杖で戦えなければ一気に命の危険に脅かされる事になる。杖を振るって魔物と立ち回れない者は、初心者を抜け出す事など出来ない。

 当然のようにリーサも杖術を学び、自身を護れる位の技術は身に付けている。


 リーサが持つ杖には水属性魔法を上昇させる魔石の付呪がされている。その為の杖でもあるのだが、素材は鉄製である以上、魔法を纏わせて武器として攻撃をしてしまうと簡単に曲がってしまうだろう。


「今までの話を察するに、この攻撃方法の会得が勝利に必要だと判断しました」

「それで練習したのかよ。よく理解出来たな」

「ふふっ。ヴィオラさんが大きな声で教えて下さってましたからね」

「別に教えた訳じゃねぇよ。アタシの大声をアンタが拾っただけだ」


 素直じゃないですねと答えるリーサに短く『うるせえ』と彼女は答えていった。

 だがリーサの魔法は、ロットのように強力な力として扱える訳ではないらしい。

 威力もそこまで強くない。それは先程の攻撃でヴィオラも理解していた。

 恐らくロットの攻撃よりも少々強い程度だろう。


 ロットは盾を利き手に持ちながら戦う盾戦士(フェンダー)だ。

 そのスタイルは彼独自のものだ。利き手に盾を装備する者はまずいないだろう。

 それでは攻撃力がかなり落ちてしまうためだ。盾戦士(フェンダー)とはそこまで盾を重視しない。重盾士(ガーダー)であるのなら文字通りの命がけで護るが、彼は違う。そこには彼が得意としている盾術(じゅんじゅつ)と呼ばれる高等技術を使いながら戦う為に、利き手に盾を装備している独自のスタイルとなっている。そして彼のセンスと一流の技術により、魔物と盾で戦える特殊な盾戦士(フェンダー)として活躍している。


 防御力は絶大。

 しかし問題が無いわけではない。それは攻撃力の低さだ。

 一般的な冒険者と比べれば、ロットでも攻撃力は並以上だろう。

 それはここにいる冒険者の中でも、一番攻撃力が低いと言わざるを得ない。

 当然リーサは魔術師(キャスター)なので除外されるのだが。


 だがその不利を覆すだけの凄まじい技術を、ロットは身に付けてしまっている。

 それは初めて対峙した眷属戦における彼の活躍を見れば誰もが理解出来る。

 魔法で盾を覆いながら攻撃する方法だ。眷属戦でも顕著にそれが現れていた。

 眷属を盛大に転がし巨体をも返すその威力。魔法を纏った程度のものではない。

 これは魔法を纏った上に、相手の力を受け流しながら、自身の力をも追加させているものだからこそ可能になる技術だ。それはもはや、高等技術などとは呼べないほどの高みの技術だろう。言葉で表すならば『超高等技術』と言えるだろう。

 寧ろ刃物である剣、しかも魔法銀の剣(ミスリルソード)よりも攻撃力が高い盾、という事に疑問を持つべきだと言えた。


 常識ですら軽々と覆してしまう力。

 それこそが女王が秘匿していた技術なのだろう。



 

 5セカルドは約5秒くらいです。正確な時間の表現ではありません。

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