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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第五章 天を衝く咆哮
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耐えうる"武器"を


 あまりの事に驚くクラウスは目を丸くしてしまう。

 あれはそんな簡単に壊れるような代物ではない。

 その事には品質を確認した本人が一番理解している。

 生半可な力ではビクともしないほど立派な作りだった筈だ。

 それを壊したとなると、何か彼女以外の原因があったという事になる。それに気が付いたクラウスはミレイへ尋ねていく。あくまで一般論ではあるのだが。


「魔物の攻撃を受け止めたのですか?」


 そうでもしなければ新品の武器が、こんな短期間で壊れる事は考えられない。

 彼女ほどの実力があれば、そんな事は滅多に無い事だと言い切れるが、もしそれが正しいのであるのなら、それは彼女クラスの人物がそうせざるを得ない状況に追い込まれた、そう言い換える事も出来るだろう。それはそれで問題なのだが。


 真面目に推察しているクラウスに、おずおずとその手に持っていた包みをカウンターへと乗せるミレイ。その様子にきょとんとする彼はその包みを開けていくと、中にはバラバラになったクロスボウだった物があった。

 あまりの惨状に口を半開きで、そのクロスボウだったと思われる物を手にして確認するクラウス。言葉にならないとはこういう時に使う言葉なのだろうと、後のクラウスは師である父に語っていた。


 無言が続く異質なカウンターに、ミレイがごめんなさいと素直に謝っていった。

 だがクラウスの関心はもはや、武器を壊してしまった事ではなくなっている。

 どうすればこんな状況になるのかを必死に推察していたのだが、どう考えても彼の頭ではこうなる状況と言うものが、まるで見えて来なかった。


 一体どんなことをすればこうなるのかは理解出来ないが、どんな状況ならこうなるのかならクラウスには理解出来たようだ。ここでは他の客の目がある為、恐らく話し難い事だろうと判断した彼は、ミレイを第二鋳造室へと招いていく。


 ミレイを連れて来たこの場所は、王宮などからの大量発注の際にしか扱わない部屋で、普段は誰も入らない場所になっている。話をするにはとても良い場所だ。時たま父が昼寝をしている場所でもあるので、邪魔しないようにあまり立ち入らない事にしているが、今日はいないようで安心するクラウスだった。


 飲み物もお出し出来ず申し訳ありませんがと話を切り出しながら、詳しく詳細を聞いていこうとするクラウス。


「それで、一体どんな事にクロスボウを使ったんですか?」

「あはは、詳しくは言えないんだ」


 その言葉で何となく察したクラウス。ミレイが使ったと思われる力を言えないという事は、制限をかけられているという意味だろう。

 では誰に? それは容易に想像がつく。ミレイよりももっと上の者だ。恐らく冒険者ギルドマスター以上の存在だろう。となればひとつしかない。王城だ。そして王城でもそれだけの権限がある人物を、クラウスは四人しか知らない。女王エリーザベト、国王ロードグランツ、宰相ロドルフ、そして騎士団長のルイーゼだ。

 だが、今上げた者の後ろの二人はそういった事はしないだろう。導き出される答えはひとつ。両陛下だ。更に言うならば、恐らく国王はそういった事は言わないだろう。そういった御仁だ。若かりし頃、職は違えどお互いに駆け出しだった二人は、何度もこの店で会って話をしている。良く父に話ばかりしてんじゃねぇと怒られたものだ。

 ロードグランツはそのような事を言うとも思えなかった。ならば答えはたった一人に絞られる。女王陛下だ。そしてそれは女王陛下が口止めをするほどの内容なのだろうと、クラウスは至る事が出来た。ならばその力と思われるものについて聞く訳にも行かない。恐らく軽々しく聞いてはいけない事なのだろう。


 手に取った木材の欠片と金属を持ちながら確認していくが、やはり彼の思った通りの事だったようだ。


「やはりミレイさんの力に耐えられなかったように思えますね。素になっている木材はバラバラで、補強した金属は外れたようになっています。それも良く見るとどれもが(ひしゃ)げているようですね。凄まじい威力に耐えられなかったのでしょう。これならばナルア弓が壊れたと言う理由も納得出来ます」

「ほんとにごめんね、折角良い武器だったのに」


 そう言うミレイであったが、クラウスの考えは違っているようだ。

 武器が物である以上必ず壊れる時は来る。それがミレイの場合極端に早かっただけだ。そしてそれは武器を壊してしまったミレイのせいではなく、壊れる武器を作った鍛冶師の責任だとクラウスは思っていた。


「とんでもないです。寧ろわくわくしてきました。ミレイさんの攻撃に耐えうる武器を作り上げてみたいです。いいえ、是非僕に作らせて下さい。試行錯誤は必要ですが、必ず作り上げてみせます!」

「あはは、流石にクラウスさんが作ったクロスボウを次々にへし折っちゃうと、あたしのお財布事情もへし折られちゃうよ」


 冗談交じりに苦笑いしてしまうミレイであったが、クラウス自作の武器は基本的に高い。それを使い捨てのように扱う事になると、流石のミレイのお財布もいずれは厳しくなってくるだろう。


 だが彼はお代はいいと言い出した。

 ミレイは何を言っているのか理解できずにいたが、彼は続けて話してくれた。


「材料代も必要ありません。お客様が満足出来る武器を作れない以上、お代を頂く訳にはいきません。近々魔法銀(ミスリル)が手に入る予定がありますので、それまで幾度か試作を続け、最終的にミスリルクロスボウの製作をしようと思います。それをミレイさんにご購入して頂く、というのはどうでしょうか? ちなみにお値段は……この辺りになると思います」


 そう言って小さな紙に書いて見せるクラウス。

 大金になる取引の場合、その値段を口に出すのはあまり良く思われない事だ。耳元で小さく囁くか、紙などに値段を書いて見せるというのが、一般的な遣り取りとなっている。


 その紙を見たミレイは、どこか安心したように微笑みながら答えていった。


「あー、それくらいならお財布事情は大丈夫そうだね」


 正直この値段は初心者冒険者なら目が飛び出るほど高価なものであり、そして一般人が出せる金額ではない。だがミレイはゴールドランク冒険者だ。あまり自身に浪費癖も無いため、依頼料となる収入金の殆どは手付かずとなっていた。

 オーランドなどは酒代に大金を使っていくが、それでも酒代程度では底が尽きないほどの資金を持っている。


 ゴールドランク冒険者とはそういった存在だ。それはミレイと言えど例外ではない。そんな彼女が(もたら)した、彼にとっては嬉しいと言えてしまう予期せぬ出来事に、とても強い意欲が湧き出てしまっていたクラウス。


 それは代々続くライゼンハイマー家の当主として、ミレイの攻撃に耐えうる武器を作り出すことが彼の目標となっていた。



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