表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この青く美しい空の下で  作者: しんた
第五章 天を衝く咆哮
106/543

迫り来る"脅威"


「配置完了しました」

「ご苦労様」


 草原中央となるこの第二防衛線後方に作戦本部を移したルイーゼ達は、魔物が襲来する前に全ての準備を終えていた。現在は第三防衛線から退避した冒険者達と騎士団も、陣形を組み直してその時を待っている状況となっている。


 第三防衛線にあった土塁と馬防柵の準備も全て整っていた。ルイーゼ含む待機組冒険者とミレイは、防衛線中央後方で事の成り行きを見守る。


 騎士団二百名を五人一組のチームとし、騎士隊四十組を個々の能力を踏まえた上でバランス良く編成。ルイーゼを中央として、左翼十、右翼十、そして中央に二十組配置を済ませている。中央は左右どちらの状況にも対応出来る様に、戦況の見極めが出来る者達での配置をしてある。更にその後方を熟練冒険者で固めていた。

 相性や戦術的な意味合いで均等に再編成されたパーティーだ。当然、元からチームを組んでいた者達がいれば、それを活かしたままサポート要員として何名か追加していく形を取っていた。即席したチームとは言え、誰一人として離脱者は勿論、重傷者すら出す事無くここまで戦って来られたのは重畳と言えるだろう。


 冒険者のチームとは、ギルド依頼でもない限りは三人から五人のパーティーが主流となっており、六人で構成されたパーティーとなると、それはとても珍しいと言えるほど少なくなる。故にレナードや待機組に選ばれた者達のチームに、何人か冒険者を追加する形で補強され、臨時パーティーとして再編成された。


 これに関してパーティー内で不和が生じる可能性は限りなく低い。元からそういったことを考慮された上での再編成でもあり、何よりもその様な身勝手な態度を取る冒険者は、今回の作戦には元より選ばれてはいない。

 レナードチームで言うのならば、彼らは既にゴールドランク冒険者の集団という稀なパーティーとなっており、今回の作戦で参加している冒険者の殆どが、彼らを見聞きしているほどの有名人達でもある。

 その有名なり、噂なりといった事の内容はメンバー別に違う印象らしいが。


 冒険者の再編成については彼ら個人に一任し、ルイーゼは一切口を出していない。冒険者には冒険者のルールがあり、戦い易くする為のやり方や作戦がそれぞれある。ここに彼らの生き方を知らないルイーゼが口を出せば、それは却って余計な混乱を招いてしまうだろう。

 幸い精神的に幼い人物はいない為、滞りなく再編成を終えている。それも王城の下の庭でルイーゼが冒険者を集めて説明したあと直ぐに、冒険者ギルド地下に集まり話し合って終わらせていた。ここにはそういった人物しか参加していない。

 経験や技術が高く、冷静に判断し行動出来る者でなければ、作戦自体を危険にしてしまうのだから、そういった者達を選んだのは正しいと言えるだろう。


 今回の作戦において前線で参加している冒険者は二百五十八名。

 ほぼ五人で再編成し、あまりを六人チームとして五十チームを組み直してある。それを騎士と作戦司令部の間に置き、状況に合わせてルイーゼの指示で動く手はずとなっている。


「来るよ! 大量の魔物! この音は……また小型だよ!!」

「騎士団構え!」


 ミレイの言葉と共に、一気に緊張が高まっていく。

 続いてルイーゼは、初撃を逃さないように集中して合図を出していく。


「――撃て!!」


 一斉に放たれる大量の矢。土塁目掛けて空へと射ち放つ。

 魔物は第三防衛線から徐々に中央へと集まっているようだった。

 腑に落ちない点はいくつもあるが、今はそれどころではない。

 第二第三の雨が、まるで池に溜まる様に降り注いでいく。


「……まだいるのかよ。どんだけいるんだよ」


 呆れた様子で話すヴィオラに、一同は答えることが出来なくなる程驚いていた。


 多過ぎる。いや、徐々にではあるが、その数は減りつつあるようだ。今回の数は目算で凡そ五十匹。小型である以上倒せるだろう。

 だが問題は別にある。一体何処からこんなに大量の魔物を引っ張って来たと言うのだろうか。これではフィルベルグ中に存在する全魔物と人とが戦っているようにも思えてしまうほどの多さだ。


 降り注ぐ矢でほぼ斃す事ができ、先程と同じように残りを冒険者が払っていく。

 第三防衛線の時と変わらない戦い方だ。弱った魔物を相手取るのは少々歯ごたえは無いが、そんな事を言ってられる状況でもない。確実に仕留めていく冒険者達。


「来た!! 大型種接近!! 数多数!!」

「騎士団構え!……撃て!!」


 二百本の矢が大型種に突き刺さっていく。だが、一切動きに変化は見られない。

 第二第三の矢を射るも全て効果がなさそうなほど、まるで何事も無かったかのように進み続けて来た。その数、目算で三十匹。これほどの大型種が三十匹も走って来るのは流石に恐ろしい事なのだが、ルイーゼは冷静に部下へ指示をしていった。


「騎士団、近接して各個撃破せよ!!」


 剣を抜き放ち、チーム毎に纏まって戦闘へと入っていく騎士団。

 左右に展開していた者達も中央へと合流し、各個撃破すべく戦闘へと突入する。


「流石に矢は効かないか」

「刺さってはいるようなので、効いているはずだと思うのですが、どうやらあまり効果は見られないようですね」


 ラウルの言葉にリーサが返していく。

 あの姿も本来ではあり得ないと言えるだろう。

 矢が刺されば何らかの反応が出るのは普通の事だ。


 それをしないと言う意味について、冷静にヴァンは話していく。


「あれはどちらかと言えば強化というよりも、痛みを感じ難くされている様にも見えるな」

「僕にもそう見えます。あれも眷族の影響と見ていいのでは?」

「だがアルフ、もしそうだとするなら、ホーン共にも効果があっても不思議ではないと思うぞ」


 ラウルの言葉は尤もである。

 仮に眷属がそういった能力のようなものを持っていたとしたら、今まで現れていた小型の魔物に効果が出ていないのはおかしいと言える。先日大型種を狩っていた時には矢を使っていなかったので、その時からそうなのかは分からない事ではあるが、少なくとも今は効いていないように思える。


 冒険者が止めを刺す小型魔物を素通りして、騎士団が前に出ながら大型種に向かい構えていく。密集している大型魔物を引き離すように引き付け、各個撃破に持っていくようだ。上手くばらけさせていく騎士団は、次々と攻撃に転じていった。


 その様子を遠くから見ていた待機組は、やはりと何かを感じながら話していく。


「斬撃にも怯まなくなってますね。やはり強化がされているとしか思えません」

「アルフレートは心配性だな。あんなもん首落としゃいいんだよ」


 豪快に笑うヴィオラに一同は若干引きつつ、ロットが続けていく。


「怖い事を言ってますが、確かにそうですね」

「いやロット、あれ(・・)を落とすのは相当の力が要るぞ。俺でも出来るかは怪しいな」


 ヴァンに出来ないんじゃ誰も無理なんじゃないかと、マリウスは続く。

 確かにこの中で一番それ(・・)が出来そうな人物はヴァンだけだろう。流石にヴィオラでも出来ないはずだと思いたい一同だった。武器が槌であるラウルには出来ない。そして人種(ひとしゅ)である以上、マリウスにはヴァン以上の腕力は無い。

 この中で硬い脊髄を切り落とす様な事が出来そうな人物はいなさそうだった。


 徐々に大型種を引き離し、落ち着いた様子で各個撃破していく騎士団を見ていた待機組は、その練度の高さに驚いていた。撃破した騎士隊は近くの隊へと合流し、確実に大型種を撃破していく。それがエーランドだろうがホルスだろうが問題なく狩る事が出来ている様で、流石にこれにはヴィオラも驚きを隠せずにいた。


「へぇ、やるじゃないか、お宅んとこの騎士団は」

「鍛えていますから、この程度で音を上げる様な者はおりませんよ」


 笑顔で答えるルイーゼ。それに応える様にリーサが話していく。


「これだけの戦力となれば、ホルスも問題なさそうですね。後は……」

「ベアか」


 ヴァンの言葉に真剣な面持ちで彼を見ながら頷き、はいと答えていくリーサ。

 その答えにアルフレートは続いていく。


「あれは異質ですからね。何匹いるかで戦況すら左右しかねません」

「増援! 更に大型種二十!!」


 ミレイの言葉に、大型種は流石にまだいるようだなと、冷静に判断していく待機組とルイーゼだった。既に先行していた大型種の半数は斃せているが、この状態で合流されるとなると流石に厳しくなってくるだろう。

 冷静にヴィオラがそれに関して自分の考えを、ルイーゼへと伝えていった。


「この状況での連戦は、流石に危ないんじゃないか?」


 現状では騎士団に余裕はあるが、後続から襲撃してくる大型種が合流すると流石にぎりぎりになりそうだ。となれば重症者が出てしまう可能性が出てくるだろう。最悪の場合も想定出来る危険な状況に近づいていく。

 それを察したルイーゼは『そうですね』と言いながら、小型魔物を斃し終えて戻って来ていた冒険者へと話し始めた。


「冒険者の皆さん、騎士団のお手伝いをお願い出来ますか?」


 おおお! 勇ましい声と共に、騎士団へと急ぎ合流していく冒険者達。これで戦況は良い方向へとまた向いていく。これだけの戦力ならばまず問題ないだろう。


「魔物大量接近中!! 数不明!!」


 安堵の表情を浮かびかけたルイーゼへ飛び込んで来た報告に、一気に緊張が走っていく。段々とその輪郭が草原の端から見えてくると、その大凡(おおよそ)の数は目算で小型魔物が四十匹と思われた。

 小型とはいえ、この状況下での集団戦は厳しい。騎士団が前線にいる以上、矢を降らす事も出来ない。何とかして目の前にいる大型種を斃したい所だが、そうそう簡単には斃せるような存在ではない。このままでは多数の魔物を相手にする事になってしまうと、前線で戦う者達は考えていた。


「――不味い」


 だが、そうはならなかった。

 耳を立てたミレイが焦った様子で、前方にいる者達へ大きく声を発した。


「大型種と思われる魔物が接近中!! 手前の魔物が邪魔で、数が聞き取れない!!」

「なんですって!?」


 思わず大きな声で聞き返してしまうルイーゼ。その表情は驚愕を露にしていた。

 現状、大型種の対応は出来ているが、更に増えるとなれば話が変わってくる。


 冒険者が騎士団に合流し、前線に出ているものは合計で九十チームにもなる。

 それが小型種の増援でぎりぎりとなっている現在、これ以上の戦力が増える事は最悪とも言えた。ましてや大型種が増えるとなると、形勢は一気に傾いてしまう。

 先に見える大型種の数は目算で大凡二十と少ないものの、戦況をひっくり返すには充分過ぎる程の戦力となっている。これ以上動かせる戦力は彼らしかいない。


 それを悟った上で、今まで戦況を無言で見続けていたブレンドンが口を開いていき、それにヴィオラが続いていく。


「前線の士気がかなり下がっている。このままでは不味いぞ」

「だな。こりゃ不味いんじゃないかい、団長さんよ。アタシらも出るか?」


 手一杯な所も多い今、更なる増援は厳しい。このままでは数に押されてしまうだろう。戦う者達の士気が下がっている以上、現状を放置する事は全滅にも繋がりかねない。


「申し訳ありませんが皆さん、よろしくお願いします」


 そうルイーゼが告げた時、一匹のホルスが中央を突破してルイーゼ達へと迫ってきた。一気に緊張が高まる後方にいる冒険者達は、各々戦闘体勢へと入っていく。


 その真横を物凄い速度で剣を抜き放ち、駆け抜けていく一人の女性。

 一気にホルスへと距離を詰め、ホルスは高らかと足を上げ、(さお)立ちをしながら自身に襲い掛かる女性に対し攻撃を繰り出そうとする。

 だがその女性は更に速度を上げ、足を上げているホルスの傍まで瞬時に寄り、身体を小さく回転させながら剣を真横に切りつけ、ホルスの先まで抜けてしまう。


 文字通り(・・・・)真横に両断したホルスから一気に噴き出す血飛沫を浴びる事無くその先まで女性は進み、白銀の剣を横薙ぎに振り払い、地面に血が弧を描いていく。

 純白のドレスアーマーを身に纏い、美しく束ねたブロンドの髪が風にさらさらと揺れ凛と立つその女性は、声を張り上げ前線の者達へと檄を飛ばしていった。


「聴け! 勇敢なる者達よ! 

 ()(まで)国を護り続けて来た、力ある者達よ! 

 普段の其方(そなた)等であれば、負ける事など有り得ない!

 冷静に対処せよ! それはただの鹿()だ! それはただの()だ! 

 そんな程度(・・)の存在に、勇猛な諸君等が負ける事など有り得ない! 

 (わたくし)は知っている! 其方(そなた)等が如何に壮烈であるかを! 

 (わたくし)は知っている! この程度で負ける様な弱き者がこの場に居ない事を! 


 馬如き(・・・)に後れを取るなど、

 このエリーザベト・フェア・フィルベルグが赦しません! 


 勝ってそれを証明なさい!!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ