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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第五章 天を衝く咆哮
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"待機組"冒険者

 

「ホルス(いち)、行ったぞ!」

「こちらで対処する!」

「くそっ! ちょろちょろとホーンが邪魔しやがる!」

「先に潰せ!」


 最前線の冒険者達に繰り出される、ホルスの(さお)立ちからの強烈な一撃に大地が揺れる。その度にその近くにいる者達は顔色を変えた。それほどの破壊力を秘めた攻撃だった。

 こんなものをまともに食らえばひとたまりも無い。避ける以外に選択肢がない攻撃なだけに、こちらの攻撃に転ずるまでの時間がかかり、魔物への対処が遅れてしまう。非常に厄介だ。


 だが流石はシルバーランク以上の冒険者だ。

 落ち着いた冷静な対応と培われた技術や経験で、凶暴化されたホルスであっても対処がしっかり出来ている様だった。問題は、普段は絶対その場にいないはずのホーンラビットが、ちょろちょろと邪魔をする点だろうか。

 確かに凶暴化はされていて、熟練冒険者を邪魔するだけの力で攻撃を繰り出しているように見えるのだが、それを遠くから見ていた待機組冒険者達は、あることに気が付いているようだった。


「何だよあれは。やたらと凶暴になり過ぎて(・・・・・)いるんじゃないか?」


 百三十センルもある大きな斧を地面に突き刺し、その様子を見ていた人種(ひとしゅ)の男性が、眉を(ひそ)めながら言葉にする。

 栗毛の髪に、胡桃のような色の瞳。動きやすさを重視した軽い魔法銀(ミスリル)ブレストプレートを身に纏い、魔法銀(ミスリル)製ではない重い武器を軽々と片手で持ち上げるその男の名は、マリウス・ファルハーレン。良心的で人を見下したりせず、仲間との信頼を大切にする男だ。彼の左手薬指には銀色のリングが美しく輝いていた。

 そんな彼の言葉を返すように、一人の男が落ち着いた口調で言葉にした。


「そうですね。フロックやアドヴァクと比べても、かなりの強さを感じます」


 人種(ひとしゅ)剣士(フェンサー)、アルフレート・フォルスターの声が穏やかに響いていった。

 アッシュゴールドの髪に薄い青い瞳。百センルもある魔法銀(ミスリル)ロングソードを腰に差し、胸部、腕部、脚部につけた魔法銀(ミスリル)ハーフプレートアーマーを付けている。

 正確は至って真面目で穏やか。優男のような面持ちにロットを彷彿とさせるが、彼は女性の心情に疎くは無い。その辺りは普通の好青年といったところか。


「確かに攻撃力や瞬発力は通常のそれとは遥かに違うな」


 獰猛な瞳でそれを睨むように見つめる男性、ラウル・ラヴァッツィ。

 全身が白寄りの銀の体毛に覆われ、百五十センルの大槌を巧みに操る狼人種(おおかみひとしゅ)重戦士(ウォリア)で、ミスリルハーフメイルに腕部、脚部をしっかりとした重装備をしており、速度を落とす事無く攻撃を繰り出す事が出来る凄腕の冒険者だ。

 目つきはとても悪く思われがちだが、心根はとても優しい男性だ。


「耐久性も増えてそうですね。本来であれば、先程の攻撃で十分倒せているはず。やはり相当の強化がされていると見て間違いないでしょうか、ブレンドンさん」

「弱いものほど凶暴化するんだろう。フロックもそうだったが、スパロは多少強くなった程度だ。恐らくは特化した能力がある魔物ほど地味な強化しかされないのではないか? だが全体的に能力が高いホルスやエーランドは凶暴になった程度で、他に特色が見当たらない様に思えるが」


 セミロングの髪がさらさらと風に揺れながらリーサは男性に話しかけていき、それに答えていくブレンドンと呼ばれた男性。


 ブレンドン・グラント。人種(ひとしゅ)剣士(フェンサー)の男性だ。

 濃い茶色の髪に黒に近い茶色の瞳で目つきは少々細く、彼を知らない者が見るとまるで睨んでいるように見えるが、ただ目が細いだけで誤解されやすい人物だ。軽さを重視した魔法銀(ミスリル)ブレストアーマーと、腕部、脚部を護る動きやすい格好で、手には二百三十センルにもなるとても大きなミスリルランスを持っている。

 本来は無口で無愛想だが、曲がった事は決してしない人格者である。


 そんな彼に皮肉を込めて、ヴィオラが話しかけていった。


「へぇ、今日は随分と喋るじゃないか。まぁ、どっちにしても許容範囲内だろ。

全部叩き潰せば良いだけだ」


 強かろうが弱かろうが、迫り来る魔物を倒していけばいいだけ。そう判断する彼女の言葉は正しい。逆に言うならば、ただ淡々と魔物を狩り続ければいいのだから、彼女のように来るかも分からない敵に備えて待ち続けるより、ずっと楽な事だとヴィオラは思っていた。

 実際の所、戦闘中に考えて行動すると、それだけリスクも付き纏うことになる。

 一瞬の油断や判断ミスが命取りになるのだから、余計な事など考えずにただひたすら敵を倒せば良いという彼女の考えは的を射ていた。


 そんな勇ましい彼女の言葉に、ヴァンは言葉にしていく。


「相変わらず果敢だな、ヴィオラ殿は」

「普通だろ、こんなのは。それよりもガルドって奴と対峙してみたいね」


 瞳をぎら付かせて語る何とも強烈な言葉に、ヴァンは揺らぎもせずただ一言、止めておいた方が良いと口にした。どうやらその言葉は彼女の反感を買ったらしく、ヴィオラは鋭い瞳でヴァンを睨み付けるように見ながら言葉にしていく。


「あ? 何だ、アタシじゃガルドに勝てないって言いたいのか?」

「そうではない。もしギルド討伐指定危険種と遭遇し討伐してしまったら、俺のようにプラチナランクに上げられてしまうのではないか?」

「…………あー、そいつは、あれだな。……面倒だな」


 徐々にその勇猛な顔が面倒臭いといった表情になってしまうヴィオラに、ヴァンは瞳を閉じながら、まるで心情を吐露するかの様な言い方で返していった。


「察して貰えて感謝する。あれはどうやっても返却出来ないそうだ」


 随分とリシルアから戻るのに時間がかかっていると思っていたロットは、ヴァンは何かしらのトラブルに見舞われたのではないかとも考えていたが、どうやら話に聞くと違うのだそうだ。いや、トラブルには違いないがとヴァンは言っていたが、何とかプラチナランクを返上できないか、ギルドと話し合いをしていたのだとか。

 結局何を言っても聞く耳を持って貰えないギルド側は、ヴァンの話を聞かないどころかギルド依頼を多数彼に押し付けてきたらしい。そして三つ目のギルド依頼を達成して報告した際、新たに四つのギルド依頼を平然とした顔で出して来たリシルア冒険者ギルドマスターに、袂を分かつような態度でギルドを去ったのだそうだ。


 元々リシルア国に思い入れなどないヴァンにとって、あの場所はただの拠点に過ぎなかった。ギルドからの扱いは少々酷く感じ、おまけに国王から逃げるように目立たなく過ごし、すぐに去る予定だった所をギルドに捉まり依頼を大量に押し付けられる。彼にとってリシルア国とはそういう場所になっていた。


 全てはプラチナという特殊な冒険者ランクがそうさせていた。

 返却する方法はたった一つになる。つまりは冒険者の引退、という事だ。


 なんとも融通の利かないこの仕組み(システム)に思わず『めんどくせぇ』と言葉を漏らしながら、苦虫を噛み潰したような表情をしてしまうヴィオラだった。



 正午となり、切りの良い所で休憩に入った冒険者達は、各々好き勝手に休息を取っていた。そんな中、馬に乗ったルイーゼが到着し、定時報告へと入っていく。


「休みながらで構いません。どうぞそのままで。本日話し合われた内容をお伝えしていきます」


 王国側の指示通り確実に釣る事を目的として、ミレイが先行して魔物を釣り、後退して冒険者達の元へ引っ張っていき、それを複数のパーティーで狩る。最前線の現状に多少の変化は見られるものの、作戦自体に大きな変化は見られない。

 ここまで重傷者が出ておらず、誰一人として戦線離脱者がいないという事は重畳と言えるだろう。それでもホルスが出てからは魔法薬の消費が倍以上の速度で減り続けてはいたが。


「明日の早朝、魔物の確認をしながら森の中腹部へと進行して行きます」


 これは作戦当初から予定されていた事ではある。

 そして本日中に防衛線の準備が整うとの報告もされた。

 あとはこのまま出来る限り安全に狩り続け、明日に備えて聖域側手前にいる敵を減らしていくだけだ。少し違う所といえば、中腹部へと向かう時期が思っていたよりも早かったという点だった。


 午前の戦果はエーランド十二匹、ホルス九匹の計二十一匹となっている。

 作戦開始当初と同じように、凶暴化した魔物の対処に手間取った事と、大型魔物と初めて対峙した事によるものが大きいのだが、これも想定通りと言えるだろう。

 あまりの巨体故に運び出す事は困難となり、戦うのに邪魔になるため多少横にずらされて、捌かれる事なく現在は置かれている。


「――以上で定時報告を終了します。ご質問のある方はいらっしゃいますか?」


 特に質問もなさそうな冒険者達にルイーゼは笑顔で、午後もよろしくお願いしますと告げていく。

 この後ルイーゼは現状報告の為に王城へと戻り、第一防衛線から第三防衛線を確認した後、再び最前線であるこの場所へと戻って来る。冒険者には正直な所ウンザリとしてしまう様な王城と聖域の往復を、彼女は嫌な顔一つせずにこなしていた。

 全ては国民の為とは言っても、その働き過ぎと言えるほどのその労力に、冒険者達は舌を巻いていた。



[ 今回登場した魔物図鑑 ]


 ◆ホーン。ホーンラビットの事。褐色で角の生えた兎型の魔物。

 体長は六十センルから八十センルほどの大きさで、額に十センルから十五センルほどの角がある事が特徴。その角は歪な形をした刃物のように尖っている物で、攻撃は主にその角を使った突進や強靭な脚力による飛びかかりが厄介。三センルの板くらい軽々と貫くほどの威力があり、その攻撃力は危険。稀に鋭い牙で噛み付いてくる事もあるが、殆どは角で攻撃して来る魔物で動きは遅く、攻撃後の隙も大きく、また攻撃方法も限られている為、冷静に対処すれば倒せる魔物。

 視覚、聴覚、嗅覚があまり発達していない。その索敵範囲は狭く、二十五メートラほどまで近づかなければ襲ってくる事は無い。世界最弱とも呼ばれる魔物。



 ◆ホルス。オレストホルスの事。馬型の大きな魔物。

 首と頭、四肢が長い魔物で、強靭に発達した蹄があり、素早く走りながら攻撃をして来る。その方法は急速に近づいてから前足を高く上げて振り下ろし地面に叩きつけてくる。大きな固体になるとその豪快な攻撃で大地すら揺らぐほどの威力を出してしまう。

 体長は百八十から二メートラ、体重は千リログラルを軽く越えるとされており、その威圧感も凄まじいものがある。また力も凄まじいものがあるらしく、通常の馬の十倍は軽々と越えるものらしい。あくまで計りようのないものなので、恐らくそれ以上の力があるとも予測されているほどその力は恐ろしく、また驚異的である。

 顔の両側に目が位置するために視野が広い代わりに、両眼視(りょうがんし)できる範囲は狭く距離感を掴む事が苦手のようだが、それを補ってなお余りある発達した聴覚と嗅覚で敵を発見し遠くから襲ってくる厄介な存在。

 全身の体毛は短いがある程度の寒冷地でも生活できるとされており、世界各地で見かける種類の魔物。



 ◆エーランド。オレストエーランドの事。ディア種よりも大きな鹿型の魔物。

 オスメスともに大きな二本の角があり、その形状はねじれながら真っ直ぐ伸びている。とても硬くまた鋭いためその角はかなりの危険性がある。大きいものになると肩高(けんこう)二百センルに体重は五百から千リログラルにもなるといわれ、角も六十から七十センルととても長い。その大きさから三メートラもの体格に見えてしまうこともある。尚、メスの体重はオスに比べて四割ほど少なくなる。そして角に関してもオスよりもやや細く長い傾向が見られる。

 強靭な脚力から生まれるその跳躍力に優れている魔物で、二メートラは軽々と飛び上がってしまう。その巨大な体躯から飛び上がり襲ってくる様は悪夢のようだとも言われている危険種。



 ◆ディア。オレストディアの事。鹿型の魔物。

 オスは枝分かれした大きな角を持っており、その鋭く尖った槍のような角で攻撃をして来る魔物。

 メスは角を持たないが、こちらも代わりに強靭な脚力で飛び上がり襲ってくるらしい。オスメス両方に言える攻撃方法として、急に後ろを向いたら注意が必要。強靭な脚力で鋭い後ろ蹴りが飛んでくるらしく、その威力は鍛え上げた冒険者の腕をへし折らせて後方へと飛ばしてしまうほどの威力がある。当たり所によっては最悪の事態にも繋がるそうだ。全長はおよそ百から百五十センルほどで、体重は六十から八十リログラムほどになるらしい。

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