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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第五章 天を衝く咆哮
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"自由"のために

 

 図書館にてイリスが文献に驚愕している頃、フィルベルグ王国の城門にひとりの商人が訪れていた。大きな馬車を引きながら交易をしに来た彼は、エークリオにある商会の者だ。常に開きっぱなしの城門が閉ざされている事に驚く商人は、城門前にいる兵士に尋ねていく。


「何事ですかな」


 そう言った商人には大凡(おおよそ)の見当が付いていた。

 これはギルド討伐指定危険種が出現したに他ならない。良くある事では決して無いが、この様に封鎖されている街へ訪れるのはこれが初めてではない。落ち着いた口調と表情で、顔色一つ変えずに男は答えていた。

 だが、事はそう単純ではないという事に、商人の男性には気が付きようもない。


 少々焦った色を見せる顔をしながら兵士は答えていく。


「現在フィルベルグは諸事情により封鎖しております。大変申し訳御座いませんが、問題が解決するまで出国はお控え頂きますよう、お願い致します」

「分かりました」


 商人の確認を取った後、兵士は城門を開けるように仲間に指示を出していき、徐々に重々しく音を鳴らしながら大きな扉が開いていった。扉が開く大きな音に反応するかのように、幌付き馬車の荷台から一人の大柄な男性が降りてきた。


 その容姿、そして大きな武器を見た兵士は、目を見開くようにしながらはっきりとした口調で、その男性に声をかけていった――。




 *  *   




 王城の下の庭に、前線で活躍して貰おうとしている冒険者が集められていた。

 その顔を見た冒険者達は、集められた者達のランクも当然知っており、それだけの重要な話があると認識出来ているようだ。


 知り合いや仲間同士で他愛無い話をしている者。

 黙々と呼ばれた理由を聞くまで待機している者。

 中には座って水を飲みながら、ぼんやりとしている者まで様々だった。


 そんな中、馬車が到着し、中からエリーゼが出てきた。

 流石に王城から歩いて来ると時間がかかるため、馬車に乗って来たようだ。


 冒険者達の近くにきたルイーゼは、彼らに聞こえるように声を大きくしながら挨拶をしていった。


「冒険者の皆さん。本日は急な呼び出しに答えて頂き、有難う御座います。現在置かれているフィルベルグの状況に関する大まかな情報は、既に皆さんもご存知の事と思います。これより、詳しい現状と対応策についての話を始めさせて頂きます」


 そう言い始めながら、現在置かれている現状と対応策を説明していくルイーゼ。

 徐々に冒険者の顔は強張り、鋭く真面目な顔になっていった。


 ルイーゼは"眷属"とそれが(もたら)す影響、そしてスタンピードの可能性も含めて説明をしていく。そして作戦の概要と王国側が出した対応策を話していき、冒険者達に依頼をしていった。


「これは王国側からの依頼となります。先程説明しました通り、この依頼の受諾は皆さんにお任せします。とても危険な任務に変わりはありません。断って頂いても構いません」

「へぇ。じゃあこのまま帰ってもいいのか?」


 ひとりの女性冒険者がルイーゼに言葉を返す。

 180センルはあろうかという長身大柄なバランス良く筋肉が乗った女性で、大きな剣を背中に背負っている。褐色の肌にぎらついたような鋭い瞳、黒髪に黒目。灰色の軽鎧を身に纏った熊人種(くまひとしゅ)重戦士(ウォリア)の獣人冒険者だ。


 そんな彼女を他の冒険者は、また始まったという目で見ていた。

 彼女がこの依頼を受けない訳が無い。寧ろ好んで参加するタイプの冒険者なのは、ここにいる誰もが見聞きして知っている。勇猛果敢な彼女がこんな作戦に参加しないなどまず無い。ましてや逃げるように参加しないなど絶対に有り得ない。

 彼女の目的は引っ掻き回す様な言い方をして、反応を楽しみたいと言うだけだった。全くこいつは碌な事を言わないな、というような表情を冒険者達はしていた。

 そして彼女のパーティーメンバーは彼女のこれ(・・)はいつもの事なので、しれっとその成り行きを静観していた。


 そんな彼女にそれを理解した上で、真面目にルイーゼは答えていった。


「受ける受けないは、あなた方の自由です。冒険者は自由であるべきだと私は考えます。国を護り、人を護るのは騎士団の勤めです。あなた方はあくまで自由に選択して下さい。

 大切な人のため、大切なもののため、名誉のため、お金のため。何でも結構です。あなた方が思う自由のために戦って下さい」


 にやっとしながらへぇと呟く女性冒険者は、作戦についても口を出していく。


「じゃあ作戦のシメになる草原での防衛線ってのも、話では騎士団で最前線を固めるって話だが、アタシらのパーティーが最前線に立ってもいいのかい?」

「構いません。その選択もまた自由です。

 作戦は少々変えざるを得ませんし、ヴィオラ・オベルティさんには別の依頼をさせて頂く事になっていますが、そちらの選択も自由に選んで頂いて下さって構いません。冒険者はそうあるべきだと私は思っていますので」


 眉一つ動かさずに笑顔で即答するルイーゼに、睨み付けるように見つめるヴィオラと言われた女性。だが彼女を知る冒険者達は知っている。それはヴィオラが気に入った者を見つめている目だと。

 彼女のパーティーメンバーは何故か可愛そうな目でルイーゼを見ていた。


 そんな中、一人の男性が下の中庭へと辿り着いたようだ。

 その姿に一同は驚きを隠せない。それもその筈だ。その男性は世界でも二十人程しかいないと言われるプラチナランクの存在になった人物なのだから。


 そしてその男性は群集にいたある男に目を付け、近寄って話をしていった。


「ロットか。久しぶりだな」

「ヴァンさん。フィルベルグに着いたんですね」

「うむ。そうではあるのだが、経緯(いきさつ)を聞いていなくてな。城門で行き成りここを勧められて来たんだが、どういう状況だ?」

「後で説明しますよ」


 そんな彼をルイーゼは目を見開いたようになりながら、話していった。


「まさか貴方は、ヴァン・シュアリエ殿ですか?」

「む? そうだ。俺がヴァンだ。宜しく頼む」

「私はフィルベルグ王国騎士団長を務めております、ルイーゼ・プリシーラと申します。このタイミングで来て下さるとは、思ってもみませんでした。折り入ってお話がありますので、この後お時間を頂けますか?」

「構わない。俺も現状について説明を聞きたいので、こちらからも頼む」


 まさかプラチナランクであるヴァンが来てくれるとは、思いも寄らない嬉しい誤算だった。彼がいれば相当の戦力になることは間違いなく、噂通りの人物であるなら作戦にも参加してくれるだろう。

 風向きが少し良い方向へ向かっているようにも思えてしまうルイーゼであった。


 そして話に戻るルイーゼはもう一度冒険者達に作戦参加の意思を確認していく。

 だが、誰一人としてその場を離れる者はいなかった。

 そんな彼らに心からの感謝を述べて、作戦概要を詳しく説明していった。



 *  *   



「ふむ。気楽な気持ちで来た筈が、まさかそんな事になっているとは」


 現在は冒険者達に説明が終わり、"眷属"討伐の為の冒険者のみが残っている。

 先にその討伐隊への参加に関する説明をした後少々休憩とし、参加する意思を考えさせている間にヴァンへ経緯を説明していた。

 黙して語らず、真剣な面持ちでルイーゼの話を聞いていたヴァンであったが、その内容は驚きを隠せないものとなった。それはかつてリシルア国で対峙した、ガルド以上の衝撃となって彼に押し寄せていた。


「――以上の理由により、ヴァン殿にも討伐隊への参加をお願いしたいのです」

「なるほど。了解した。微力ながら手伝わせて貰おう」

「ありがとうございます」


 ルイーゼは感謝を述べながら頭を下げようとするも、ヴァンはそれを手で制止し、当然の義務だと告げていく。プラチナランクである以上は断れないという意味なのだが、ルイーゼにはそれが義理堅い人物だと思えたようだ。

 間違ってはいないのだが、本人としては戦う理由がこの国にはある。


 そしてヴァンは呟くように口にしていき、ロットがそれに答えていった。


「この国には護りたい者もいるからな」

「そう言えば来たばかりって言ってましたね」

「ああ。先程着いたばかりだ。他に変わった事はあるか?」

「そうですね、イリスちゃんが特殊な呼ばれ方をされているくらいでしょうか」

「特殊な呼ばれ方?」

「ええ。あの子は今――」




 *  *   




 イリスはふら付く足をなんとかして前に進めている様な状態だった。

 文献を受付に返しに行った時、マールとエメリーヌに物凄く心配されてしまったが、何とか笑顔で大丈夫ですからと告げていた。

 当然大丈夫だとは思えない様な、血の気が引いた真っ青な顔をしていたのだが、読んでしまった以上それを予想していた二人は、言葉を返す事が出来なかった。

 イリスが図書館を去った後、やはり見せるべきではなかったかもしれないと、二人は後悔をしてしまっていた。


 重い足取りでふらふらと家に帰ると、レスティに物凄く心配されてしまった。

 理由を説明すると流石に理解して貰えたようで、抱きしめながら頑張ったわねと言ってくれた。レスティはイリスが自分に何か出来る事を探して、せめて何が起こっているのかを知る事で一緒に戦おうとしている事を察した。

 戦えないイリスに出来る少ない方法で、懸命に戦おうとしていた。こんなにふらふらになっても尚、前を向いているイリスを誇らしく思うレスティは、優しく頭を撫でながら静かに言葉を発していった。


「疲れたでしょう。今日はもう休んでなさい」

「ううん、大丈夫。それに何かをしていた方が楽だと思うから」


 笑顔で答えるイリスにしばし考えるも、レスティも笑顔で無理しないようにねと答えていった。少々心配になるも、調合部屋へと向かっていくレスティ。残ったイリスはカウンターへと向かっていく。


 丁度カウンターに入ろうとした時、カランカランとお店の扉が開いていった。

 イリスは振り向きながら挨拶をしようとするが、その懐かしい顔に、ぱぁっと表情が明るくなり、すぐさまあの(・・)呼び名を知られてしまったことで再びふら付いてしまうのは、もうほんの少しだけ先の話であった。



 

 今回のお話で、記念すべき第100部分目の投稿となりました!

 すっごいですねー。100部ですよ、100部。ヾ(*´∀`*)ノ キャッキャッ

 お話はまだ続きますが、今後ともよろしくお願いいたします。

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