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第八話 侯爵令嬢、帰還する!


「アルテーシア様、なぜあの魔族二人を生かしておくのですか?」

 城へ帰る道すがら、ペリーヌ王女が聞いてくる。


 私があの二人を生かしているのは、私の冤罪を晴らすためだ。

 もちろん、帰国がかなえばの話ではあるが……。

 このまま探検家や冒険者になるのも悪くはないのだが、心配なのは家族のことである。

 王族の不興を買って侯爵家が取りつぶされたり、王宮勤めのキャスバル兄さんが不利益を被るのは避けたい。

 私は簡単に、母国で冤罪をかけられていることを説明し、あらためてペリーヌ王女に聞く。

「私たちを送り返す、送還魔法はあるのですか?」

 そう、呼び出すだけで帰れないというパターンもあり得るのだ。これを聞かなければ始まらない。


「実は同じ魔方陣を使えば出来ないこともないのですが、魔方陣に十分な魔力が溜まるには3年ほどかかります。

 あの魔方陣は、人間の魔力で動かすにはあまりにも膨大な魔力を必要とするのです。

 いつもは直接地脈から魔力を蓄積し、発動出来るようにしているのですが、あなた方を召喚したときにこれまで蓄積した魔力を使い切ってしましましたので、次に十分な量の魔力が溜まるまでは機能しないのです。

 誠に気の毒ですが、すぐには魔力不足で魔方陣が機能しないのです。」

 ペリーヌ王女は本当に申し訳なさそうに説明してくれたが、この話を聞いて私は一つの可能性に気づく。


 この世界の人の魔力では起動出来なくても、今の私ならどうだろう。

 私の魔力を魔方陣に注げば、或いは魔方陣を起動出来るのではなかろうか。

「ペリーヌ様、魔方陣にわたしの魔力をあたえて動かしてみてはどうでしょう。

 こう見えても、魔族の討伐でかなり強くなっていますから、私の魔力でも動かせるかも知れません」


 私が提案すると、王女は少し考えてから口を開く。

「確かに、アルテーシア様なら可能かも知れません。

 私としては、このままこの国に留まって欲しいのですが、ご家族のことがあるとなれば無理は申せません。

 城に帰ったら早速試して見ましょう」


 それから私たちは、来るときに5日かかった道を倍の10日かけて城に戻った。

 単純に馬で早がけするのと、軍を率いて移動するのの違いではあるが、やはりこの10日間は長かった。


 毎朝起きると捕まえていた二人の体力がある程度回復しているので、やむなく平手でぶったたき、危険がなくなるまで痛めつける。

 といっても以前の恨みもあり、相手が悪魔と悪魔落ちした奴と言うことも手伝って、全く良心の呵責はない。

 むしろ殺していないことを感謝して欲しいところだ。


 最初は反抗的だった王子と悪魔女だが7日もすると反抗的態度も目に見えて減少してきた。

 それでも高いステータスを回復させればどんなことをしでかすか分からないので、朝起きると朝食までの間に、鑑定画面を見ながら死なない程度に二人を叩き回すのが私の日課となっていた。


 10日目の朝、今朝も叩き回して無力化するべく二人を縛り上げている馬小屋の戸を開ける。

 王子はすっかり諦めたようで、私を見るとガタガタ震えだし、許しを請う。

「アルテーシア、もう止めてくれ。

 私たちをこれ以上叩かないでくれ」

「ダメよ。

 あなたたちは寝ているだけでもステータスがかなり回復しているわ。

 このまま放置して逃げ出されたらこの国の兵では捕まえられないどころか返り討ちにあってしまう。

 十分に逃げられないよう弱っていただくわ」

 そう宣言すると私は蓑虫のように縛り上げられている王子のところに行き、鑑定で王子のステータス画面を見ながらびんたする。

 パシッ、パシン、パシッ……

「痛い、痛い。

 このままでは死んでしまう。

 もう許してくれ」

「大丈夫よ。ちゃんと死なないように手加減してるんだから、観念して叩かれなさい」

 以前の恨みもあり、私は容赦することなく王子を弱体化させた。


 さて、次は悪魔女の番だ。

 そう思って振り返ると、悪魔女は口から丸い真っ黒い玉をはき出す。

 吐き出された玉は窓から外へとものすごい勢いで飛び出し、遙か彼方へと消えていった。

 何かの魔法かとも思ったが、特に異変は生じない。

 だいたい魔力封じの腕輪をつけられた状態で魔法を使える者が、我が一族以外にいるとも思えない。

 そんなことを考えていると、キャンディー嬢は何か呟いて気を失う。

「頼んだわよ、坊や……

 私たちの恨みを晴らしなさい……」


 何を言っていたのか今ひとつ聞き取れなかったが、この間に弱らせようと鑑定画面を開くと、キャンディー嬢は朝にもかかわらずステータスが弱りきっており、死にかけだった。



 王城に帰還した私たちは、歓迎セレモニーを開くという城の人たちの申し出を丁重にお断りし、2人の悪魔をつれて召喚の間に急ぐ。


「いいですかアルテーシア様。

 上手く召喚陣が起動したら、強く元いた国をイメージし、そのイメージを魔力に乗せて下さい。

 それで帰還出来るはずです」

「分かったわ。

 ペリーヌ王女、いろいろお世話になりました。

 それでは試して見ます」

「お礼を言うのはこちらの方ですわ。

 急なことで十分なお礼も出来ていませんが、せめてこれをお持ち下さい」

 そう言うとペリーヌ王女は自らの右の人差し指にはめていたきれいな虹色の宝石がついた指輪を渡してくる。

「よろしいのですか?

 何か大切な指輪ではありませんか」

 私が聞くと微笑みながら王女が答える。

「これは私の祖父が若かりし頃、この国の奥地を冒険したときに拾った宝石に魔力を込めて作った指輪だそうです。

 2個一組で、一つは私の左手に残します。

 色々な効果が付与されております。

 祖父の形見としていただいた品の一つですが、二人の友情の証に是非お持ち下さい」

 そう言うとペリーヌ王女は私の右の人差し指に指輪をはめてくれた。

 王女とお揃いというのもなんだか恐れ多いが、とてもきれいな指輪だ。

 ポケットから少し覗いているレインボスライムのレイとも似ている輝きを持ち、不思議な暖かさを感じる。

「ありがとうございます。

 大切にします」

 私は礼を述べると、捕虜二人とともに魔方陣の中央に進んだ。


 中心にある魔石へと右手を乗せ魔力を供給する。

 ペリーヌ王女は魔方陣の北側にある制御装置へ自身の魔力を通じ、魔方陣の起動を制御する。


 私の右手からどんどん魔力が抜けて行き、同時に魔石がまばゆいばかりの輝きを放つ。


「起動、成功です。

 今です。アルテーシア様。

 ご自身の国をイメージして下さい」

 ペリーヌ王女の言葉を受けて、私は魔力の供給を止め、強く私たちの学園をイメージした。


「さようなら、ありがとうござぃ……」

 ペリーヌ王女の声がだんだん小さくなり、光が収まると、私は召喚に巻きこまれた、あの忌々しき断罪が行われた広間に、再び立っているのだった。 







ご愛読ありがとうございます。

正直に言うと今回の話をもって完結にするかどうか悩みました。

まだ書くべき伏線も残っていますのでもう少し続けてみます。


次回『侯爵令嬢、こける』お楽しみに!

次回更新は来週の土曜日の予定です。

よろしくお願いします。


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