第三話 勇者、脱走!?
「な、なぜだ!?
偽装したはずなのになぜ真のステータスが表示される」
キャンディー・コルベート男爵令嬢が叫ぶ。
そうだよね……。
私のステータスはきちんと偽装された数値が表示された。
これってもしかして、いい子にしていた私へのご褒美?
などと考えているとペリーヌ王女がキャンディー嬢を睨みながら言う。
「この真実の石版の前ではいかなる偽装も隠蔽も通用しません。
変身していても無理やり真実の姿に戻されます」
はーい!王女様。
偽装に成功している人がここに約一名いるんですがどういうことでしょう?
聞きたいのを我慢しながら、もしかしてと思い真実の石版を鑑定してみる。
名前 真実の石版(魔道具)
能力 鑑定(SS段階):S段階以下の偽装や隠蔽を見破り真実を映す。
なるほど、納得した。
私の隠蔽偽装はEX段階だった。
真実の石版といえども見抜くことは出来ないだろう。
キャンディーの隠蔽偽装はA段階だったので見破られたと言うことか。
「おのれ、こうなっては致し方ない。
この世界にも魔族はいるようだから、そいつらを使ってお前達を支配してやるわ!」
言い残すや、キャンディー嬢は走り出し、あっけにとられている城の兵士の間をすり抜けると、部屋の窓から大空へと飛び出した。
正直、あのステータスの相手とまともにやり合ったら、この部屋の中にいる人間は誰も太刀打ち出来ないだろう。
私でも魔力と知力以外は負けている。
スキルレベルで剣術は勝っているから、魔法戦で弱らせて剣で仕留めるという方法を用いれば勝てるかも知れないが、絶対勝てるかと言えば分からない。
それに、現在はステータス偽装中である。
今の私がキャンディー嬢と互角以上の戦いをするわけには行かない。
そんなことを考えていると、アホが動いた。
「待ってくれ!キャンディー。
俺はいつまでも君と一緒だ!」
なんと、そう叫ぶやいなや、アホ王子も悪魔女を追いかけて窓から飛び出した。
あいつ、飛行魔法使えたのだろうか……
見ると、身体能力にものを言わせて、屋根の上をぴょんぴょん跳ねながら、アホが悪魔を追っている。
これが、『悪魔討伐のために勇者が追いかける図』ならよかったのだが、さっきの台詞はどう考えても、『悪魔に寝返った勇者が、悪魔に置いていかれまいと追いすがるの図』であろうことは明白である。
そういえばキャンディー嬢は魅了を高レベルで持っていたから、よほど知力が高くなければ操られてしまうことだろう。
ということは、今までも今も、アホは悪魔に魅了されていたと言うことなのか……
何か、真実が一つ明らかになったような気がする。加えて、婚約破棄を申し渡されたときの鬱憤が軽減されたように感じた。
さて、気の毒なのはペリーヌ王女である。
膨大な魔力を使って、魔族に対抗するために異世界から勇者を召喚したつもりが、一緒に召喚されてしまった異世界の悪魔によって勇者が魔族側に寝返ることになってしまったのだから目も当てられない。
「そんな……
召喚魔方陣は一度使うと3年は使えなくなるというのに……」
なにやらぶつぶつと呟いているペリーヌ王女が哀れである。
しばし呆然としていたペリーヌ王女は、しばらくするとその場にへたりこんでしまった。
周りの家臣団も放心状態だ。
私は渋々ながら声をかける。
「あの……、大丈夫ですか……?」
ゆっくりとうつろな瞳を私に向けた王女だが、私を視認すると瞳の奥にわずかな灯が灯り、再起動した瞬間、ガシッと私の肩をつかんできた。
「そうよ、まだあなたがいるじゃない!
いえ、もう私たちにはあなたしかいないのよ!!
お願い、アルテーシア様。
裏切った勇者と新たに現れた悪魔の分も含めて、私たちに力を貸して!!」
「いや、そんなこと言われても、正直ステータスで負けてるし、無理……」
私は首を横にふり、いやいやしながら、偽装したステータスを盾に言い分けし、何とか辞退しようとする……。
が……、最後まで言わせることなく王女は言葉をかぶせてくる。
「いえ、鍛えれば大丈夫よ。
正直、あなたのステータスは鍛えれば私と互角以上になると思うわ。
この国では知力が高ければ新しいスキルの習得もどんどん出来るし、二人で頑張って、鍛えて、鍛えて、鍛えまくって、魔族も勇者も撃退しましょう!」
あまりの勢いに思わず頷いてしまった私は悪くないと思う。
こうして私の冒険者・探検者ライフへの道はたたれ、召喚された国でその国の王女様とパーティーを組み、魔族と勇者と、ついでに召喚悪魔を退治する旅が始まったのである。
これって、王子とヒロインにざまぁしたことになるのだろうか……。
謎である。
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当初、思いついたプロットはここまでです。
次回は土曜日の更新予定です。
次回、『レベルアップ』 お楽しみに!