第二話 侯爵令嬢、ステータス確認される!?
私の目の前には、光に包まれる前にいた二人がそのまま立っている。
王子とキャンディー・コルベート男爵令嬢の二人だ。
しかしそれ以外の人物が、明らかに知らない人ばかりである。
私をヘンリケ王子と一緒に糾弾しようとしていた騎士団長の息子も宮廷魔術師長の長男も見当たらない。もちろんその他の友人たちや先生達も、私を取り押さえるために駆け寄っていた衛兵達も存在しない。
石の広間の床には、パーティー会場で見たのと同じ模様の魔方陣らしきものが描かれているが、光り輝いていることはない。
魔方陣の端っこには見知らぬ人々が並んでいる。
どちらかというと魔術師然とした人と騎士のように武器防具で身を固めた人が多いように感じる。
その中で、紫色の美しい髪を持つ、年の頃なら18歳くらいの女性が声をかけてきた。
「ようこそ、グリムガルドへいらっしゃいました、勇者様がた。
私はグリムガルドの第一王女、ペリーヌ・グリムガルドでございます。
本日は私どもの召喚術にお応えいただき、遠いところから転移して来てくださったことに感謝申し上げます」
どうやら、グリムガルドという国が行った召喚魔法によって、この場に呼ばれたらしい。
このグリムガルドが、私たちの世界のどこかにある国なのか、それとも全く違う異世界の国なのかは、正直今の段階で判断出来ない。
いやいや……、そもそも召喚術に応えた覚えも全く無い。
勝手に呼びつけておいて、自分たちに都合よく解釈されても困るというものだ。
とりあえずは、現状、危害を加えられた場合に備えて、自分自身が戦う力を持っているかを確認しよう。
『ステータス』私は心の中で唱える。
名前 アルテーシア・ウィンザー
称号 異世界の最強戦力の卵 異世界の侯爵令嬢 最強の剣士の卵 最強魔道師の卵
巻きこまれた戦姫
レベル 1(成長性EX)
体力 100(成長性SSS)
筋力 88(成長性SS)
魔力 256(成長性SSS)
速力 76(成長性SS)
知力 512(成長性EX)
スキル 魔法(EX段階) 剣技(SS段階) 格闘技(A段階) 鑑定(EX段階)
隠蔽偽装(EX段階) 収納(EX段階)
概ね、召喚される前のステータスがそのまま引き継がれているが、召喚前には表示されなかったものが三つある。
称号と、レベルと、各ステータスの後ろに書いている成長性やスキルの後ろの段階だ。
『なに、これ……』
召喚されたことによって見ることが出来るようになったのか、それともこの世界が召喚前の世界と異なる法則で動いているために起こる現象かは不明である。
更に下まで確認すると、スキルが明らかに増えていた。
私は本来、鑑定や隠蔽偽装など持っていなかった。
更に、以前から欲しかった高レベルの収納スキルまである。
『ちょっと嬉しいかも……』
私は、万一の時は自力で逃げ出してあこがれの冒険者生活に突入することをチラリと考える。
何にしても、剣技も魔法もしっかり鍛えてきたのが功を奏しているのだろう。
このステータスならそうそう負けることはないと思われる。
ついでに王女を名乗る女性のステータスも身につけたばかりの鑑定スキルで鑑定しておく。
名前 ペリーヌ・グリムガルド
称号 聖なる王女
レベル 28(成長性A)
体力 84(成長性C)
筋力 56(成長性D)
魔力 168(成長性A)
速力 28(成長性E)
知力 196(成長性S)
スキル 魔法(C段階) 短剣技(D段階)
レベルこそ高いが、ステータスは全て私の方が高い。
ついでに、王女の横に控えている厳ついおっさんも鑑定してみる。
名前 ミハイル・ストロガノフ
称号 騎士団長
レベル 34(成長性B)
体力 102(成長性B)
筋力 85(成長性B)
魔力 34(成長性E)
速力 68(成長性C)
知力 68(成長性C)
スキル 剣技(A段階) 身体強化(B段階)
厳ついおっさんは騎士団長だった。
王女同様レベルは高いが、全く脅威に感じない。
これなら、万一の時は力押しで逃げ切れる。
そんなことを考えていると、アホ王子が口を開く。
「俺はゴードリア王国第一王子のヘンリケ・ゴードリアだ。
もっと詳しく状況を説明しろ」
こんな時まで命令口調である。
状況から考えて、あまり強気に出て相手の機嫌を損ねると何をされるか分からないのだから、今のは悪手だろう。
増して、相手から情報を引き出すためにはもっと上手く立ち回るべきだ。
まあ、私だけなら自力で切り抜ける自信があるし、私を糾弾しようとしていたアホ王子とビッチ男爵令嬢のことを心配する必要もないのだが、下手に騒いで無用の争いが勃発するのは勘弁なのである。
私がはらはらしてみていると、相手の王女は特に怒った様子もなく話し始める。
「確かに、突然こんなことを言われても混乱されますよね。
実は今、我が国は魔物の侵攻を受けています。
当然、国を挙げてこれに対処しているのですが、残念ながら力及ばず、徐々に魔物の領域は広がり、私たちの領域は狭められているのです。
境界付近は人口密度こそ低いのですが、有数の穀倉地帯でもあり、このままでは遠からず、我々は深刻な食糧不足に苛まれることになります。
そこで我々は最後の手段として、王家に代々引き継がれた勇者召喚の魔方陣を起動させ、この窮地をお救い下さる勇者様をお呼びすることにしたのです。
私たちの魂の叫びにお答え下さったのが、あなた方なのです。
勇者様、どうか私たちをお救い下さい。
私たちに出来ることは何でもいたしますし、成功の暁には何でもお望みのものを用意いたしましょう。
どうぞお助け下さい」
ペリーヌ王女はよどみなく言い切る。
かなりの長文をすらすらとしゃべりきった王女に、アホ王子は感動して打ち震えているが、私は何度練習したのだろうかなどとどうでもいいことを考えていた。
それにしても勇者って誰だろう。自分だと嫌だなと心底思う。
「分かった。
義を見てせざるは勇なきなりという。
ゴードリア王家の名にかけて、俺に出来ることを行い、あなたを助けよう」
このアホ、やらかしやがった。状況もわからずにYESというのはああまりにも危険だと知らないのだろうか?
アホ王子は勝手に話を進めてしまったのだ。
正直言って私は関わりたくないのだが、果たして拒否権はあるのだろうか……?
せっかく断罪の場を逃れたのだから、帰れないのならかねてからの夢だった探検や冒険をして見たい。
そんなことを考えていると王女は説明を次の段階に進めたようだ。
「ありがとうございます。
それでは、皆様方のステータスを確認させて下さい。
順番にこの真実の石版へ振れて下さい」
どうやら私たちのステータスを調べるらしい。
まずい。
ここで私の能力がそこそこすごいことが知られれば、間違いなく自由を制限され手伝わされる。
私は早速ステータスを偽装する。
召喚と同時に偽装隠蔽スキルを私にくれた神様には感謝、感謝である。
名前 アルテーシア・ウィンザー
称号【偽装前】 異世界の最強戦力の卵 異世界の侯爵令嬢 最強の剣士の卵 最強魔道師の卵 巻きこまれた戦姫
→【偽装後】異世界の侯爵令嬢 巻きこまれた姫
レベル【偽装前】1(成長性EX)→【偽装後】1(成長性C)
体力【偽装前】100(成長性SSS)→【偽装後】30(成長性C)
筋力【偽装前】88(成長性SS)→【偽装後】20(成長性D)
魔力【偽装前】256(成長性SSS)→【偽装後】30(成長性C)
速力【偽装前】76(成長性SS)→【偽装後】25(成長性D)
知力【偽装前】512(成長性EX)→【偽装後】30(成長性C)
スキル【偽装前】魔法(EX段階) 剣技(SS段階) 格闘技(A段階) 鑑定(EX段階) 隠蔽偽装(EX段階) 収納(EX段階)
→【偽装後】魔法(C段階) 収納(D段階)
まあ、これくらい偽装しておけば、間違っても主戦力とは認識されないだろう。
そんなことを考えていると、早速アホ王子が石版に手を触れる。
名前 ヘンリケ・ゴードリア
称号 異世界の勇者 異世界の王子
レベル 1(成長性A)
体力 41(成長性B)
筋力 39(成長性B)
魔力 31(成長性C)
速力 35(成長性B)
知力 45(成長性S)
スキル 剣技(A段階) 魔法(B段階) 収納(C段階)
「剣技と魔法が使えて成長性も高いのですね。
素晴らしいですわ」
ペリーヌ王女が喜んでいるが、私はそれよりも納得出来ないところがある。
なぜあのアホ王子が勇者で、しかも知力が45もあり、成長性がSなのだ!?
キャンディーの簡単な嘘も見抜けないのに知力が高いとかあり得ない。
やるかたない憤懣を心中で沸騰させていると、私の番だとでも言うように王女から身振りで催促される。
私が渋々、真実の石版に触れると、偽装されたステータスが表示された。
名前 アルテーシア・ウィンザー
称号 異世界の侯爵令嬢 巻きこまれた姫
レベル 1(成長性C)
体力 30(成長性C)
筋力 20(成長性D)
魔力 30(成長性C)
速力 25(成長性D)
知力 30(成長性C)
スキル 魔法(C段階) 収納(D段階)
うん、普通だ。まさかこれで戦えとは言われないだろうと思っていると、予想外の言葉がペリーヌ王女から出てくる。
「素晴らしいですわ。
勇者様ほどではありませんが、魔法特化で考えれば全てがC段階以上。
この国の宮廷魔術師と比べても遜色ないステータスですね。
流石は、勇者様の付き人を務められているだけのことはありますね。
収納スキルもお持ちのようですし、勇者様の旅のサポートをよろしくお願いします」
いや、待て。色々と全力で否定したい。
まず私は、アホ王子の付き人ではない。
先ほど振られたばかりの元婚約者だ。
更に言えば、これだけステータスを落として表示したのに、それでも宮廷魔術師レベルだと!
更に更に、アホ王子兼勇者のお供など御免被る。
私が文句を言おうとすると、アホ王子が先に口を開いた。
そうだ。言ってやれアホ王子。
私は先ほどあんたに振られたばかりの役立たずだと。
「お前もなかなかの能力を持っているようだから、俺の旅の末席に加えてやろう。
足を引っ張らないようにせいぜい頑張ることだな」
はっ!? ふざけるなこのアホ王子。
さっき振ったばかりの婚約者を、自分の都合だけで自分の駒に出来ると思うなよ。
だいたい、なんで私がアホ王子のお守りをせねばならんのだ。
むしろこっそり暗殺してあげたいくらいだ。
私が怒りに言葉を忘れていると、事態は更に進んで行く。
残りの召喚者、キャンディー・コルベート男爵令嬢が石版に触れたのだ。
その瞬間、稲光がしたような錯覚を覚える。
石版にはキャンディーのステータスが表示されていた。
名前 キャンディー・コルベート男爵令嬢
称号 異世界の悪魔 異世界の魔王の器
レベル 1(成長性A)
体力 200(成長性A)
筋力 122(成長性A)
魔力 222(成長性S)
速力 142(成長性A)
知力 166(成長性A)
スキル 魔法(S段階) 剣技(A段階) 格闘技(B段階) 隠蔽偽装(A段階) 魅了(B段階)
はい!?
何ですかこれ…………!!!???
これってまずくね…………
そう思っていると、振り向いたキャンディー・コルベートは皮膚の色が青く変わっており、目も真っ赤に充血していた。
これってやっぱり人間じゃないよね……
読んでいただきありがとうございます。
次回 勇者、脱走! お楽しみに!!