14
デュリオはアバック伯爵家の屋敷に緊張しながら足を踏み入れた。
そもそもケインスタイン王国の社交の場に出席するのはこれが初めてであり、伯爵夫人の歓迎の言葉を礼儀正しく聞きながらもこっそり周囲を窺っていた。
ざっと雰囲気を掴んだが、やはりどの国も特に変わらないらしい。
そこにルゼールが耳打ちをしてくる。
「いたよ、楽団の左側――壁際にある訳のわからない胸像の近くだ。ジェストと一緒にいる」
楽団の左側――デュリオの死角にいるらしいオリヴィアを捜して、伯爵夫人の話を聞きながらも視線を向けた。
初めて見る夜会姿のオリヴィアの美しさに再び心を奪われたが、ルゼールに軽く脇を突かれて我に返る。
今はそんな場合じゃない。
不安そうなオリヴィアの表情に気付き、デュリオは安心してほしくて笑みを浮かべた。
デュリオが登場してからずっとしゃべり続けていた伯爵夫人も、デュリオの微笑みを間近で目にして、口を閉じた。
これ幸いと、デュリオは「失礼」と断りを入れてその場を離れ、真っ直ぐにオリヴィアへと向かう。
周囲の視線は感じたが、気にはならなかった。
やらなければならないのは、自分がいかにオリヴィアを崇拝していて、噂がどんなに馬鹿げたものかを知らしめることだ。
「やあ、オリヴィア。今日はこちらにいると聞いて、追いかけてきたよ」
「デュリオ様……」
わざと周囲に聞こえるように大げさに言い、オリヴィアを目にすれば自然と浮かぶ笑みを向けた。
オリヴィアは戸惑ったように目を伏せたが、胸に飾ったカーネーションに気付いてくれたらしい。
それはオリヴィアが贈ってくれた花の中の一輪であり、デュリオが改めてお礼を言おうとしたところで、わざとらしく不機嫌な声が割り込んだ。
「おい、デュリオ。俺もいるんだから、挨拶くらいしろよ。ローラ嬢にも失礼だろう?」
「ああ。すまない、ジェスト。相変わらず元気そうだからわざわざ挨拶はいらないかと思って。だが、確かにこちらのお嬢さんには失礼なことをしてしまったね。オリヴィア、紹介してくれるかな?」
感傷に浸る暇も与えてくれないジェストには腹が立つので視線さえ向けない。
オリヴィアとその隣に立つ友人へ視線を向け紹介を待つ。
「デュリオ様、こちらはわたしの友人でアジャーニ子爵家のローラ・アジャーニ嬢とその婚約者のチャールズ・リンドン卿です。ローラ、リンドン卿、こちらがデュリオ・アンドール伯爵よ」
「――やはり、あなたがローラ嬢でしたか。オリヴィアの手紙にはいつもあなたのことが書かれていて、お会いするのを楽しみにしておりました。リンドン卿、はじめまして。お二人のご婚約、おめでとうございます」
「ありがとうございます、アンドール伯爵。どうぞローラとお呼びくださいませ。はじめましてなのに、いつもオリヴィアからお話を伺っておりましたので、そのような気がしなくて……」
オリヴィアが婚約者と紹介してくれなかったことが引っかかったが、デュリオはどうにか笑顔を浮かべたままでいられた。
ローラ嬢はオリヴィアの手紙から想像していた通りの、勝ち気な性格を表したような少々つり上がった目を和ませ、愛想よく挨拶を返してくれる。
そして悪戯っぽく笑うと、一歩下がってリンドン卿に譲った。
「アンドール伯爵、はじめまして。チャールズ・リンドンと申します。お会いできて光栄です」
「こちらこそ光栄ですよ。あなたの手掛ける事業は全てが成功すると、他国まで聞こえてきていましたから」
「それはかなり誇張されているようですね」
ありきたりで何の問題もないやり取りに、周囲でさり気なく六人を窺っていた人々がつまらなさそうにしている。
何か騒動を期待していたらしい者たちを腹立たしく思いながらも、デュリオはあくまでも自然に見えるように笑みを浮かべ続けた。
すると、オリヴィアが不安そうな表情で口を開く。
「あの、デュリオ様。お体の具合は――」
「まあ! デュリオ様! 今夜、こちらにお越しになるなんて存じませんでしたわ! わざわざオリヴィアに会いに来てくださるなんて!」
しかし、言いかけたオリヴィアの言葉は、子爵夫人の甲高い声によって遮られてしまった。
隣には夫である子爵もいる。
これ見よがしな夫人の態度にオリヴィアは居心地悪そうにしており、娘のことをまったく気にかけない夫人に、デュリオの苛立ちは募った。
しかも、デュリオが子爵夫妻と微笑みながら和やかに挨拶を交わしている間に、オリヴィアはルゼールへと近づいたのだ。
二人が友人だということは信じられる。
それでも嫉妬してしまう狭量な自分がデュリオは嫌だった。
いったい何を話しているのか気にはなるが、大げさな子爵夫妻との会話を一言一句聞き逃さまいとする人々の前でオリヴィアたちに注意を向けるわけにはいかない。
そのため、デュリオは苦痛でしかない夫人の言葉を愛想よく聞いて、適当に返事をしていた。
それでもオリヴィアに視線はどうしても向いてしまう。
今すぐに、この煩わしい場から全てを投げ出してオリヴィアを連れ出してしまいたい。
そんな気持ちが伝わったわけではないだろうが、オリヴィアの温かな茶色の瞳が自分へと向けられた。
ルゼールが何かを囁いてオリヴィアの背中を軽く押す。
力なく一歩進み出たオリヴィアは昔のように頬を染めながらも、デュリオを真っ直ぐに見つめてくれた。
そこに、流れてきた旋律を聞いて、デュリオは手を差し出さずにはいられなかった。
「オリヴィア、どうか私と踊ってくれませんか?」
「……喜んで」
きっと断られることはない。
それがわかっていても、オリヴィアが恥ずかしそうに微笑んで了承し、差し出した手に手を重ねてくれた時には、喝采を上げたいほどだった。
オリヴィアの手を引いて踊っている人たちの輪の中へと入る。
メイアウト王国でもどの国の夜会でも、どんな女性と踊ろうとも頭の中にいるのはオリヴィアで、デュリオには今この瞬間が夢ではないかと思えたほどだ。
だが、オリヴィアは俯いたまま。
「デュリオ様……申し訳ございません。このような騒動になってしまって……デュリオ様にご無理をさせてしまいました」
「正直なところ……情けなくて恥ずかしいよ」
思わず口にしたのは自分への呆れと悔恨。
オリヴィアに謝罪されてようやく、デュリオはオリヴィアがこの騒動を自分ではなく、デュリオのために傷ついているのだと気付いたのだ。
「ルゼールが訪ねてくるまで、オリヴィアが馬鹿げた噂でつらい立場に追い込まれているなんて知らなかったんだから。その間、僕は呑気にベッドに寝ていただなんて、本当に情けない。ごめんね、オリヴィア。もっと早く駆けつけるべきだったのに」
「い、いいえ。そのような……デュリオ様はそもそもご病気だったのですから……」
「ああ、それも情けなくて恥ずかしくなる。旅の疲れで寝込むなんて。確かに無理はしたけど、あれくらいで熱を出してしまう自分の体力のなさには嫌気がさしたよ。レオンスにも笑われてしまったぐらいだ」
「無理を、なされたのですか?」
自分の情けなさを打ち明けたのに、オリヴィアはただデュリオのことを心配してくれている。
つい言わなくてもいいことまで言ってしまったのだが、オリヴィアには意外だったらしい。
ここまできたら、全てを打ち明けよう。
そう決意したデュリオは不思議そうに見上げるオリヴィアに向けて自嘲しながら頷いた。
「――私は、オリヴィアからの手紙をいつも楽しみに待っていたが、ひと月に一度届くはずの手紙が届かなくなってしまった。それでもしばらくはじっと待ったんだ。しつこいやつだと思われないように。それなのにいつまでたっても届かない。それで我慢できなくなって、社交界のことに詳しい母なら、何か知っているんじゃないかと手紙を書いた。そして、オリヴィアが社交界にデビューしたことを知らされて……慌てて帰ってきたんだ。もう父との約束も何もかもどうでもよくなって。とにかくオリヴィアが誰か別の男に恋してしまったらどうしようと、そればかりが心配だった」
「……わたしが?」
「初めてオリヴィアとダンスを踊るのは、私でありたかった。ルゼールでなければ、相手の男を殴っていたかもしれない。ルゼールとはそれほど親しくはなかったが、その人柄は十分に知っていたからね」
初めて打ち明けるデュリオの本音に、オリヴィアは驚いたようだった。
それも当然だろう。
いつも余裕があるように必死に見せていたのに、実際はこんなにもかっこ悪いのだから。
わずかな沈黙が落ち、デュリオは次に何を言えばいいのか迷った。
しかし、オリヴィアがためらいがちに口を開き、沈黙を破る。
「でも……この曲は……円舞曲は初めてなんです。今まで誰とも踊ったことがなくて……」
その言葉に、デュリオの心臓は跳ね上がった。
思わずオリヴィアの腰に回した腕に力が入る。
「ありがとう、オリヴィア。それを聞いて、私がどれだけ嬉しいか……。急ぎ王都に戻り、そのまま礼儀も忘れて子爵家に訪れた時、ルゼールと名前で呼び合い、親しげにする君を見て……もう手遅れだと思った。そして、男らしく身を引くべきだとも。それからのことはよく覚えていないんだ。ただ部屋に飾られた君からの見舞いの花を見て、やはり諦めるものかと決意した。おかしな話かもしれないが、まるで花たちも応援してくれている気がした。だから、もう一度初めから求愛しようと。それなのに体が思うように動かなくて、どれだけ情けなく悔しかったか」
「ほ、本当に、お体はもう大丈夫なんですか? ご無理を――」
「心配はいらない。大丈夫だよ。むしろ鈍ってしまったくらいだ。二日前からもう熱も下がって動けるようになったのに、母が……というより、エリカが心配してベッドから出してくれなかっただけで」
「妹さんが?」
「ああ。枕元でずっと絵本を読み聞かせてくれて……いや、読んであげていた――って、そうじゃない」
あの時にことを思い出して笑ってしまいそうになったが、デュリオは我に返った。
今日は自分の気持ちをはっきりとオリヴィアに伝えるために来たのだ。
だがいざとなると緊張し、周囲で踊っていた人たちがその場から離れていくのに、デュリオはただその場に突っ立っているだけだった。
「……デュリオ様?」
デュリオの行動を不審に思ったのか、呼びかけるオリヴィアの声が聞こえる。
その温かな声に促されるように、デュリオはその場に片膝をついた。
「デュリオ様!」
「オリヴィア、私はあなたを愛している。この気持ちはずっと幼い頃から変わらない。そしてこの先も変わらないと誓う。だからどうか、私と結婚してくれませんか?」
思い描いていたのは、オリヴィアの名誉を挽回した後、テラスへ連れ出し、月明かりの下で片膝をついてのプロポーズ。
それがエリカの理想だと絵本を読んで言っていたのだ。――乙女の夢だと。
しかし、そんな計画はすっかり頭から飛んでしまい、デュリオは驚くオリヴィアを真っ直ぐに見つめたまま、胸に飾っていた白いカーネーションを差し出した。
オリヴィアはデュリオの真剣な表情から白いカーネーションへ視線を移す。
途端にいつも優しく輝いている茶色の瞳が潤み、涙が一粒こぼれ落ちた。
「わたしも……わたしも、デュリオ様をお慕いしております」
オリヴィアの声は震えていて、今にも消えてしまいそうだった。
それでもデュリオはしっかりと耳に捉え、オリヴィアが花を受け取ってくれた時には喜びで胸がはちきれそうだった。
何があろうともデュリオの純粋な愛は生き続けるという気持ちを、オリヴィアが受け取ってくれたことが嬉しく、得意な気分にもなる。
すばやく立ち上がったデュリオは、オリヴィアを強く抱きしめた。
この喜びのままに今すぐキスをしてしまいたい。
だが、周囲の雑音が耳に入り、ようやく自分たちが見世物になっていることを思い出した。
「本当は今すぐキスしたい。だけど、これ以上見世物になるのはオリヴィアが耐えられないだろう?」
「……ッ、キス!?」
ついからかうようなことを言ってしまったのは、あまりにもオリヴィアが可愛かったからだ。
その反応はさらに可愛さを増していて、これ以上この場にはいられないと、デュリオはオリヴィアを促して会場を後にした。
本当は抱え上げて走り出したいくらいだったが、ゆっくりと進んだのは、自身を落ち着けるためと、会場内の人物を観察するため。
二人のために道を開けてくれる人々の表情は様々で、心の内を露呈していることには気付いていないらしい。
途中、ジェストと目が合ったが、嫌味な笑みは見なかったことにする。
そしてようやく馬車へと辿り着いた時、しっかりとオリヴィアの付き添い女性――シルー夫人がいることに舌打ちしたくなった。
さらには馬車が走り始めると、オリヴィアがとんでもないことを言い出した。
「ダメです、デュリオ様! やっぱりわたし、結婚できません!」
「――え?」
勢いよく叫んだオリヴィアの言葉に、向かいのシルー夫人の口がぽかんと開く。
デュリオも口こそ開かなかったが、信じられない思いでオリヴィアを見つめた。
ひょっとしてオリヴィアは、公衆の面前でプロポーズしたデュリオに恥をかかせないために了承してくれたのだろうかとの考えが頭に浮かぶ。
「デュリオ様はとても素晴らしい方です! 八年前のあの日、何の責任もないのに、わたしと婚約してくださって! それからもずっとわたしに優しく付き合ってくださったのですから!」
「いや、それは……」
オリヴィアの大きな勘違いだ。
そう否定しようとしたが、決意に満ちたオリヴィアの言葉は止まらなかった。
「ですが、もうわたしに縛られることはないのです。これでもわたしは強くなりましたし、一人でも生きていけるように計画も立てました。救女院に手紙を書いて、受け入れてくれるとの返事もいただいております。ですから、両親に勘当されても大丈夫なんです!」
シルー夫人の息を呑む音が聞こえる。
デュリオもただただ言葉を失っていた。
まさかここで、オリヴィアの口からあの救女院という名前が出てくるなんて。
そんな二人の前でオリヴィアは必死に続けた。
「今回、わたしのためにあのようなプロポーズをしてくださって、本当に感謝しております。あのお言葉を胸に、わたしは一生を幸せに生きていけます。ですから、しばらく時間を置いて、やはりわたしは相応しくないと、デュリオ様のほうから婚約破棄を言い渡してください。そうすれば、デュリオ様も――」
「ちょっと待って! オリヴィア、落ち着いて。頼むから、少し黙ってくれないか?」
「は、はい……」
落ち着くのは自分のほうだが、とにかくオリヴィアに黙ってほしかった。
色々な誤解が多すぎる。
それも全て自分のせいなのだ。
デュリオは深く息を吐くと、オリヴィアの手を握って微笑む。
「オリヴィアは白いカーネーションの花言葉を知ってる?」
「い、いえ。花言葉には興味がなくて……」
「じゃあ、私の一番好きな花は覚えている?」
「スノーフレークです」
「うん、覚えていてくれて嬉しいよ。でも、花言葉は知らないんだよね?」
「はい……」
「植物の本って、たいがい花言葉も一緒に載っているから、てっきり知っているものだと思っていたけど……。そうか、そうだよな。オリヴィアって、昔から思い込みが激しくて、一つのことしか見えていないようなところがあったよな……」
ひょっとして通じていないのではと予想はしていたが、まさか花言葉自体を知らないとは予想外だった。
あれだけ色々な植物の本を読んでいたのだから。
デュリオは頭を抱えたくなったが、やはりちゃんと言葉にして正解だったと思った。
「先ほどの私のプロポーズの言葉を覚えている?」
「一言一句、全て」
問いかければ、オリヴィアは力を込めて返事をしてくれる。
デュリオは喜べばいいのか、悲しめばいいのか複雑な心境でため息を吐いた。
「でも信じていないんだ」
「え?」
「あれだけ心を込めたプロポーズなのに、嘘だと思っていたんだ」
「え、だって……デュリオ様は無理やりわたしと婚約をさせられて……」
「あのね、オリヴィア。このケインスタイン王国で、アンドール侯爵家の意に反することを無理やりさせることができるのは、今のところ王家の方たちくらいだよ」
「そうですね」
メイアウト王国の王族でさえ不可能であり、オリヴィアも当然とばかりに頷く。
デュリオはこの思い込みの激しい愛しい人にどう納得させるべきかと天を仰ぎ、また視線をオリヴィアに戻した。
そこに馬車ががたんと揺れて、止まる。
「お二人はまだまだ話し合いが必要なようですから、私は先に失礼いたします。ですが伯爵、節度は守ってくださいませ」
「うん、婚約者同士のね」
「え……シルー夫人?」
この付き添い女性はとてもよく気が利く。
一気にシルー夫人へ好感を抱いたデュリオは、素直に答えた。
ただ素直すぎたのか、シルー夫人は片眉を上げる。
たが、何も言わずに開かれた扉からさっさと出ていき、ようやくオリヴィアと二人きりになれてデュリオは喜んだ。
しかし、オリヴィアは不安そうに扉へと視線を向けていた。
デュリオは自分だけを見てほしくてオリヴィアの頬に触れ、自分へと向き直らせたのだが、手に触れる柔らかな頬に、かすかに開かれた艶っぽい唇を目にして、頭の中から〝節度〟という言葉は消えてしまった。
そのままデュリオは顔を近づけ、オリヴィアの唇に唇を重ねる。
もうすぐ二十歳になろうというのに、唇へのキスは初めてで、正直なところどうすればいいのかわからない。
こんなことなら強引に迫ってきた女性を押しのけたりしなければという思いが一瞬頭を過ぎったが、すぐにオリヴィア以外にはやはり考えられないと打ち消した。
これからもずっと、死ぬまでオリヴィアだけでいい。
デュリオはその気持ちから理性を総動員してどうにか唇を離すと、呆然としているオリヴィアに真剣な表情で問いかけた。
「キスは初めて?」
「は、はい……」
夜会では不埒で世慣れた男性も多いことから出た質問だったが、オリヴィアは真っ赤になったまま答えてくれた。
デュリオは誰にも決闘を申し込む必要がないことにほっと息を吐いた。
オリヴィアのためなら絶対に勝つ自信はあるが、これで余計な心配をかけなくてすむ。
安堵したデュリオは途端にある考えが頭に浮かび、笑顔を浮かべた。
思い込みの激しいオリヴィアにちょっとした意地悪を思いついたのだ。
「実は私も初めてなんだ。恋人同士のキスは」
「え?」
「幼い頃からずっとオリヴィアが好きだったって言っただろう? だから、オリヴィア以外には考えられないよ」
「で、ですが……」
「ダメだよ、オリヴィア。こうなった以上は、お互いに責任を取らなければ」
「……はい?」
後じさるオリヴィアを逃がさないように、右手でしっかりと捕え、左手でドレスに隠された胸――昔、怪我をしたあたりに触れた。
「責任、取らないとね?」
「えっと……?」
「先ほどのプロポーズは本気だよ。そして私はオリヴィアの答えも一言一句覚えている。もちろん、嘘だなんて思っていない」
悪戯っぽいものからいつもの穏やかな笑みに変えて言ったものの、デュリオの顔にはかすかな傲慢さが滲んでいた。
嘘だと言われたら、今すぐ死ねる。
「やっと……やっと捕まえたんだ。だからもう、絶対に逃がさないからね?」
目を丸くして驚くオリヴィアをぎゅっと抱きしめ、デュリオは独占欲に溢れる気持ちを言葉にした。
抵抗されないかと怖かったが、オリヴィアはそっとデュリオの背に手を回してくれる。
初めて会ったあの時から、この気持ちを止めようとしても止められなかった。
急速に深く深くデュリオの心の中を占めていった、オリヴィアへの「好き」の気持ち。
ようやくこの気持ちを解放できる。
デュリオが窺うようにかすかに離れて見下ろせば、オリヴィアは恥ずかしそうな笑み浮かべ応えてくれたのだった。




