上空二万海里
JM粒子の輝きが暗い星の航路を照らす篝火となるだろう。 これは星の輝きだ。
ハイリー・B・ウッドクラッチ大佐
上空約37000km。
そこでは地球が止まって見える。
静止軌道。大気の層を超えた、星の世界の入り口。
星より生まれた如何なる生物を拒絶する真空の地獄。
だがそこに、炭素と金属による殻で身を守り、進出せんとする生き物がいた。
『こちらノーチラス。本艦、原子力と、星の輝きて航行中。』
USX-001 概念実証艦 ノーチラス
新大陸同盟の連合宇宙航空局(USEA)と、扶桑の航空宇宙開発局(FASE)によって共同開発された実験艦だ。
推進力は実績と信頼性の高い固体燃料ロケットと、新技術のJM核融合ジェットエンジン。
そして成功すれば人類の新たなターニングポイントになりうる技術。制御された核の爆風を受けて進む、核爆発推進帆だ。
この艦の目的はJM粒子発見によってもたらされた新しい宇宙航行技術の実験、評価、実証である。
艦長 ハイリー・B・ウッドクラッチ大佐の手記
2xxx年.1月13日
USEA所有のグアテマラ宇宙センターより打ち上げ開始。
固体燃料ロケットにより、大気圏を離脱。
衛星軌道へ到達。
同月14日
JM核融合は安定した状態を維持。
核融合ジェットエンジンの評価を開始。
3日間ジェットエンジンで航行した後、問題がなければ核爆発帆の実証実験を開始する。
同月17日
ノーチラス、北90度。
眼下にオーロラが広がる。
このような光景を見ながら実験ができるとは幸いだ。
核爆発帆の実験を開始する。
これにより、世界が狭まり、そして広がることを望む。
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ノーチラスは各技術の評価を完了した後、長期間惑星間航行の実験に参加。
地球-木星間を核爆発帆を用いた擬似ワープ航法で進む実証実験を行う。
木星からの帰還の際、火星-木星間にある小惑星帯にて小隕石に座礁。
救援が到着するまでの約8ヶ月、図らずも冷凍睡眠の評価試験を行う。
救出された後、新たな宇宙の地平を切り開いた記録すべき艦として、USEAのアラバマ航空宇宙基地にて記念艦として保存・公開され、静かな余生をすごしている。