遊園地
あれは、大学2年の頃。
我ながら相当調子に乗っていた。
馬サー(という名目の競馬好きの集まり)
の男五人で、閉園後の遊園地に忍び込んで
はっちゃけよう、という企画が持ち上がった。
メンバーの一人がその遊園地で働いていたので
セキュリティがほぼないことや、
遊具の起動の仕方は知っていた。
この企画が持ち上がった辺りから、
彼のことをみな「オーナー」と持ち上げた。
もちろん犯罪だが、
本当に恥ずかしいことに
当時は楽しければどうでもよかった。
古びた遊園地は
夜に見ると少し不気味だったが、
入り口の柵をよじ登って侵入した。
各遊具の近くにあるブレーカーを上げていくと
園内は徐々に日中の姿を取り戻した。
暗闇を照らす遊具照明はさながら
イルミネーションのようで、
クソ大学生どもの死んだ目すら輝かせた。
「結局は電気製品だからな」
とオーナーが煙草を吸いながらドヤる。
「施錠されてる区域のブレーカー以外は
上げたから、あとは好きなだけ遊べ」
と両手を広げて言いはなった。
俺は男だし、女が好きだが
この男になら抱かれてもいいかなと、
その時は思った。
みんな、深夜のお化け屋敷を
少なからず楽しみにしていたが
ここは電気が付けられないとNGが出た。
観覧車は稼動は出来るけど
遠目から見て一撃でバレるのでNGが出た。
それ以外は好きなだけ遊べた。
ゴーカートは、エンジンをかけるのにコツがいるため
ここでもオーナーが株を上げていた。
メリーゴーランドでは、
三年連続留年中のメンバー
通称「留ちゃん」が
「競馬やろうぜ!競馬!」と言い出し
それぞれ勝ち馬を予想するが
当然誰も勝てない、という遊びを考案した。
100円を入れて動く動物の乗り物は
当然100円を入れないと動かなかったが
正気の沙汰じゃないくらい連コインした。
ここでも競馬遊びに発展した。
一番人気の「スゲーナハヤイデス」が故障し
大穴の「シャバ駄馬ダパンダ」が勝った。
なんといっても、目玉はジェットコースターだ。
昼間に乗ったこともあったが
景色もぜんぜん違うし、
どれだけ叫んでも恥ずかしくないため
普段よりずっと楽しめた。
少し漏らしたけど全然平気。
人目もないし暗いから。
ひとしきり遊んだ後で、メンバーの一人が
「あれ、あそこのブレーカーは?」
と、まだ付けていなかったブレーカーに気付く。
「いや、それは…」
とオーナーが言い淀む。
「めっちゃ気になるじゃん、付けちゃえ!」
すると、明かりがついたのは
側にあったお化け屋敷だった。
「なんだぁ~?
怖かったのかオーナーさんよぉ~?」
メンバーがいっせいにニヤニヤして
お化け屋敷は電気が付かないと言っていた
オーナーを小突く。
「…そうだよ!」
「可愛いとこあんじゃ~ん♪」
と更におちょくるメンバーだったが
急に真顔になったオーナーが
「冗談で言ってるんじゃない!」
と怒鳴った。震える声で続ける。
「出るんだよ、本当に…
遊園地側が仕掛けてない
霊を見たって人が後を絶たない。」
みんな少し怯んだが、留ちゃんが
「いやいや、むしろそういうのを
待ってたんだよ俺達はさー!」
と言ってお化け屋敷に入る流れになってしまった。
結局、外で二人待ち、中に三人入ることになった。
俺と留ちゃんは入るチーム。
怖いが、逃げては男が廃ると思った。
オーナーはもちろん待つチーム。
「なにかあっても知らないからな」
怒りとも心配とも取れる言葉を背に
俺達はお化け屋敷へと足を踏み入れた。
病院をモチーフにしていて、
ホルマリン漬けの腕や目が動いたり
簡易ベッドの上で暴れる患者
車イスで近づいてくる首なし死体
被験体にメスを何度も突き刺す医者
などが俺たちを怖がらせた。
大いに恐怖し、叫びながらも
なんとか出口に辿り着いた。
出口ではオーナーが泣きながら、
「よかった、無事で。」と出迎えた。
「大袈裟だなぁ、オーナー」と茶化した。
ひとしきり堪能したし、
後始末をして帰ることにした。
再度山入り口の柵をよじ登り、
外に出ると、留ちゃんが笑って言った。
「しかしあれだな、最近のお化け屋敷は
良くできてるよな。」
俺も全く同じことを思っていた。
「ホントそれ。あの追ってくる車イスとか、
センサーかなんかで動いてるんだろ?」
「立ち止まったら追ってこねぇんだろうなぁ
なんかゲームでそんな敵キャラいたよな」
ふと、オーナーがさっきから
一言も喋ってないことに気付いた。
「どうしたよ、オーナー。まだ怒ってんの?」
「…お化け屋敷で電力使ってるのは、照明だけだよ」
「あ、そうなの?」
留ちゃんは明るく反応したが、
他のメンバーはその言葉で沈黙した。
お化け屋敷内で動いてたものはすべて
「勝手に動いていた」ということだ。
キィ、と音がして振り向く。
真っ暗で見えないが、柵が開いたような音だ。
スマホを取り出し、ライトで照らすと、
先程お化け屋敷で見た車イスが
ギィ、ギィと音を立てゆっくりと
こちらに向かってきていた。
脇目もふらず逃げ出して、
なんとか帰ることが出来た。
それ以降俺達は誰もあの遊園地に行ってない。
オーナーも、バイトをやめた。
これは、あの時の呪いではないかと思うのだが
留ちゃんはもう一年留年した。