「悪役令嬢の館」
前投降した作品に関連して書きましたがこれはこれで独立して読める作品だと思います
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僕達がその館に足を踏み込む事になったのは、ほんのささいなきっかけだった。
「頼む!一生のお願いだ。」
たまたま同じツアーになった人から一通の封書を預かったことがはじまりだった。
急に具合が悪くなったらしい彼から、ある事を頼まれたのだ。
…その彼、上から下から大変な事になってどうにも動けないらしい。
ノロだろうかロタなのかもしれないが、いずれにしろ大変な目にあっているという。
「この封書をこの家に届ければいいんだよな…」
「家ってか、屋敷ってか……館?」
「……でかい」
今、僕達が佇む門のむこうには見上げるような大きなお屋敷というか館がある。
「お金持ちの家っていうか、別荘みたいだ」
「敷居が高そうだなぁ」
「渡すものを渡して、さっさと戻ろうぜ」
門番みたいな人がいたので預かった封書を渡し、その場を離れようとしたのに引き止められてしまう。
門番の彼の案内でその家の玄関のノッカーの用なものをノックする。
ぎぎぎぎぃ~
そしてどうにも不気味な音をたてて、その扉は僕達の前に開いたのだった。
そして、扉の中から現れたのは…。
褐色の肌に白に近い白銀の髪、赤い瞳のおそろしく整った姿形の…。
執事だった。
「これはこれは…。ようこそわが主の館においでくださいました。私、執事のシュバルツと申します」
その執事のあまりの恰好良さに驚いて声のでない僕達を前に、彼はひっそりと微笑んでみせた。
「先程より我が主がお待ちです。どうぞ中へ」
まるで何かに操られているかのように僕達は彼の言うがまま、その館に足を踏み入れた。
僕達がホールのような場所に案内されて佇んでいると上の階から誰かが階段を下りてくる気配がした。
「まぁ、随分と遅かったのね」
そう声をかけられて、視線を向けた僕達はおそらくぽかんとした間抜け顔をしていたに違いない。
そこには僕達を見下ろす形で金髪縦ロールのザ・お嬢様ってな女の子がツンと顎をそらせていたからだ。
「わが館の主のお嬢様で、アンネリーゼ様です。どうか粗相のないように礼をお取りください」
招かれたお客様のはずである僕達に対して、シュバルツという名の執事はそんなトンデモナイ事を要求してくる。
戸惑っている僕達をよそにそのザ・お嬢様はさらに上から物を言う感じで続けてきた。
「いつまで待たせるつもりだったのかしら?でもまぁ良くってよ、私、寛大なの」
小生意気そうな物の言い方は物語の悪役令嬢そのままだ。
ちょっとだけムカっとして言い返そうとしたけど、僕達は執事に止められてしまった。
「お嬢様がお許しくださいましたので、これから皆さま方にはその、いささか砕けすぎたその服をお召し替えして頂き、お嬢様に付き従って王城に行って頂きます」
「ちょっと待って。なんの話?」
「僕達はただ頼まれて…」
思わず抗議したけれども、畳み掛けるようにその執事は僕達に言ってきたんだ。
「この封書を持ってきたと言う事は、そういう事なのです」
ふいに執事の身体が膨らんで僕達に迫ってきたように見えた。
威圧というものなのだろう。僕達は顔を見合わせるが、拒否の声を出そうとしても出なかった。
背中に妙な汗をかいている。
今、一瞬本当にアレがヒュンってした。
マジ怖かった。
「あきらめようぜ、なんかあの執事怖いし」
「いざとなったら知らぬ存ぜぬで…」
「てか、本当に何がなんでこうなってんのかわからん」
僕達が、顔つきあわせてブツブツ言っていると、お嬢様は2階から1階へ優雅にドレスの裾を捌いて降りたっていた。
今更ながらその美しい立居振舞に目が奪われる。
傍らにはシュバルツが控えていた。
「まぁなんて貧相な面子なの?。コホン。あなた方?この私、アンネリーゼの従者を務めるのですから粗相のないようなさってね」
「そんな事言われても」
僕達はただの一般人だからそんな無理難題をふられても困るんだけど。
「急いで、見苦しくないように整えさせます」
シュバルツがそうとりなすが、言ってる事は相当失礼だ。
「いいわ。時間がないもの。今更服装を整えている暇はないわ。そこのあなた!」
アンネリーゼと呼ばれたお嬢様は持っていた扇で僕の友人の一人を指示した。
「猫背になっていてよ。そう、背筋を伸ばしてまっすぐ視線は前に。歩くときは頭の上の方から紐でつられているって意識するといいわ」
かわいそうに友人は飛び上がって驚いていたけど、令嬢の言うとおりに背筋を伸ばした。
「貴族たるもの、隙を見せてはいけないものなの。そこのあなたは顎が出過ぎね。いいこと?口角をあげて?…表情で思考を読み取らせてしまう事は恥になる事なのよ?気をひきしめなさい!」
いやまぁ、前提からして僕達、貴族でもなんでもないし…。
言い返したいけど、いつの間にか僕達の周囲は腰に剣を下げた強面の騎士さんみたいな人達に囲まれていて、こちらを睨んでいたから、僕達は口をつぐんで、ビクビクとしたまま、無理やり口角をあげた変な顔で令嬢の言うとおりにするより他なかった。
「まぁ、変な顔」
お嬢様は、顔をしかめて言った。
貴族たるもの、表情で思考を読み取らせちゃいけないんじゃなかったんかい!
ひどくない?
善意から頼まれ物を届けてあげたのに。
「はぁ、もう仕方ないわ。でかけましょう?」
アンネリーゼ様は僕達にあからさまにため息をついて、僕達に背をむけて歩きだした。
ハン!誰がついていくかよ!
つい反抗的に思ってしまったが、無言で騎士達が脅してきたので僕達はしゃちほこばった姿勢のままアンネリーゼ様のあとをついて歩いていくしかなかった。
いや、実は騎士さん達よりもシュバルツの方がずっと怖かった事を伝えておきたいけどね…。
途中、大きな姿見の前を通った時に、シュバルツがパチンと指をならすと、鏡に映った僕達の姿が一瞬のうちに変わった。
思わず横の友人を見ても変化はない。
また鏡を見る。
鏡の中の友人も僕もスーツを着ているが、現実の僕達の姿は、この館に来た時のそのままだ。
「ハリボテですが」
シュバルツが冷たい言い方で僕達に言う。
「他の方々には鏡に映っている姿に見えますので」
「「「魔法!」」」
「お静かに」
僕達は初めて見る魔法に驚き、うかれたくなったが、シュバルツの一瞥で意気消沈してしまう。
この執事、本当に怖い。
無駄に顔が整っているせいで迫力が増している気がする。
「さて参りましょうか」
僕達は馬車に乗せられ、ドナドナよろしく令嬢のお供をすることになったのだ。
豪華な馬車には令嬢と侍女らしき少女が。
僕達は幌もない馬車だった。
お嬢様の豪華な馬車に連結されているようだが、これって本来は荷物用?
「まぁいいけどね、雨も降ってないし?」
友人の一人が諦めたように言った。
「急ぎます!」
シュバルツの掛け声が聞こえ、馬車は急発進。
彼は馬車を操っているらしい。
なんでもできる人だなぁ。
僕達はあわてて荷馬車のへりにつかまった。
馬車はすごい速さで町を駆ける。
きれいに整備された街の中をありえないスピードで。
僕達はこのきれいな街並みを観光しに来たのに、なんでこんな目に。
何度か他の馬車とぶつかりそうになったり、飛び出してきた人をひきそうになってキモを冷やしたり、
屋台の店先をスレスレで通ったりした。
「「こんなん聞いてないよ!」」
僕達は何とか馬車の縁につかまって耐えたけど、壁を横走りに走りだしたのにはどきもを抜かれた。
「「「ひゃぁ!落ちる落ちる!」」」
振り落とされないように必死で耐えるしかない。
「「「うわぁぁぁぁぁ!!!」」」
「「「飛んでる!飛んでる!飛んでる!飛んでるよ!!」」
「あいきゃんふらい!」
一人余裕な奴がいるみたいだけど。
そうして街の上空に来ると、遠くの丘の上に優雅にそびえる美しい建物が見えてきた。
あれが王城だろうか。
一瞬見とれていたが、再び速度をあげはじめた馬車に悲鳴をあげる。
「速い、速い、速い!!」
チラリと横に視線を向けると友人達の顔は風圧で頬が流れておかしな顔になっている。
「ぶふ!」
思わずふいてしまった。
僕、悪くないよね?でもたぶん、僕の顔も変な顔になっているはず。
王城と思しき場所についた時にはもうヘロヘロだった。
「ううっGがきつかった…」
ヨタヨタと馬車から降りた僕達を執事のシュバルツが叱責する。
「皆さま方、もう王城についたのですから、そのような情けない姿では…」
だけどちょっと笑いをこらえているような顔だ。
笑うと冷たいような美貌がちょっとだけ親しみやすく感じる。
「…こんな目に合わせておいてよく言う…」
口の中でモゴモゴと文句を言っていると豪華な方の馬車から降りてきたお嬢様のアンネリーゼ様がやや呆れたような表情で見ているのに気が付いた。
表情出てるんですけど!
僕達がGに振り回されてヘロヘロなのに、アンネリーゼ様は反対に、隙ひとつ見当たらない姿だ。
「さぁ、腑抜けている場合ではなくってよ。しっかりなさって」
僕達はお嬢様のおつきのような立場なのか、どんどんと王城の中へ中へと案内されていく。
侍女も護衛の騎士すらもついていかないでいるのに、いったいどういう事?
先導するシュバルツはやや顔を伏せ加減だが、続くお嬢様はツンと顎をそびやかしておすまし顔だ。
「なんか可愛いかも」
「お前、趣味おかしい」
隣の友人に即否定されてしまった。
えー。なんか無理して気取っているみたいでかわいいじゃんね。
両側にずらっと 騎士や使用人達が並ぶ中を赤い絨毯を踏みしめて歩く。
うぅ、この場違い感に緊張するよー。
そして僕達一行はようやく煌びやかな扉の前にとうとうたどり着いた。
扉が開け放たれるとそこは煌びやかなパーティの場だった。
うへぇまたすごい場所に出ちゃったな。
「覚悟は良くって?では行きますわよ」
アンネリーゼお嬢様が一言言って、僕達はその会場に足を踏み入れた。
お嬢様が進んでいくと話をしていた人達やダンスをしていた人達も両側に避けて、道が出きていく。
---アンネリーゼ様 嫌われてんの?
「モーゼか!」
傍らの友人がぼそっと言う。
そうして進んでいくと、数人に囲まれた人物がアンネリーゼに気が付いて振り返って言った。
「…アンネリーゼ」
アンネリーゼお嬢様は立ち止まるとドレスをちょっとつまんで恭しくお辞儀をした。
「ご機嫌よう、殿下。お誕生日、おめでとうございます」
なんとアンネリーゼお嬢様が挨拶をしたのは、王子様だったようだ。
僕達も慌てて頭を下げる。
だけど、誰も僕達を見ていないようだ。どうやらおつきの人間なんて空気とかと同じ扱いらしい。
王子様は金髪碧眼のザ・王子様みたいな人だった。
その碧眼をすがめるようにしてアンネリーゼを睨んでいる。
「…よくこの場に顔を出せたものだ」
王子のとりまきらしき周囲の人が吐き捨てるように言った。
それにアンネリーゼはツンとすまして無視をした。
「私への招待状にはお時間が指定されていました。一体どんな趣向でいらっしゃるのかしら」
それには王子は怪訝な表情を浮かべたが、周囲の取り巻き達は無視された事にいきりたったようだ。
「よくもあんな真似をしでかしておいて、そんな事を言えるものだ!」
「どうせそれも虚言しょ?アンネリーゼ、君の姿はパーティ開始前に確認されてるんだ。何しろこの僕が見とがめているのだからね」
「着ていたドレスは違っているようだけど、あれは貴女ですよね。アンネリーゼ」
取り巻きの男達、どうやら青年貴族達のようだけれど、口々にアンネリーゼお嬢様を攻め立てる。
さりげなく、青年貴族達からアンネリーゼ様を守るようなタイミングでシュバルツが前に出た。
「これがお嬢様が受け取りました招待状の現物でございます」
シュバルツが、うやうやしく蜜蝋のされた金ぴかの招待状を王子に渡す。
「この招待状が本物かどうか、疑わしいものだ。すでにパーティがはじまって2時間が立つ、何故このような時間に姿を現したのだ?まさか、たった今着いたばかりだと嘘を並べたて、お前は自身が仕出かした事を隠ぺいできると思ってでもいるのか!?」
王子の声は地を這うような低い声だったけど背中がぞくぞくするような声だった。
「前からお前が、一人のか弱き女性を苛めて嬲っているという噂があったが、このような細工をしてまでと知ると呆れて物も言えぬ」
「一方の言い分ばかりにお耳を傾けられますの?それはあまりにも不公平で聡明なる殿下がなさる事だとは思えませんわ」
アンネリーゼの言葉に取り巻きの貴族青年達がみるみる激高していった。
「貴様!殿下を愚弄するか!」
「アンネリーゼの癖に!」
「この!女狐め!」
2番目のアンネリーゼの癖にってなんだよ。人格否定されちゃってるじゃん。
「お前が身分を嵩に、リリアナを苛めていた事は分かっているのだ。さらに今日、パーティ開始後すぐの慌ただしい時にリリアナを呼び出し突き落として殺そうとした事もな!」
よく見れば、王子の背に隠されるようにピンクの髪の一人の娘が震えていた。
その腕には包帯が痛々しく包帯がまかれ、ふるふると震えるその姿は庇護欲をかきたてるかのようだ。
「殿下、私怖い…」
王子はアンネリーゼ様に向ける表情から変わってとろけるような笑みを傍らの少女にむける。
「大丈夫だ、リリアナ。私にまかせて」
王子は一際高らかに声をはりあげた。
「アンネリーゼ!高位貴族令嬢としての立場を利用し、未来の皇太子妃であるリリアナを貶め蔑ろにしあまつさえ命を奪わんとした行為は断じて許されるものではない。婚約を…」
「お待ちください!」
それを遮ってシュバルツが声をかける。
「殿下の言葉を遮るとは何様のつもりだ!!」
周囲の青年貴族がいきり立って声をあげる。
「殺そうとしたって、何のことかしら?」
アンネリーゼが眉をひそめて言うのをさらに取り巻き達は口汚く糾弾する。
こいつら、本当に貴族なの?
僕達まで、眉が寄ってしまった。これではまるでアンネリーゼ様の公開処刑じゃないか。
しかも一方的な糾弾ときている。
「なるほど、あくまでとぼけるつもりか。ではこの場にいるもの全てがお前の罪を知る事になるのだがいいのだな?」
勝ち誇ったように王子は言い、蔑みの目でアンネリーゼを見下ろした。
ウン。アンネリーゼ嬢は、ちょっと小柄だものね。
最初、階段上より見下ろされた時には気が付かなかったけど。
「かねてより、アンネリーゼ、お前の苛めの被害にあっていたリリアナを、昨日より王城でかくまっていたのだ。寮の私室を水浸しにされて困っていたようであったのでな。そしてわたしたちで守っていた」
え、リリアナ嬢、殿下含め高位貴族子息たちに護衛させてたの?
それはちょっとどうなんだろう?
そういうの詳しくないけどおかしいんじゃないんだろうか。
「どのみち、今日のパーティでリリアナを皆に披露するつもりだった。
だからこその保護だったのだが、まさか王城では事を起こさないだろうと考えていたわたし達の予想を裏切って、パーティの開始後すぐにリリアナは手薄になった我らの保護下から何者かによって呼びだされ、そしてアンネリーゼ、お前に階段より突き落とされたのだ」
「ですから、そんな事実はありませんわ。私は今着いたばかりですもの。」
気丈にも落ちついた態度で反論するアンネリーゼ様。
だけど僕達はその扇を持つ手がわずかに震えているのに気が付いた。
…シュバルツが僕達に目配せをしてきた。
そうだ、僕達がいるじゃないか。
あの館から王城までずっと僕達はアンネリーゼ様と一緒だった。
「おそれいりますが殿下。私どもはある者を待っていたために遅参し、急いでおりましたがゆえに城下の街を飛んでまいりました。触れを出せばいくらも民より目撃の証言を得る事が出来るでしょう。
それに城の馬車の到着ロータリーのポーターを管理する部署に確認を取ってもらえれば正確な到着時間まで証言されるでしょう。そして何より、このシュバルツとそちらのお客人方は館から王城へさっき着くまで行動を共にしておりました。 」
急に僕達に視線が集まる。
僕達はドキドキしつつもアンネリーゼ様に指摘されたように、背筋をのばし口角をあげ証言をした。
「間違いありません。僕達はアンネリーゼ様あてへ文書をもって館まで出向き、そこからはここまでずっと一緒に行動を共にしていました」
「だが!私は見た!アンネリーゼがパーティ開始後すぐにあの出入り口からリリアナのいる殿下の私室の方角へ歩いていくところを見たんだ!」
「それは本当にアンネリーゼ様だったのですか?」
王子様の私室に未婚の女性を隠しちゃってたの?!!!
シュバルツは顔色を変えずに反論していたけど、僕たちの中では王子に対する評価がただ下がりだった。
保護とか言って、そういう事なのねと。
「何故、一緒に会場に連れていかなかったのか悔やまれる。頃合いを見て、紹介をしようと思っていたのだが、すまぬなリリアナ」
「殿下…」
見つめ合っている二人をよそに、周囲の取り巻きの青年貴族達はちょっとだけ面白くなさそうだ。
僕の中にひらめく物があった。
そうだ僕達にかけられた魔法。
着ている服などを替えたように見せられる魔法。
あれで髪の色とかも変えられるとしたら?
「少しおつきあいいただけますか?検証をしたいので」
僕はそう言うと、アンネリーゼ様を見かけたという青年貴族を出入り口まで誘った。
「その時のアンネリーゼ様はどのあたりを通ったのですか?」
「人の流れと逆行していて、だから気が付いたのだが、おかげとすぐに追いつくことが出来なかったのだ。 申し訳ないリリアナ。私が間に合わなかったせいで」
「いえ、あなたは来てくれましたわ。それだけでどんなにうれしかった事か」
さっきまで王子を見つめあっていたはずのリリアナ嬢は今度はその青年貴族と見つめ合う。
あれれれ?王子が何か面白くなさそうな顔をしているぞ。
「その時のアンネリーゼ様の頭はどのあたりでした?」
僕は豪華な装飾をされた出入り口の扉のあたりを指さした。
「そう、そのへんだ。その彫刻のライオンの口のあたりだ。私がアンネリーゼのその髪の色と髪型を見間違えるはずはない。」
まぁ僕も似た髪型は見た事はあるけど、アンネリーゼ様ほどの見事なドリル縦ロールは見た事ないよ。
「アンネリーゼ様。こちらへ」
アンネリーゼ様がその扉の横に立つと、僕の指したライオンの口のある位置よりずいぶんと低いところに頭がある。
上げ底靴とか背伸びで身長は高く見せる事は出来るけど低くするのは難しいよね?
「…勘違いで、もっと低い位置だったかも知れぬ」
その青年貴族は悔しそうに証言を翻そうとした。
あれれ~なんか怪しくないですか?
「ひょっとして、誰も正面からその人物の姿を見ていなかったし、突き落とすその瞬間さえ見ていないんじゃないですか?それでよくアンネリーゼ様のせいにできますね」
「だが!わたしたちが駆けつけた時、リリアナは倒れていたのだ!可哀そうにこんな怪我までして」
別の青年が殿下とリリアナ嬢を庇うように前に出てきた。
僕の視線はその青年の後ろのさらに後ろになったリリアナ嬢の包帯のまかれた腕に吸い寄せられる。
あれ?なんか違和感が。
「…リリアナ様はどうやって落ちたのですか?」
リリアナ嬢はすっかり顔を青ざめぶるぶると震えて答えた。
「私、アンネリーゼ様に突き飛ばされたのです。『貴女なんか殿下に相応しくない。いい気にならないで』って罵られて…怖かった。そして落ちました」
リリアナの大きな目からは泪のしずくが盛り上がっては頬を滑り落ちていく。
見る限り本当に被害者っぽいんだけど。
「話しをしていて突き飛ばされたんなら前から突き飛ばされたんだよね?」
「いえ、怖くて逃げようとしたので背中を突き飛ばされて…わたし、わたしっ」
「どのくらいの高さでした?」
「上の階の踊り場で突き飛ばされたのだ。可哀そうに思い出すのも辛いね。私達がきっとアンネリーゼに罰を与えるから。二度と君に近づけやしない」
リリアナ嬢はすがるような目でその青年を見ている。
あれれ…他の青年貴族達はまた面白くなさそうな顔をしているぞ。
「人間というのは転んだりする時、とっさに腕をついて庇おうとすると思うのですが…手首は痛めていないようですね?肩も平気なようですが…」
リリアナ嬢はさっきからビクっとする度に肩をはね上げたりしているから痛くなさそうなんだけど。
「腕も打ち身の痕も見えないんですけど。怪我をしてからもう2時間程度はたっているんですよね?」
「包帯の下が今頃は腫れてきているはずだ。何しろあの高さを落ちたのだからな」
僕は再び手をあげた。
「えっと、「殺そうとした」って言ってましたけど、それはオーバーなんじゃ?高さもそうですし、怪我もそんな程度だし…骨も折れていないじゃないですか。」
「「「「打ち所が悪ければ死ぬ事だってある!!」」」
僕は頭が痛くなってきた。そりゃ人間、平らなところでこけたって運が悪けりゃ死んじゃう事だってあるよ。でもそれをもって殺意があったとか言えるかなぁ?
それより何で僕らはこんな茶番につきあわされているのだろう。
人から頼まれて、何かの封書を渡しにきただけなのに。
その時、アンネリーゼモーゼが割った人垣をなんかめちゃくちゃ高貴そうなカップルが歩いて僕達に近づいて来るのに気が付いた。
「これは一体なんの騒ぎだ」
うわ。王冠被ってるし、王様だよこの人。
お隣はティアラをしたご婦人。
「父上!母上!」
殿下もそう言っている事だし、王様とお妃様らしい。
いやぁこんなに大きな息子さんがいるようには見えないなぁ。
皆一斉に臣下の礼をとるを見て、僕達も慌てて周囲と同じ姿勢をとって礼をした。
「お騒がせして申し訳ありません。たった今この女狐めを糾弾しておりました」
王様はやや不快げな表情をすると軽く腕をあげ、王子の言葉を制した。
「アンネリーゼよ、久しいな」
「はい、陛下におかれましてはお変わりなく壮健そうで」
「口上はよい。ところでシュバルツ。主がここに顔を見せるということは、そういう事だと思ってよいのだな?」
「はい。こちらにございます」
シュバルツは僕たちが預かった封書を王様にうやうやしく差し出した。
今更思うんだけど、あの中身って一体何が書いてあるんだろう。
「この者達に預けたようでございます」
「ふふ。相変わらず、面白い事をするのう。あの男は」
王様は封書を破ると中身をその場で読んだ。
そして読み終わった後、ため息をついた。
「その者を捕えよ」
「「「はっ!!!」」
王様の背後をさり気なく警護していた騎士さん達が、…リリアナ嬢を拘束した。
「「「なっ???」」」
王子もとりまきの青年貴族達も驚きのあまり口をあけたまま固まっている。
「やめて!!たすけて王子殿下!」
リリアナ嬢は激しく抵抗して暴れた。
うん、あれ、どう見ても怪我とかしてないよね。
「父上!!!どういうことですかっ」
王子が王様に食ってかかる。
や、それはまずいんじゃないの?こんな場所でただの親子喧嘩ではすまなさそうな雰囲気なんだけど。
「静かになさい。騒がしいですよ。一体あなたはいくつになったと思っているのですか?」
それを窘めたのは王妃様だった。
王様はそんな王妃様を宥めるように肩に手をおいたあと、会場を見回して言った。
「さて、騒がせてしまったな。今夜の主役は少々浮かれが過ぎるようだ。酔いを覚まさせるために少々中座させるが、皆は楽しんでくれたまえ。」
王の視線を受け、侍従と思われる男性が合図をすると、ダンス用の音楽がはじまった。
空気を読んだ何人かのカップルが中央に出てきてダンスをはじめると、釣られるように他の人達も踊りはじめた。
そして、まだ戸惑って立ち止まっている人達には何事もなかったかのように給仕をはじめる使用人さん達のスルースキルがすごい。
「さ、こちらへ」
文句を言っている青年貴族達も有無を言わせない勢いで騎士さん達に連れられ、僕たちも含めて別室に移動したのだった。
結論を言えば、僕達に封書を渡してきたのはアンネリーゼ様のお父上その人らしい。
なんでも同盟関係を結んでいたはずの隣国の動きがきな臭くて探っていたようだ。
そして封書の中身の内容は裏切りを画策していた同盟国の大臣の名前と行動を記した内容だったらしく、大変な中身だった。
この国に戻る時に、一般人のふりをして僕達のツアーに潜り込んで帰国したものの毒を盛られていたらしい。
あれは病気じゃなかったんだ。
幸いすぐにツアーの添乗員の手によって病院に連れられていって回復に向かっているそうだ。
しかし貴族家当主その人が自ら諜報員みたいな真似をよくやるなぁ。
そしてリリアナ嬢は殿下を骨ぬきにさせるためにその大臣から送られた工作員だったらしく、まぁその文書のせいでばれちゃったと。
アンネリーゼ様はとっくに殿下に愛想をつかしており、この誕生日パーティも仮病をつかって休む気だったのだけど、父親より王城まで届いたものを届けるように託けられていたため、いやいや来たのだそうだ。
まぁなんというか色ボケ王子乙。
そんな暴露話を聞かされたのはツアーに戻ってこの国から出る時で。
説明もろくにされずに王城から追い出されて僕達にシュバルツが話しをしに来てくれたのだった。
「今度は個人でお見えになってください。私が案内させていただきます。」
この国でのツアーの自由行動時間の殆どを件の騒ぎで取られてしまって、結局ろくろく観光もできなかった僕達を彼は見送りながらそう言ってくれた。
「それからアンネリーゼ様を庇ってくださってありがとうございます。お嬢様も感謝されておいでました。それではよい旅を」
見送ってくれるシュバルツに僕らは手を振った。
なんだかわかれるのが名残惜しい。
「私も案内してもよくってよ」
空耳だろうか、アンネリーゼ様の声まで聞こえたような気がして苦笑いが浮かぶ。
「けっきょくここの中世的な街並みを観れたのはあの馬車での一幕だけだったな」
「スピードがすごくてよくわからなかったけどな。代わりに普段は絶対入れない王城の中に入れたし」
「背中をのばして顎をひいて…か。姿勢、もう少し気をつけようかな」
生意気そうな女の子だったけど、今思うと可愛かったな。
ツアーは国境を越えた。
「お疲れ」
「お疲れ」
チケットと引き換えに写真を受け取る。
「にあわねぇ」
その写真には首から下がスーツを着た身体になった僕達がうつっている。
「まぁおもしろかったな」
「うん。だな」
「ところでさぁ~。ここな。ランダムらしいぜ。今回はシュバルツだったけど」
「へぇ~他の執事ってあんの?」
「ああ、定番のセバスチャンだろ?クロイツ、ロバート、木島ってのもあるらしい」
「お嬢様も金髪縦ロールのアンネリーゼ様以外に黒髪ロング。銀髪アメジストとかな。何故かヒロインはピンク一択らしいけど」
「ほー」
「今回は『ヒロインざまぁ』だったけど、さらにランダムで『悪役令嬢ざまぁ』もあるんだってさ」
「普通は逆じゃないの?」
「だよなー、でもそもそもが『なろう系アトラクション』だし」
「次はどこへ行く?」
「俺、飛竜でGOがいいな」
「またライド系かよ~~」
最期の方はないほうがいいよーって思う人もいるかもしれませんが、これはこれで。
参考作品
http://ncode.syosetu.com/n9346dt/




