表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/59

11. 回想:倫理欠損のディナ

「ちょっと! 何回言ったらわかるんですか? 女の子に過度なスキンシップはダメ! 遵守してくださいよ、小隊長」


 それは懐かしい声だった。

 エイド・ダッグマンがまだ魔術師軍全体の長ではなく、位の低い小隊長だった頃のこと。

 その時にはすでに表の顔が出来上がっていて、エイドは男性女性関係なく、部下たちに過度なスキンシップを取っていたのだった。


「ああ。すまないね。わかってはいるんだが、愛すべき部下たちは平等に扱いたくなってしまって……。だからつい、成果を上げた時なんかは熱い抱擁をかわしてしまうんだよ」


「そんな真摯な顔して言ってもダメですからね! 最近じゃ、本気にしちゃう女の子たちも増えてきてるんです」


「本気? とは?」


「清々しいほどに鈍感ですね。ダッグマン小隊長を恋愛の対象にしているってことですよ」


 そうやって苦々しく注意をしてくれる少女の名はディナ。新進気鋭のダッグマン小隊の中で、規律と風紀を重んじる少女だった。

 エイドはディナと二人、王城の中庭にいた。正確には、くつろいでいるエイドのところに、ディナが注意をしにきたのだ。

 彼女が忠告をしてくるのは、毎日のことだった。エイドはそんな彼女の説教を心地よく思っていた。ディナには悪いが、平和を感じることができたのだ。そうやって、部下に怒られている時間は、過去のエイドには体験できなかったものだ。


 怒られている間、エイドはずっと、彼女の金色の髪の毛を見ていた。ふわふわと柔らかそうで、しかし、触ろうとすると怒るので、未だに触れたことはない。


「あー、またディナ怒ってる~! ほんと、見た目は派手なのに、一番真面目だよねー」


 同じ小隊の女子が通りかかって茶々を入れてきた。


「っ~~!」


 ディナは金色のツインテールを隠すように手で覆うと、恥ずかしそうに俯いた。顔は真っ赤に染まっている。茶々を入れてきた隊員がいなくなった後も、ディナは照れたように視線を逸らしていた。


「……やっぱり、変だと思いますか? 小隊長も」


「なにがだい?」


「……この髪と、性格があってないって」


 自信なさげにディナは呟く。

 だが、エイドは優しい笑みを浮かべて首を横に振った。


「そんなことはない。その髪は生まれつきだよね。とても綺麗な色をしている。真面目な性格のキミにふさわしく、気品に溢れた黄金色だ」


「本当にそう思いますか?」


「本当にそう思うよ。だから、ちょっとだけでいい。触らせてくれないかな?」


「また! すぐそうやって、人に触ろうとするんですから!」


 どさくさに紛れて手を伸ばしたエイドから、ディナはバッと飛び退いて睨んでくる。

 そして、まだ火照ったままの頬で彼女は言う。


「……そういうこと、言わない方がくださいっ。私だって、本気に……い、いえ! さあ! 今日こそは真面目に働いてもらいますからねーっ!」



 それは、エイドの胸のうちに秘められた懐かしい思い出。

 とても温かい、仲間との記憶の一つだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ