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05. 魔導人形の少女

 集落で竜弥たちを出迎えてくれた人形少女は、ハイリと名乗った。

 ラディカルヒットは魔導品の調整があると言い、先にどこかの建物へと入っていってしまっていた。待機中の竜弥、ユリファに向けて、未だほんのり赤面している彼女は、こほん、と咳払いをすると、場を仕切り直した。


「改めまして……ようこそ、魔導人形の集落へ。ここは長年にわたって隠匿されてきた禁忌の土地となります」


「隠匿されてきた?」


 竜弥は首を傾げる。しかし、ユリファは辺りを見回して納得したように頷いた。


「確かにそうでしょうね。禁止されているはずの人形術式が用いられた、魔導人形の気配がここまで大量にあるなんて、王都の魔術師協会が知ったら度肝を抜くわ」


「魔導人形を作るのは禁止されているのか? なんでだ?」


 竜弥は再び、きちんと集落の様子を確認する。木造の簡素な小屋が立ち並び、そこかしこで村人らしき魔導人形たちが薪を割ったり、生活道具をこしらえたりと熱心に働いている。その光景は前時代の光景ではあるが、人間が今まで行ってきたことと大差ないように見える。


「魔導人形は倫理的に問題視されているのよ。人間と同じ見た目で同じ寿命。だけど、術式使用者の命令に従う。どんなことにでも使える人間を生み出すことと変わりないからね。けど、ここまで大掛かりな魔導人形の村を作って、長年隠し続けるなんて、そう簡単なことじゃないはずだけど……」


 ユリファは少し怪しむような視線をハイリへと向ける。なるほど、ユリファの言っていることが正しければ、この集落を作った主はただの一般人ではないということになる。


「今までこの集落は、主が最後に遺した結界術式によって、その魔魂の気配を外に漏らすことはありませんでした。ですが、最近の大規模転移術式の発動によって結界は崩壊。渋谷を目指してやってきたラディカルヒットさまたちに発見されてしまったのです」


 ハイリは少し悲しげな目をして、視線を落とした。ラディカルヒットたちに協力的ではあるようだが、見つかったこと自体は本意ではなかったようだ。


「で、あなたたちを作った人物っていうのは誰? こんなの、相当な実力者じゃなきゃ無理なはずよ」


 ユリファの問い詰めに、ハイリは観念したように息をつくと、


「できれば、その話は避けたいところだったのですが……やはり、ユリファさまはごまかせませんね――私たちの創造主、その名はバラゴー・フィルデスと申します」


 その名前を聞いたユリファは、眉をぴくりと震わせる。


「バラゴーって、あのバラゴー?」


「ユリファさまの仰っている方がどなたかはわかりませんが、私たちの主は、リーセア国特一等魔術師であったバラゴー・フィルデスさまです」


「……そういうこと、ね。なんとなく話が見えてきたわ」


「おい、俺は何もわからないぞ。誰なんだ、その男は」


 以前、リーセアに滞在していたというユリファは、大体の事情を理解したようだが、竜弥からすれば、知らない名前に知らない役職、知らないことだらけである。

 ユリファは難しい顔をして腕を組むと、竜弥の方に向き直った。


「特一等魔術師バラゴー・フィルデス。私も顔は知らないんだけど、有名な魔導人形術式の第一人者よ。彼は優秀過ぎた。人形術式などの生成系魔術の才能はもちろん、戦闘魔術ももちろん秀でていて、そのおかげで最高位魔術師の一つ下、特一等魔術師にまで登り詰めた男よ」


「魔術師の格ってややこしいよな……。テリアほどはいかないけれど、すごい奴だったってことか?」


「竜弥はこの短期間で、数少ない最高位魔術師に会いすぎなのよ。最高位魔術師っていうのは、一つの国に十人もいない本当の天才なの。その下には、特一等魔術師、一等魔術師、二等魔術師、三等魔術師、一級魔導士、二級魔導士、下級魔導士と続くわ。特一等、一等魔術師は高位魔術師、二等三等魔術師は低位魔術師というくくりで、最高位魔術師の中の頂点に大魔術師というカリアのような化け物が君臨する。だから、バラゴーは超エリートと言って問題ないわ」


「解説してくれたとこ悪いけど、余計わからなくなったわ……。結構、その辺厳密に分かれてるのな。適当かと思ってたわ」


 ユリファの言ってくれたことの半分以上を竜弥はもう忘れているが、必要なことはその度にユリファに聞けばいいので、今、無理して覚えなくてもよいだろう。と、ユリファにバレたら怒られそうなことを彼が考えている横で彼女は話を続けた。


「バラゴー・フィルデスは、魔導人形の研究を確かに完成させた。けれど、さっきも言った通り、倫理的な問題で魔術師協会から研究の停止を求められたの。そして、彼を研究から遠ざけるため、リーセア国は当時、別の場所で猛威を振るっていたアガディス=ランド級『ミーム』の調査に彼を派遣した」


「……そこで『ミーム』が出てくるのか。それで? その後はどうなったんだ」


「彼の話はここで終了よ」


「は?」


「バラゴー・フィルデスは調査に出たまま、姿を消したの。そして、それきり一度もリーセア国には戻っていない。だから、リーセアの人々は言うのよ。魔導人形研究にとりつかれ、王都からの『ミーム』の調査命令を放置して姿を消した反逆魔術師、とね。特に、『ミーム』の実態把握が遅れて、故郷を襲われた人たちは彼を心の底から憎んでいるはず」


「……」


 ハイリはぎゅっと唇を噛みしめながら、ユリファの言葉をじっと聞いていた。何かを言い返すわけでもなく、ただ無言で。


「そんなバラゴーが隠れて作った隠居地がこの場所ってことね。思わぬ発見だわ」


「……ユリファさまも、バラゴーさまのことを憎んでいらっしゃいますか?」


 黙っていたハイリが小さくそう訊ねてきた。その表情は酷く不安そうだ。

 しかし、ユリファはきょとんとした顔でへ? と小首を傾げた。


「わたしは別になんとも思っていないわよ。『ミーム』に関してだって、バラゴーの任務遂行の有無は、被害の大小にあまり影響なかったと思うわ。わたしはただ、リーセアに滞在していた頃、話題になっていた人物が作った村っていう事に珍しさを感じていただけよ。敵意はない」


 そのユリファの言葉を聞いて、ハイリは見るからに安心した様子で大きく息を吐いた。胸に手を当て、小さく笑顔を浮かべる。


「ありがとうございます。私たちは主が悪く言われることを本意に思っていませんので」


「それはそうだよな。誰だって、親のことを悪く言われたらいい気分にはならないだろ」


 竜弥も険悪な展開にならなくてよかったとほっとする。反逆者バラゴー・フィルデス。その集落に厄介になるのだから、無用な争いは避けたい。


「でもさっき、主が遺したって言っていたよな? ってことは、もう彼は?」


 そう訊ねると、ハイリはこくりと一度だけ頷いた。その瞳には悲しみが宿っている。


「主バラゴー・フィルデスさまは、すでにお亡くなりになっています。私たちは彼の忘れ形見。ご迷惑をおかけしたリーセアの人々のお力に少しでもなれるのであればと、今回協力をお引き受けしたのです」


「そういうことね。全て把握したわ。じゃ、これからよろしくね。ハイリ」


 ユリファはその小さく華奢な右手を差し出した。ハイリと握手をして、二人は優しく笑い合う。すると、魔導品の調整をしていたラディカルヒットがちょうど戻ってきた。

 彼の背後には、前にリーセア王城の魔導品保管庫で見た地球儀型魔導品を抱えた猫少女もいる。どうやら、魔魂検索の準備は完了したようだ。


 ラディカルヒットは相変わらずの陽気な笑みを浮かべて、竜弥に向かって言う。


「こっちは準備オーケーだぜ、御神。それじゃ、一仕事始めるとしようか」

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