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03. 拠点へ

「さて、自己紹介も済んだところでビジネスの話をしよう。ようやく設立された臨時政府さまは先日、異世界の国家リーセアと会談を開き、協力して事態収束にあたることを決定した。このことは知っているか?」


 髑髏のペンダントを触りながら、ラディカルヒットは訊ねてくる。日本臨時政府が設立されたことはすでに知っていた。リディガルードを離れる前に、エイドから口頭で報告されていたし、スマホで得られるニュースでもその話題で持ち切りだ。


「ああ、知ってるよ。でも、お前たちみたいな傭兵まで雇っているとはな」


「オレたちみたいな能力者を囲い込むことに決めたのは、王国魔術師軍の魔術師長さまだ。奴は日本とリーセアが決定した人命救助計画と都市防衛活動を進める中、王女さまに内緒で転移術式による日本国土の修復計画を始めた。具体的には、その実働部隊である御神竜弥、並びにユリファ・グレガリアスの護衛、援護任務だ。そして、オレたちは極秘でここに派遣されてきたってわけだ」


 ラディカルヒットは、今までの経緯を流暢に話してみせた。やけに手馴れている。異世界転移前に彼が何をやっていたのか気になるが、今はそれどころではない。

 ユリファは一通り話を理解すると、ため息をついた。


「金で雇われた仲間、ね。正直、一ミリも信用できないけど、あなたたちが敵側につくのを防ぐという意味では効果はあるのかも」


「そうそうー。あたしはずうっと暇々してたからさー。本音を言えば、お金もらえて楽しいことできるなら、どっちでもいいわけよぅー」


 猫少女はヒップホップの音楽を切った後も、律儀にラジカセを細い腕で抱いていた。陽気な話し方ではあるが、彼女も能力者。油断はできない。


「それで、ラディカルヒットたちは、このまま俺たちに同行してくれるってことでいいのか? 俺とユリファは、このまま渋谷の中心まで行って、ガルミニウス峡谷の再転移を行うつもりなんだが」


 通常、転移地を元に戻すためには、その土地に流れる魔魂が集まる場所、すなわち転移地の中心部に、テリアからもらった魔魂の楔を打ち込む必要がある。だが、ガルミニウス峡谷の場合は、そのプロセスも特別だった。円環状の峡谷に流れる魔魂は地下を通って、その円の中心、渋谷の座標に集まる形になっていたのだ。

 つまり転移を行うためには、渋谷の中で魔魂が集中している場所を見つけなければいけない。


「ふうん。別にいいんだけどよ。楔を打ち込む場所ってのはもうわかってんのか?」


 簡単に現状を説明すると、ラディカルヒットは若干顔をしかめてそう言った。ただでさえ目つきが鋭いので、そんな表情をすると悪人にしか見えない。


「いや、それはまだなの。わたしが魔魂の気配を辿って、見つけ出そうと思っているんだけど」


 ユリファの言葉を聞いて、ラディカルヒットは首を横に振った。


「それは止めておいた方がいい。『ミーム』にやられてから、この街に一般人はいねえが、その代わりにモンスターが増えちまった。悠長に魔魂を探りながら進むのは得策じゃねえ」


「それは……確かに危険かもしれないな」


 竜弥はラディカルヒットに同意する。竜弥の中でラディカルヒットへの印象が少し変わりつつあった。彼ならモンスターがいても、そんなこと気にせず力で押し進め! と言いそうだが、冷静さも兼ね備えているようだ。


「これは提案なんだが、一度、オレたちの拠点に向かうってのはどうだ?」


「リトルアンガーには拠点があるのか?」


「ああ。お前たちも知っている通り、ガルミニウス峡谷と渋谷の間には、緩衝地帯として森林があっただろ? その中の集落にオレたちは間借りさせてもらっているのさ。拠点に戻れば、魔魂の流れを探知する魔導品もある。どうだ? 悪い話じゃないだろ」


 確かに、ラディカルヒットがいうように、ガルミニウス峡谷と渋谷の間には、同じく円環状の森林緩衝地帯があった。竜弥たちはその一部を通って、渋谷へやってきたのだ。

 ラディカルヒットの提案を受けるのがここは得策である気がした。特に、魔魂探知の魔導品があるというのが大きい。さすがは王国から派遣された傭兵、装備はしっかりしているようだ。

 ユリファは依然警戒をしているが、拠点に同行することに異論はないようだった。ここで意地を張って、モンスターの集団に囲まれでもしたら、それも馬鹿みたいな話だ。


「了解だ。じゃあ、行こう。その拠点とやらに」


 竜弥は大きく頷くと、少しの間、黙っていた猫少女が軽快な動きで前へ躍り出た。


「じゃーいこいこ! あたし、お腹も空いてるしー」


 かなり呑気な物言いだ。振る舞いだけでは実力者とは思えない。しかし、「ついてきて!」と言った彼女の動きに、竜弥は目を見張った。


 現在の渋谷の路上には、大量の瓦礫が散乱している。ビルが倒壊して、もはや一つの山になっているところもあるほどだ。しかし、その瓦礫の中を猫少女は素早い身のこなしで走り抜けていく。一瞬も止まることはない。高速の足捌き、そして、脚力を活かした跳躍。みるみるうちに、彼女の姿は消えてなくなってしまった。


「やれやれ。あいつは放っておいて大丈夫だ。オレたちはオレたちのペースで行こう」


 ラディカルヒットは、そんな猫少女の後ろ姿を見送ると、竜弥たちに苦い顔をして笑った。

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