35. エリナの手記 side:エリナ・シュリデルト
中央管理塔管理室、エリナ・シュリデルトの手記
〈今日から、中央管理塔で『サポーター』として働くことになった。憧れの都市長さまの支援業務。楽しみ。新生活を記念して日記をつけることにする〉
〈思えば、都市長さまと初めて会話をしたのは、私がまだ小さい女の子だった頃。すでにリディガルードを守っていた都市長さまの姿は、私の憧れだった。一緒に遊んでもらえたらしく、その時に「わたし、いつか都市長さまと一緒に街を守りたいです!」なんて都市長さま本人に言っていた、と母親から聞かされた。恥ずかしい〉
〈都市長さま、今日もカッコよかった。尊敬。大好き。でも、『サポーター』は、都市長さまの支援を機械的に行うことを求められている。あまり感情を出すことはできない。でも、都市長さまのそばにいられるだけで、私は嬉しい〉
〈自分の名前は可愛すぎると思う。エリナなんて、可愛い子につける名前だ。私は可愛くないし、みんなに愛されるような人間でもない。『サポーター』ほど冷たい人間だとも思わないけれど、『サポーター』に徹している時の自分を嫌いなわけじゃない〉
〈中央管理塔の業務は楽しい。街の人々の声を聞き、それを反映させる形で事業を行う。私一人しかいない管理室は日中夜間いつでも対応できるように、居住スペースも兼ねているから、なかなか外に出ることはない。だけど、文字だけだとしても、街の人からありがとうという手紙が届くと、涙が出るほど嬉しい〉
〈モンスターが初めて襲ってきた。実戦経験がなかった私は混乱してしまい、都市長の支援を何一つできなかった。すごく怒られた。私は役立たずだ。今日はもう寝よう。役立たずはご飯を食べる価値もない〉
〈数度目の実戦。初めて都市長が褒めてくれた。私はその場で泣いてしまった。街を守ることの大変さを知った。より都市長のことが好きになった。あ、都市長に「さま」をつけるなと言われたから、呼び捨てにすることになった。恐れ多いけど、戦闘時にその一秒が命取りになるからと言われたので、従うことにした。その通りだと思う。情報を正確に伝えるため、自分の感情を、もっともっと抑えることにした〉
〈最近、都市長のお身体の調子が悪い。大量の魔魂使用による身体への悪影響。聞いたことはあるけれど、実際に目にすることはほぼない。どれだけ多くの魔魂を使えば、そんなことになるのだろう。都市のために頑張る都市長のことを、あらためて尊敬する〉
〈やっぱり好きだな……都市長のこと〉
〈今日はテリアさまが管理室に乗り込んできた。一緒にご飯を食べさせられた〉
〈テリアさまが何か考え事をしていた。都市長の体調のことだろうか。最近は外にも出なくなってしまい、テリアさまも心配しているようだ〉
〈テリアさまがだるいと言って、ベッドから動かなくなってしまった。どうすればいいだろう? 言うことを聞かない娘を持ったみたいで、頭を悩ます〉
〈リーセアの大規模転移術式。それが発動する日が来るなんて、思いもしていなかった。転移先の国は日本というらしい。転移術式が不完全なせいで、日本とリーセアは混ざり合ってしまったのだと、テリアさまは憤っていた。転移術式が得意なテリアさまから見れば、たしかに怒るに値する結果なのだろう。それにしても、テリアさまは依然としてベッドから出ようとしない。横になったまま怒っている姿は、本人には言わなかったけれど滑稽だ〉
〈やはり、都市長の体調は良くない。魔魂誘導砲は今後、控えた方がいいかもしれない〉
〈大規模転移魔術の発動後から、モンスターが襲撃してくることが多くなった。忙しいため、日記をつけるのをしばらくやめることにする。私は尊敬する都市長と街を守れて嬉しい。できればずっと一緒に街を守りたい。大好きです、都市長。なんて、直接言えないから、ここに書いておく。それじゃあ、また平和になったら、都市長との日常を綴りたい〉
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