33. 化け物の集合地点
今回、ちょっと短いです。
その分、明日は長い……! 期待していてくれ……!
「着いた……! 中央管理塔……!」
息切れを起こしながら、中央管理塔正面玄関をくぐり抜けた竜弥は、運んできたテリアをその場に下ろすと、動悸を整えるため胸に手を当てて、ゆっくりと深く呼吸をする。
ここ数日、お姫さまだっこで鍛えられたとはいえ、混乱状態の街の中を、テリアを抱えて走り抜けるのは容易なことではなかった。
錯乱した市民と何度かぶつかったし、近くの建物が崩れてきて道が塞がることもあった。竜弥はテリアを置いた後、すぐにでもユリファを探しに行こうと考えていたのだが、現実的に考えると、ここで休息を取らずに外へ出ていくのは無謀だ。せめて、呼吸くらいは正常に戻さなければ。
「ありがとー。竜弥。助かったよ」
間欠的に続く激しい揺れ。中央管理塔だけを視界に入れて、ひたすら走っていたため、外が具体的にどうなって、どんな化け物が襲ってきたのかを竜弥は理解していない。
中央管理塔の一階には、すでに避難した後なのか、職員の姿はなく誰かに状況を聞くこともできない。
だが、彼が状況把握に動く必要はなかった。
「ウルゥ! ウーウー! キュピッ!」
竜弥たちが入ってきた自動正面玄関。
その強化ガラスの向こうには、忘れるわけもない化け物が立っていた。しかも、二体。
それは、王城魔導品保管庫で遭遇した悪夢の兵器『無邪気な箱』、その胴体部である。
「な、なんであれがここに……?」
「ふぅん。そっかー。敵は『無邪気な箱』を投入してきたんだね」
床にぺたんと女の子座りをしたテリアは、化け物の姿を見て呑気そうに言う。
「そっか、じゃねえだろ!? ってことは、街の人たちは――」
竜弥がテリアの方に視線を向け、意識を逸らした瞬間。
「ウルゥ! ウルゥウルゥ!!」
中央管理塔から少し離れたところに立っていた二体の『無邪気な箱』胴体部は、地面を楽しそうに蹴ってこちらへと走ってきた。その様子は遊び相手を求める幼児のよう。だが、踏み込まれた足は地面を激しく抉り、筋肉質の大脚の瞬発力によって、胴体部は弾丸のように急加速する。
そして、中央管理塔の正面玄関に激突した。
ものすごい衝突音がして思わず竜弥は目を閉じたが、建物が破壊された気配はない。おそるおそる目を開けると、正面玄関前に青色の魔魂シールドが発生し、二体の胴体部の体当たりを止めていた。
竜弥はほっと胸を撫で下ろし、改めて胴体部に目をやって。
彼の呼吸が止まる。
すぐ目の前で停止した胴体部。その至る所に、大量の返り血が付着していた。あまりにも多量。まるで何かを踏み潰したような。
それが示す事実は、一つだ。
一瞬、頭が真っ白になって、それでも竜弥は意識を保った。いつまでも狼狽えているわけにはいかないのだ。ここは異世界。そして、竜弥は決心した。
ユリファに守られるお荷物ではなく、一人でも戦えるパートナーになると。
「…………」
だが、竜弥と違い、テリアは『無邪気な箱』胴体部の大量の返り血を目にして、黙ってしまった。表情は笑顔。だが、硬直したようにまるで変化がない。
「テ、テリア……?」
竜弥が心配して声をかけても、微動だにしなかった。彼はテリアに近寄ろうとしたが、新しい衝撃が中央管理塔を襲う。先ほどの体当たりとは違う、連続した打撃音だ。
竜弥が素早く周囲を見回すと、塔外部の地面から隆起した太い腕が、中央管理塔をぐるりと囲み、その全てが展開した魔魂シールドを高速で殴り続けていた。衝撃の間隔は極度に短くなり、そしてただの振動と変わらなくなる。竜弥はその場に立っていることもできずに、大きく尻餅をついてしまった。
「な、なんだ? 中央管理塔を集中攻撃しているのか?」
「……おそらく、敵の狙いは魔魂誘導砲とその設計図ってとこだと思う。だから、中央管理塔を攻めるのは必然だね」
テリアは静かな口調で竜弥の疑問に答えた。
「なっ……! 知ってたのか、テリア! なら、なんで早く言わないんだ! ここに逃げ込んだらまずいのはわかってたんだろ!?」
竜弥はいよいよテリアの思惑がわからなくなって、混乱したように叫ぶ。だが、テリアは首を振った。
「ううん。いいの。これで合ってる。私はここに来る必要があったんだよ」
「なに、言ってんだ……?」
呆然とする竜弥に、テリアはその場にそぐわない、ふんわりとした優しい笑顔を浮かべた。
「本当にありがとね。竜弥」
昨日、気合入れた長めの活動報告書きましたので、そちらもご覧ください。
もし需要があれば、設定についての解説とかもそちらでしたいと思いますので、
何か要望があればどこかへメッセージ残してくれると嬉しいです。