表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺たちの国に異世界が転移してきた日。  作者: 月海水
第一章 異世界が転移してきた日。
20/59

19. リディガルード防空網――魔魂誘導砲砲火


『都市長。リディガルード上空に強大な魔魂反応を感知しました。現在、迎撃システムが警戒状態に移行。のちの判断は都市長に一任します』


 リーセア王国最大の水源地、リディガル大水源の中心。

 そこに位置する島都市リディガルードの中央管理塔最上階に、けたたましい警報と無感情な声色の魔魂通信が入った。

 中央管理塔最上階はワンフロア全てが大きな一つの部屋になっており、天井や側面を覆うのは魔魂を込めて作られた強化ガラスである。島都市の中心に建てられたその管理塔は周囲のどの建物よりも高く、その最上階ともなれば、広大な水源をどこまでも見渡すことができる展望台のような、見事な眺めになっていた。


 部屋の真ん中、ぽつんと置かれた肘掛け椅子に深々と座る一人の人間がいた。彼女は深く長い息を吐くと、強化ガラス越しに、異常な魔魂反応を検知した方角を見る。


「やれやれ、またかい。面倒なこったね」


 年老いてしわがれた声色の独り言が、冷たい印象の室内に響き渡る。発した言葉が誰に聞かれるわけでもなく消えていくのは虚しい光景だったが、もうしばらくの間、その部屋から外に出ず、椅子に座り続けている彼女はそのことにも慣れてしまっていた。


「異世界に転移してからは、特に魔物の襲撃が多いねえ。本来なら交わるはずのない地域同士が隣接したことが原因かね……。それにしても、この街が転移しちまったってことは、王都は敵の手に落ちたってこった。グレガリアスの奴は何をやってたんだろうね?」


『都市長。魔魂の独特ユニークパターンを解析。魔導品ライブラリによると、高位存在「碧竜」の物だと思われます』


 機械のように冷たい声色が、音声を伝導する魔導品を介して再び事務的に室内に届けられた。都市長と呼ばれた老婆は椅子に座ったまま、ぴくりとも身体を動かさずに、敵が来襲してくる方向の青空を眺めている。


「碧竜? また大層なもんが襲ってきたもんだね。わざわざ、あたしのとこに来るほど馬鹿じゃないと思っていたけれど――まあ、そういう不可解な現象には何か理由があるってのが物事の道理だ」


『他にも魔魂反応を検知。しかし、こちらの解析に碧竜の魔魂が干渉しているため、詳細は不明。碧竜は直線軌道でリディガルードに接近しています』


「高位存在だからといって、この街を襲わせやしないよ。このリディガルードの防空網がリーセア一と呼ばれる所以、奴に見せてやろうね」


『ご命令を』


「できれば、あまり身体に負担はかけたくないんだけどね、仕方ない――」


 そうぼやいた老婆の身体から、瑞々しい青色の光が溢れ出す。青い閃光が彼女の座る椅子ごと包み、椅子から床に伸びた無数のコードへと魔魂の光が宿っていく。


 ぼんやりとしていた老婆の双眸が、獲物を狩る狩人のように鋭く研ぎ澄まされて光った。


「――リディガルードの全防空システムを迎撃態勢に移行! 必要な魔魂の供給は任せな。獲物に忘れられないくらいのドぎつい一撃を喰らわせてやるよ」


『了解。魔魂誘導砲オンライン。射角誤差修正、目標は高位存在「碧竜」。照準固定、自動追尾モードに移行。魔魂供給に異常なし。充填率、80パーセント』


「む、あのバカでかいのが碧竜だね。敵を目視で確認したよ。各種防空魔魂火器に、魔魂供給のいくらかを回して敵を足止めしな。その間に魔魂誘導砲の充填を急ぐんだよ」


『了解。各種防空魔魂火器に使用可能供給エネルギーの30%を回します。適宜、発射開始……命中。碧竜の右翼にダメージを確認。目標の機動性低下』


「魔魂誘導砲はもう撃てるのかい?」


『ネガティブ。充填率90パーセント。原因は魔魂主砲にエネルギーが分散したため――碧竜から圧縮された魔魂反応を確認。敵の攻撃と見られます。着弾地点計算……完了。着弾地点、中央管理塔最上階。敵、複数の光弾の発射を確認。着弾まで3、2……』


「ほう。さすがは有形高位存在。本能的にここが脅威だとわかっているようだね。でも甘い。あたしを誰だと思ってる」


 圧縮された眩い碧色の光弾が、最上階の強化ガラスへと高速で迫る。通常の建物であれば、欠片も残らないほどの一撃。それが強化ガラスに直撃し、盛大な花火が至近距離で炸裂したかのように激しく火花を散らした。


 だが、中央管理塔は微動だにしない。


『光弾、塔の最上階に着弾。魔魂供給の95パーセントを一時的に魔魂シールドへと使用。光弾、シールド外部で炸裂を確認。中央管理塔の損傷率、0パーセントです』


「さあ、そろそろ魔魂誘導砲は充填できたかい? 今度はノーとは言わせないよ」


『魔魂誘導砲の充填率、100%。照準確定。いつでも行けます』


 その言葉を聞いて、老婆は顔を歪めて舌なめずりをする。


「さあ、力を見せてやりな――魔魂誘導砲、発射!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ