プロローグ
ネット小説、始めてみました。
まだ慣れないので、何かご指摘ありましたら、お気軽にどうぞ。
プロローグだけ文字数少なめです。本格的な物語開始は二話目からです。
鼻につくのは、焦げ付いた内装の臭いだった。
リーセア王国、その王女であるリーノ・リンド・リーセアは王城の床に無様に倒れ込んで、自らの周囲を覆い尽くす大炎を瞳に映していた。
リーノの瞳は悲しみに染まっていて、揺れる炎の温度で彼女の意識は朦朧としている。
「……なんで」
彼女がきつく絞り出すように発した小さな呟きは、突如、大炎に包まれた王城内、そこで起こった混乱と喧噪にかき消される。悔恨に塗れたリーノの声に呼応するように、焼け焦げた調度品が派手な音を立てて床に散らばった。豪奢な廊下に飾られていた高価な絵画たちは一つも残すことなく、業火へと消えていく。
「……なんで、なの」
城内には、リーノの他にも大勢の臣民が取り残されていた。彼らの叫びや悲鳴、恨み言が城を焼き尽くす轟音に混じって、リーノはむせかえりそうになる。
たくさんの人間が死んでいく。今、この瞬間にも、確実に。
灼熱の空気がリーノの身体を包む。息をすることさえ満足にできずに、ただ虫のように、地面に這いつくばることしかできない。
痛い、痛い。身体中に激痛が走っていた。立ち上がろうと試みても、筋肉が断裂してしまっているのか、力が入る気配はない。代わりに彼女を襲うのは、想像を絶する激痛だけ。
「なんで、なの。グレガリアス……!」
リーノの眼前。全てを隠す火焔の先に、うっすらと人影が見えた。リーノは手を伸ばす。決して届かない手を、無様に、床に這いつくばりながら。
火炎の向こうの人影は、悲痛なリーノの声を聞いて、悲しそうに揺れた。
だが、人影は何も言わない。
「グレガリアス――ッ!」
グレガリアスと呼ばれた人影は、必死に手を伸ばすリーノに無言で背を向けた。
涙交じりに待って、待って、と繰り返し叫び続けるリーノに応えることなく、グレガリアスは火焔の向こうに消えていく。
城全体が業火に包まれ、天井の至る所が崩壊を始めた。いつの間にか、臣民たちの苦悶に満ちた叫びは聞こえなくなっていた。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
リーノは流れる涙を拭くこともできず、臣民たちへの謝罪の言葉を呪文のように唱える。悔しさに下唇を噛み、身体を震わせるが、彼女の行為が事態を好転させることはない。
しばらくすると、リーノの気力は尽き果てた。彼女は肩で息をしながら、覚悟を決めたように目を閉じる。死が彼女を迎えに来る。
そして、彼女の身体に火焔が達しようかというその時。
王城に仕掛けられた大規模魔術が、王族とリーセア王国を守るための最終手段が、発動した。
今日はあと一回更新予定。