魔王の予言と説得された勇者達
初投稿。適当に思い付いた物語です。
ある世界で突如として魔王が降臨した。
世界は魔王に従う魔物で満ち、人々は平和な暮らしを脅かされる。
世界の国王は話し合い、御触れを出した。
『魔王を倒した者、及びパーティーでも倒した者達は勇者とし、厚く遇するであろう。』
御触れにより、老若男女を問わず腕に自信のある者達が旅立ち、およそ4年後に魔王の前へ到達した者達がいた。
魔王を前にして、戦士が二人剣を構え、賢者はいつでも魔法を詠唱できるように準備し、遊び人は意表を付くために何をしようか考え込んでいる。
そんな状況の中、魔王が言った。
「ふむ、ここまで辿りつく者が現れるとはな…。ところで貴様らは私を倒した後、どうするのだ?」
パーティーリーダーの賢者はしばらく黙っていたが、話をしてみることにした。
「別に、王都へ帰り貴様を倒したとしてみんな勇者となり、栄光を手にするだけだ。」
「だから、その後のことを聞いている。」
「どういうことだ?」
「例えば…だ、貴様らは私を倒し勇者となる。その後帰国して表彰される。褒美ももらえるな。魔王を倒した後に勇者となった貴様らの運命はどうなるのか、ということだ。」
「聞く耳を持つな!ただの時間稼ぎだ!」
「いくぞ!」
血の気の多い戦士二人は切りかかるが魔王が軽くかわしつつ更に言う。
「では、占ってやろう…。」
戦闘中にも関わらず水晶を懐から取り出した魔王はパーティーメンバーのそれぞれの運命を占いだした。
そこに写ったのは…
「ふむ、そこの青い鎧を着た戦士。貴様は勇者となった後、領地をもらい結婚ししばらく平穏に暮らすが酒癖の悪さから嫁を殴り、子供から刺殺される。」
「な!」
青い鎧を着た戦士は酒癖が悪いことからパーティー中は禁酒しているが、魔王を倒した後の平和な世界では禁酒を解除しようと思っていただけに絶句して止まった。
「ただの世迷言よ!お前が騙されてどうする!」
赤い鎧を着たもう一人の戦士が更に切り付けながら青い鎧の戦士を鼓舞した。
「ああ、そこの赤い鎧の戦士よ。貴様は勇者となり莫大な報奨金を手にし、商売を始め結婚もするが数年後に事業に失敗し倒産。その後は借金まみれとなり夜逃げするが、借金取りに追いつかれて娘は奴隷として売られ、嫁と貴様と息子はその場で殺される。」
「なんだと!?」
魔王の予言により赤い鎧の戦士もその場でピタリと止まった。
「では、次…。そこの遊び人。貴様は勇者となった後、報酬を全てカジノで使い込み逆に借金王になるほど借金する。その後、とある商人に金を借り、更にカジノに次ぎ込み失敗。その商人に気付かれ切り殺される。」
「え、ちょ…。」
最初の立ち位置から様子を伺っていた遊び人の時が止まる。
「最後に賢者よ。貴様は賢者だけに賢く、勇者となった後国王に宰相に任じられるが、その後国の色々な法律や制度を変えたりと改革を施すも国民や貴族が付いていけず反感を持たれ、讒言されて国王に処罰される。」
「バカな!あの国の法律や制度は古いもので私が考えている改革を推進したらみんな暮らしがよくなるはずだ!そんなことにはならない!」
「まあ、私の占いだとこう出てるだけで実際にどうなるかはわからんがな?ああ、ちなみに的中率はほぼ100%だし、貴様らが今日この場に来ることも占いでわかっていた。このまま戦闘を続行すると貴様らは私を倒すことができて勇者御一行となるが…。さて、ここでもう一度問おう。私を倒して勇者となった貴様らはどうするのだ?」
「「「「…。」」」」
魔王からいきなり占いをされ、自分達の将来を指摘されたパーティーは思い当たる節がありすぎて押し黙った。
「ここで提案なんだが…私と取引をしないか?」
突然の魔王からの発言に賢者は首を傾げつつ聞いてみた。
「貴様と取引…?」
「そうだ。悪い取引ではないと思うんだがな。」
「騙されるな!相手は魔王だ!どんな搦め手をしてくるかわからん!聞く耳を持つな!」
赤い鎧の戦士が会話を遮りつつ賢者を止めた。
「まあ、警戒するのも無理はない。確かに私は魔王で貴様らの敵の親玉ではある。なので、気が済むまで話し合うがいい。それまで私はそこで酒でも飲みながら待たせてもらう。」
言うが早いか、魔王はパーティーから少し下がり玉座に座りつつ酒を飲み始めた。
賢者は珍しく困惑した。血も涙もない魔王と思っていたがいきなり会話をし始め、取引を持ちだす。怪しいことこの上なし。ただ、魔王に言われたそれぞれの将来というものが頭をよぎり仲間と相談した。
「どうする?確かに私は魔王を倒した後は実権を握って改革をしたいと思っていたんだが…。」
「確かに俺も領地をもらってのどかに暮らしたいと思っていた。」
「俺も商売を始めてある程度余裕のある生活をしたいと思ってた。」
「俺もどかーーーんと大きいの当てて死ぬまで遊んで暮らそうと思ってたんだけど…。」
「取引の内容にもよるのか…。」
話し合いがひと段落し、賢者が魔王に声をかけた。
「取引の内容を聞きたい。」
「別に難しいことではない。貴様らは私をこの場で倒さない。私は貴様らの要望を聞き叶える。それでどうだ?」
「俺は領地が欲しい!だが、魔王の貴様が生きていたら領地などもらえないじゃないか!」
青い鎧の戦士が言うと魔王は笑った。
「領地か。大丈夫だ。明日まで待てば私の部下が国を一つ滅ぼすことになる。その滅ぼされた国へ向かえ。部下は撤退させておくのでどさくさに紛れて自分の領地とするといい。その国の国民は散り散りとなっているので誰も所有権を主張したりはしないし、逆に貴様がそこを領地として守り切ると言い張れば認められるはずだ。魔王は強く私達では無理だったと言えば無理強いされないであろう。」
「俺は商売するのに金が必要だ!多大な金品がないと納得せんぞ!」
赤い鎧の戦士が続いて言う。魔王は黙って手を鳴らした。
「ほれ、部下が宝箱を持ってきた。そこの中にある物を見てみよ。」
目の前に持って来られた宝箱を覗いた赤い鎧の戦士が息をのむ。
そこには財宝が山のように入っており、今まで自分達が魔物を倒しつつ手に入れてきた財宝よりも遥かに多いことがわかった。
「ああ、ちなみに遊び人と赤い鎧の戦士にそれぞれそのような宝箱を5つずつ用意してある。一度で持って帰るのは大変だろうからこちらの部下に指定された日時と場所へ持っていかせるようにするぞ?」
赤い鎧の戦士と遊び人は黙って頷いた。
「私は祖国の法律や制度の改革を行い国民の生活を楽にしたいのだ。そのような夢を貴様が叶えられるのか!?」
最後の賢者が厳しい口調で詰問するが、魔王はこれに対し即返答する。
「私を倒した後に貴様をやっかむ連中。そ奴らのみを奇襲し殺害する。その後に貴様が祖国へ戻り宰相となればなんだ問題はない。ちなみに殺害するのは現国王と王太子、並びに現宰相や有力貴族の一族郎党かの。乳飲み子の王族と国母は残すので国母を説き伏せ乳飲み子が大きくなるまで自分が政治を司ると言えば、今の貴様の信頼度なら宰相を任されよう。」
それを聞いた賢者は頭の中で言われたことを想像し実現可能なことがわかった。
「「「「…。」」」」
パーティーメンバー全員と顔を合わせその場で頷き合う。
代表して賢者が言った。
「…いいだろう。取引に応じる。」
その後、各自魔王に言われた通りに行動し望み通りの暮らしを手にした。
また、そのパーティー以降、魔王を倒す者は現れず魔王は世界を統治した。