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見えなくなって見えたもの

初めは  壱年

次に   壱月

そして  壱週間

やがて  壱日

変わって 壱時間

来たるは 壱分

最後《はて》は  壱秒



紫 橙 緑 黄 青 赤 そして白


消えゆく色は儚くて


残った黒は絶望を与えてく



** ** ** **



「これは……すみません。少々お待ち頂けますか?」


 ある時から紫色とオレンジ色が分からなくなって、少し違和感を覚えて眼科へと行ったんだ。


 最初は紫を認識出来なくなっていたのに気付かなくて。おかしいと気付いたのは、紫色の消えたと思われる日の壱月後。唐突に夕焼けが真っ赤に染まったその時。

 普通は赤めのオレンジ色に染まる筈の空が、血のような深紅に染まったのを見てぞっとしたのを覚えている。ついさっきまではいつもと同じ橙。瞬きをする間もなく変わった空に疑念を抱き、隣を歩く友人へと問いかけた。


「こんなにも急に空は色を変えるの?」と。

 友人は首を傾げて「何を言っているの?」と返す。



……真っ赤に染まった空が、私の歯車の狂いを教えてくれた瞬間だった。




 医者は慌てて診察室を飛び出すと、数十分してから暗い顔をして戻ってきて。


 一種の死刑宣告を告げた。


「どうやらあなたは前例が極端に少ない難病にかかってしまったようです。治療法の確立されていない、名前もついていない病です」



 それから私は友人や家族に疎まれるようになった。友人は劣化していく私を蔑み、家族はそんな私を養う気はないと捨てたんだ。





 色と一緒に消えていくものたち。少しずつ短くなってく期間に絶望は増すばかり。





初めは  壱年


 紫が消えた



 まだ異変には気付かなかった




次に   壱月


 橙が消えた



 友人や家族の縁すら消えた




そして  壱週間


 緑が消えた



 心を癒す草木が枯れた




やがて  壱日


 黄が消えた



 夜を照らす月が消えた




変わって 壱時間


 青が消えた



 清々しい空が消えた




来たるは 壱分


 赤が消えた



 恐ろしかった血の色も消えた




最後《はて》は  壱秒


 白が消えた



 内郭に閉じ込められた





紫 橙 緑 黄 青 赤 そして白



色が消えてしまう目の病

最後に残るは黒一色




友人 親友 そして親



色と一緒に消えていく縁

最後に残るはなんなのか






 黒しか見えなくなって、一人絶望に苛まれた。

 誰も助けてくれなくて。でも誰かの手を借りなくてはどうすることも出来なくて。


 いっそのこと死んでしまおうかと思った時。遠くにいるはずの幼馴染みの君の声が聞こえた気がした。



 大きな音を立てながら開いた扉に驚いて、見えないのにそちらへ顔を向けると。


「ごめん! 気付くのが遅かったね。もう少し、もう少し早く気づけたら……!」


 そう言って少し低くなった懐かしい声の持ち主が私を包んだ。涙を耐えるその声と、少し痛いくらいに抱き締めてくるその腕は、間違いなく幼馴染みの彼のもの。


「……なん、で」


 なんで君が泣きそうなの? なんでここに居るの?


 そう聞こうとしたら力一杯抱き締められた。


「もう一人で苦しまなくていいよ。僕がずっと守るから」


 風の噂で私の状態を知って、いてもたってもいられなくなって駆けつけてくれたらしい。久しぶりに感じた人の温もりが、ひどく心地よかった。


「な、んで? なんで私を助けてくれるの?」

「ずっと好きだったから。本当はもっと頼れるようになってから来るつもりだったんだ」


 質問に答えた彼の声は、ひどく優しい笑声(えごえ)だった。


 それから彼に手を借りながら、新しい場所へいって。彼の手を借りながら彼と一緒に暮らす日々。色が見えた時は見えなかった人の本性と彼の優しさ。色という代価は大きかった。たけど



 夜明けの薄い紫も

 夕陽の少し暗い橙も

 風に揺れる鮮やかな緑も

 空に散らばる輝く黄色も

 光を反射する透き通る青も

 頬を染める暖かい赤も

 黒を彩るささやかな白も



 そのどれが見えなくても、君の優しさが見えたから。それだけで、ただそれだけで嬉しかった。













 そうやって君と過ごして



初めは  壱年


 白色が


次に   壱月


 赤色が


そして  壱週間


 青色が


やがて  壱日


 黄色が


変わって 壱時間


 緑色が


来たる  壱分


 橙色が


最後は  壱秒


 紫色が



 私の目に戻ってきたんだ。



 治らないと言われたこの目が、君の優しさに触れて。

 戻ってきた色は光を伴って、私に君の笑顔を見せた。




 見えなくなって見えたものは、見えていても見えなかったもの。


 人の醜さ。君の優しさ。

 突然日常を奪われる恐怖。普通が戻ってくる嬉しさ。










教えてくれて ありがとう


                          おやすみなさい


読んで下さり、ありがとうございました!



此度は私、宵月がお題を考えさせて頂きました。



お題は


『初めは  壱年

 次に   壱月

 そして  壱週間

 やがて  壱日

 変わって 壱時間

 来たるは 壱分

 最後は  壱秒

 (はて)


 赤 青 黄 緑 橙 紫 白


 色が消えてしまう目の病

 最後に残ったのは黒だけ

 (消えるものを変える)』


というものです。


緑@秋珊瑚の『消える、消える。』

出水想市楼の『奪えはしない』


 もオススメです。是非見てください!

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