序
こういうジャンルをどういうかわかりません。
タイトルからの思い付きです。
注1:序は、不快に感じるかたもいます。流し読みでも構いません。
注2:他でも同タイトルで書いたことがあり、内容はそこから改編したものです。
序:『それは夕日のなかに沈んだ教室』
記憶に残るあの日の思い出……
そっと――ドアの隙間から覗くと見える、夕焼けに染まった彼女の横顔。
(……きれいだ)
それは、いつもの教室では見たことのない、彼女の表情。
喜びにも似た、
悲しみにも似た、
艶のある瞳と、桃色に染まった頬。
思わず――口に溜まった唾液を飲み込んで、その音の大きさに自分自身が驚いた。
『――ぃ』
かすれた吐息を洩らし、彼女が動いた。
「?」
すると、さっきまで『そこ』にいたはずの彼女の姿が、煙のごとく消え失せる。
彼女が、視界を右から左へと移動した――と思ったら、突然、見えなくなってしまったのだ。
(……この位置から左のほうには、壁しかないはずだが?)
教室の後ろに位置する扉から見ている自分には、いったい何が起こったのかわからな――《ドンッ!》
(!!)
いきなり、すぐ近くの壁が音をたてた。
驚いて、反射的に動いた視線が――『ある部分』に気付いてぴたりと止まる。
「………」
頭の中が、真っ白に染まった。
廊下側のすりガラスに、「明らかに」大人のものであるシルエットが浮かんでいた。
しゅ…しゅる……
聴いたことのない音が、ドアの隙間から耳に届く。
真っ白になった頭では、それを理解することができなかった――が、鈍い痛みを感じる下半身に、無理矢理気付かされた。
――衣擦れの音。
それがどんな行為によるものなのか、中学最後の年を過ごしている自分にはわかっていた。
仲間内で回していたアダルトビデオの1シーン。
画面の中、小柄な女の子が足を広げて男を誘う。
誘われた男が『その』間に滑り込み、制服の上から、大きめの胸を擦るように揉み上げる。
『――感じてる?』
!?
記憶の中の声と、近くから聞こえる男の声がダブった。
「う……ぁ……」
頷きとも、嬌声ともとれるため息が、彼女の口から漏れている。
「いいよ――尖ってきてる」
「――……センセェ」
「?!」
今度こそ、声が出そうになった。
(先生!?まさか……)
聞こえてくる声に、思い当たる人物がいる。
自分達の担任の、男性教師だ。
まさかと思う反面、日頃の彼らの態度を考えると――どれも、仲の良い恋人同士のようにも見えるということに気付かされた。
「ん――センセ……」
苦しげな彼女の声が、新たな刺激を催促しているのだとわかると――ゆっくりと、彼らに気づかれないよう息を殺して扉から後ずさる。
(……やめろ)
心の中で呟く。
聞きたくない。
「なんだ?もう欲しいのか?」
呆れるような、それでいて笑っているような担任の声。
(っ――やめろ!!)
自分の中で反響する叫びもかき消して、小さな、粘り気のあるくぐもった水音が耳から入り込んだ――。
「………」
「……」
扉から離れて角を曲がると、彼女達の声はもう届かない。
なのに……
彼女が自らスカートを捲り上げる音、男がゆっくり……焦らすように下着を下ろす音、外気に触れた『ソコ』が自ら開く音、そして――……
その日の夜は、まったく寝付けなかった。
痛いぐらいに張り詰めた下半身が、脳みそに、彼女の横顔を思い出させる。
我慢できずに取り出すと、ビデオを観た時と比べものにならないくらいになっていた。
彼女の吐息と水音が、頭によみがえり………
止める事が出来なかった。
しばらくして落ち着くと、体中に鳥肌が立った。
「――!――!」
口から洩れそうになる叫びを両手で力一杯抑えつけ、あふれ出る涙を、枕に押し付けてやり過ごす。
惨めに震える自分の体が、痙攣を起こし、思わずベッドから転がり落ちる。
……そして、目に飛び込んだ『それ』に気が付いた。
学校で彼女に会った時。
少しでもカッコ良く見せたくて、百円で買った飾り気のないそれ……
あの時、あの場所にもそれはあった。
「……なんだ。『鏡』に映ってただけだったんだ」
気が抜けたようにもれた言葉に、さっきまでの感情はどこかに消え去ってしまい……ただ、『終わった』のだと感じた小さな恋は、再び一筋の涙を流させた。
『夕焼け鏡像』