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アザリアル  作者: 都宮まもろ
第1章
9/14

【8】

長く、長く続く白い壁。園内の他の遊具と比べると面白味も華やかさも感じさせない。おそらくこれが迷路だろう。

「おい」

桃太は入り口を見つけるべく、歩きながら離れた場所にいる仲間たちにに話しかけた。

「見つけたぞ」

「ほんとか?」

ランカは疑っているようだった。

「嘘は付かない。どうすればいい」

「近くには何があるの?」

今度はこびわの声がした。

「展望台と水の上を走るジェットコースター」

「ということは・・・コーヒカップの真ん前にいるのか?」

「違う。もっと奥だ」

「奥?」

「コーヒカップの前にいると右手に展望台、左手に水上ジェットコースターが見える」

「そうだな」

「この場所はその逆、左手に展望台だ」

「おい、そんなところ地図には載ってねーぞ」

「地図に載ってなくてもこの場所は存在する」

どうやら『迷路』の場所は与えられた地図に記載されていないようだ。

ランカはしぶしぶ桃太の言葉を受け入れ、きえに話しかけた。

「もう1人はどこにいるんだ」

「フリーフォールの所にいるよ。展望台の方を目指せばいいんだね」

「おう、水上ジェットコースターの裏に迷路はあるらしい」

「オッケー、すぐ行く」

きえとランカが会話をしているうちに桃太は入り口へたどり着いた。

「今から入るぞ」

桃太は一歩迷路に踏み行った。

最初は一本道だった。その先が3方向に分かれている。

「良いか今から指示を出すから間違えんなよ」

ランカは声のトーンを一つ落とし慎重に道順を桃太に伝えた。

「そのまままっすぐ行って、次は右だ」

桃太は直進も左に曲がることもせず言われたとおり右に曲がった。

「そこは曲がらずまっすぐだ、それで次は左に・・・あっ馬鹿そこは曲がらないって言っただろ!」

指示と違う方向へ進んでしまい叱責を食らった。

ランカの声は機械を通していてもよく響く。桃太はとっさにトランシーバーを耳から遠ざけた。

「おい聞いてるか?」

「怒鳴るな、耳が痛い」

桃太は怒鳴られることが嫌いだった。それに1回間違えたくらいでそんなに怒鳴らなくても。

自然と桃太の口調にも苛つきが混じっていた。

「悪かった」

ランカは素直に謝った。

「ここは左だったな」

間違えた道をもう一度リベンジする。今度はうまくいった。

「そうそう。で、そこから・・・」

そこから次は、聞こえなかった。

電波が悪くなったのだろうか。桃太は耳から遠ざけたトランシーバーをもう一度耳に当てた。

ざーと雑音が耳に入り、どんなに神経を集中させてもランカの声を聞き取ることはできない。

ついにはその音もプツッと途絶えてしまった。

「壊れたか」

偶然にも、いやもしかすると必然かもしれないが頼りにしていたアイテムは使いものにならなくなった。

さて、これからどうするか。

この場から一歩も動かなければ事は変わらない。しかしヒントなしにぐるぐる入り組む道をさまよい歩き、莉世を見つけ出せることができるだろうか。

「あ、いたいた」

一人考え込んでいると先に迷路に入り込んだ桃太の後を追ってきえがやってきた。

「連絡取れなくなったね」

「どうする」

「自力で探すしかないでしょ」

「それは面倒だ」

「仕方ないだろ。あ、そうだ」

きえは閃いたというように人差し指をピンッと立てた。

「良いことを思いついたよ。桃太しゃがんで」

桃太はきえを頭の切れるやつだと思っていた。この男が考えついたことはきっと効率良く、的確なことだろう。

だから桃太は言われるままにその場にしゃがんだ。

「これでいいか?」

「もう少し壁によって・・・あ、オッケー。そのまま踏ん張っていてね」

『踏ん張って』それ聞いて桃太はきえがしようとしていることが何か分かった。が、分かった時にはもう手遅れだった。

きえは桃太の肩に両足を乗せた。

成人の男の全体重が桃太にのしかかる。さすがの桃太も顔を強場らせた。

「うん、よく見えるね」

きえは壁の上に立ちぐるっと辺りを見回した。

桃太を踏み台にして壁の上に登る、それがきえの考えていたことだったのだ。

「おいおまえ」

桃太は肩を押さえて自分より遙か高い所に立つ男を睨んだ。

「ごめんごめん。でもこうした方が楽に探せるだろ」

きえは桃太と正反対の満面の笑みを浮かべた。

桃太には返す言葉もなかった。

「うそだろ」

ランカは唖然とした。

なぜなら唯一頼りにしていた通信機器が役目を果たさなくなってしまったからだ。

予想外の事態に陥ってしまった。

残された時間はもう10分も無く、画面の時計はチカチカ点滅している。

「2人が一緒に行動し始めたみたい」

こびわは言った。

鉄の地図の中で赤と青の光が合流し、赤と青、ピンクとオレンジの2組の光は互いを探し合っているかのように動いていた。

「私たち何もできないわね」

「あんたはあきらめが早いな」

ランカは手中の黒い機械をテーブルに離した。

「俺は行く」

「どこに?」

「決まってんだろ、あいつらがいる所にだよ」

ランカは乱雑に椅子を引き、大股で着ぐるみを恐れることなく建物の外に向かった。

「待って!」

こびわはランカを呼びとめ、私も行くわと無惨な姿になってしまった着ぐるみを横目に急いでランカの元に駆け寄った。

「仕方ねーな。その代わり絶対に転ぶなよ」

ぐいっとこびわの身体は引っ張られ、一瞬だけ身体と精神が引き離されたような気分になった。

しかしそれは『自分はランカに手を引かれているのだ』と認識するまでのほんの一瞬の出来事だった。

ランカが一歩、また一歩足を進めるごとにこびわの足も一歩、また一歩と進む。

それはこびわが今までにこれだけ早く走ったことはないという速度だった。

ランカは引っ張りながら、相手を気にすることなくただひたすらに。こびわは引っ張られながら無我夢中に足を動かし目的の場所へと向かった。

コーヒーカップを横切ると水の上を走る太いレーンの塊。迷路はそれに身を隠すかのようにひっそりとそこに存在していた。

「入り口はどこだ!」

迷路にたどり着くことがゴールではない。その中にいる人を見つけることがゴールなのだ。そのためには内部に入らないといけないのだが肝心の入り口が見つけられない。

2人は白く塗られた囲いをぐるっと半周し、ようやくスタートラインを踏むことができた。

「入ったら右だったな」

ランカは桃太に指示したことを思い出し、右に曲がった。

そこで思いがけず足を止めることになる。壁が行く先を通せん坊していたのだ。

「入り口は1つじゃ無かったか」

ランカは舌打ちするとすぐにくるっと方向転換した。

ちょうどこびわと向かい合う形になり、ランカは初めてこびわの状態に気づいた。

「おい、おまえ大丈夫か?」

問われた側は言葉を発する余裕もなく、その場に崩れ落ち長時間息を止めていたように呼吸を繰り返した。

「キツかったならそう言えよな」

ランカはため息混じりに言った。

「おまえはここで休んでろ。あとで迎えに来てやるから」

こびわはこれ以上走れなかった。悔しいがランカの言う通りにするしかない。

壁にもたれ掛かりばくばくと忙しく鳴る鼓動とランカの足音に静かに耳を傾けているとあることに気づいた。

足音が2つ聞こえるのだ。

『近くに誰かいる』そうランカに伝えようとしたとき、頭上から黒い陰がすっと伸びた。

「なんだ、こびわたちか」

陰の主は言った。

見上げるとそこにはきえがいた。

「おまえ、何でそこにいるんだよ」

ランカが尋ねた。

「人影が見えたからてっきり莉世たちかと思って来てみたんだ。だけど、はずれだったね」

「期待して損したな」

次いで細い道の間から桃太が姿を出した。

「まだ見つかっていないのね」

きえは頷く。

「本当にここにいるのかな」

「ここ以外どこがあるんだよ」

低い声でランカが唸った。

「探し方が足りねーんだよ。もう時間がない、俺も上にいく」

「確かに2人の方が見つけやすいね」

「おまえどうやってそこに登った?」

「それなら桃太に・・・」

「断る」

桃太は頼まれる前に断りをいれた。あんなに身体中が痛む思いはもう御免だったからだ。

しかし残念ながら相手に退く様子は無く、ついには言い争いになってしまった。

「静かにして!」

ちょうどランカが桃太に掴みかかろうとしたとき、こびわが叫んだ。

その声でピタリと争いは止んだ。

「どうしたの?こびわ」

「聞こえるの、女の子の声が」

「女の子の声?」

4人はこびわ言う女の声を探った。

「ランカーいるの?」

確かにランカを呼ぶ女の声が聞こえた。

しかも声の届き方からして高く弾んだ声をもつ女はこの場所からそう遠くないところにいる。


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