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アザリアル  作者: 都宮まもろ
第1章
8/14

【7】

「ここは、どこ?」

少女はぽかんと口を開け、立ち尽くしていた。

少女のいる場所、そこは白い壁に挟まれた通路だ。

「私はミナカ。で、ここはどこ?」

壁に覆われた場所での独り言はやけに響く。残響が消えると音は全くなくなった。

「ランカー」

自分のことをミナカと名乗った少女は遠くにいる誰かを呼ぶように叫んだ。

「もしかして私迷子になっちゃった?」

その問いにそうだよ、と言うように風がひゅうと吹き抜けた。

「どうしよう!またランカに怒られちゃう!」

ミナカは頭を抱えて1人で悶えはじめた。

「私どうしてこんなところにいるの!?確かランカと一緒にジェットコースターに乗ろうとして、だけどなかなかたどり着けなくて、いろんな人に聞いてみてもみんなに無視されちゃったからうさぎの着ぐるみを着た人に話しかけて、それからそれから…あれ?」

ミナカはぱたりと口をつぐみ瞳を瞬かせた。

「それから、どうしたんだっけ?」

口元に手を当て深く、深く考え込んだ。

だがどんなに思考を巡らせても何も思い出すことはできない。

「とうとうほんとにボケが始まっちゃったかな、私」

さきほどまでの妙なハイテンションはどこかに消え、ミナカは肩を落とし一緒にいたはずの人の名をぽつりと呟いた。

「お姉ちゃん?」

突然話しかけられミナカはびくっと全身を震わせた。

どこからやってきたのだろうか、幼い少女が、莉世がぴょこっとミナカの目の前に姿を現した。

「どうしたの?お母さんたちは?」

「桃太たちどっか行っちゃった」

「そうかあなたも迷子になっちゃたんだね。私もそうなんだ」

ミナカは肩をすくめおいで、と手招きをした。

「1人じゃ寂しいから一緒に行こうか」

「うん!」

莉世は大きくうなずくとミナカの手をぎゅっと握った。

「よーし、出発だー!」

ミナカが高らかに声を上げ握り拳を天に突き上げると莉世もそれをまねて声を上げた。



「だから何なんだよあんた達、ここのスタッフか?」

青年は長い前髪の奥からガーネットの瞳で桃太たちの方を睨んだ。

「違うよ。ちょっとこの建物が気になったんだ」

きえはさらっと答えると青年に聞き返した。「君はここで何をしているの?」

「人を探してる」

青年は画面の方を向いた。

「そしたらたまたまここを見つけてな、ほらここいろんな所が映ってるだろ。もしかしたらあいつが見つかるかもしれねえってずっと見てるんだけどなかなか映らなねえんだよな」

青年はそう言って気だるそうに両手でこめかみを押さえた。

「私たちも女の子を探しているの、一緒にいいかしら?」

こびわは恐る恐る青年に請うと青年はぱっと表情を明るくした。

「あんたたちもか!良いに決まってんだろ、いつまでも入り口に突っ立てないでこっち来いよ」

青年は甘えん坊の子犬のよう目尻を下げて手招きした。

互いにはぐれた仲間の情報を交換し、それぞれ目の前のモニターを監視することにした。

時間がたつに連れ4人の間に焦りと苛立ちが混じったなんともいえない雰囲気が流れる。

暗い中でモニターを見続ける作業はとても苦痛なことだ。

桃太は耐えきれず画面から目をそらし視線を斜め45度下に向け、くすんだ銀色の台に視線を定めた。

直射してくる眩しい光から解放され視界がぼやぼやと暈ける。

桃太は鈍ってしまった目が戻るまでそのまま平たい銀の板を見続けていると、ぼやぼやした中からはっきりと赤くて丸いものが浮かんできた。

スイッチだ。台の真ん中に丸く真っ赤なボタンが存在していた。

桃太はそれをまじまじと見つめた。

「それ、気になるね」

きえは言った。

「まるでゲームセンターにあるゲームのボタンみたいだ」

そう言われてみると、桃太にはそのスイッチがゲーム機のボタンに見えてきた。

幼い頃、母親から硬貨をもらうとすぐさまゲームセンターに行った。そして硬貨をつぎ込み期待に胸を高鳴らせ、これによく似たボタンを押したものだ。

今ここでこのボタンを押したらどうなるだろう。

桃太の中にあの頃と同じワクワクした感じが芽生えてきた。

他の3人がモニターに釘付けになっている隙に桃太はこっそりとボタンを押した。

突然モニターが一斉にゲーム画面に変わった、ということは起こることなくモニターには先ほど同様、遊園地内の映像が流れているだけだ。

「残念だったね」

きえは口元にうっすら笑みを浮かべた。

桃太は何も知らない振りをしてしれっときえから目をそらす。

すると急になぜだか部屋の暗さが増したように感じられた。

「おい、どうしたんだこれ」

ランカが愕然とした声を上げた。

見ると中央のモニターだけが白く光り、他の画面はすべて真っ暗になっていた。

「おまえさっき何かしてただろ?」

ランカは桃太に問いつめた。

「何してたんだ!」

「ちょっとな」

「ちょっとなじゃねえだろ!何してたか言え!」

その様子を見てきえは吹き出した。

「こどもみたいだね」

「笑い事じゃねえ!」

ランカは空気をも震わしてしまうような大声をあげた。

明らかに良くない空気が流れている。

「ごめんごめん。そうだね、笑っている場合じゃないね」

きえは困ったように赤いボタンを指さした。

「桃太はさっきこれを押したんだ」

「なんだこれ、スイッチか?」

ランカは物珍しそうにそれを見た。

「もう一回押してみたらどうなるかしら」

「こびわ押してみる?」

とんでもないというようにこびわは首を横に振ってきえの提案を拒んだ。

「このままでも何も変わんねえしな」

「押すに賛成?」

ランカは頷いた。

「あんたに任せるよ」

「文句言わないでね」

きえはスッと伸びた指で軽くボタンを押した。

すると唯一起動している画面にうさぎの着ぐるみが登場した。

予想外の出来事に4人は呆然とした。

『ようこそダッカンゲームへ!』

画面の下部にテロップが流れた。

『あなたたちが求めているのはこれですね!?』

うさぎの上のモニターがぱっと起動して2人の写真を映し出した。

1人は間違いなく莉世でそのとなりの写真は桃太が知らない女だ。

銀髪の青年が探しているやつか、桃太は思った。

『これらは今迷路の中をさまよっています』

『これから行うゲームは簡単!!』

『あなたたちは制限時間内にこれを見つけるだけ!』

桃太達がどうこう言う間もなくテロップはどんどん流れた。

『あなたたちに与えらるアイテムは3つ。全部この台の下にあるよ↓↓』

『制限時間は30分!!』

『もし時間内に見つけられなかったら、これらは僕たちのもの』

『それでは…』

『☆★☆★スタート☆★☆★』

うさぎは画面から姿を消し、そのかわりにデジタル時計が映った。

時計は30:00:00の表示から29:59:59、29:59:58と刻々と0に近づいていく。「これだね」

きえとこびわは台の下の棚の戸を開け、古びた大きなブリキの箱を取り出した。

中にはトランシーバー3つ、遊園地の地図、そして鉄製の分厚い板が入っていた。鉄の板にはカクカクとした細かい線が刻まれており、その線の間をピンクとオレンジ色の光が並んでゆっくり動いている。

「これってもしかして迷路の地図かしら?」

「そうかもな。で、これがあの2人ってわけか」

「迷路なんてないぞ」

桃太は紙一枚でできた遊園地の地図をつきだし言った。

「そう簡単にクリアさせないって事だね」

「どうすれば良いの?」

「地図は2つともここに置いたままにしよう。そして誰か2人がまず迷路を探しに行く。見つけたら報告をして、ここに残った人が地図を見ながら迷路内をを案内する。これでどうかな?」

きえの意見に残りの3人は頷いた。

きえはこびわと青年を指差した。

「ここに残るのはこびわと」

「ランカだ」

「2人にお願いするよ。僕たちが探しに行く」

きえはトランシーバーを桃太に差し出した。「めんどくさがっちゃダメだよ」

桃太は無言でそれを受け取る。

建物の戸を開けると眩しい光が桃太ときえを出迎えた。

「まるで僕たちの貸し切りみたいだね」

さきほどまで園内に流れていた音楽はなく、ジェットコースターもゴンドラも静止している。

おまけに、あれだけたくさん居たはずの客は誰1人と姿を消していた。

建物の入り口に置かれたうさぎの置物だけは変わらず笑顔のままだ。

建物の周りを囲む低い柵を越えると2人は別々の方向に進んでいった。

「頼んだぞ」

ランカは2人を見送りながら言った。

その時、時計は残り24分を切っていた。

「あったあった」

ランカは部屋の隅からパイプいすを2脚引きずり出し、起動している2台のモニターの正面に広げた。

「座れよ」

「ありがとう」

こびわは小さな声で礼を言いイスに腰掛けた。

すぐ手元には重い鉄板と紙切れが置かれている。鉄板に刻み込まれた迷路の中をピンクとオレンジの光がゆるゆると動いているのをこびわはただ黙って見ていた。

「まだ子どもだよなこの子」

ランカは画面に映し出された莉世の写真を指さし言った。

「あんたたち4人ってどういう関係なんだ?」

こびわはどう答えて良いかわからず口ごもった。

「あ、言いたくねえならいいよ無理しないでも。聞いて悪かったな」

いいのよ、とこびわは首を振った。

「この子見たところ5、6歳ってところだな」

「うん、そうだけど」

「俺にこの子と同じ歳くらいの・・・いや待てよ」

ランカはぶつぶつ言いながら指を折って何かを数えた。

「12か。12歳の妹がいるんだよ。だからあんたがあの子を心配する気持ちはまあわかるよ」

ランカはそう言ってトランシーバーに目をやった。

連絡がくる様子はない。

「結構手間取ってるな」

「もし時間内に見つけられなかったらどうなるのかしら」

「さあな。でもまあ所詮ゲームだしお遊びだろ。そんな大したことにはならないんじゃねえか」

ランカがそう言い終わると同時に背後にドサドサと何かが落下した。

「なんだ?」

振りかえって見た光景は2人に思わず息を飲ませた。

落下してきた物はバラバラに切断された2体の着ぐるみであった。

両耳を切り取られ、片目がボロボロに抉られたうさぎが微笑を浮かべて2人の方を窺っていた。

「誰かいるのか!!」

ランカは少し上擦りながらも大声を上げ、警戒心をむき出した。

しかし、ランカとこびわ以外の人間がこの部屋にいる気配は全く感じられない。

「なんなの、これ」

こびわは顔を真っ青にした。

「もしかして、莉世、たちも、こう、なっちゃうの」

「んなわけねえだろ!落ち着け!」

ランカは恐怖と不安のあまりガクガクと身を震わすこびわの肩を掴んで無理矢理落下物に背を向けさせた。

「変に脅しやがって」

ランカは短く舌打ちして、時計を睨んだ。

デジタルタイマーはすでに18分まで進んでおり、さらに時を刻んでいった。

「意味分かんねえ、なんでこうなったんだよ」

焦りと不安と苛立ち、そして背後に奇妙な贈り物を抱えた2人に余裕など全くない。

ただ、ただ飛び出した2人の男たちに希望を託すことしかできなかった。


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