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アザリアル  作者: 都宮まもろ
第1章
5/14

【4】

店を出るとすぐそこに十字路があった。

左に行くとさっきまで人だかりができていた方。つまり、こびわ、莉世、桃太が出てきたドアがある方に戻る。

こびわは少し考えて右に進むことにした。

青年はその後をついていく。

「君はこの街に何をしに来たの?」

青年は聞いた。

「人を探しにここに来たの」

「この街で人探しか。どんな人?」

「それは、分からないの」

「知らない人を探しているなんて、変だね」

「あなたはずっとこの街にいるの?」

こびわは後ろをチラッと振り返って青年に聞いた。

「分からない」

「どうして?」

「気づいたらこの街にいたんだよ。今まで自分がどうやって過ごしてきたか、思い出そうとしても思い出せないんだ」

「何もかも?」

「いや、なぜか分からないけど6年前までのことなら思い出せるんだ。だけど、6年前から今現在までの出来事がどうしても思い出せないんだ」

こびわは足を止めて青年を見た。

「嘘みたいだけど、本当なんだ」

青年は笑った。

こびわは目を見開いたまま動かなかった。

「どうしたの?」

「ううん、何でもない」

こびわははっとして、前を向いて再び歩き始めた。

「今日の賞品は女だ!しかも若い!」

酔っぱらった男が叫びながら店から出てきた。その後からさらに5、6人の男達が出てくる。

年代はバラバラだが、どの男も完全に酔っているようだ。

青年はとっさにこびわの手を引いて路地裏に隠れた。

「女なんて久しぶりだな!」

「さっき会場の前で賞品を見たがあれは美しかった!」

「今日のゲームは大盛り上がりだな!」

男達は口々に叫びながらガハハと笑い声をあげた。

「何かあるの?」

こびわは小声で青年に聞いた。しかし青年は答えない。

「女の人がどうかしたの?」

「この街は、ギャンブラーが集まる街なんだ」

青年は答えた。

「ギャンブラー?じゃあ、あの人達が言うゲームって言うのはギャンブルのこと?」

こびわは自分達が来た道を歩いてく男達を指さした。

「そう。昼間はそれぞれ飲み屋や小さなカジノで賭をしている。だけど、夜になるとこの街のギャンブラーはみんなある場所に集まるんだ」

「みんな?」

青年は頷く。

「普段のゲームとは桁違いの金を賭けるゲームが行われているんだ」

「勝ったらいっぱいお金がもらえるのね。」

「それだけじゃない。そのゲームはトーナメント式になっていて、優勝者には賞品があるんだ」

青年は一息ついた。そして話を続ける。

「ここ最近の賞品は高価な宝石だった。でも、今日の賞品は物じゃない。人らしい」

その言葉を聞いて、こびわは言葉を失った。

「さっきの人だかり、あの中心には君よりも若い女の子がいたんだ。その子が今日の賞品らしい」

「そんな」

「身売りされてここまで来たのか、連れ去られてここまで来たのか分からないけど・・・」

青年がそう言い終わらないうちにこびわは駆け出した。

「待て!」

青年はこびわの腕を掴んでこびわを止めた。

「どこに行くんだ!」

「どこって、助けに行くのよ!」

こびわは声を荒げた。

「どうやって」

「私もゲームに参加する!」

「勝てるわけ無いだろ。ここの人間は勝つためにいろんな罠を仕掛けるんだ。君がゲームに参加したところで勝ち目なんか無い。助けるどころか君が賞品になるだけだ!」

こびわは聞こうとしなかった。青年の手を振りほどこうとしていた。

「でも、そんなのおかしいじゃない!人が、女の子が物にされるなんて!」

「そうだよ」

青年は急に静かになった。

「この街の人間はおかしいよ。金に目がくらんだ人間はみんなおかしくなる。慈悲も、モラルも何もない」

青年は手に力を込める。

こびわは苦痛に顔をゆがめた。

「痛い、放して」

青年の耳にこびわの声は届かなかったのか、青年は俯いたままこびわの腕を放そうとなかった。

「お願い、やめて」

こびわはすがるように青年に言った。

それでも青年は腕を掴んだままだった。

「ごめんなさい」

か細い声だった。

その声にはっとして青年はこびわの腕を放した。

こびわはその場に崩れ落ちた。

「あ、その、ごめん」

青年はおどおどしながら、こびわに手を差し出した。しかしその手は払いのけられる。こびわは目に涙をいっぱい溜めて後ずさりをした。

「ごめん」

青年はもう一度謝った。

「君を怖がらせるつもりは全くなかったんだ」

こびわは俯いて静かに肩をふるわせた。

青年は何も言わずその姿を見つめていた。

「いじめちゃダメだよ」

背後から声がした。

声の主は莉世だ。その後ろには桃太も居る。

莉世は青年とこびわの間に入り込んで、よしよしとこびわの頭を撫でた。

青年はしばらく呆然としていた。

それから状況を理解したかのように頷いて、桃太に話しかけた。

「君達がこの人と一緒にいた人なんだね?」

「ああ、そうだ」

桃太は答える。

「そうか、良かった」

青年はうっすら微笑んで、その場から立ち去ろうとした。その時。

「待って!」

莉世が叫んだ。

「お兄ちゃん、どこに行くの?」

「どこだろう、分からない」

「お兄ちゃんは、僕たちと一緒に、帰るんだよ」

「どうして僕が一緒に?」

青年は驚いた。

「だって、お兄ちゃん、僕たちの仲間だもん」

莉世は言った。

「なんで分かるんだ?」

「桃太、なんで分からないの?」

莉世は首を傾げて桃太を見た。

こっちが聞いたのに逆に質問されても困る。桃太は思った。

「僕が仲間って?」

「お兄ちゃんはね、ぼくたちの仲間なんだよ。だから、一緒におうちに帰ろうよ」

青年は少し考えて、わかったと頷いた。

「僕にも帰る家があるなら、君たちと一緒にいこう」

「ずいぶんあっさりだな」

桃太はあきれるように言った。

「この街にはもう居たくないんだよ」

「ずっとここに居たのか?」

青年は首を横に振った。

「違うよ、気づいたらここにいたんだ」

「じゃあ、お前も俺たちと同じだな」

「そうか。君たちも僕と一緒なんだね」

あまり驚いていないようだった。むしろどこか安心しているように見えた。

「お兄ちゃん、お名前は?」

莉世は青年に詰め寄った。

「きえっていうんだ。君は?」

「ぼくはね、りせ、っていうの。それからね」

莉世は桃太を指さした。

「桃太!」

そして次にこびわを指さした。

「こーちゃん!こーちゃんはね、こびわって言うんだよ」

「そうか、ありがとう」

莉世はニコリとうれしそうに笑った。


辺りは夕日に照らされて赤くなっていた。

「帰るか」

桃太は言った。

「うん!早くおうちに帰ろ」

莉世は桃太の元に駆け寄って小さな手で桃太の手を握った。

「おい、いつまで座ってるんだ。帰るぞ」

桃太は壁にもたれ掛かって座り込んでいるこびわに催促したが、こびわは動こうとしなかった。

「大丈夫?」

きえはこびわの前に歩み寄って手を差し出した。

こびわは少しためらうようにして、差し出された手を無視して自力で立ち上がった。

「帰ろっ!帰ろっ!」。

莉世は陽気に歌いだした。

4人は鍵が掛かった、あのボロボロのドアのある方へ向かったて歩いて行く。

「ここが家?」

ボロボロのドアを目の前にしてきえは聞いた。

「まぁ、見てたら分かる」

桃太は錆がかったドアノブに手をかけてゆっくりと回した。鍵はもう掛かっていない。

「忘れ物はないよな?」

桃太は聞いた。莉世、こびわ、きえは3人とも首を縦に振った。

桃太は勢いよく扉を引く。

するとすぐに見慣れた家具が目に飛び込んできた。

4人は先ほどまで居た街から、靴を履いたまま家の中に移っていたのだ。

背後で扉が閉まる音がした。

音のした方を見ると、そこには、黒々とした重たそうなテレビがあるだけだった。

きえは目を見開いて驚いている。

「ここが僕たちのおうちだよ。!」

莉世は自慢げに言った。

「すごいね、何が起こったのかぜんぜん分からなかったよ」

きえは感心して部屋を見渡した。

「こっち来て!」

莉世はきえのシャツの袖を引っ張った。

「ここがお風呂で、こっちがトイレ!」

莉世は家の中を案内し始めたので、桃太はそれについて回ることにした。

こびわだけが一人台所に残った。


3人は階段を登って2階へと向かった。

2階に上がると桃太は驚いた。

今朝までは2階には3部屋しかなかった。しかし、今は4部屋ある。

「ここがきえのお部屋!」

莉世は桃太の隣で、こびわの向かい側の部屋を指さした。

「僕の部屋まであるんだね」

「すごいでしょ!」

莉世はにんまりと笑った。それから1人で階段を駆け降りていった。

忙しい奴だな。桃太はその後ろ姿を見つめながらつくづく思った。

「変な世界だね」

きえは呟いた。

「同感だ」

「気づいたら知らない場所にいて、そしてドアを開けたらまた違う場所にいる。どういう原理なんだろう?」

「それがわかったら苦労しないな。とにかくこの世界で1回1回驚いていたらキリがないぞ」

「他にも何かあるの?」

「これから何かあるかもな」

「ずいぶん呑気だね」

「こういう性格だから仕方ないだろ」

きえは笑って階段を降りて行った。

疲れた、今夜はよく眠れそうだな。桃太は大きなあくびをしながら思った。


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