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ラドゥガ王室恋物語

賢姫が愛した庭師

『謳われぬ末姫』『騎士姫の初恋』『不器用陛下の両片思い』

を読んでいるとわかりやすいかもしれません。

主人公の性格がキツいです。

寄り道も無事に終わった事ですし、

王女様の物語を再開するといたしましょう。

次に主人公となるのは四の姫様。


彼女は母君に似て小柄で可愛らしいお顔ですが、

陛下譲りの頭脳と魔力を受け継いだ素晴らしい才女でもありました。

幼い頃から研究一筋な彼女でしたが、現在は初恋真っ最中なのです。

才媛と誉れ高い花顔の姫、その意中の相手となれば期待に胸が膨らみますが……


それは物語を見るまでのお楽しみと言う事で。

ではいつものように開催いたしましょう!

恵まれた姫と彼女の想い人がおりなす恋愛譚を。




「ああ、我が愛しのリリエンタリア殿。

 その真珠の肌に触れる事をどうかお許しください!」


そう言って男はおもむろに私の前に跪いた。

ここ廊下なんだが、通行の邪魔だなと冷静に考える。

早くどいてくれないかなとも。いらつきから足で床を叩く。


この男は前大臣の孫であり、えーっと何家か忘れたが伯爵だったか。

才女なんて言われているものの、私はどうでも良い事は覚えない。

覚えられないと言った方が正しいか。


稲穂のような金の髪に水と緑を混ぜたような瞳、顔も整ってる。

たぶんそこらのご令嬢であればふらっとなるんじゃないだろうか。

恋愛小説とかならコイツがお相手になるが私はごめんだ。


(あーもう、うざいなあ)


視線が若干痛い。めんどくさいな。

令嬢方は集団で陰湿なことをしてくるくせに、

ちょっと魔法で脅したぐらいでぴーぴーうるさいから。

相手にするのは非常に疲れる、時間の無駄だ。


それに長い事口説かれてきたものの、

私はこの男にこれっぽっちも興味が無いから。


「……不機嫌そうな顔もまた趣がありますね、

 どうせですから、その分厚い硝子に遮られた宝玉を私に」

「その不埒な手を引け」


男の言葉を遮り、メガネを外そうとした手を思いっきり叩き落とす。

それから私はその男に一切の視線をやることなく、

廊下の奥へと去っていった。




「あ、リリー」


中庭にて彼の姿を見つけて安堵する。

庭師である以上居て当然だけれど。

それでも私は今日も彼と会えたことに感謝する。


「ニコ……」

「今日もおつとめお疲れ様。

 ちょうど休憩にするところだったんだ」


一緒にお茶にしようと、無邪気な笑みを彼は浮かべる。

良かった、間に合ったんだ。大きく頷く。

そして彼はお茶会の準備を始めだした。


この庭で彼とお茶会を開く事。

それが私の日課であり生き甲斐と言ってもいい。




私が彼と出会ったのは半年前のこと。

その日も私はあの男を撒いてこの庭に来ていた。


ひっつめ髪に瓶底メガネで研究オタクということもあって、

魔術と書物にしか興味のない女だと思われていたが、

私は花を愛でるのも趣味の一つだった。

ただ目玉となる薔薇や百合よりも、

菫のような可憐な花や野草と言われるものが好きで。


家族は理解してくれたが、

同じ年頃の娘達にとってはあまりにも奇特だった。

だからといって一緒に働く男達は、

研究材料となるハーブにしか興味が無く、

それも実験対象としてしか見ていない。

おかげで私は家族以外、この趣味を語る相手がいなかった。


「その花、お気に召しましたか?」


桃色の小さな花を眺めていた時、後ろから話しかけられた。

麦わら帽子に土まみれのつなぎ。どうも庭師のようだ。

その割には随分と若いみたいだけれど。

前の年老いた方はどうしたんだろう。


「ああ、スミマセン。

 親方が腰を痛めたので代理としてやってきました、

 ニコと申します」


私が怪訝そうな顔をしていたからだろう。

ぽやんとした表情でニコは自己紹介を始めた。

言われてみれば父上がそれっぽいことを朝話していた気がする。

新しい研究に頭がいっぱいで半分ぐらいしか聞いてなかった。


「……リリーです」

「リリー様ですか」


警戒心の欠片も見せず、彼は笑顔で対応する。

あ、と何かを思い出したように彼は花壇の奥へ手を伸ばした。

生け垣に体を突っ込んで何をしてるんだろうと思えば、

その手にはいくつかの花が握られている。


「これ良かったらどうぞ」

「え?」

「お近づきの印に」


聞いてみれば、景観の為切りそろえたものらしい。

王宮に飾るには忍びないものについては、

陛下から貰っていっても構わないと許可されたのだとか。

父上太っ腹だな、この男も大概だけれど。

売ったらお金になるだろうに。何故私にくれるのか。


不思議で仕方ないが嬉しかった。

花をプレゼントされるのなんて初めてだ。

みんな、歴史書とか魔術書ばかりくれるんだもの。

嫌いじゃないけれど、私も娘だ。

たまには女の子らしい贈り物だって欲しい。


「……ありがとう」

「喜んでいただけて何よりです」

「貴方はいつもここにいるの?」


彼のふわふわと優しげな微笑みに、

私はこの時点で心惹かれていたんだと思う。

家族以外の人に興味を持つなんて初めてだったから。


「ええ、僕は大体ここにいますよ。

 あとですね、今日は終わってしまったんですが、

 もう少し早い時間に来ていただければお茶も用意してるので」


良かったら来て下さいね。

その控え目な問いに私は迷わず頷いた。



以来、仕事が終わると大急ぎで、

私は誰にも見つからないようにこの庭に行く。

何故か母にはバレていたようだけれど。


ニコの話は楽しい。彼は花についてはもちろん、

意外な事に魔法や薬学にも詳しかった。

だからといってそこらの貴族みたいに知識をひけらかす訳ではなく、

ちゃんと私の話を聞いて、対等に語り合ってくれる。


女の魔術師はただでさえ珍しい。

更に私は周囲の魔術師よりも優れていた。

そのせいなんだろう、生意気だと偏見を受けて。

決して私個人の才能とは認めてくれず『王女』だからだと色眼鏡で見られた。


父から受け継いだ才もあるかもしれないが、

日々努力も重ねたからこそ研究者になれたのだろう。

でも周りはそうは思わない。ただ何もせずねたむばかりだ。


そんな視線を感じたくなくてもっと必死になれば、

女のくせにと男からは舐められ、女からは色気無しとバカにされる。

私が変わってるのは知ってた。性格が悪いのも。

だからずっと友達はいなかった、ニコが初めてできた友達だった。



「リリーはリリエンタリア様に会った事ある?」


彼が敬称をやめ、くずれた口調になった頃、

そんな事を尋ねられた。

私はそれまで彼には自分の正体を話さなかった。


庭師をやっている以上、ニコはおそらく町民だろうから。

身分がばれてこの心地良い時間がなくなってしまうのは辛い。

だけど、今では彼なら話していいような気がして。


「私」

「え?」

「私がリリエンタリア、リリーは愛称」


ぽかん、と彼の口が開く。

引かれただろうか、びくびく怯えつつ彼の反応を待つ。


「……格好とか動作とか見る限り、

 やんごとなきお方だとは思ってたけど」

「……信じてくれるの?」

「うん、よくよく考えたら気付かない方がおかしいか。

 髪は陛下のサファイヤだし、瞳は王妃様のエメラルドだ」


そっかーとあっさり彼は受け入れてくれて。

そのおおらかさにまた惚れ惚れした。

なんでニコはこんなにも私を喜ばせるのが上手いんだろう。


「そういえばどうしてそんな事聞いたの?」

「え?えーっと……何だか照れるなあ」


笑わないでね。と少し頬を染めて彼が言う。

たぶん私より年上だろうけど、その顔は可愛かった。

男の人に言うべき言葉じゃないけどそうとしか表せない。


「?」

「リリエンタリア姫の謳い文句が『百花綻ぶ賢姫』なんだ。

 でもリリーがこんなに可愛くて頭が良いから、

 謳われてる姫はどの位美人で賢いのかなあって。

 だけどまさか本人とは。でも納得するしかないね」


少しでも下心があって言われてるなら、

たぶん私は即座に彼を嫌っていたのだろうけど。

ニコは素だ。全く同じ性格が周りにいるからわかる。

この毒気の無さは母や下の姉と同じ。

むしろお世辞ならいいのにと思う程、赤裸々に言いのけるのは。


「ニコ、私以外にはそれ言わないで」


思わず出た発言、不思議そうな顔された。

ふと気付く。何でこんな事言ったんだろうと。

反射的に口から飛び出したのだけれど。


夜になっても理由が分からなくてもやもやしたまま。

それで事情を知る母に相談した所、笑顔で言われた。

「リリー、その男の子が好きなのね」と。

昔、母上も父上に同じような事を言ったらしい。


予想もしていなかった事実に最初は戸惑ったけれど、

思い出してみれば納得が行く。

意識し始めたら、ますます否定できない要素が上がってきて。

あっという間にニコが好きなのだと実感する事になった。


そして母に気付かされた初恋は今現在も続いている。




「リリー、今日はどんな研究をしたの?」


いつものように彼が話のきっかけを作って、

そして口下手な私の話を懸命に聞いてくれる。

今日もその流れとなるはずだった。


「おいそこの平民、神聖な王宮で何をしている!」


静かな庭園に響く怒声。

それを発した人物に私は眉をつり上げる。

とんだ邪魔者が来てくれたものだ。

毎日飽きずに私をくどくあの不愉快な男。

こんな所までその面を見たくなかった。


私の気を損ねているのも知らず、

突然雰囲気ぶちこわしにしたその男はニコを睨む。

ニコはビックリしていたようだったが、

普段の通り、ほんわかと笑顔を見せて。


「お茶会を催しております。

 フェルナン伯爵も一緒にどうでしょうか?」


なんとも場に合わない暢気な声で男を誘った。

これにはさすがの私も呆気に取られる。

敵意むき出しだった男も感情の矛先に戸惑っていた。

この状況でこんな空気を醸し出せるニコは相当の大物になりそうだ。


すっかり忘れていたが、この男はフェルナン家の倅だったのか。

明日になったらどうせ記憶から消し飛んでいるけど。


だって私が最も嫌いなタイプだ。

権力を振りかざす、貴族崇高主義の見本のような男なんて。

コイツの母君は芯の通った方なのに。

似ているのは外見だけだ。中身は見事なパッパラパー。

なんでわざわざ忌々しいハゲジジイから隔世遺伝するかな。


……あれ、そういえばさらっと流してしまったが、

何故ニコがコイツの名前知ってるんだろう。

これでもコイツ、身分かっなり高い方なのに。


「出鼻をくじかれたが、そこのおと」

「ニコ行こう」

「ちょ、ま、待ってくださ」


一秒でも相手をしたくない私は、

朝と同じように完全無視を決め込む。

勇気を出してニコの手を引いて去ろうとすれば、

ほにゃらら伯爵はニコの足下に何かを投げつけた。


「っ、そ、そこの男!お前に決闘を申し込む!

 リリー様を賭けて私と正々堂々と」

「貴様に名を許した覚えはない、慎め無礼者が」

「ひっ」


人間、ここまで冷え切った声が出せるんだなと知る。

私は今、視線で人を殺せるかもしれない。

これ以上になく私は憤怒しているからだ。

小者の怯えきった様子を見る限り、予想は外れていないらしい。

こんな殺伐とした状況においてもニコはニコだった。


ひょいと投げつけられた白手袋。

それを彼はあっさり拾ってしまった。

彼の行動に引きつる喉、あわわわわとらしくもなく取り乱す。


これで決闘の申し込みを受諾してしまったことになるのだから。

いやでもきっとニコは知らないだけで、

たまたま落ちてたから拾っただけなのかもしれない!


「これで成立か、内容は貴方に任せよう。フェルナン伯爵。

 ああ、でも身分が違うと無効ではなかったか?」

「は、え?あ、ああ、いや!

 伯爵としてではなく、私個人として申し込む!

 ならば身分は関係無いだろう!内容は魔法による戦闘とする!」

「わかった、なら私もヴェレテンニコフとして勝負を受けよう」


って知ってた!しかもやけに詳しいのだけれど。

自分から切り出したくせに知らなかったのか、あの男が焦っていた。


それにしてもニコの口調、最初は丁寧だったけど、

こんな仰々しかったっけ?一人称すら違うじゃないか!

というかニコって本名じゃなかったのか。

随分ごつい名前だ、似合わない。

あれ、でも前どこかで聞いたような…。


うーんと色々普段使わない方に頭を回している間に

二人のやりとりは終わってしまっていたらしい。

気付けばあの男がいなくなっていた。

落ち着かぬ心のまま、ニコに話しかける。


「二、ニコ!」

「慣れない口調は疲れるね~」

「そ、それはともかく決闘って!」

「一週間後だって」

「なんで、なんで、そんな落ち着いているんだ!

 魔法勝負なんて……やめてくれ!

 私が代わりに引き受けるから」


相変わらず、全くペースを崩さないニコに訴える。

私を代理にするよう、アイツに伝える為、

走り出そうとすればニコに引き留められた。

掴む手は思った以上に強い。


「僕も男だから好きな子は自分で守りたい」

「……へ、えっ、な、ななななな」


突然の告白。癒し系の雰囲気とは一点、真剣な眼差し。

嬉しいけど嬉しいけどなんか違う!

なんで急にそんな男前になるんだ、卑怯だぞ!

そんな目で見るな!うわああん!


「だから僕に守らせてよ、リリー」


プスプス音を立てる思考回路にニコはとどめを刺す。

そして私はあっさりと絆されてしまったのだった。




そして来る決闘の日。


いつものように白衣を着ようとしていた私だったが、

「今日、リリエンタリア様は主役なんですよ!

 姫君を巡って決闘なのにその格好は無いです!

 この滅多に無い機会、絶対に逃がしませんよ!

 私達にお任せ下さいませハアハア」

と不適切な台詞を混ぜたロマンチストな侍女達により、

もはや魔改造という表記が似合う程に着飾られていた。

おかげでこのささやか過ぎる胸にも谷間が、

って自分で言ってて悲しくなるからやめよう。


観客席の一番目立つ位置に私は座らされていた。

似合わないのか、やたら見られているような気が。

うう…だからドレスは嫌なんだ!


(本当に大丈夫なのかな、ニコ……)


ちらりと中央部を見つめる。

姉上の決闘とは比べ物にならない程、私は緊張していた。

任せて!とは言ってたけど……あああああ心配だ!

こちらに気付いたニコがのんきに手を振ってる。

私の十分の一でいいから緊張感を持ってくれ!

さっきから嫌な汗が止まらない。


「今日はお日柄も良い事で~とか面倒な挨拶は省きまして!

 簡単にこの決闘についてご説明致します」


私の胃痛を余所に、司会が試合の進行をはじめる。

というか、そこは省いちゃダメだろ!


「今回は我が国が誇る『百花綻ぶ賢姫』こと

 リリエンタリア様に恋い焦がれた男二人が、

 彼女を巡って熱い戦いを繰り広げます!」


こら司会やめろおおおおお!私にふるな、手を向けるな!

ハードル無駄に上げたせいで、

ところどころ溜息ついてるじゃないか!(※賞賛からです)


「勝負は魔法による一騎打ち。

 ルールは簡単、参ったと言わせた方が勝ちです。

 では両者揃いましたところで、

 『リリエンタリア様争奪戦』の参加する二人の男を

 ご紹介致しましょう!」


なんでそんなテンション高いんだ、司会…。

どこからか現れた光が中央にいる名前忘れた方の男を照らす。

眩い金髪が心底ウザイ、禿げろ。


「この勝負を挑みましたは、

 我が国で伯爵の地位を有します、フェルナン家のご長子!」


長ったらしい名前が流れたが、

わざと聞き逃し、私はニコを見つめる。


負けてもいい、怪我しなければ。

いざとなれば私が下克上するから。

だから無理しないでくれ。


……そんな想いをこめて彼を見ているのだが、

あの満面の笑みを見る限り、全く伝わってないんだろうなあ。

そうこうしているうちにニコの紹介が始まる。


「対しますは魔法国家と名高い某国より魔術師の名門!

 ヴェレテンニコフ=オクト・ラグル・ツォバラ公爵です!」

「は?」「えっ?」


盛大な拍手が湧き上がる直前、

私とあの男が無意識に声を漏らした。

あいつと同時は癪だが台詞が一緒でないだけ幸いなのか。

ちなみに前者が私、後者がアレである。


それよりなんだって?

公爵、え、ニコが?あの国の?

そんなのって、そんなのって…!


だけど思い返せば、それらしい兆候はあったのだ。

あのほにゃらら伯爵を知っているのも、

町民にしてはやたら魔法の知識に長けてるとか、

口調や決闘のルールをわきまえている所に、

『身分違い』やら聞き覚えのある名前。


違和感の糸が全部解けたけれど、

だからといって落ち着くかと言われたら否。


「では試合を始めましょう!」


自信満々だった伯爵の顔は血色を失い真っ白。

だが無情にも試合開始のピストルが鳴る。

興奮からか、先程よりも高い司会の声。

それを遠くに聞きながら私はその場に倒れたのだった。


ちなみに試合の結果は言うまでもない。

ニコの圧勝。それも瞬殺だった。




「詐欺だ、嘘つき、お前なんか大嫌いだ!」


私はあれから三日間気を失っていたらしい。

そして目を醒ました時には彼の生家へとお持ち帰りされていた。

視界に入ってきたのが見慣れぬ天井だった衝撃と言ったら。


私が泣き叫んで暴言を吐いている相手は、

正式にプロポーズを捧げてきたニコである。

あの決闘の時とは別人のようにおろおろしている。


「ご、ごめん……」

「なんで公爵家のくせに庭師なんかしてるんだ!」

「僕、魔法が好きで…もっと極めたかったから、

 質の良い薬草が欲しかったんだ。

 ラドゥガにいる親方がその界隈では有名で、

 弟子入りした結果、自然となったというか…。

 僕、八男だから放任されてるし」


嘘を言っている様子はない。

じっと私を見た後、深く彼は頭を下げる。

本当に反省しているようだ。ダメだ、どうしても毒気を抜かれる。


「……どうして公爵だって黙ってた」

「もう八男ってなると殆ど名前だけって言うのもあるけど。

 話そうと思ってた矢先に

 ……リリーが貴族嫌いだって」

「……あとなんで攫った、父上怒っただろ」

「いやリーチェ様が

 『目が覚めたら貴方を避け始めると思うから、

  その前に逃げないよう連れて帰った方が良いわ』って」


何考えているんだ、母上…!

図星だけど、だからって普通こんなあっさり娘引き渡すか。

姉上やウィーニの時も思ったけど、

溺愛してるわりに思わぬ所でドライだ、うちの母。

父上が体育座りで嘆いている姿が目に浮かぶ。


「……僕の事、嫌いになった?」


不安気に茶の瞳が揺れる、私の大好きな色が。

なんでそんなわかりきった事聞くんだろう。

ニコはやっぱりずれてる。


「そんな事で嫌う訳ないだろ、ばか」


顔を背けた。こっちを向いてと彼がねだる。

私はこの声に弱い、理由なんて言うまでもない。

惚れた男の一部だから。つい聞き惚れてしまうのだ。


「好きだよ、リリー」

「……もっと」

「大好き」

「……もう一回」

「愛してる」


その言葉に彼の胸ぐらを掴む。

戸惑う声など聞かずに唇をぶつけた。


「こんなに夢中にしたんだ、責任取れ」


初めて見るニコの焦った顔。

血色の良い頬はさらにその色を増していた。

でも私の方がきっともっと赤いのだろう。


「結婚してください、リリエンタリア」


もう一度やってきたプロポーズに、

私もまた先程のよう唇で答えた。




昔々、賢姫と名高い四の王女様は、

庭師の青年と恋に落ちました。


実は彼は別国の公爵でしたが、

お互い正体を隠しておりました。

でも明らかになった後も二人の仲は切れることなく。


二人はその素晴らしい才を生かし、

たくさんの花を慈しみ、魔術の発展に務め、

可愛い子供達と共に幸せな生涯を送ったとの事。


ではこれで二人のお話はお終いといたしましょう!

知ってるか、最初リリーはクーデレのつもりだったんだぜ…。

いつのまにかツンデレデレでした、大好物です、ごめんなさい。

ここまでお付き合い下さり、ありがとうございました!

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[良い点] ツンデレデレとても大好物ですご馳走さまでした! [一言] このシリーズ、とても好きで年一くらいで読み返してます!
[良い点] ツンデレデレ……新しい属性に目覚めそうです。
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