表現者
人は時に「流れ」の違う思想から遠ざかる。
それは保身の流れに身を任せるせい。
それは視力の弱い考えのせい。
小雨の降るビルの谷間に座りながら考えに耽る。
ゴーグルのせいで彼の表情は誰にもわからない
しかしその風貌から並はずれたセンスの持ち主ということは容易に分かった。
うん。
彼はそう言って立ち上がり、法則を歪める強さで歩き出す
今夜決行する。
やっとだ。
ぎり、と歯をくいしばる
ぼくらの守るべきものが暴走した規制によって奪われ、抹消されていくせかい。
それは、けっして許されない。
がちゃりと目的のビルの裏口の扉を開ける。
扉が閉まると心地よかった雨の響きが寸断され音もなく非常灯のみがうす暗く光る。
エレベーターは使えない。
センサーが感知し僕の情報を瞬時に届けるからだ。
なので非常階段を使い最上階まで上っていくことにする
ゆっくりと、しかし一定のペースで彼は登る。
コツコツと反響する靴の音
袋の中の武器がこすれる音が調和された世界にノイズを挟む。
最上階の非常口のドアノブに手をかけて回してみるが案の定開かない。
躊躇なく彼は拳銃を取り出しドアノブに向かって撃ちこむ。
真っ白な光が二度彼を包み、ドアノブは無残にも崩れ落ちた。
カラリと落ちた薬莢をぼくは拾わない。
立ち込める火薬臭の中扉を蹴って踏み込む。
目的の部屋は図面を把握していたのですぐにわかった。
「CAUTION」
ライトに照らされた文字は剥げかかっていた
強引な方法で開けて入るとそこには、紙で情報が書かれていた頃の遺産が保管されていた。
未処理。未処理。未処理。
思わず顔がほころんでしまう
まだこんなに残っている場所があったなんて。
震える手で遺された情報に目を通す。
旧時代の字を読める人間はもうほとんど残されていない。
その文字盤自体が ̄の人々によって抹消されてしまったからだ。
彼は文字の解読から進んでいかなければならなかった。
本物だ・・・。
偏った情報を吹き飛ばす真実の力。
清潔な歴史を握り潰す力。
二度とあいつらの手に渡すものか
はやく回収しないと時間がない。できるだけ早く回収しないと。
彼は小型の固形爆弾を取り出し、壁の中央下あたりに長方形となるように張り付けた。
「ショーたいむ」
唇がにやっと動く
ピッ
小さな短い音波が発せられた後、その部屋は爆音と破片に包まれる。
数多降り注ぐ破片の一つが彼の頬を切る
彼の笑いは止まらない
ゴーグルで隠された彼の瞳は何を語るか。
遮断できなかった最後のビルの警告音がけたたましい音で侵入者を知らせる。
もう遅いんだよ
笑いながら虚空との境界面に向かってばしゃばしゃと油を降りかける。
まるでしゃぼん玉で遊ぶ子供のようだ
ぎしっと唸った後、ゆっくりと棚は絶壁へ向けて動き出した。
ひとつまたひとつと大切な本や資料の詰まった棚は次々とビルの外へ。
警備が来るまでの時間はもう後少ししかない。
いまさら階段だのを使って下まで降りる気なんてさらさらない。
考え得る最善の方法は一つ。
ふんわりとパラシュートが開きトラックの荷台へ着地する。
本を踏みつけにしながら荷台から飛び出し、運転席へ移る。
重たいエンジンをかけ、アクセルを思いきり踏み込む
追手から逃れるため、その晩は街を走り回った。
次の日の朝、得た情報をデジタル化し、ネットワークに乗せて世界中の人々にバラ撒く
直後、サイトのアクセス数が急上昇する
世界中のRSSリーダーがぼくの情報を流し始める。
数時間後、政府はいつものように偽の情報であることを繰り返し説明。
ぼくのかかった賞金が、また跳ね上がる
どうでもいい。
そう言いながら生きてる奴らは、いつかある日突然国が終わるその時まで鳩で居続けるだろう
ぼくは、
ぼくらは、
今日も、
戦う。
共にいる仲間を信じて
独りで。




