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百夜一夜物語(短編百篇企画)  作者: 矢久 勝基


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005国民的美少女アイドル戦士を食べる話

四題

錬金術、ニート三昧、手始め、歪んだ性癖

『トリプルタクト!! 激辛モード始動!!』

 少女三人の声がハモり、胸元のスプーンが光り出す。上昇気流と共に空を舞った彼女らは舞を舞うようにエネルギーを練り、一撃必殺の力へと昇華させてゆく。

「トリニティワン! オニオーーン!!」

 白地のコスチュームを着る少女が、たまねぎが皮を広げていくように大気を膨張させると、オレンジ色のドレスに身を固めた少女がそれを一息に凝縮させた。

「トリニティセカンド! キャロット……!」

 そして、螺旋を描いて踊り狂うそれを、赤いセーラー服をはためかせた少女がバレーボールをアタックするようにして叩き落とす。

「トリニティファイナル! にく!! カリートリニテール、デリシャス最強アターーーック!!」

 エネルギーは七色に輝く奇跡となって、ドグーンと呼ばれる巨大な土偶型の怪物を貫いた。

 崩れ落ちる巨体の土煙を背中に浴びつつ、三人はいくつかの呼吸を置いて順々に着地。

『まろやかな口当たりでもピリッと辛い、私たちカレートリニティ! 今日も悪事を華麗に成敗!!』

 そして、天使かと見まごう、かわいらしい笑顔である。

 彼女らはこの世界からカルシウムとビタミンEを奪おうとする悪の怪物たち、〝ミネラルーン〟を倒すために遣わされた、カレートリニティの三人であった。


 彼女らの活躍により、確かに世界は救われている。

 しかし、彼女らが何者なのか、どこからきて、どこへ帰っていくのか。それを、誰も追うことができない。

 なにせ美形ぞろいなので、戦いを目にした男たちはいろいろな手段で彼女らをリサーチしようとした。が、話をすることもできないままに彼女らは去ってゆく。

 去ってゆく……というか、戦いが終わってお決まりのセリフ、『華麗に成敗!』とポーズを決めると、忽然と姿を消してしまうのだ。撮影していたフィルムのコマを落としたかのように一瞬で姿がかき消える。

 残るのはミネラルーンの残骸と、ほのかに香るターメリックの芳香だけという怪現象。

 テレビ番組のスタッフやら雑誌・新聞記者、ユーチューバーや追っかけも躍起になって彼女たちを探したが、ついぞ見つけることはできない。そればかりか、ミネラルーンとの死闘の途中に現場に近づきすぎたカメラマンの一人がミネラルーンに潰されて重傷を負ったのを皮切りに、警察が彼ら野次馬を咎めるようになってしまったため、なおさら近寄れなくなってしまった。

 おかげで、SNSに戦闘中の動画は載るものの、インタビューや私生活は一切明かされない謎のアイドルとして、日本に限らず世界中で再生回数を伸ばしている。


 六畳半の部屋に紫色の煙が立ち込める。

 部屋にカセットコンロを持ち込んだ卓也が、大型のナベの中の、どろどろと沸騰した液体をゆっくりとかき混ぜていた。この煙も材料なので、窓を開けてそれを逃がしたりはしない。おかげで親も彼が何をしているかを知らない。彼の部屋は何人も立ち入り禁止だし、本人以外はそもそも出入り口の扉を開けることさえ禁じられていた。

 山と積まれたエロ漫画の単行本が椅子になっている。その上にどっかりと腰をつけ、何の材料だかよく分からないシロモノをあれこれと投入していく卓也。

 やがてそのナベに菜箸を突っ込むと、これまたなんだかよく分からない、星型の何かが飛び出した。

 彼は満足そうにそれを皿の上に移し、うちわで扇ぎ始める。星が煙を吸って、徐々に清浄さを取り戻してゆく部屋の様子は、見慣れぬ者には奇異な光景でしかない。

 煙を吸うほどに星は光りを帯び、スポットライトのようにベッドの上を照らし出す。それがさらに三つの影を浮かび上がらせれば、そこには白とオレンジと赤のいでたちの、華やかな姿が具現した。

「ただいまーー」

「戻りました……」

「以下同文ですーー!!」

「おかえりトリニティ」

 微笑む卓也はかれこれ三十歳。十五の頃から引きこもり、ニート三昧の有り余る時間で闇サイトから一つの禁忌を手に入れ、技能を習得した。

 それが錬金術である。

 錬金術といえば、本来は卑金属を貴金属に変える技術だ。しかしその技術は二歩も三歩も先を往き……。

「神様。私やっぱり納得できないんですけどー」

 白いコスチュームの少女、リオニティこと〝たまねぎ〟がベッドからダイブ、卓也の脇で一度軽やかに一回転すると、腰のあたりをパンパンした。

「なんでキャロニティも、ミニティもかわいいスカートなのに、私だけカボチャパンツなんですかー?」

「一応それはカボチャじゃなくてたまねぎなんだけどな」

「やだーー! 私もかわいいスカートが履きたいですーー!」

「いいじゃんカボチャパンツくらい」

 紅いセーラー服、ミニティがベッドに腰かけて言う。

「それより神様。激辛モードの時、あたしだけ〝にく〟なのが恥ずかしい」

 技を呼称する時の掛け声に不満があるらしい。

「〝にく〟だからしかたないだろ」

「だって、みんなオニオンとかキャロットとか、かわいい感じなのに、なんであたしは何の躊躇もなく〝にく〟なのってかんじだよ?」

「お前は正確には〝インナーズ〟なんだけど、意味通じなくね?」

「インナーズってなに」

「内臓」

「神様のカレーの肉は内臓肉なの!?」

「俺内臓系好きなんだよ。いわゆるホルモンだけど、ホルモン! って叫ぶのも、なんか嫌じゃね、って思うんだがどうだ」

「すなおに〝ミート〟でいいと思う!!」

「まぁ考えておくよ。……それで? キャロニティはどうした」

 それまでじっ……と卓也を見据えていたキャロニティこと〝にんじん〟。話を振られ、ようやく小さく口を開いた。

「地味なんです……」

「なにが」

「激辛モードの、わたしのアクション……」

「お前、そもそも存在が地味だからな」

「リオニティは、華やかにエネルギーを開放しますからとにかく美しいんです……。ミニティはリーダーですから最後の見せ場がとにかく派手です……。でもわたしは……」

 咲いた花火を凝縮するだけの、いわば繋ぎの役でしかない。

「うーん。大事な役なんだけどな」

「分かってはいます。分かってはいるんですが……」

「考えてはみる」

「ありがとうございます……神様……」

 そう。トリニティにとって卓也は神。この三人は彼の錬金術により創造された戦士だった。


「とにかく、その様子だと今回も無事ミネラルーンに勝ったみたいだな」

「土偶の巨人。ドグーンを成敗しましたよ……」

「なんでお前たち、そんなに強いんだろうな」

 ミネラルーンを指揮してるのも、卓也と同じ錬金術師に違いない。何の目的があるのかは知らないが、あのような生命体を発生させる方法が他にあるだろうか。

 その上で、卓也がトリニティを創造したのは義侠心から……というわけではなかった。なかったのに、戦場に送り出してみたら勝ってしまった。現在も圧倒的強さを発揮して、ミネラルーンに完封している。

 闇サイトから得た知識というだけで、専門家といえるような情熱を燃やしてやっているわけではない。なのに創造物を第一線で戦わせて負けなしというのは、なんというか、キツネにつままれた感覚だ。

 ……というような表情を浮かべ、三人を見回していると、にぱっと笑う〝たまねぎ〟が、パタパタと縦に手を振って言う。

「そりゃー神様の錬金術がレベチなんですよー。ミネラルーンの奴らの造形と比べても分かりませんー?」

 確かに、デザイン的にもあちらは間違いなく造形物。三人は誰がどう見ても人間であり、さらに今日でもアイドルデビューできるであろう容貌である。ただまぁ、そこに関しては卓也のこだわりにこだわり抜いた技術の結晶と言えるものなのだが。

「ミネラルーンは質より量といった印象ですよね……」

 普段物静かな〝にんじん〟が呟くと、三人の中でもっとも熱血な〝にく〟が躍り上がった。

「でもこのままだときりがないよ! なんとか錬金術を悪いことに使ってる奴を見つけなきゃ!」

「……難しいですね……」〝にんじん〟は言う。

「これだけ世間を騒がせてるわたしたちの創造主様すら、片鱗も知られてないのですよ……?」

「私たちが実は都内の一軒家の狭い部屋にすし詰めにされてるって知ったら、みんな驚くだろうねー」

 言い方の悪い〝たまねぎ〟。が、それが墓穴だった。

「大丈夫だよ。お前たちすぐにカレーの具になるんだから」

「……」

 今の各々の表情のまま、ひきつる三人。卓也はそれに気づかない。

「ちゃんと汗はかいてきたかー? 微妙にしっとりしたお前たちを食うのがたまらないんだよ。えひひひひひ」

 そう。彼女らは、もともとがカレーの具になる〝たまねぎ〟〝にんじん〟〝にく〟なのだ。錬金術が彼女らにかりそめの命を与え、アイドルと見まごう姿に変貌させている。

「……あの……神様?」

 ひきつった顔のまま必死に笑顔を作り、ぎこちなく言葉を発する〝にく〟。

「ん?」

「あたしたち、もう少しこの世界にいたいな……なんて、思ったりもするの」

「いや、ダメだよ。ここに長くいたらさすがに親にバレるだろ」

「だから、ちょっとみんなで話したんですよー。ここを出て、住む場所を探してみるのもいいかもねー……なんて……」

「いやいやいや、お前たち、僕がマテリアを合成しないとその身体を維持することもできないんだぞ」

「うん。分かってる。だから、普段は神様に迷惑をかけないように、それぞれこの部屋から出て生きて、必要になった時だけここにマテリアを取りに来るっていうのは、どうかなって」

「無理に決まってんだろ。にんじんとたまねぎとにくがどうやってこの世界で住むんだよ」

 三人は互いに様子を窺うようにちらちらと顔を見合わせる。リーダーである紅いセーラー服が、卓也からは目をそらしつつ、しゃべりにくそうに小さな唇を震わせた。

「そりゃ、初めは戸惑うこともあるかもしれないけど……みんなで力を合わせて、頑張っていけたら素敵だなって思うから……」

「いや、無理無理。お前たちが映ってるSNSサイトの動画再生数知ってる? 今でこそ完全に身を隠してるからこれ以上のことはないけど、下手に街中でその顔を晒そうもんならえらいことになるぞ」

「そんなわたしたちを収益に繋げない神様ってすごいですよね……」

 〝にんじん〟が頑張って褒める。そんなことはなかなかない。

「尊敬します……。もし別の創造主の元で生成されていたら、わたしたちはひどい目に遭っていたかもしれませんもの……」

「そこは心配するなよ。お前たちをさらし者にすることに興味はないもん。そもそもうち、金は勝手に湧いてくるし」

 卓也の家はこの地域の大地主であり、賃貸マンションの家賃と月極駐車場の収入で十二分に資産形成ができている。だからなのか、ニートのままでも働く意思だけ示しておけば、親も白い目で見たりはしてこないのが現状だった。

 本来、彼はトリニティの三人を独占的にプロモーションできる立場にいるので、現在の世間の関心を考えれば爆発的な収益も挙げられそうなものだ。〝たまねぎ〟がそのことに触れる。

「神様があたしたちをこき使わないのはうれしいんですけどー、でも逆に言うと、あたしたちって可能性があると思うんですよー。みんなを勇気づけるっていうかー、……ほら、最近って暗いニュースばっかりじゃないですかー。あたしたちがこの日本を元気にしていきたいっていうかー」

「そうそうそう。だよね、だよねっ!」乗る〝にく〟。

「私たち、歌は下手じゃないと思う! 踊りだって頑張るし、この姿を武器に、どこまでやれるか試したいんだよ!……そしたら神様、ゼッタイ名プロデューサーだよっ!? 流行の先駆けって言われて、私たちだけじゃなくてみんなからも神様って言われるかもしれないよっ!?」

「『鹿を逐う者は兎を顧みず』ですよ神様……。目先の利益カレーよりも、もっと大きな価値に目を向けられることが、男の度量を示すいい機会になるのではないでしょうか……?」

 ひとしきり言い募った三人の目が〝神様〟に向けられる。その目は期待なのか。不安なのか……。ともかくほんの一瞬でも目をそらせば誠意が伝わらないと信じているかのように、恐ろしく澄んだ目を一点、彼の方に向けていた。

 そんな無垢な瞳を受け止めて、彼は一度カセットコンロの火を止める。そして再び振り向いた彼の表情は恐ろしく平坦だった。

「いや、全然そういうの興味ないから」

 まるで今の話を銀河系宇宙の向こうの話であるかのように切り離せば、一転、表情が下卑た。

「僕は、そんなに世間の注目を浴びてるお前たちを、人知れずナベに放り込んで食べる優越感っていうの? それがいいんだよ。国民的アイドルの汗がしっとりにじんだカレーだよ? うへへへへへ、めっちゃ興奮するわ」

 ごくり……期待のつまったつばを飲み込む卓也と、血の気の引いてく三人。

 ……彼がトリニティをミネラルーンの成敗に使ったのは、義侠心ではない。


 もともとは美少女を錬金で生成し、彼女らに運動をさせ、熱を発生させることによって分泌される女の汗とにおいを楽しもうという理由だった。つまり卓也にはそういう性癖がある。

 さらに彼はそれを食材で行うことを思いついた。食材に女の汗とにおいを含ませ、それを料理に使えば、快感はひとしおなのではないか。

 予感は的中した。うまい。少女らの体液の染み出したカレーが、射精したくなるくらいうまい。

 なお当初、トリニティはにんじん、たまねぎ、にく、じゃがいもの四人編成の予定だったが、じゃがいもは煮過ぎると溶けてしまい、錬金には向かなかったため、結局三人編成で落ち着いている。

 一方で、折しも世間ではミネラルーンが暴れ始めていた。卓也は対岸の火事を感じながらも、「運動ならこれも運動だろう」と思い立ち、彼女らをミネラルーンの征伐に派遣する。錬金術の少しの工夫で彼女らのコスチュームは変わったし、スペックの調整も可能であることを知った卓也は、己の技術で〝正義の女戦隊〟を創り出してしまったのだ。

 負けても次を創ればいい。そういうつもりで派遣した美少女戦隊トリニティは、予想をはるかに上回る実力を発揮し、圧倒的な強さで勝利を重ね、彼女らを一躍有名にした。

 誰が錬金してもそうなるわけではない。現にミネラルーンの創造主はどう工夫してもトリニティを破る創造物を創ることができないことでも明白であった。

 いやしかし、おかげで卓也は別の喜びを得ることになる。

 すなわち、〝皆がうらやむアイドルの汗とにおいを独占し〟、コトコト煮込んでゆっくりと味わうことができるようになったのだ。

 これはもう、卓也の人生において空前にして絶後の興奮と言っていい。それを一生味わえるのだとしたら、有名になったり金を儲けたりすることなど、どれほどの価値があるというのだろう。


「あ、あのね?」

 ひきつってはいるが、美人だけにとてもかわいらしい笑顔を作る〝にく〟。

「神様。なんか、あたしにしてほしいことはない?」

 すり寄って、さらに超笑顔。

「アイドルなんかにならなくてもいい! あたし、この姿のままなら神様にいろーーんなことしてあげられそうな気がするの!……ほら、アンタたちも!」

「そ、そうですよー。神様ー」

〝たまねぎ〟も〝にく〟に続く。

「私とかー、剥くほどにきれいですよー? 私の成分って感染症予防にもなるから毎日添い寝しちゃいますー! 寝顔のかわいさなんて、猫にも犬にもフェレットにも負けないですよー!」

 そして〝にんじん〟に向けられる二人の瞳。笑顔の奥で、その目はマジだ。

「え、あ、えっと……わたし……」

 おろおろと目を泳がせてから、思い立ったように前進を始め、卓也の背中に回って不器用に抱きつく。

「えっと……わたし、は、目がいいので、デートに最適だと思います……。三十キロ向こうのカブトムシとか発見できますから、ぶつかる前に避けさせて差し上げられます……」

「ねー!? ほら! あたしたち、すごくない!? もったいないよ、食べちゃったりしたら!!」

 すぐ前にひざまずいて、上目遣い十三度。自分の一番かわいい角度を知っている〝にく〟。

「なんでもしますよー! すっごいことされても、神様なら許せちゃいますー!」

 卓也の腕をつかんで胸を寄せる。そしてちろりと目を〝にんじん〟に移せば、彼女はさらにキョドった。

「え、え、えっと……わたしは、ドレスの裁縫とかもできます……」

「馬鹿なのー? ……神様ー、にんじんはドレスの中、さ(わ)いほうだいだって言ってますよー!」

「すごいでしょ!? だから、人としておいておいた方が絶対にお得!!」

「いやぁ、しかしなぁ……」

 さすがに六畳一間だ。大人サイズ四人は窮屈だし、さすがに他の部屋に住まわせることはできない。エロ漫画のワンシーンみたいなことをしたければ、その時だけ生成すればいいわけで……。

「まぁ、いいんじゃね? お前たち、食っても同じ食材で同じ手順を踏めば、同じ身体と記憶で復活できるんだから」

「……」

 彼女たちの必死の笑顔がまたひきつる。

「ねぇ神様。神様はあたしたちみたいなチョーーかわいい女の子たちをはべらせておきたい、みたいな願望ってないの!?」

 赤が言って、白が続く。

「なんでも言うこと聞くし、おとなしくしますからー!」

 だんだん懇願みたいになってゆく。

「じゃあわかった! せめて、あたしたちを保存して、もう一回同じ食材であたしたちを創造してくれちゃわない!? そしたら場所取らないよっ!?」

「いや、さすがに腐るだろ」

「く、腐らないように頑張ります……!」

〝にく〟と〝たまねぎ〟の視線が怖くて、がんばる〝にんじん〟。

「いや、っていうかだな。身体火照らせてむんむんしてるお前たちを食うのがたまらないんだよ。わかるか? 食いながら、『あーここは〝たまねぎ〟の太ももかな』とか想像しながら食べると……えひひひひひ」

 そ・れ・が・嫌なのーーーー!!

 叫びたい。叫び倒したい。なんなら家が崩れるくらいの大音量で大地震を起こしてやりたい。

 彼女らはもともとが食材である。だから、食べられるのが嫌なんじゃないのだ。

 でも……

 ……なんだか、このゆがんだ性癖の対象になって彼の体内に溶けていくのが、とにかくおぞましい。

 しかし、それら彼女の(心の中の)必死の訴えに、卓也は全く気付かない。完全に自分の世界で妄想を膨らませている。

「それで、もっといい方法思いついたんだよ。お前たちがまだ人型をしてる間に、マジックみたいなので胸とか尻とかに印をつけておけば、もっと妄想が広がって興奮できるんじゃね?」

「できない! 絶対できない!!」

「油性マジックは、身体に悪いです……!!」

「だから、ちょっとお前たち、そこに並んで立って」

「話聞いてるっ!!?」

「ねぇー、仲良くしようよーー」

 泣き出す〝たまねぎ〟。

「いや大丈夫。おいしく食べてやるから。えひひひひひ」

「なにもだいじょばないーーーーー!!!」

 いつの間にか、部屋の端に追い詰められるトリニティと、マジックをもって追い詰めている卓也の構図。

「何もお前たちを人型のままナベに放り込もうってんじゃないんだよ。マジックで印付けるだけだって」

 何か所印をつければいいだろう。どこを想像できれば一番興奮するだろう。考えるだけで血流が下半身に集中する。

「だから大丈夫だろ? いつものことだし」

 そのいつものこと、が嫌なのだ。錬金術が存在し続けるうちは、彼の歪み切った性癖に付き合い続けなければならない。肉に戻って、玉ねぎ人参に戻って触れられた感覚が残っているわけではないのだが、まるで寝ている間にいいようにされてしまったかのような……そういうおぞましさがある。世の中に〝たまねぎ〟〝にんじん〟〝にく〟がある限り、無限にこの世界に目覚めることになる。そのたびに、悪夢で目を覚ますのだ。

「手始めに〝たまねぎ〟からいこうか。えひひひひひ」

「いやですーーー!!」

「うぉぉ、いやがる女に無理やりマーキングした後、カレーの具材にして食うって、新しい性癖に目覚めそうだ!」

「……」

 叫ぶことさえ憚られ、蒼ざめる少女たち。その様子に、卓也はさすがに苦笑いをした。

「いやいや冗談だよ。分かった。じゃあマジックはやめておくよ」

「……」

 どうやらこの〝神様〟は彼女らがマジックを嫌がったのだと思ったらしい。

「ね、神様、ニートなんですよねー? いっぱい時間あるんだからー、私たちといっぱい遊びましょーよー!」

「うんうん! とっかえひっかえしてくれていい! なんなら三人まとめてでもおっけ!」

「わたし、洗濯も上手です……!!」

 どうやら彼女らは、やらしい感情をもって食べられなければいいらしい。というか、彼女らはまだ他のことを経験してなさ過ぎて、食われる以外のことは天国だと思っているフシがある。

「お前たち、そんなに人型でいたいのか」

「いたいです……!」

 めずらしく〝にんじん〟が一番先に声を上げた。

「でもなー。さすがに気が引けるんだよ。お前たちを、人型のまま煮るのって」

「ええーーー!!」

「熱いと思うよ。実際」

「そういうことを言ってるんじゃないですーーー!!!」

「うーむ、大きなナベもいるしなぁ……あ、風呂を使えばいいのかな……」

「話聞いてるっ!?」

「てかお前たちって、そのまま食っても人参とか玉ねぎの味がするのかな」

「しない! 断じてしない!! おいしくない!!!」

「試す? 手始めに肉から」

「いやだーーー!!!」

「あはは、冗談だよ」

 そして卓也のさわやかな笑顔である。

「お前たちが苦しむ姿が見たいわけじゃないんだよ」

「神様……」

「ただお前たちの汗とにおいにまみれたカレーを、お前たちの身体を妄想しながら食べたいだけ。な? 安心したか?」

「……」

 絶望に彩られていく三人。蜘蛛の巣にがんじがらめにされ、見上げたら捕食者が目の前で大口を開けている感覚……。

「というわけで、手始めに人参からいってみるか!」

「結婚しましょう……! いますぐここで……!!」

「ええー!?」

 〝にんじん〟の決死のバンザイ突撃に呆気となる〝たまねぎ〟と〝にく〟。

「わたし、お掃除もお洗濯もお裁縫もお料理も得意です……!」

「え、ちょっと〝にんじん〟ずるい! ならあたしと結婚しよ! あたしトリニティのリーダーだよ? ヒロインが一番設定作り込まれてるんだから、楽しく結婚生活送れるんだから!!」

「ちょっと待ってくださいよー! 私と結婚したら、ホントに癒されますよー! 抗菌作用もあるし、ストレス社会で心も身体も健康でいられることが一番楽しく生きられますー!」

 なんかいきなり集団見合いに発展する。この際自分だけでも逃れようという魂胆か。

〝にんじん〟が一歩進み出た。

「結婚生活は長丁場です……。ほんの一瞬の楽しさや安らぎだけでは到底乗り越えられない……。長い人生、病める時も健やかなる時もあるでしょう……? 本当に身体を壊した時、身の回りのお世話ができるというのがどれだけ心強いか……」

「何言ってんの。そんなのは今から勉強すればいくらでも身につくに決まってる! でも、太陽みたいな性格の明るさって生まれ持ったものでしょ!? そういうのがあれば人生ちょっと落ちたってサイコー楽しくやって行けるじゃん!」

「明るければいいってものじゃないですよー。太陽の光で本を読むと目が痛くなりますよねー。いつまでも癒されるやさしさと包容力、そして無敵の抗菌作用!! ……それさえあればおじいちゃんとおばあちゃんになっても、いつまでもいつまでも心が平穏に包まれた素敵な一生を送れます。それって私しかできないことだと思いますよー」

「はぁ!? 頭ニブチンの〝たまねぎ〟なんか、疲れるだけだよ!」

「あなた方は所詮子供過ぎます……」

「はぁぁぁぁ!?」

 喧嘩を始める三人。髪を引っ張り合って、顔を引っかき合って、骨肉の争いが始まる。が、開始十数秒、本棚の本が崩れたところで卓也は一喝した。

「わかったわかった!」

「え」

 みつどもえになって組み合っている三人の挙動が止まる。何がわかったのか、何を言い出すのか……自分たちの誰が救われるのか……そういう目が、瞬きもせずに〝神様〟の方へ向いた。

「わかったよ。お前たちの気持ちは」

「……」

「僕はお前たちが喧嘩するのは悲しい。みんな僕の錬金術の傑作だと思ってるんだから、甲乙つけられるはずがないだろ?」

「……」

「だから心配するな。全部仲良く食ってやるから!」

「「「ちょっとは話を理解してーーーー!!」」」


『自分のことを心底愛してくれている国民的アイドル戦士たちの汗とにおいを独占し、その豊満な身体を妄想しながら食うカレー』

 ……新たな性癖のスパイスを加えたその日のカレーに、卓也は興奮が止まらない。

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