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ありがとうが言えなくて

作者: ナベノヂ
掲載日:2025/10/28

現実を生きている2人の話。

「お、おはよう」

「おはよう」

登校中、私が挨拶をすると、その人は微笑んで挨拶を返してくれる。私は暗い顔で挨拶をしたのに。

そして、

「あ」

「うん? どうしたの?」

「あ」

「大丈夫?」

「な、何でもない」

顔を赤くして、私は首を橫に振る。

彼女は苦笑する。

言わないといけないのに、言えない。数日前、してもらったことについて。

たった一言なのに。


そして、授業中。

皆は、黒板に書かれていることをノートに写している。今は2025年だけど、黒板はまだ健在。

もちろん、あの同級生も。

私は、じっと、その同級生を見ている。若干、ドキドキしながら。恋、ではないはずだ。陰キャの私が、あの人に恋なんて、そんなことしていいはずがない。


教師は、私を注意しない。

壇上で皆に日本の歴史について教えているけど、頭の中はテレビやSNSのイイネでいっぱいなのだろう。

ゲーム、テレビ、SNS、皆はそれらに頭がいっぱいで、現実を生きていない。

でも、私とあの人は現実を生きている、今朝も挨拶をしたし。きっと、本が好きだから、だろう。多分。


放課後になった。

あの人は、寂しい教室の中、本を読んでいる。他の人たちは皆、スマホを無言でいじりながら帰っていった。

私は、

「あ、あの」

「うん? どうしたの?」

彼女は、こちらに顔を向けて、微笑んでくる。私は、顔が赤くなる。

意を決して、

「あ」

「あ?」

「な、何でもない」

また、今朝みたいに苦笑され、

「最近どうしたの? 大丈夫?」

私は首を縦に振り、返す。


「ありがとう」

が、言いたいだけなのに。

1人で下校中、私はため息を吐き、肩を落とす。

数日前、入学式の日。そのときに落としたハンカチを拾ってもらった。そのお礼を言いたいだけなのに。

ありがとう、が言えずにいる。

早く言わないと賞味期限が切れてしまう。お礼の賞味期限が。

わかってはいるけど、言えないでいるのだ。


ゲーム、テレビ、SNSで頭がいっぱいで、現実を生きることをやめた人類。

その中で、無視せず、ハンカチを拾ってくれた、あの人。

何よりも、尊い。


読んで頂き、ありがとうございました。

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