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01-1,風の能力者

 静まり返った夜の空を一羽の大きな鳥が横切る。地上からは月明かりに照らされ、普通の鳥が飛んでいるようにしか見えないだろう。

 その鳥の上に雪本佐紀(ゆきもとさき)は乗り、目的地に向かっていた。

「ユキ、聞こえる?あと100m先の廃ビルに降りたらその真正面の倉庫の状態を教えて。くれぐれも突っ走って怪我しないようにね。」

 耳に着けたインカムから無線で事務所にいるメンバー、矢部玲宝(やべれいほう)の指示が聞こえてくる。

「はーい、気をつけまーす。」

 雪本は軽く返事をすると、勢いよく鳥の背から飛び降りた。その瞬間、鳥は粒子となって消え去り、彼女は長いひと括りにした栗色の髪をなびかせながら、ふわっと廃ビルに着地する。

 正面に見える倉庫はシャッターが半分ほど開いているものの、暗すぎて目が良くてもこれでは中の様子がわからない。

瑠目(るめ)を連れて来ればよかったなー。まあ、1人で来たからしょうがない。」

 雪本は他のメンバーを連れてこなかったことを若干後悔しながら、親指と人差し指で円を作ると、その穴に向かって息を吹きかけた。目を閉じると風に乗って倉庫の中の情報が入ってくる。中の広さ、保管されている木材の匂いなど、見えなくても匂いや空気抵抗で手に取るようにわかった。

「玲宝、中に大人1人と子ども1人いる。血の匂いがするから緊急性が高いけど、両方製造反応あり。」

「了解、子どもの保護を最優先。大人の方は危害を加えてきそうなら気絶させて。警察に連絡するからあんまりやり過ぎないでね。」

 無線から注意を受けつつ、雪本は廃ビルを軽々と飛び降りる。腰を屈めながら倉庫の中に入ると、窓から差し込む月明かりで奥に2人居るのが確認できた。

 スキンヘッドでタンクトップの男の手にはナイフが光り、その近くで怯える男の子の体は男からやられたのか切り傷だらけ。男の子の痛々しい姿に雪本は思わず顔をしかめる。

「おい、なんだお前」

 こちらに気づいたのか男が振り向き、こちらへおもむろに歩いて来た。

 子どもから離れてくれるのはありがたい。近くに居たままだとあの子を巻き込んでしまいかねない。

 男は近くまで寄ってくると、雪本の目を見て嘲るように笑う。

「その目、お前もあのガキと同じ化け物か。」

 化け物……。聞き慣れてはいるが、やはり何度聞いても耳馴染みの良いものではない。この水色の瞳、これが化け物いや、能力者である証拠だ。言われて毎回のように思うが、瞳の色だけで化け物扱いされるのは気に食わない。瞳以外の見た目は他の一般人と変わらないというのに。

「化け物だって言うのは勝手だけどさ、子ども傷つけるのはまた違うでしょ。あんたみたいなやつが一番嫌いなんだよね。」

 雪本が睨みつけながら言うと、言い返された事に腹を立てた男は、持っていたナイフを振り上げながら向かって来た。しかし、雪本はため息をつきながら、素早く回転蹴りを男にかます。男はナイフを落としよろけたが、気絶するまでには至っていない。雪本は息を吸い右手に力を込めると、拳の前に徐々に空気が集まり圧縮される。それを男に向かって一気に放つと、男は思い切り吹っ飛ばされ、壁に激突すると気を失った。

 念の為、気絶しただけかを確認すると、雪本は怯えながら物影に隠れる男の子の方へ向かった。

「もう大丈夫だよ。パパとママのところに帰ろう。」

「お姉さん、僕と一緒なの?さっきのは何?」

 雪本の目の色に気づいたのか先ほどとうって変わって興味津々な顔で聞いてくる。彼の目はとても綺麗な黄緑色。化け物だなんてとんでもない。

「そうだよ、君と同じ能力者。訓練すれば自由に使いこなせる。さっきのは、空気砲みたいなものかな。」

「僕もお姉さんみたいに誰かを助けられる人になれる?」

「君が自分の能力を制御できて、人のために使えるようになればなれるよ。パパとママに能力の事を教えてくれる先生を紹介しとくね。さて、警察も来たみたいだし、帰ろうか。」

 男の子と倉庫の外に出ると、矢部が呼んでくれた警察と目が合う。

「お疲れ様です。いつもありがとうございます。」

「お疲れ様です。いえ、こちらこそ十芒星の皆さんには本当に助けて頂いているので、どんどん呼んでください。」

 彼らは長年うちの事務所「十芒星」と協力関係にある部署の警察官たちだ。警察の中で唯一、能力者だからと忌避せず、互いに尊敬しながら仕事をする貴重な存在である。

 気絶させた男を警察に任せ、雪本は男の子を一旦事務所に連れて行くことにした。行きと同じように、自分の能力でできた相棒のディーに乗り、男の子が落ちないようにゆっくり飛び立つ。最初は興奮していた男の子も、疲れたのか事務所に帰り着く頃にはすっかり夢の中だった。

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